フローレンスは2025年4月、東京都より「特定妊婦等に対する相談支援及び産科受診等支援業務」の委託を受けました。2021年の受託開始から引き続き、5年目の取り組みとなります。
これにより、「東京都 妊娠相談ほっとライン」における特定妊婦等への相談支援、産科受診等支援業務、そして新たに加わる緊急避妊薬の同行支援業務の一部を受託しました。
今回の記事では、受託のご報告と、受託から5ヶ月経った支援現場の様子をお届けします。
わたしたちは、予期せぬ妊娠に直面する女性たちが、安心して相談し、適切な支援にアクセスできる社会を目指し、本業務を通じてそのサポート体制の強化に努めます。
受託内容とその背景についてー特定妊婦とは?支援の狭間に立たされた女性をサポートー
「東京都 妊娠相談ほっとライン」とは、都内在住の方々を対象にした、東京都が設置する妊娠・出産に関する相談窓口です。予期せぬ妊娠や、経済的困窮・社会的孤立・DVなど、困難な事情におかれた妊婦の増加を受け、安心して相談できる専門の窓口として開設。妊娠・出産で不安を抱える多くの方々に対応しています。
特に、経済的困難である・心身の健康問題がある・DVを受けている・若年妊娠など、こどもの養育について支援が必要と認められる「特定妊婦」の認定件数は、全国的に急増しており、厚生労働省の調査によると、特定妊婦の登録者数はここ10年で約10倍に増加。全国で、8,300人以上に急増しています。
その状況を受けて、2021年から、フローレンスでは「東京都 妊娠相談ほっとライン」等に寄せられた相談のうち、特定妊婦への相談支援(「特定妊婦等に対する相談支援及び産科受診等支援業務」)の一部を受託しました。


“一部”とは、通常「東京都 妊娠相談ほっとライン」に寄せられた相談は、住んでいる地域の保健センターなどに連携を行いますが、フローレンスでは、居所不明のため都内のどこの保健センターにもつなぐことができない相談等、同行支援等のフォローが必要なものを東京都から引き継いでいます。
フローレンスが東京都から受託する業務は、以下の支援です。
特定妊婦等への専門的な相談支援
特定妊婦やその可能性のある方に対し、専門の相談員が継続的な相談に対応します。心のケアはもちろんのこと、必要な制度や利用できる社会資源について、具体的な情報提供を行います。
産科受診等の同行支援
未受診妊婦に対し、医療機関の調整と同行支援を行います。これにより、未受診のまま出産に至るリスクを減らし、母子の健康を守ります。
【新設】緊急避妊の相談および産科受診等の同行支援
緊急避妊についての相談のほか、緊急避妊薬の処方を受けるための医療機関の調整・同行支援を新たに受託。受診することが難しい状況にある女性が、迅速に医療にアクセスできるようサポートします。
関係機関との連携
相談者が孤立しないよう、必要に応じて住んでいる市区町村の行政機関に引き継ぎを行います。 保健所、福祉事務所、児童相談所など、多岐にわたる関係機関との連携をします。これにより、相談者が抱える複合的な問題に対し、多角的にアプローチし、包括的で継続的な支援につなげます。
| <詳細>
支援名称:特定妊婦等に対する相談支援及び産科受診等支援業務 受託期間:2025年4月1日から2028年3月31日まで 対応時間:月曜日~金曜日、午前9時00分~午後5時00分(祝日・年末年始を除く) 相談方法:専門の相談員による電話・メールでの相談および同行支援 対応する相談窓口: 以下の相談窓口に寄せられた相談のうち、同行支援等のフォローが必要なもの、居所不明のため都内のどこの保健センターにもつなぐことができない相談等を東京都から引き継ぎます ●「東京都 妊娠相談ほっとライン」 https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/sodan/ninshin-hotline |
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今回から始まる、緊急避妊薬の同行支援ーアフターピルにおける日本の現状と、支援の必要性とはー
今年度から「東京都 妊娠相談ほっとライン」にて、新たな取り組みとなる緊急避妊薬の同行支援。
緊急避妊薬(以下、アフターピル)とは、性行為後72時間以内に服用をすれば、高い確率で妊娠を防ぐことができる薬のことで、時間経過とともにその効果が低下します。
今回の支援は、アフターピルの服用を希望する場合で、一人で受診できない方を対象に、フローレンスが速やかに医療機関の手配をし、同行支援を行うものです。

