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社会を先導した医療的ケア児の居場所づくり【フローレンス障害児保育開始10周年特別企画・利用者と語る今までとこれから】前編

社会に先駆けて取り組んだ、医療的ケア児の居場所づくり【フローレンス障害児保育開始10周年特別企画・利用者と語る今までとこれから】前編

#障害児・医療的ケア児家庭支援

フローレンスが医療的ケア児向けの保育事業を始めてから、今年で10年が経ちました。

障害児保育園ヘレンの開園をはじめ、障害児訪問保育アニー、医療的ケアシッター ナンシーと、医療的ケア児向け事業をさきがけとなって実施してきたフローレンス。

この10年の節目に改めて、フローレンスの事業や社会環境の変化などを振り返り、次の10年に向けて走り出すために、利用者との座談会を実施しました。

今回と次回の2記事にわたり、座談会で話した内容を前後編でお伝えします。前編のテーマは、フローレンスがやってきたことの振り返りと、実際利用者の生活がどう変わったのかについてです。

座談会参加者

フローレンスのサービスは仕事を続けるための最後の砦

ーーまずは山崎さん、篠原さんそれぞれにお聞きします。フローレンスとの関わりについて教えてください。

山崎さん

わたしは生粋のフローレンスっ子だと思っています。というのも、障害児訪問保育アニーができてから二人目の利用者で、医療的ケアシッター ナンシーに至っては最初の利用者なんです。わたしはフルタイムで仕事をしているんですが、辞めることなく続けられたのは、もう辞めないといけないというすんでのところでフローレンスのサービスに出会ったからでした。

山崎さん

こどもが生まれ、病気がわかり入院していた時、わたしは育児休業中で、職場復帰するために情報収集を始めました。ところが病院のソーシャルワーカーさんに言われたのは「こういう子を預かる保育園はありません。親御さんはみなさんどちらかが仕事を辞めています」という言葉でした。

そんなことがあるなんて想像もしていなかったので、本当に驚いて…でも実際に動いてみて、本当にそうなんだと実感しました。

山崎さん

色々と預かってもらえる場所を探したり役所に相談したりしましたがなかなか見つかりません。心が折れかかった時もありましたが「働きたいと思ってるだけで何も悪いことはしてないんだから」と言い聞かせ、育休が切れたあとも会社で使える制度をフルに使って休みを延長して、働き続ける道を探しました。

山崎さん

休める期間ギリギリのところで、フローレンスが訪問保育のサービスを立ち上げようとしているという話を聞き、利用させてもらいたいとフローレンスに問い合わせしたのが最初です。立ち上げのタイミングから利用させていただきましたが、先生たちもとてもいい人で、安心してこどもを任せることができました。

山崎さん

でもほっとしたのも束の間、小学校に上がるタイミングで今度は「放デイ(放課後等デイサービス)がない」という問題が出てきたんです。またも仕事を辞めないといけないかも、と思ったタイミングで、医療的ケアシッター ナンシー立ち上げの話をいただき、無事に利用することができたおかげで、今も仕事を続けられています。

ーーなるほど…仕事を辞めない選択肢を模索した結果フローレンスに出会ったんですね。篠原さんはどうですか?

篠原さん

わたしも山崎さんと同じで、出産後息子に病気がわかった時は育休中でした。そして、医ケア児を預けられる保育園は聞いたことがない、とソーシャルワーカーさんに言われたのも同じです。それでも仕事は好きだったので復帰するために保育園を探し、障害児保育園ヘレンを知りましたが定員の都合ですぐに入ることは叶いませんでした。入園までの間、在宅で受けられるサービスとして、わたしたち家族の支えになってくれていたのが医療的ケアシッター ナンシーです。

篠原さん

初めての子育てなうえ、医療的ケアがあるということで、こどもとどのように遊んだらいいのか、というのを模索していた時期でもありました。そんななかで、医療的ケアシッター ナンシーの利用が始まり、人工呼吸器をつけていながらも座位をとって創作活動をしたり、寝ころんだままでも楽しめるおもちゃなどで遊んだりと、親だけではできなかった楽しい活動を提供してくださり、息子にとってもわたしにとってもありがたい時間でした。

篠原さん

また、NICUから退院し在宅に移行してしばらくは呼吸も安定せず、酸素飽和度をはかるモニターが常に鳴っていたこともあり、不安で落ち着いてまとまった睡眠をとることができない時期でもあったので、3時間というまとまった時間息子をみてくれる間に休息をとることもでき、自分や家族の人生についても改めて前向きに考える余裕が持てるようになりました。

篠原さん

そうして育休期間を過ごしている間に障害児保育園ヘレンの空きが出て入園が叶いました。育休が切れるギリギリで、わたしももう辞めないといけないかも、と思っていたところだったので、本当に安心しましたね。人工呼吸器を利用している医療的ケア児を預かってくれる保育園は都内でもかなり希少なため、ヘレンに入園できたことは本当にありがたいことでした。今も障害児保育園ヘレンを利用しつつ、夫婦で協力しながら共働きすることができています。

ーー篠原さんも山崎さんと同じように、ギリギリまで頑張られた上でサービス利用に至り、仕事を続けられることになったのですね。実際にフローレンスのサービスを利用してみてどうでしたか?

