12月は寄付月間です
フローレンスは、皆さんからいただくご寄付を原資に、ひとり親支援とこどもの貧困防止、こどもの虐待や親子の孤立防止、障害児家庭支援など、日本のこども・子育ての領域で総合的な活動を行っている認定NPO法人です。
歯止めの聞かない少子高齢化、「子育て罰」と揶揄される厳しい子育て環境、障害児や家庭への足りない支援、日々流れてくるこどもの虐待の痛ましいニュース……こんな日本を変えたいと、想いを同じくしてご寄付くださる皆さんに、フローレンスの活動をお伝えする「寄付者限定メールニュース」を月に1回お送りしています。
2024年の寄付月間は、「寄付者限定メールニュース」の特集記事の一部を抜粋・編集してシリーズでお届けします!
園スタッフの「気づき」を、「的確な支援」に変えていく
「保育ソーシャルワーカー」という専門職があることをご存知でしょうか?
子育て家庭をとりまく環境が複雑化するなかで、家族の抱える悩みも多様化しています。そんな親御さんやこどものちょっとした変化やサインにいち早く気づくことのできるのが保育園のスタッフです。
しかし、保育士である園スタッフは保育の専門家であって、各家庭の強い育児不安などの困り感や、こどもの発達に関する課題に対応するのはなかなか難しいのが現状です。そこで、園スタッフと連携しながら、専門家としてご家族やこどもの支援を一緒に考えていくのが保育ソーシャルワーカーなのです。
困りごとを抱える人々に対して、今よりも過ごしやすくなるよう相談やサポートを行うことをソーシャルワークと言います。これまで、ソーシャルワークは介護や医療の現場では数多くの取り組みがありましたが、保育の現場で取り入れた事例はあまりありませんでした。
2010年から保育園を運営しているフローレンスは、保育ソーシャルワークの導入をいち早く検討、実践してきました。
親御さんの様子がいつもと違う、なんだかちょっと心配。そんなわずかな園スタッフの「気づき」を、「的確な支援」に変えていく保育ソーシャルワークについて、保育ソーシャルワークチームスタッフの新免に話を聞きました。
フローレンス スタッフインタビュー
新免 香織(しんめん かおり)
あたらしいつながり創造局
保育ソーシャルワークチーム
2021年に新卒で入職。社内の保育ソーシャルワークの事業推進、社外保育園向けの研修企画・運営を担当しています。
趣味は、音楽・カメラなど
Q. フローレンスが保育ソーシャルワークを取り入れたきっかけを教えて下さい。
新免
フローレンスが運営する保育園で、園児の服が常に汚れている、突然お引越ししてしまう、経済的に不安定な様子がうかがえる、といった園児の家庭が何らかの事情を抱えているのではないかと思われる報告が園スタッフからあがってきたことがきっかけです。
当初は、保育園のスタッフがお子さんのために安心安全な環境を整えてあげたいと考えて、保護者に働きかけたりもしたのですが、適切なアプローチが難しく、さらに悩みが深まってしまったこともありました。
事務局スタッフとも連携して対応していたのですが、相談支援には高度な専門知識が必要なこともあり、ご家庭に直接働きかけるのは、園スタッフも不安が大きかったんです。
「親子にとっても園スタッフにとっても適切なサポート体制を、保育現場から作りたい」と考えて、保育ソーシャルワークの取り組みをはじめたのが2017年です。
Q. 具体的に、どのような取り組みをしているのですか?
新免
フローレンスでは園の先生から相談があった際には「保育ソーシャルワーカー」が直接園にお伺いするだけではなく、Zoomやチャットツールなどを活用しオンラインでも対応できるようにし、気軽に相談しやすい環境を整えています。
実際に、DVの疑いがあるなど家庭内だけでは解決しづらい問題について園スタッフと共に取り組んだり、育児に何らかの困難を抱えているご家庭を行政支援とつなげるなどの活動をしています。2017年の開始からこれまでに約200件の相談に対応してきました。
Q. 実際に始めてみて、どんな気づきが得られましたか?
新免
2017年から3年ほどフローレンスの保育園で取り組みを実践していくうちに、保育ソーシャルワーカーが関わることで、園スタッフの負担が軽減したり、良い支援につながるケースが結構あることがわかってきたんです。フローレンスの運営する保育園だけでなく、同じように困っている園が多いはずだと考えて、この取り組みを社外に広げていく活動も開始しました。
仙台市で保育ソーシャルワークの勉強会を開催したり、保育ソーシャルワーク学会で登壇して取り組みを紹介するなど啓発活動にも力を入れるとともに、国にもその必要性を訴えてきました。
その結果、保育ソーシャルワークの必要性が徐々に認められ、2020年度の国の予算に初めて保育ソーシャルワークに関する事業(保育所等における要支援児童等対応推進事業)が盛り込まれたんです。それまで保育ソーシャルワーカーの配置のために使える助成金などはなく、フローレンスにいただいたご寄付を原資に活動してきたので、国に事業として認められた意義は大きいですね。
2021年には東京都中野区より委託を受けて、中野区内の約115園(2021年4月1日時点)の保育所を対象として訪問し、発達・養育課題の相談を受けたり、専門的な知見に基づいて助言を行ったりしました。
フローレンスでは、この取り組みの重要性をしっかりと発信していくことで、さらに多くの自治体で導入が進むように活動を続けています。
今求められる、保育ソーシャルワーカーの役割とは?