厚生労働省の調査によると、世界では約90の国・地域で、医師の処方なしにアフターピルを薬局等で購入可能なのに対し、日本国内では医師による処方箋が必要となり、緊急時に速やかに医療サービスにつながりづらい現状があります。
さらに診察費・薬剤費を含めると10,000~15,000円程度かかり、イギリスやアメリカ、韓国などでは6,000円以下、さらにフランスでは25歳以下は無料と比較すると、経済的にも手に入りづらいことがわかります。
そのような状況を受けて、国内では、避妊の失敗や性暴力などによる予期せぬ妊娠を防ぐため、2023年から全国の一部薬局で試験販売が開始。またオンライン診療で処方できる医療機関が増えるなど、ここ数年でアフターピルにアクセスできる環境は、大きく変化しつつあります。
しかし、
- 経済的な負担があり、受診できない
- 周囲の目が気になり、病院に行けない
- 近隣でアフターピルを処方している医療機関が見つからない
- 近くの薬局で販売していない
- 薬局での購入は、16~18歳は保護者の同伴が必要
など未だに課題は多く、女性がおかれた環境に左右されずに、自分自身で避妊の選択ができるためにはサポートが不可欠です。
精神的な混乱や金銭的な不安、情報不足などで受診が遅れると、服用機会を失ってしまうリスクがあります。今回受託した同行支援では、こうした状況下で速やかな受診を可能にします。
緊急避妊薬の同行支援、72時間の現場とはー支援開始から5ヶ月ー
フローレンスは、東京都から支援のご依頼を受けると、迅速かつ適切な対応ができるよう緊急で支援体制に入ります。
限られた時間の中で、現場のスタッフはどのようにしてサポートを行っているのでしょうか。
事業部のスタッフがその具体的な活動について話してくれました。
妊娠相談事業 事業推進担当:大谷幸

みらいのつながりはぐくむ事業部にて、妊娠相談事業を担当。当該事業では、相談員のサポート、東京都との連携、広報を担当。
東京都からケースが引き継がれた際には、当日受診できる婦人クリニックを探し、受診予約等実施。相談者が早急に受診につながるよう相談員・医療機関と連携しています。
4月の受託開始から、5ヶ月が経ちました。
支援の依頼は前ぶれなく入ってくるため、すぐに対応できるよう日々、緊張感を持って過ごしています。依頼があった際は、以下のように支援を行います。
- プランの決定:相談窓口からの引き継ぎ情報を元に、チーム内でどのような対応をしていくかプランを考えます(対応のフロー・病院の決定・同行者の決定)
- 相談者に連絡:同時進行で、相談者に電話で連絡を取り、受診時間を調整します
- 病院の決定:相談者が受診可能な距離で、病院の予約をします
- 同行支援:相談者と待ち合わせて受診。原則としてスタッフ2名で同行し、診察終了まで見守ります ※未成年の場合は、原則、保護者に連絡した上で受診同行
- 面談:3週間後に電話等で面談を実施します。「健康上の問題がないか」「日常生活で困りごとはないか」などヒアリングを行い、必要な場合には適切な行政機関と連携します
その後、東京都への事後報告などがありますが、ここまでが支援現場での流れになります。
アフターピルの場合、72時間のタイムリミットがあり、速やかなチーム連携や円滑なコミュニケーションが求められます。この取り組みは、予期せぬ妊娠の可能性に直面した女性の人生を大きく左右する、大切な支援の一歩だと考えています。
「予期せぬ妊娠」が背景にある社会課題を防ぎたいー東京都と連携強化し、課題解決を目指すー
予期せぬ妊娠の背景には、避妊の失敗のほか、パートナーが避妊してくれない、性被害など女性の意思では決めることができないケースがほとんどです。
最近では、『すべての人が、自分の体や性に関することを自己決定し、必要な情報やサービス、医療を受けられる権利である「リプロダクティブ・ヘルス:SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」』という考え方が注目されています。
しかし日本では、緊急避妊できる(アフターピルを服用できる)までに、海外と比較してもハードルがありアクセスしづらいのが現状です。
フローレンスは、妊娠は強制されるものではなく、本人が希望する場合には、避妊を選択でき必要な医療を受けられる権利があると考え、日々現場で支援を届けています。
わたしたちは、困難を抱える女性が安心して相談し、必要な支援にスムーズにアクセスできる社会を築くため、東京都と連携しながら、これからも活動を続けてまいります。




