フローレンスは、特別支援学校から新卒入社したスタッフたちのチーム、通称「オペレーションズ」が働いており、業務アプリやクラウド型マニュアル、グループチャットなどのデジタルツールを用い、障害のあるスタッフが「得意」を活かせる組織づくりを2017年から継続してきました。

一方で、障害のあるスタッフの雇用が広がりにくい業界もあります。フローレンスが運営している「保育園を含む保育業界」もその一つ。障害があることによって、希望する職業に就くことが難しい現状があります。しかし、本当にそれでいいのでしょうか?
障害者スタッフの活躍に取り組み続けてきたフローレンスだからこそ、障害があっても希望する職業に就くことができる「新しいあたりまえ」を作りたい。その思いから、障害者雇用の可能性を保育園の現場に広げるプロジェクトが始まりました。
保育園の障害者雇用に、分身ロボットを活用してみよう!
保育園での障害者雇用の可能性を模索するために、重度障害児・者のeスポーツ大会を開催した時にご協力いただいた株式会社オリィ研究所にお声がけをしてみました。
オリィ研究所は「分身ロボットOriHime」を開発しており、何らかの事情で外出が難しい移動困難者が遠隔でロボットを操作することによって、まるで本当にそこにその人がいるような経験を提供しています。
高齢者施設や病院、企業の受付などで活用され、障害があってもOriHimeを通して働ける事例が増えています。高齢者施設では、利用者の方の話し相手になったり遊び相手になったりと、少し人手の足りない場の助力となっています。

高齢者施設などの導入事例があることから、今回のプロジェクトにOriHimeを活用することを決めました。保育園のスタッフは専門性を活かして、日々こどもたちや保護者にさまざまな関わりをしています。業務は多岐にわたり、中には事務作業も含まれます。OriHimeには、「こどもの見守り業務の一部を担い、保育スタッフが事務作業などに充てる時間を確保する」ことを業務目標として、こどもたちと一緒の空間で過ごしてもらいました。
また、OriHimeの「本当にそこに人がいるような感覚」を提供するデザインは、園に通うこどもたちにとっても新鮮な刺激となります。技術・テクノロジーによって「新しいあたりまえ」を実現できること、障害があっても働く選択肢はたくさんあること、そうした社会のあり方を体感してもらう機会にもなると考え、OriHimeの導入を決めました。
保育園にOriHimeがやってきた!
今回OriHimeには、フローレンスの「みんなのみらいをつくる保育園東雲」で合計9日間勤務してもらいました。
【導入期間】
2024年1月下旬~2月末の間の合計9日間
OriHimeは遠隔操作のロボットなので、オリィ研究所から操作に慣れている4名のOriHimeパイロット(※)にご協力いただきました。パイロットの皆さんはさまざまな事情で外出等が難しく、普段からOriHimeを操作して働いています。皆さん、日本各地からOriHimeを操作しているのですが、コミュニケーションにも遅延はなく、会話をしているとOriHimeを通してその人が“居る”ように感じたことには本当に驚きました。
(※OriHimeはタブレットを用いて遠隔で操作することができ、操作主をパイロットと表現しています)

こどもたちはすっかりOriHimeと仲良しに
「保育園で障害者が働けるように」と導入をしてみたOriHimeですが、こどもたちにとっては新しいお友達として、とても人気になりました。
最初はロボットとして認識していたものの、少しずつ人間のお友達として認識し、操作しているパイロット毎に仲良くなる子が違っていました。中には、そのパイロットの方にある障害について真剣に聞く子もいて、障害を学ぶ機会にもなりました。
また、遊びにOriHimeが入ることでこどもたちが独自のルールを作るようにもなりました。OriHimeの操作ではさまざまな制約もあるのですが、それを踏まえてこどもたちは
「OriHimeが通る道のおもちゃを片付けよう」
「走らない鬼ごっこをしよう」
「OriHimeには、一人ずつ話そう」
といったルールを設け、インクルーシブな環境を率先して作っていました。

園の保育スタッフから見えたこどもの変化
保育スタッフからも、こどもの変化について教えてもらいました。OriHimeが保育園に入ったことで、次の行動の促しがスムーズになったそうです。例えば、オムツ変えになかなか行けない子が、OriHimeも「一緒に行こうかな〜」と声かけをしたところ、その子はスムーズにトイレに行くことができたそうです。
継続的なOriHimeの導入によって、こどもたちの発達についても良い影響があると感じた保育スタッフもいました。

保護者にも話題に
保育園でのプロジェクト終了後、保護者にOriHimeの導入についてアンケートを実施しました。ご家庭でもこどもたちはOriHimeのことを楽しそうに話していたようで、
「一生懸命OriHimeの様子を伝えてくれました」
「OriHimeのなかにはいろいろな人が入っているんだよ、名前を覚えてもらって嬉しかった、一緒に遊んだよと教えてくれました」
といった声も。
保護者からもOriHimeの活用についてさまざまなアイデアをいただき、「ぜひ続けてほしい!」というご意見も多く寄せられました。
これからも、障害がある人の就労を広げていく
今回のプロジェクトで、保育園での障害者雇用の可能性を模索してきました。OriHimeを継続的に活用することで、パイロットと保育スタッフの間で自然な声かけが増え、保育業務における連携の兆しも見えてきました。しかし、お互いに環境に慣れてきたタイミングでプロジェクト終了となったため、より長期的に導入することでさらに良い成果が得られるかもしれません。
一方で、9日間の実施を通じて、いくつかの課題が明らかになりました。OriHimeは、「こどもの見守り業務の一部を担い、保育スタッフが事務作業などに充てる時間を確保する」ことを業務目標としていましたが、こども同士のトラブルに咄嗟に対応できなかったり、OriHimeの破損リスクやこどもの安全面への配慮が追加で必要だったりと、完全に任せるためには、まだまだ工夫が必要そうです。
こうした課題を踏まえ、今後の可能性をさらに検討していきたいと考えています。
フローレンスとしても、今回の取り組みは非常にチャレンジングなものでした。どのような結果になるかは予測がつかず、一見すると無謀に思えるプロジェクトだったかもしれません。それでも、わたしたちはこれまでさまざまな社会課題に向き合い、試行錯誤を続けてきた団体として、「障害があっても働ける、誰もが自由な選択肢を持てる社会」という新しいあたりまえを実現できると信じています。
これからも挑戦を続けてまいりますので、引き続きフローレンスの活動を応援していただければ幸いです。