政策起業を通じて、社会を変える仲間を増やしたい
こんにちは!
フローレンスの代表室 政策提言担当の幡谷です。
世の中のさまざまな社会課題は、どのように解決されているのでしょうか。
行政職員や政治家が、困りごとを抱える人たちのために、福祉サービスや税の仕組みなどを導入して解決するイメージがあるかもしれません。
しかし、制度をつくり支援する対象を決める際、個別具体のケースをすべて網羅することは難しいため、支援の狭間に抜け落ちてしまう人が出てきます。フローレンスは、特に親子の領域で、そうした支援が行き届かない人を直接支援したり、必要な仕組みを考えて役人や政治家に提言することで、民間から社会課題を解決してきました。
それでも、民間事業者だけで支援を続けるには限界があります。
行政職員や政治家に支援の狭間にいる人を認知してもらい、彼らへの支援を国や自治体全体で行ってもらえるよう政策提言を行い、官民一体となって課題解決を目指すことが重要です。
フローレンスは、まずは目の前の困りごとを解決するための新しい事業をおこし、事業をより良く、より多くの人に届けられるよう政策提言を行ってきました。具体的には、待機児童問題解決のための「小規模認可保育所の制度化」や、医療的ケア児とその家族の生活を社会全体で支援するための「医療的ケア児支援法の成立」といった親子の支援に関わる多くの政策を実現し、社会のルールや仕組みをアップデートしてきました。
フローレンスの「政策起業道場」の取り組み
こうしたわたしたち一人一人が政策を担う主体として参画し、知恵を出し、手を動かして実際に制度づくりや社会のルールを変え、課題解決を進めていくことを「政策起業」と呼びます。
一方で、まだまだ社会には解決すべき課題がたくさんあります。廃棄物問題、こども・若者の居場所不足などなど……フローレンスだけでは解決できない領域です。
フローレンスの知見が及ばない領域でも、政治や世の中の仕組みがアップデートされ、いち早く課題解決ができる社会をつくることはできないか。そのために、「政策起業」ができる人材「政策起業家」を増やすための取り組みをスタートさせました。団体設立以来蓄積してきた「政策起業」のスキルを社外に広め、社会を変えていく仲間を増やしていくために、2022年度から「フローレンスの政策起業道場」を開催しています。
今回は、2023年5月〜2024年2月まで実施した、第ニ期「フローレンスの政策起業道場」の様子をご報告します。
政策起業は、全員野球。ともに心躍る未来をつくりたい
政策起業道場では、10ヶ月間政策提言のゼミと実践を行いました。
そもそも、政策提言という言葉から、みなさんはどんなことをイメージしますか?
行政の職員に問題を伝え、政治家に困っていることを伝える、社会に特定の課題を発信・啓発する……なにかしらの課題を伝えて問題意識をもってもらうことが、政策提言に対するみなさんのイメージの輪郭かもしれません。
そのイメージ通り、政策提言は、社会が問題に目を向けるよう多くの人にコミュニケーションをして、啓発を行いながら解決に導く手法と言えます。
しかし、リソースは無限にあるわけではなく、一つの課題に対してどの程度、お金や人員を配置するか考えなければなりません。また、リソースが確保できたとしても、課題解決の仕組み構築が必要になります。
政策提言は、どのタイミングで、誰に、どういうロジックで行うかが肝になるので、政策起業道場では、まずはそのノウハウを講義形式でインプットしました。その上で、それぞれの道場生が解決したい社会課題についてどういう政策提言をすれば良さそうか、案を作ってもらいました。道場では、その案に対するフィードバックを行い、実際に政治家や行政職員に提言を持っていく実践も行ってもらい、課題解決の歩みを進めていきました。
「プラスチックごみの自然界への流出を止めたい……」
そう強く願うのは、ごみの流出問題に取り組む一般社団法人ピリカの小嶌さん。
「複雑で構造的な問題を、誰に、どのように持ち込むかわからない」という大きな障壁にぶつかっていました。
