突然ですが、あなたは困ったことがあったとき、誰に相談しますか? 家族や親友、ママ友、パパ友、近所の人、その困り事によって相談する人は異なるでしょう。困りごとは解決しなくても、愚痴をこぼすことで、心が少し軽くなることもあるかもしれません。
でも、お金の心配や家族の暴力など、困りごとが深刻であればあるほど、相談できる人は限られてくるのではないでしょうか。公的な窓口に相談に行こうとしても、その時間や気力が持てないこともあるでしょう。
今回は、困りごとを抱えた家庭の「支援へのつながりにくさ」に着目して、フローレンスで、「こども宅食」事業の全国普及を担当している渡邉にインタビューしました。一般社団法人 こども宅食応援団(*)の事務局としても、プロジェクトを推進するスタッフです。
*困窮等でお困りの子育て家庭向け支援「こども宅食」を全国に普及する、フローレンスのグループ団体(公式HP:こども宅食応援団)
渡邉英里子
あたらしいつながり創造局
「こども宅食事業」 全国普及推進サブマネージャー
外資IT企業で法人営業を10年務めた後、コロナ禍をキッカケにフローレンスに入社。3児の育児の傍ら南アフリカでの1ヶ月ボランティアや、米国滞在を経験。
Q. 今年の年末は、「こども宅食応援団」の協力のもと、全国約1万世帯に食品の配送を行います。「こども宅食」事業では、どのような家庭が対象となっているのでしょうか?
渡邉
「こども宅食」は、困窮や障害等で本当はしんどい状況にあっても、「子ども食堂」や市役所といった支援サービスに行ける子育て家庭が少ないことを課題意識に誕生しました。「支援を『積極的に』必要な人に届ける」ことを重視する、アウトリーチ型支援です。
全国各地で行われている「こども宅食」では、月1回程度、支援員が、子育て家庭のご自宅に食品をお持ちする活動が標準的です。
こども宅食家庭で、対象となる家庭の多くは経済的に困っている家庭です。
2021年に、複数の地域で実施した「こども宅食事業の利用家庭調査」では、地域差もありますが、ひとり親家庭が約半数でした。また、小学生以下のこどもが2人以上いる割合も多いですね。世帯年収が300万円以下の方が、78.9%というデータもあります。
Q. 世帯年収300万円以下というと、手取りで月に20万円以下の生活費でこどもを育てるのですから、かなり厳しいことが伺えますね。「こども宅食」では、具体的にどのようなものをお届けしていますか。
渡邉
「こども宅食」でつながっている家庭では、お米やパンなどの主食のニーズが高く、お弁当やお惣菜などよりも、保存できる食品のほうが好まれます。
食品をお渡ししたからといって被支援家庭の食の問題が解決するわけではありません。例えば親御さんに、ご飯を作る時間がなかったり、そもそも料理が苦手だという場合もあって、こどもの栄養バランスが偏りがちです。調理器具がほとんどない家庭には、即席スープを渡すなど、家庭の状況に合わせた食の支援が必要です。
Q. 困りごとを抱えている家庭の課題は、経済的なものだけではないということですね。
渡邉
「経済的困窮」は、目立ちやすい指標の一つでしかありません。DV、介護、引きこもり、虐待、病気や障害など、様々な課題を内包していることが多いんです。
こどもの不登校も大変よく見られます。同時に、親のみならず祖父母世帯にまで課題がある場合も少なくありません。
前述の家庭調査では「父子家庭でこどもが4人いて貯金を崩しながら生活している」とか、「生活に疲れていて誰かに愚痴を聞いてほしいけれど相談する相手がいなくて辛い」といった不安や孤立感の訴えもありました。
