フローレンスは2024年で創業20周年を迎えました。
2004年に会長の駒崎が大学の後輩3人と立ち上げたフローレンス。「こどもが病気になっても保護者が休まず働ける社会をつくる」と、これまで前例のなかった訪問型・共済型の病児保育事業の立ち上げを皮切りに、待機児童問題、障害児保育問題、赤ちゃん虐待死問題、と次々と社会課題にチャレンジ。
前例が少なくサポートする制度も不十分な領域での挑戦を支え続けてくれたのが、寄付者の皆さんです。現在フローレンスは800人規模の組織に成長し、関係者とともにいくつもの新しいあたりまえを作ってきました。
20年の節目に、これまでの歩みを一緒に振り返って寄付で生まれた変化を共有したいーー
わたしたちは、2024年12月に「フローレンス20周年記念 限定報告会」を開催しました。対面での報告会の開催は5年ぶりです。
寄付により現場で生まれる変化
寄付によって実際に現場でどんな変化が生まれているのでしょうか。
イベントでは病児保育・障害児保育・赤ちゃん縁組・こども宅食について、利用者さんや現場で支援に携わる方など4名の方々からお話いただきました。記事ではその中から2つのトークセッションをご紹介します。
【特別養子縁組】寄付者の温かい気持ちがつなぐ新しい家族
「フローレンスの赤ちゃん縁組」でこどもを迎えた久美子さん。現在は6歳のお子さんとパートナーと3人暮らしです。久美子さんにとって特別養子縁組は自然な選択だったと言います。
「わたしはもともと、こどもがとても好きで、自分で産むことにもそれほどこだわりがありませんでした。小さい頃やアメリカに住んでいた頃に養子を育てている方の話を聞く機会があって、そういう家族の形もあると知っていたことも関係あると思います」
「フローレンスの特別養子縁組のことを知ったのは、事業立ち上げのためのクラウドファンディングを呼びかけているのを目にしたのがきっかけでした。とても素敵な取り組みだなと。当時こどもをなかなか授からなかったので、不妊治療をしていましたが、同時にフローレンスの特別養子縁組で研修を受けることにしました。研修で話を聞くなかで改めて夫もわたしもとても意義を感じて、最終的にこどもを特別養子縁組で迎えようと決めました」
「こどもが生まれた日のことはよく覚えています。忘れもしない2018年9月。仕事中に電話が来て『お子さん、生まれました』って。初めて会ったのは、すごく雨の降っていた日でした。病院でかなり待って。ガラガラって新生児を乗せたカートの音が聞こえるたびに『うちの子かな』って振り返りながら」
「こどもに会ったらなんて言おうかたくさん考えてたんです。でもただひたすら『かわいい』しか出てきませんでした。そこから夫と二人で抱っこして。その時の光景はスローモーションで鮮明に記憶に残っています」
「こどもは今、6歳です。もう本当にごく一般的な子育てと変わりません。不思議なんですけど、四六時中一緒にいて同じものを食べてるせいかすごく顔が似てるんですよ。わたしたちは本当に素敵な家族を迎えることができました。寄付者の皆さんに心から感謝の気持ちでいっぱいです」
フローレンスの赤ちゃん縁組では、いただいた寄付を赤ちゃんの安全な出産のための支援などに使用しています。寄付者さんの温かい気持ちが新しい縁をつないでいます。
【こども宅食】食品を届けてつながり、親子の生活を見守る
定期的に食品を届けることで信頼関係を築き、孤立しがちな子育て家庭を行政や民間支援につなげる「こども宅食」。フローレンスは、グループ団体の「一般社団法人こども宅食応援団」と連携し、この活動が日本の各地に広まるよう、地域団体を中間支援することで、困りごとを抱えた家庭をサポートしています。
「こども宅食」を広める活動やこども宅食実施団体へ食品などを提供する活動などは寄付によって支えられています。
トークセッションに登壇したのは、板橋区を拠点に活動しているNPO法人ドリームタウンの井上さん。
高島平でさまざまな世代の居場所づくりをしながら、こども宅食に取り組んでいます。
「わたしはもともと児童相談所などで虐待を受けたお子さんに向き合う仕事をしていて、退職後からこども宅食の活動をしています」
