親が働いているかどうかなど、保育の必要性認定にかかわらず保育園を利用できるようにする「こども誰でも通園制度」。フローレンスが「みんなの保育園構想」として実現を訴えてきたのと同じ趣旨の制度で、令和6年度年度は一部の自治体で試行的事業が実施されています。令和8年度から全国で実施される予定です。
令和5年度より東京都では、「多様な他者との関わりの機会の創出事業」が開始されていました。親の就労の有無にかかわらない、保育所等での定期的な預かりをおこなう事業で、乳幼児期から異年齢のこどもや保護者以外の他者と関わることで、非認知能力の向上など健やかな成長を図る取り組みです。
しかし、国の「こども誰でも通園制度」と東京都の「多様な他者との関わりの機会の創出事業」ともに、病気や障害で保育園に通えないこどもたちを対象にした「居宅訪問型保育」は、当初、事業の対象外として議論が進んでいました。
医療的ケア児などの障害児が置き去りにされそうになっていることに強い疑問を感じたフローレンスは、障害児・医療的ケア児家庭の声を国と都に届けようと、保護者にアンケート調査を行い、「居宅訪問型保育」も事業の対象とするよう要望を出してきました。
東京都の令和7年度予算要求に、「医療的ケア児等の育ちの支援事業」が!
令和7年度の予算要求で明らかになった東京都の新規事業「医ケア児等育ちの支援事業」は、「医療的ケア等により保育所等を利用することができない児童に対し、保護者の就労等の有無にかかわらず、居宅等で保育し、保護者以外との関わりの中で、非認知能力の向上など子供の健やかな成長を図る。」という内容で、まさに「医ケア児版こども誰でも通園制度」と言えるものです。
この事業によって、保育所に通えない医療的ケア児も、保護者の就労の有無に関わらず在宅で保育を受けることができます。
まずは東京都からになりますが、来年度から大きな一歩を踏み出せることになりそうです。
アンケートにご協力くださった皆さん、本当にありがとうございました!
障害児・医療的ケア児家庭にとって意味ある制度になるよう、引き続きフローレンスは声をあげていきます。
国の「こども誰でも通園制度」でも、令和7年度から「居宅訪問型保育」が条件付で実施可能に
国の「こども誰でも通園制度」に関しても、2024年10月30日の第3回こども誰でも通園制度検討会において、来年度の方針が以下の通り示されました。
つまり
- 「居宅訪問型保育事業」は引き続き「こども誰でも通園制度」の対象外
- ただし、運用上、「こども誰でも通園制度」の対象となる園から保育従事者の派遣を認める
ということになります。
まったくの対象外だったところから一歩前進ではありますが、「居宅訪問型保育事業」が対象に含まれたのではなくあくまで「保育施設からの保育士派遣」が前提とされています。
そのため通常の保育所と同様、居住自治体と施設の所在自治体の双方が事業を実施している必要があります(令和7年度まで)。
通常の通園の場合は居住自治体と施設の所在自治体は同一の場合が多いので高いハードルではありませんが、居宅訪問型保育の場合は別です。
医療的ケアが必要なお子さんや障害のあるお子さんを受け入れている保育施設の数はまだ十分ではなく、居住自治体にあるとは限りません。そのため、居宅訪問型保育の場合は自治体を越えて居宅に訪問することが多いのです。この制限によって、制度を利用したくても利用できない家庭が出るおそれがあります。
医量的ケア児・障害児に対する居宅訪問型保育は、特例として自治体を越えて利用できるよう必要な仕組みが必要です。
「居宅訪問型保育」は通園が難しいお子さんにとっての大事な選択肢
集団保育が難しい場合、「居宅訪問型保育の利用を希望」する人は約9割にのぼっています。
実際に、人工呼吸器のお子さんを親御さんと共同保育するフローレンスの居宅訪問型保育事業「アニーバディ」を利用しているOさんに、居宅訪問型保育のどんなところに価値を感じているか伺いました。
Q.居宅訪問型保育を利用しようと思った背景はなんですか?