Q. そのような家庭内の状況は外から見えづらいと思いますが、支援につながっている例を教えてもらえますか?
渡邉
こども宅食応援団が助成などでサポートしている、ある東北の団体さんが支援している例をあげます。小学校1年生のAさんの母親には発達障害があって、これまでに仕事に行くと言って家をあけ、妊娠して帰ってきたことが2度あったそうです。Aさんは祖父母に育てられているのですが、祖父は体が不自由で、その祖父の障害者年金で一家は暮らしています。Aさんはヤングケアラーの状態にもあります。
このように、一言で「貧困」といっても、様々な課題を複合的に抱えているものなのです。「Aさんを支援する」のでは足りず、「Aさん家族を丸ごと支援する」ことが必要です。実際に現場の支援員さんたちは、地域の様々な福祉機関と連携しながら、支援を実施しています。
Q. このような家庭とつながるきっかけの一つとして「こども宅食」の食品の配送があるんですね。
渡邉
まずは「自分の話を聞いてくれる人がいる」ということが「つながり」の第一歩になります。こども宅食では、食品を届けに何度か訪問しながら、ただの雑談をたくさんして「この人だったら困っていることを相談してもいいかな」と親御さんに思ってもらえるまで時間を掛けます。心配ごとを話してもらえるまでに、少なくとも3ヶ月から半年ぐらいかかる、と多くの支援者の方から聞いています。
ある熟練のソーシャルワーカーのアプローチを紹介します。「訪問で『家庭のここに問題がある』と思っても、それを殊更に指摘するより、親御さんから話してくれるのを待つ」そうです。信頼関係が何よりも大事だからです。本人が「困っている」「助けてほしい」とご自身で思っていないことに無理に介入しようとしても、良い結果にはなりません。
虐待は即時通報が必要ですが、例えば、家庭で父親から母親に暴力的な言動があるとわかっても、お母さんが実際に訴える心配が「お子さんの進路問題」であれば、まずはお子さんの学習支援から支援が始まることもあります。
Q. 辛くても自分から相談しようとしない、その背景には何があるのでしょうか?
渡邉
人に迷惑をかけてはいけないという意識の人が多いようです。中には「過去に相談に行った先で嫌な思いをしたからもう二度と相談したくない」という人もいます。
人に頼るのが苦手な人も多いのですが、そういう人は助けを求めるのが遅すぎたり、支援を断るのが早すぎたりして、制度や支援をうまく使えていないことがあります。例えば、こどもが3人いる父子家庭で、再就職が決まったばかりで生活が安定しないうちに「もう大丈夫です、支援は中止してください」といって「つながり」を自ら断とうとするとか、そんな話も聞きます。
Q. 今年の冬、フローレンスは「クリスマスぬくもり便キャンペーン」でマンスリー寄付会員を200名募集しています。この支援によりどのようなことが可能になると考えられますか?
渡邉
こどもたちが「善い大人」と出会う機会が増えると思います。今の日本では、こどもはマイノリティーになっていますので、こどもを地域で支えるとか、こどもを健やかに育てる環境を整えるということが難しくなっています。今は、家庭のことは家庭で責任をもたせようとする風潮がありますよね。けれど、「こども宅食」で出会うような親御さんには、そもそも「普通の家庭」がどんなものか知らない人も少なくありません。
子育てに「親がしっかりすること」を求めるだけではダメで、家族以外のたくさんの「善い=安全で信頼できる大人」と出会うことで、こども本位の育ちはできるものだと思います。それをもっと必要とするこどもが、全国にたくさんいるんです。
だから、もっと多くの人が、ちょっとしたボランティアでも声掛けでも、どんなことでも良いのでこどもたちと関わりを持ってくれたらいいと思います。
渡邉
もしも直接的に関わることができなくても、フローレンスに寄付という形で託していただくことで、全国で「善い大人」との出会いを促進することができます。こどもたちが「たくさんの善い大人と出会う」その素敵な出会いを作ることに、皆さんにも加わって頂けたら嬉しいです。
(インタビューここまで)
クリスマスはこどもに寄付を 「クリスマスぬくもり便キャンペーン」実施中!(12月25日まで)
この冬、フローレンスは、経済的に厳しい状況にある子育て家庭や能登半島地震被災地の子育て家庭等を対象に、食品や日用品、クリスマスプレゼントなどの特別配送を実施しています。
フローレンスの支援は、食品や日用品をお届けして終わりではありません。それをきっかけにご家庭とつながりを作り、継続的に見守り続け、必要な支援を届けています。
12月は寄付月間です
歯止めの聞かない少子高齢化、「子育て罰」と揶揄される厳しい子育て環境、障害児や家庭への足りない支援、日々流れてくるこどもの虐待の痛ましいニュース……こんな日本を変えたいと、想いを同じくしてご寄付くださる皆さんに、フローレンスの活動をお伝えする「寄付者限定メールニュース」を月に1回お送りしています。
2024年の寄付月間は、「寄付者限定メールニュース」の特集記事の一部を抜粋・編集してシリーズでお届けしています。Vol.3の本記事では、自ら助けを求められないご家庭に、いわゆる「出前型」の支援を届け、継続して見守る活動をご紹介しました。
このような活動は、寄付者の皆さんの継続的なご支援で実現できています。フローレンスのご支援・応援をよろしくお願いします。
フローレンスの活動に賛同してご寄付くださった方の声
普段、辛い思いをしているであろうお子さんや、その親御さんに何かするとしても、機会がなかったり気を使われてしまいそうでできないです。
こういった活動をされているフローレンスさんが活動してくれる代わりに、寄付させていただければという思いです。
世界中に支援が必要な方が大勢いらして微力を感じます。
より多くの方が、困っている方々の状況を知り、想像し、支援の輪が広がる事を祈っています。