Florence News

「『日本版DBS』法は改善すべき点がまだまだある」――代表・赤坂と有識者たちが記者会見で訴えた、法への期待と課題 #STOP子どもの性被害

「『日本版DBS』法は改善すべき点がまだまだある」――代表・赤坂と有識者たちが記者会見で訴えた、法への期待と課題 #STOP子どもの性被害

#日本版DBS #政策立案・政策提言 #ソーシャルアクション

2024年6月19日、「日本版DBS」の創設を含む、こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案)が参議院本会議を通過し、可決・成立しました。

この制度は、こどもたちを性被害から守るため、こども関連施設・事業者に対し、就職希望者の性犯罪歴の有無の確認を義務付ける制度です。

わたしたちフローレンスは国内のこども・子育ての社会課題解決に取り組む認定NPO法人として、この課題にいち早く取り組み、2017年から日本版DBSの制度創設を提言してきました。

日本版DBSについてさらに詳しく知る

成立を受けた6月19日の記者会見には、フローレンス代表理事 赤坂と、ともに「日本版DBS」の必要性について訴えてきた有識者の方々が登壇し、成立を歓迎するとともに、今後の課題について訴えました。

登壇でお話した内容をご紹介します。

フローレンス代表理事 赤坂緑
「まずは成立を歓迎」

フローレンス代表理事 赤坂緑
フローレンス代表理事 赤坂緑

本日、こども性暴力防止法が参議院にて可決され成立しました。本日成立した法案では、児童への性暴力を防止するための措置として犯罪歴の有無を確認するいわゆる日本版DBSだけではなく、例えば教員などへの研修や児童との面談、被害が疑われる場合の児童への措置等も含まれています。

わたしたちは、この法律が成立したことをまずは本当に大きな一歩として歓迎する立場を取っています。ただ、まだまだ改善すべき点が多くあるので引き続き議論が必要だと考えています。主に継続的に議論が必要だと考えている点を3点挙げていますので順番にご説明します。

まず1つ目は照会の対象となる性犯罪歴の範囲です。今回の法では特定性犯罪や盗撮など条例違反も含む、刑法条例に違反する行為で有罪判決を受けた人、つまり前科がついた人のみが照会対象となっています。つまり起訴猶予や示談で不起訴になった人というのは対象外にあたります。

ただ、小児性犯罪で起訴されて実際に有罪が確定するのは本当にごく一部だと言われています。例えばこどもの証言だけで加害者が否認している場合はもう起訴すらされない、刑事事件にもならないということも多くあります。わたしたちとしては、前科だけではなく起訴猶予等も対象とすることを今後の課題として引き続き検討していただきたいと考えております。

2つ目に性犯罪歴を照会できる期間です。今回禁固以上の刑だと刑の執行から20年と定められていますが、小児わいせつ型の性犯罪に及んだ、かつ2回以上の性犯罪前科がある者の中で、それらの前科も同じく小児わいせつ型であった者の割合は84.6%だったというデータもあります。これを受けて、本当に20年10年という期間で足りるのかということは継続的に議論する必要があると考えています。

例えばイギリスでは、こどもに関わる特定犯罪については永久に証明書に記載されるという運用になっており、それも参考にしながら今後継続議論する必要があると考えております。

次に3つ目、認定制度についての課題です。今回義務化の対象となるのは保育園や学校のみで、塾や学童保育、ベビーシッターなどは「義務化」の対象にはなっていません。義務化ではなくてもまずは「認定」という制度を作ってくださったことは非常に大きな一歩だとは考えていますが、この認定を取得するかどうかというのは事業者の任意になります。

例えば小さなNPOがやっている町の学習教室や中小事業者は認定を取りたくてもハードルが高くてなかなか取れないなど、認定を取らない事業者がたくさん増えてしまうと、実質義務化にならない懸念があります。そうすると「認定を取っていない施設」に性加害歴のある人が流れ込んでしまう、抜け道ができてしまうことが非常に懸念されます。

それを防いでいくために、認定取得を希望する事業者が、研修や相談体制等を大きな負荷なく構築できるように支援する仕組みを作っていくことも同時に必要だと考えております。

まずこの制度がスムーズに導入されてきちんと運用できるように仕組みを整備することを引き続き訴えていきます。

学習塾「花まる学習会」代表 高濱正伸氏
「学習塾経営者として、重度身体障害者の親として、まずは感謝」

学習塾「花まる学習会」代表 高濱正伸氏
学習塾「花まる学習会」代表 高濱正伸氏

学習塾を30年以上やっていますが、経営をしていると、「雇用時にこどもたちに性加害をする恐れのある人がわからない」。このことこそが、一番手が打てない課題でした。

頭の良さや性格は学力テストや心理テストである程度わかりますが、雇用した人が性加害を起こすかどうかは事前に全く分かりません。IQも高いし、柔和ないい人格者として入ってくるので。当事者として本当に悩んでいました。