山崎さん

障害児訪問保育アニーの利用を始めて、わたしとしては働き続けることができるのが嬉しかったですし、またこどもにとってもいい経験をさせてあげられたと思います。障害児訪問保育アニーの保育スタッフの方は、「介護」ではなく「保育」という視点でこどもと接してくれました。日常生活でこどもができることを増やそうと、着替えなども「自分ができることはやる」ということを徹底してくれたり、遊びでもこどもが楽しいと思う瞬間を増やそうと考えて過ごし方を工夫してくれたりしました。それがすごく嬉しくて。すごく愛情を注いでくれたのを実感していたので、もう家族の一員だと思うくらい、安心して預けることができていました。

山崎さん

医療的ケアシッター ナンシーでは、訪問看護ではできないような外出やさんぽを取り入れてくれるのがありがたいですし、何よりもこどもが頑張って学校で過ごした後に、自宅でリラックスして過ごせる時間が持てることが嬉しいです。

篠原さん

医療的ケアシッターナンシーの利用により、息子の世界を広げてあげられた、そしてわたし自身の人生について落ち着いて考える時間を得られた、と思っています。

障害児保育園ヘレンに入ってからは、集団生活の経験ができるようになったのも大きいです。息子は人工呼吸器を使っているんですが、それでもスタッフの方は色々と工夫して、お友達と一緒に色んな経験をさせてくれます。そのことが親としてはすごく嬉しいです。息子は呼吸器が弱い上に免疫抑制剤を服用していることもあり感染症なども心配なので、環境的にも同じようなこどもと過ごせる場所は安心、という気持ちもあります。時代的にはインクルーシブなのかもしれませんが、息子の状況を考えると障害児保育園ヘレンのような場所も必要だなと思います。

ヘレンで過ごしているお子さんの様子

医療的ケア児とその家族の「居場所づくり」に奔走した10年

ーーお二人のこれまでのことや想いを聞いて、フローレンスとしてどう感じましたか?

黒木

わたしたちはこの10年、医療的ケア児と家族の居場所づくりを熱心にやってきたので、二人のように仕事を辞めなくてよかった、とかフローレンスのサービスを利用してこどもが楽しく過ごしている、と言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。

池田

そうですね、医療的ケアシッター ナンシーを利用してポジティブな気持ちになれたという言葉は本当に嬉しいです。

小野

わたしも7年間障害児保育園ヘレンに携わっている立場として、こうして利用者さんの声をお聞きできて嬉しく思います。障害児保育園ヘレンは1通のメッセージをきっかけに2014年に開設しましたが、全国的にも珍しい取り組みだったので、この10年いろんなことがありながらも試行錯誤してやってきました。お役に立ててよかったと思い胸が熱くなります。

花形

この10年の間に社会もすごく変化していますよね。3年前には医療的ケア児支援法もできて、今東京でも医療的ケア児を預かる保育園がどんどん増えています。

黒木

医療的ケア児の居場所が増え、わたしたちのサービスがレアじゃない状況になっていくのは喜ばしいことです。だからこそわたしたちは次のステップに行くためにより現状をしっかり把握して、もっと医療的ケア児が過ごしやすくなるためにはどうしたらいいのか考え、変化していくべきだと思っています。

フローレンスの事業によって医療的ケア児の保護者でも仕事を辞めなくてもよくなる人が生まれ、社会環境も少しずつ変化し、医療的ケア児にとって「居場所が増えた」ともいえる10年。

それでもまだ、医療的ケア児と家族を取り巻く課題は山積みです。課題をテーマに話した座談会は後編に続きます。

この10年フローレンスが取り組んできた障害児・医療的ケア児家庭支援

フローレンスは2014年9月に障害児保育園ヘレンを開園し障害児保育事業を始めてから、2024年3月までにのべ372人の障害児に保育を提供してきました。取り組みの軌跡はこちら

以下では、フローレンスの障害児保育・家庭支援事業について簡単にご紹介します。

■障害児保育園ヘレン(2014年9月事業開始)

障害児保育園ヘレンは、障害のある子専門の長時間保育を日本で初めて実現した保育園です。「すべてのこどもが保育を受けられ、保護者が働くことを選択できる社会」を目指し、2014年に杉並区荻窪で開園。現在都内で4園あり、重症心身障害児や人工呼吸器が必要なお子さんの受け入れも行っています。

▼ヘレンについてくわしくはこちら
https://helen-hoiku.jp

■障害児訪問保育アニー(2015年4月事業開始)

さまざまな理由から集団保育が難しい障害児を対象に、自宅でマンツーマン保育を行う障害児訪問保育アニー。研修を受けた保育スタッフが吸引や経管栄養などの医療的ケアを担い、自宅で保育を行います。2024年4月からは新たな試みとして「アニーバディ」を開始し、人工呼吸器が必要なお子さんのお預かりを開始しました。

▼アニーについてくわしくはこちら
https://annie-hoiku.jp

■医療的ケアシッター ナンシー(2019年4月事業開始)

ナンシーは、看護師が医療的ケア児家庭を訪問し、医療的ケアをしながら発達支援を行うシッターサービスです。親の就労条件を問わず利用できる支援のニーズをキャッチしたフローレンスが、2019年に始めた事業です。都内で始まった事業ですが、2024年の今では範囲を拡大し、神奈川県横浜市および川崎市、宮城県仙台市と利府町でもサービスを提供しています。

▼ナンシーについてくわしくはこちら
https://nancy.florence.or.jp/


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