息子に医療的ケアがあり日中介護が必要なため、在宅勤務ができない前職を退職しましたが、医療費や物品などにかかる費用を考え在宅勤務できるお仕事を始めました。理解のある職場ですが、それでも息子のケアや医療機器のアラーム音などで集中して仕事ができる環境とは言えませんでした。当初は母子分離型の通園に絞って検討していましたが、数少ない母子分離型ということに加えて親の送迎が必須という条件もあり、通園探しは難航していました。仕事中、横でひとりで天井を見ている息子にとって「居宅訪問型保育」は必要なものではないかと考え利用を開始しました。
Q.居宅訪問型保育の利用を始めて、お子さんやご家族に変化はありましたか?
息子は、刺激が増えたことにより笑顔が増えたり反応が良くなりました。例えば先生が来ると笑いだしたり、バイバイと声をかけると手をふる動きをしたりと、コミュニケーション方法を覚えたようにも感じます。
家族では、先生が提案してくれた遊びをしたり行事を一緒に楽しんだりする時間ができました。息子とどのように遊べばよいかと悩んでいたのですが、先生から学んだことをもとに、家族としても息子とのコミュニケーション方法が増えました。また、多くの障害児保育に携わってきた先生に、障害児やきょうだい児についての悩みを話せるようになりました。「患者」として関わる訪問看護とは違い、「こども」として関わる保育士さんならではの観点でお話をしてくださるので、より親心に寄り添ってお話していただけると感じます。
Q.通園ではない、居宅での保育という選択肢についてどう感じていますか?
居宅訪問型保育では、自分の目で保育の様子を見て学べることや保育を受けている息子の様子を見れることがメリットであると感じました。親もこどもも刺激を受けられる良い機会になっていると感じています。また息子の体調やペースに合わせて保育しやすいというのは居宅保育ならではだと思います。息子は嚥下障害や分泌過多という問題があるので天候一つでその日の状態もコロコロと変わります。息子が過ごし慣れた場所で座ってみたり横になってみたりその日の息子に合わせて保育をしてくださっています。
居宅訪問型保育が「こども誰でも通園制度」の対象になれば、息子のような医療的ケア児だけではなく、いわゆるグレーゾーンとして療育施設にも保育園にも受け入れてもらえないお子さんも保育が受けられるようになり、様々なご家庭の方が助かるのではないかと思います。
居宅訪問型保育を通して、いろんなこどもたちが集団園への通園に向けての検討事項など確認でき、通園へのステップアップにも繫がればよいなと考えています。
すべてのこども・家庭が保育を受ける機会を担保されるべき
保育は、どんなお子さんにとっても貴重な社会経験になります。体調悪化や感染リスクの懸念があり集団園への通園が難しいお子さんにとって、居宅訪問型保育という選択肢は、過ごし慣れた家という環境で、家族以外の人と遊びを通して交流し、社会性を育む貴重な機会になります。
医療的ケア児保護者のアンケートでは以下のような声も届いています。
医療的ケアの必要なこどもをもつ親が働くというのは(中略)本当に厳しい現実だと実感しています。かと言って、働かないという選択をすると、ずっとこどもと二人きりで家にいて引きこもりのようになりがちで、社会から切り離されたような、自分たちだけ溝の隙間に落ちてしまったかのようなとても暗い気持ちになることが多かったです。
医療ケアがあると、通常使えるサービスも利用困難です。(ベビーシッターや一時預かり施設など)そもそもの選択肢がないのに、なぜ奪う。
医療的ケア児の親は、睡眠時間を削って毎日毎日終わりのないケアをしています。(中略)こどもらしく遊んでやる余力はまったく残りません。それでも、こどもらしいことを少しでも経験させてやりたいのです。
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今回の東京都の新規事業および国の方針見直しによって、保育所に通うことのできない障害児・医療的ケア児を含めたすべてのこどもが保育を受ける機会が保障されました。
今後もフローレンスは孤独な子育てのない、未来を担うこどもたちをみんなで育む社会を目指し、提言を続けていきます。
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