やはり当初は「本当にそんなことをこの人がするのか」と思うようなことが起こっていましたし、こどもへの性加害をはたらいてクビになったのに、地域を変えて学校の先生をやり続けてると後々聞いたケースもありました。確かに前科になっていないのですが、「こんなことが許されていいのか」と思いました

このケースだけでなく、本当にいろいろなところから同様の話を聞いて30年過ごしてきました。事件になったからまだ打つ手があるということもありますが、事件にならず打つ手もないことが本当に多い。このことにすごく問題意識を持っていました。

フローレンスが日本版DBS創設に向けて動き出してくれたということで、応援していました。本当に感謝しています。今回の成立は一歩目としては大きかったと思います。

もう1つは、実は我が子が重度の身体障害者なので、20年以上障害関係の施設で過ごしてきましたが、性加害を起こした人が別の施設で働いているという話をよく聞きました。警察に持ち込んでも、「こんな喋れない子が何の証言ができるんですか」といったことを言われてしまうと。もういつの間にかうやむや。障害者向けの施設が抱えている課題も、塾が抱えている課題と同じだとずっと思っていました。性加害を起こす可能性のある人たちが、どんどんこどものいる違う場所に移動している。これは現実です。これらは、どれも事件にはなっていません。けれども、いわゆる(わいせつ教員の)横滑り問題についてずっと問題意識を持ってたので、日本版DBS創設を応援していました。

東京大学 多様性包摂共創センター 准教授 中野円佳氏
「これからは初犯を防ぐ環境づくりを」

東京大学 多様性包摂共創センター 准教授 中野円佳氏
東京大学 多様性包摂共創センター 准教授 中野円佳氏

私は元々2020年にマッチングプラットフォームを通じたベビーシッタ―による性犯罪について、ジャーナリストとして報道しておりました。日本版DBS創設を求める動きがその報道をもとにかなり活性化しました。

その後すぐシッターに関しては行政処分歴を載せるということでスピード成立をしましたが、その時に残された課題としては、シッターや学校教員、保育士で縦割りになっていたこと。また今回認定制度でカバーされるような、塾や学童、スポーツクラブなどがカバーできないことがありました。引き続きDBSのようなものが必要だと私も言ってきたし、フローレンスさんの他でも、さまざまな動きがありました。

まず今回は成立ということで評価できる点として、最低限ではありますが、前科のある人がこども関連の仕事をわざわざ前科状況を登録してまで働こうとすることのハードルは上がりました。こども関連の仕事を避けることにつながる可能性があり、それは意義が1つあると思います。私もシッターの性犯罪を取材しましたが、そのシッターは以前は保育園で働いていたり、キャンプでスタッフをしていたり、(こどものいる環境を)動き回っていました。

小児性犯罪の加害者治療の専門家等によると、小児性犯罪は依存症のようなところもあって、こどもがいる環境に放り込まれると再犯の可能性も高まるそうなので、それを起こさないためにも加害者に他の仕事をしてもらうということは大事だと思います。

ただ、前科をつけるのはかなりハードルが高いと思います。私が取材したケースでは、被害者の親御さんがかなり迅速にお子さんの性被害に気がついて、お子さんに対して丁寧な聞き取りをして逮捕・立件に繋がったのですが、逮捕・立件までいけるケースは非常に少ない。親がそもそも気づかないこともありますし、取材した別の事例では、被害から1年以上経ってから、こどもがふと「昔シッターさんがこんなことしてきたんだよね」と喋り出したケースもありました。ただその親子も1年以上経っていて証拠がない中で警察に相談に行き、警察からも「お子さんに相当負担をかけて事情聴取することになりますけど、どうしますか」と言われ、被害を取り下げてしまったそうです。

なので今回の範囲は本当に一歩前進ではありますが、「最低限」だと思っています。

引き続き、初犯をいかに防ぐかというところで、先ほど研修とか相談体制を支援する仕組みも必要だという話がありましたが、密室に1対1にしないなどの対策が必要で、それがさまざまなこどもに関わる事業者への啓発の一助になるといいのかなと思っています。あとこどもが「これっておかしいのかな」と思った時に、親とか周りの人に相談できるような環境もつくっていく必要があると思います。