一般社団法人ピリカ 小嶌さん
富山生まれ、神戸育ち。大阪府大(機械工学)卒。京大院(エネルギー科学)を半年で休学し、世界を放浪。
道中に訪れた全ての国で大きな問題となりつつあった「ごみの自然界流出問題」の解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。ピリカはアイヌ語で「美しい」を意味する。
世界中から3億個のごみを回収したごみ拾い促進プラットフォーム「ピリカ」、画像解析による広範囲のポイ捨て状況調査サービス「タカノメ」や、マイクロプラスチック調査サービス「アルバトロス」などの新規製品を生み出し、全てを事業化。
ごみの自然界流出問題の根本解決に取り組む。2021年に環境スタートアップ大臣賞を受賞、2022年にMIT Technology Review Innovators Under 35 Japanに選出。
環境問題に関心がある/取り組まれている議員や行政職員はたくさんいらっしゃいますが、課題構造を理解し、実行計画を作れるキーパーソンに巡り合うことは難しいことです。なぜならば、環境問題を引き起こしている要因は個人の生活から、グローバルの経済活動まで非常に複雑だからです。
政策起業道場では、複雑な課題構造のどこがボトルネックなのかを特定し、解決方法は法律の改正なのか、国からの補助とすべきなのかを検討しました。また、政策提言を行う際の資料は、ごみ問題の専門家ではない人でもクリアに理解できるかという視点で、フローレンスの政策提言チームや他の道場生からもフィードバックを行いました。
小嶌さんは最終的に、大阪ブルー・オーシャン・ビジョン推進議員連盟の総会で、漁業系プラスチック(発泡スチロール製の浮きなど)や人工芝によるマイクロプラスチックの環境流出を防ぐための政策提言を行うことができました。(詳細はPirikaさんのブログをご覧ください)
誰もがルールメイキングに参加できるようになるために
わたしは、今回運営の一人として関わりましたが、道場生が取り組む課題にとても共感し、「どうすれば問題に関心を持ってもらえるか……」と自分事のように悩み、ともに政策提言案を生み出す苦しみも経験しました。
しかし、みんなで生み出した提言案が、政府や行政との対話の場に出され、良い方向へ進んだ時に、「みんなで社会を一歩前に進めた……! 」と、政策起業道場の意義を確かな手触り感をもって感じられ、本当に嬉しくなるのです。
社会を変えていく担い手を増やすということは、とても大きな挑戦に見えるかもしれません。でも、フローレンスの政策起業道場が、少しずつ道場生のような担い手を増やし、より良い社会に変えていけるとわたしは信じています。
政治と政策を国に任せるのではなく、課題解決の現場で取り組む誰もが、政治や政策を担う主体として参画し、選挙投票以外の回路でも、民主主義に参加することで、変化に強く創造力に溢れた社会を作ることができます。
誰もが、政策起業家のマインドを持っていれば、いつでも、どこでも、政策づくりや制度作りといったルールメイキングに参加できるようになります。それはみんなが社会づくりに関われるようになることに等しいのです。
日本の民主主義そのものをアップデートし、新たな社会が生み出せるよう、フローレンスはこれからも政策起業道場という形で貢献していきます。
さいごに
事業をつくり、しくみを変え、文化を生み出し、ともに「新しいあたりまえ」を未来に手渡そう。
フローレンスは2023年、新たなミッションを掲げました。
政策起業道場は、社会の仕組みやルールを変える「政策起業家」を増やし、さまざまな領域で課題解決を促していきます。
わたしたちフローレンス自身も、目の前の困りごとを解決するための新しい事業を作り、古いルールや現実に合わない制度や仕組みを変える政策提言をしていきます。
「新しいあたりまえ」を未来に手渡していく、こうした活動は皆さんからのご寄付に支えられています。これからも、ともにより良い社会、より良い未来を作り上げていくために、ご協力をいただければ幸いです。