経済的な理由で病院を受診できず、孤立したまま出産を迎えてしまう・・・。そんな女性を支えるために、フローレンスは2023年に「無料産院」事業を開始しました。提携病院と連携し、出産費用を支援することで、これまでに17組の妊婦と赤ちゃんをサポートしてきました。
支援の現場ではさまざまな課題に直面することもあります。妊婦が抱える状況は一人ひとり異なり、医療機関や支援団体がどのように連携すれば、より安心できる環境を提供できるのか──。
フローレンスは「無料産院」事業で提携している病院と事例共有会を開催し、よりよい支援のための取り組みについて話し合いました。
7割が行政制度を利用せず~ 「無料産院」利用者の背景とは
2023年の事業開始から現在までに、「フローレンスの無料産院」を利用した妊婦は17組にのぼります。利用した妊婦のみなさんの状況など、これまでの情報をまとめ、共有しました。
「無料産院」の利用者の年齢層は、20代が最も多く、次いで30代となっています。また、支援を受ける背景として「経済的困難」だけでなく、「家族からの支援が得られない」「DV被害」など、多様な事情を抱えるケースもありました。さらに、妊娠をきっかけに退職や転居を余儀なくされるなど、生活環境が大きく変化した方が多いことも特徴です。こうした背景をデータとともに詳しく見ていきます。
年齢分布
「無料産院」を利用した妊婦のうち、20代前半が47.1%、20代後半が35.3%を占めています。30代以上の割合は少ないものの、支援のニーズは幅広い世代に存在しています。

支援期間
妊娠初期から継続的に支援を受けたケースもあれば、出産直前で緊急的にサポートが必要となったケースもあります。特に、妊娠後期に支援が開始される割合が高いことが特徴的です。また、支援期間1ヶ月未満8人のうち、「無料産院」支援決定から出産まで1週間未満の相談者が4人となっています。未受診でお産に臨むことは、母子ともにリスクが高い上に、救急搬送になっても、高度な対応が必要となるため受け入れができる病院が限られます。支援の開始があと少し遅ければ、母子ともに危険な状況に陥っていた可能性がありました。

行政制度の利用状況
生活保護や入院助産の利用状況です。前年度に収入があり適用が難しかった方や、出産までの期間が短く手続きを進める余裕がなかった方など、さまざまな事情があるものの、70%の方が制度を利用していません。

産後の養育状況
「無料産院」を利用した妊婦のうち、多くは産後も自ら養育を続けていますが、特別養子縁組や乳児院による一時保護といった選択をするケースもあります。母子寮も含めると、半数以上の方が自己養育をされています。

支援の最前線から──提携病院と語る「無料産院」の現場
出産はすべての女性にとって大きな出来事ですが、経済的な事情や社会的な孤立があると、その負担は計り知れません。フローレンスの「無料産院」事業は、そんな妊婦たちが安心して出産を迎えられるよう支援する取り組みです。しかし、現場では日々さまざまな課題が生じ、支援のあり方を常に見直しながら進める必要があります。

現場の声──支援の成功事例と課題
共有会では、「無料産院」を利用した相談者のケースが紹介されました。
ケース①「ここなら責められない」 |
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この相談者は、「未受診妊婦」として自己責任を問われることを強く不安に感じ、孤立していました。陣痛が始まるまで受診をためらっていましたが、「無料産院」という言葉を見つけたことで相談につながり、出産に至りました。「ここなら責められない」と思えたことが、相談へ踏み出す大きな要因になったといいます。 |
ケース②性被害による妊娠 |
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性被害による妊娠でありながら、警察や地域の保健師に相談した際に状況を理解してもらえず、結果として行政に頼ることができなかったケース。実家にも妊娠を伝えられず、周囲に隠して誰にも頼ることができない状況でした。そうしているうちに、お腹が大きくなり、初診時には中絶できない週数に。相談者は、最終的に「無料産院」を利用して無事出産し、赤ちゃんを特別養子縁組で養親さんに託すことを選択されました。 |
ケース③無職かつシングルで周りに頼ることができない |
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過去にも未受診で出産を経験している相談者が、妊娠後期で来院するというケース。無職かつシングルでこどもを育てているため、妊娠には気づいていたものの、すぐに受診に踏み切ることができない状況でした。受診の結果、すでに臨月である上に、母子ともにリスクの高い状況と医師が判断したため、数日後に入院・出産されました。この相談者は最後まで、周りに頼れる家族やサポートがなく、たまたまテレビで「無料産院」のことを知り、それが受診を決意する後押しとなったとのことでした。 |

「無料産院」事業の今後の展望
「無料産院」事業の取り組みを通じて、経済的・社会的に困難な状況にある妊婦が安心して出産を迎えられる環境づくりの重要性が改めて明らかになりました。
「無料産院」を利用した相談者は、過去や現状の経緯から出産後の養育について、出産前から支援が特に必要とされる「特定妊婦」に該当する方ばかりです。各病院から発表される事例からは、目の前の生活に手一杯で、妊娠に気づいた段階ですぐに誰かを頼ったり、相談することが難しい状況であったり、行政にたどり着いたとしても、継続して支援に繋がり続けることがきず、受診できないまま、追い詰められてしまう相談者さんの背景が浮き彫りになりました。
リスクの高い出産を避けるためにも、こうした困難を抱えた方に、早期にリーチすることが重要ですが、現実には出産直前になってからの相談が大半で、必要な人に社会資源や「無料産院」の情報が十分に届いていない現状もあります。
こうした相談者に対し、提携病院のスタッフは、「なんでもっと早く受診しなかったの?!」ではなく、「よくここまで来てくれたね」と、まずは相談に来てくれたことを労う声かけをしているとのこと。受診にたどり着くまでに、相談者自身がさまざまな壁を乗り越えてきたことを理解し、まずはその努力をねぎらいたいという提携病院のスタッフの言葉がとても印象的でした。
全ての妊婦が安心して出産し、子育てできる社会を目指して
フローレンスは、「無料産院」事業を通して、提携病院や行政と協力しながら、妊娠期から出産まで継続的に支援し、すべての妊婦が安心して出産し、子育てできる社会を目指して活動を続けていきます。今後も提携病院と連携を深め、支援の充実とネットワークの強化に取り組んでいきます。
フローレンスのこうした活動は、皆さんからのご寄付によって支えられています。いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。引き続きご支援・応援をよろしくお願いします。