日本大学 文理学部教育学科 教授 末冨芳氏
「やっとこどもたちを性暴力から守れるスタートラインに立てた」

日本大学 文理学部教育学科 教授 末冨芳氏
日本大学 文理学部教育学科 教授 末冨芳氏

まず今回のこども性暴力防止法の成立、大変意義深いと思っております。フローレンスさんとご一緒しているのは、ここに至る道が大変難しかったということに尽きるからです。フローレンスさんたちが「DBSが必要だ」とおっしゃった時に、一番の障壁は大人の犯罪者の「職業選択の自由」を法務省の側が主張してこられたことでした。この国ではこどもたちの権利は守られないのかということを私も問題として共有し、まずこどもの権利の国内法である「こども基本法」の成立に着手しました。そこで初めて「こどもの最善の利益が優先して考慮される」という規定が置かれ、大人の犯罪者の職業選択の自由ではない、こどもたちが性暴力から守られる最善の利益を実現するという法律が「こども性暴力防止法」であり、その仕組みの一部が「日本版DBS」ということです。

なのでこの「日本版DBS」そして「こども性暴力防止法」の一番の意義は、わたしたちがやっとこどもたちを性暴力から守れるスタートラインに立てた、それに尽きると思います。そして皆さんがご指摘のように、ここからさらにこどもたちを守りきれる日本にしていくということが非常に重要です。

ここから何をしていくべきかをお伝えします。

まず、とにかく法が成立しないとDBSの運用はできません。DBSの運用をすぐに開始していく。これが非常に重要です。

ただここから実装していかなければならないのが、学校・園等における「安全保護チーム」の責任体制整備と責任に見合った国の支援体制づくり、また国によるこども若者安全保護研修の提供と、適切な連携体制の実現です。私自身は安全保護チームと呼んでおりますが、学校・園あるいは事業者がどのような体制を組んで、どういう研修をするかやノウハウの共有もすごく大事です。そこを国としていかにバックアップしていけるかが重要だと思います。

また現在では教員要養成課程や保育士養成課程では必修化されていません。こどもへのへの性暴力の禁止や防止、それから起きてしまった時の対策ケアの方法を全く学ばないまま、若い教員や保育士たちがどんどん現場に旅立っています。それは現職の教員・保育士も全く同じです。これはすぐに改善されなければなりません。

あわせて、こどもたち自身が性暴力の加害者にも被害者にも、そして傍観者にもならないプログラムというのは、すでに文部科学省が「命の安全教育」として全国の学校に周知してる段階なんですが、私立学校では実践しているところが非常に少ないです。これを踏まえ、こういったプログラムを必須化していく必要もあると思います。

最後に、こどもの性被害を0にするためには「加害者を少なくしていく」ことが欠かせません。そうした意味では加害者の側もまた小児性愛障害という国際診断基準がある「依存症の一種」と捉えられるのが、先進国のスタンダードです。それに則って、加害者の側も治療やカウンセリングの機会を拡充していく、あるいはこどもに関わらない形での社会復帰を、社会として実現していくといったことも重要だと思います。これはすでに大阪府で取り組みを頑張っておられるということですが、これを日本のあたりまえにしていきたいと思います。


会見の最後、赤坂がこう訴えました。

「最後に、今日の法の成立まで非常に長い時間を要したわけですが、真にこどもたちを守れる社会・制度をつくっていくために、私たち大人の責任が問われています。私自身も小学生2人のこどもを持つ母親として、本当にまずはこの法について、DBSについて、性加害について、保護者を含む多くの方に知っていただく、関心を持っていただくことが非常に大事だと考えています。」

「日本版DBS」の創設を含む「こども性暴力防止法」には、まだまだ課題もあります。フローレンスは施行から3年後の制度見直しに向けて、引き続き政策提言を続けてまいります。フローレンスのこうした社会的アクションや政策提言活動は、皆さんからの応援やご寄付によって支えられています。

引き続きご支援・応援をよろしくお願いします。

日本版DBSについてさらに詳しく知る


    ご意見・ご感想をお寄せください

    • ご質問については、「よくあるご質問」または「お問い合わせ」をご確認ください。

    • お寄せいただいた内容は、当法人および当サイトの運営・改善の参考にさせていただき、その他での使用はいたしません。ただし、いただいた内容をコンテンツ内に掲載させていただく場合があります。

    ご意見・ご感想をお寄せください必須

    取り上げてほしいテーマなどあればご自由にお書きください

    こんな心躍る未来を、
    ともにつくりませんか?