Q. 保育ソーシャルワーカーの役割について具体的に教えてください。
新免
例えば、こどもの登園に付き添ってきたお母さんの表情がいつもより少し疲れているように見えたとします。特に問題もなく、親子関係も不安のないご家庭だったので、どうしたのだろうぐらいに思っていたところ、翌日、こどもの体にあざを見つけてしまったという場合、園スタッフはどうするでしょうか。
すぐにお母さんに状況をお尋ねしたり、いきなり児童相談所に通告するべきなのか判断に迷うことがあります。はっきりしたことはわからないし、どう声をかけたらよいか、どこに相談したらよいか判断に迷う、そんなときに、園スタッフの相談に乗ってくれるのが保育ソーシャルワーカーです。
新免
保育ソーシャルワーカーは、園スタッフと連携して、保育観察や事実確認、カンファレンスを行います。一緒に保護者との面談を実施したり、必要であれば保健センター等と連携したり児童相談所に情報提供を行います。また、園スタッフに具体的にどのように声掛けをしたらよいかアドバイスをすることで、保育園で問題を解決したり、問題を軽減できるようにサポートしていくこともあります。
Q. 保育園にとっても心強いサポートですね。
新免
実際に園スタッフからは、「チームで家庭を支えられるようになりよかった」「一人じゃないと思えた」といった声があがっています。
児童相談所に通告する手前の、より身近な存在として保育ソーシャルワーカーがいます。子育て家庭が多様化し、孤立化が深刻になっている今だからこそ、親御さんやこどもたちと毎日接している園スタッフがちょっとした変化に気づきサポートできる意義は大きいと思います。
Q. 今後の展望をお聞かせください。
新免
「こども誰でも通園制度」ができて、保育園は地域の子育て支援のハブとして今後ますます重要な役割を果たしていくことが期待されていると思います。そのなかで、保育園がつながるご家庭も多様化していくことが予想されるため、保育ソーシャルワークを「仕組み化」し保育園をサポートしていくこともますます必要になっていくでしょう。
フローレンスでは、自団体の保育園をサポートする活動を続けつつ、より多くの自治体や保育園にこの仕組みを広げていけるよう、園スタッフ向けの研修プログラムの開発なども継続して取り組んで行く予定です。
このような取り組みができるのも、寄付者の皆さんが団体を支えてくださっているおかげです。引き続きご支援よろしくお願いします。
(インタビューここまで)
フローレンスは保育ソーシャルワークをいち早く保育現場に取り入れて実践してきた団体として、自治体や他団体への研修を行ったり、日本保育ソーシャルワーク学会全国大会のシンポジウムで登壇するなどしています。
子育て家庭の孤立が深刻化する現代において、保育園が地域の子育て支援の重要な拠点となり、乳幼児のセーフティネットとしての機能を果たせるよう、今後も保育ソーシャルワークの仕組みを全国に広げる活動を続けていきます。
このような活動を継続して行うことができるのは、寄付者の皆さんのご支援があるからです。引き続きフローレンスの活動の応援・ご支援をよろしくお願いします。
フローレンスの活動に賛同してご寄付くださった方の声
わたしにも4歳の子どもがいますが、保育園等周りの力をたくさん借りながらなんとか子育てしてます。
虐待はもちろんいけないことですが周りに頼れずに追い込まれてしまう方もいるのではないかと最近思うようになりました。
少ない金額で申し訳ないのですがこどもたちやご家族が安心して生活できるような社会になって欲しいです。
どんな境遇であれ、こどもたちには生きていて良かったと実感できる瞬間を少しでも多く感じてもらいたく、切に願っております。
人間形成に重要な幼少期こそ、少しでも自己肯定感を高くもてるような生活環境に身をおいて欲しいです。たとえ恵まれない環境で育ったとしても、人の痛みや悲しみを理解し、同じ立場の人に寄り添い、サポートしてあげられる人になってほしいとも願っております。貴団体の活動も応援してます。
子育てがただでさえ大変なのに、ひとり親として色んな重荷を精神的にも背負いながら、仕事と育児をしないといけないのは本当に大変だと思います。特にこのご時世ですと、なかなか人からヘルプを求めづらいですし、追い詰められることも多いかと思います。
自分もとても育児が大変だと感じて、物理的に困っている人を助けるのが難しいですが、こんな形で少しでも応援のエールを送られたらと思います。