「経済的に困りごとを抱えたご家庭はひとり親の方も多く、親御さんが仕事も保育園の送迎も食事の準備も全部ひとりでされています。ただでさえ時間にゆとりがないのですが、こども食堂などの交流の場が苦手だったりすると、結果的に孤立しがちなんですね」
「そのようなご家庭には無理に出てきてもらうのではなく、こちらから出向いていくことが大切です。わたしたちは月2~4回お弁当を届けますが、『本当に安心します』とおっしゃっていて、ひと息つける時間なんだなと感じます。月に数回の訪問を続けていると、お子さんの成長も見守れるんです。背が伸びたり、漢字で名前が書けるようになったり」
「悲しい事件や相談の背景には孤立があります。『保護者が悪い』で片付けることはできません。わたしたちも寄付をいただいて活動していますが、寄付とはこどもの健やかな成長を願う想いがこめられた“たすき”だと思っています。わたしたちは託された“たすき”をかけて、悩み苦しんでいる保護者を継続的に訪問しながら、孤立や虐待の予防につなげていきたいと思います」
望む社会に一歩でも近づくために 寄付をして想いを託す
現場でさまざまな変化が現れているのは、ご自身が感じたつらさや願いを「寄付」という社会とつながる行動に変え、わたしたちに託してくれた寄付者さんたちがいたからです。
イベントで寄付者さんからお話いただいた寄付への想いをご紹介します。
ご自身の家庭環境から「ひとり親家庭を応援したい」
「10年くらい前から、フローレンスに個人として寄付を続けています。
わたしはひとり親家庭で育ちました。就職して生活が落ち着いた頃、自分と同じようなひとり親家庭のために何かできないかと考え検索したところ、フローレンスの取り組みを知ったんです」
「今ひとり親家庭で大変な思いをしている方が、5年後10年後に振り返って『大変だったね』って家族と笑い合えたらいいなと思い、寄付をしています。ひとりでできることは限られますが、力を集結させて活動しているフローレンスに感謝しています」
「日本はより良く変われる」と信じて一緒に笑ってフローレンスと走っていきたい
「米国に本社があるIT企業でCSRの担当をしています。
9年前に日本でも寄付を始めるとき、米国の担当者から『現場スタッフの表情を見てどの団体にするか決めなさい』と言われました。フローレンスのオフィスを訪問すると、壁には手書きのビジョン・ミッション、一つ一つの会議室にはカルチャーの名前がつけられていて。創業者だけでなく、スタッフが想いを共有して取り組んでいる、ここなら一緒に伴走できると思って寄付を決めました。
これからも『必ず日本はより良く変わるんだ』と信じて、笑い合いながらともに進む仲間でいたいです」
寄付する・される関係を越えて、新しいあたりまえを一緒に作り続けたい
これまでの20年、寄付者さんとともにたくさんの新しいあたりまえを作ってきました。
次の20年はどんな未来を寄付者さんと一緒に目指していきたいのか。最後に駒崎からメッセージがありました。
「これまでの20年は、子育てと仕事の両立サポートに始まり、困りごとを抱えたご家族の支援と、一人一人の声に耳を傾けながら事業に取り組んできました。次の20年は、未来世代により良い社会を手渡していくために何ができるかも同時に考えていきたい」
「例えば、孤独や不安を抱える人の相談に応じる『いのちの電話』。かけた電話が相談員不足でつながらない課題があります。もしAIなどテクノロジーを活用できれば、もっと多くの声を受け止められるようになるかもしれません。他にも、意思の表出が少ない障害児がICT機器を使ってコミュニケーションをとったり、アート作品を作ったりすることがあたりまえになるような世界も実現したい」
「20年後も30年後も新しいあたりまえを作り続けるために、僕は経営から一歩身を引いて、これからは現在の経営陣がフローレンスをリードします。目指すことも経営体制も新しくなるフローレンス第3創業期もまた皆さんと一緒に歩みたい。皆さんとは寄付する・される関係を超えて、ともに新しい未来を作り続ける仲間でありたいと考えています」
創業から20年。フローレンスは新たに次の一歩を踏み出します。
すべてのこどもたちが「こうありたい」と願った道を歩めるように、そしてその先に希望があるような社会になるように。
ぜひわたしたちと一緒に取り組みませんか。