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【仙台】「なんで保育園に行けないの?」医ケア児の入園を阻む「ガイドラインの壁」を乗り越えたおうち保育園かしわぎ

【仙台】「なんで保育園に行けないの?」医ケア児の入園を阻む「ガイドラインの壁」を乗り越えたおうち保育園かしわぎ

フローレンスが仙台市で運営する、企業主導型の「おうち保育園かしわぎ」では、認可園でのお預かりが難しい、障害があるお子さんのお預かりも行っています。個別の配慮も必要ですが、これまで10人以上のお子さんを預かってきました。

2021年に施行された「医療的ケア児支援法」を受け、各地域の保育現場でも受け入れ体制の整備が徐々に進んできました。しかし、そこで設けられた自治体のガイドラインが、かえって当事者にとっての「壁」となることもあります。

今回は、わたしたちが向き合ったあるご家族の事例をご紹介します。

医療的ケア児の入園、自治体ガイドラインの壁

仙台市に住むHくんには心疾患があり、酸素療法や経管栄養が欠かせません。

0歳のとき、母親のAさんは保育園を探し始めました。「元の職場に復職したい」「Hくんにも自宅以外の居場所をもってほしい」という思いがありました。

主治医からも「集団生活に問題はない」との意見をもらっていました。

しかし、区役所で認可保育園への入園を相談すると、Hくんは「対象外」だと告げられます。

仙台市が定めた医療的ケア児の預かりガイドラインでは、入園対象を原則「生後5ヶ月以上」とする一方、たんの吸引や酸素療法が必要な場合は「年少(3歳児クラス)以上」と限っているためです。

さらに「苦痛を感じた時や困った時は、こども自身が言葉や動作で明確に大人に発信できること」など、複数の条件をすべて満たしたうえで、自治体の審査を通過しなくてはなりません。

仮に3歳になるまで待ったとしても、入園が認められるかはわからない、というのが現状です。

「どうやったら預かれるか」をあきらめない

市のガイドラインの基準を満たさない以上、認可保育園の申し込みはできないーー。困ったAさんから、フローレンス仙台支社にご相談がありました。

当初は居宅訪問型保育を希望されましたが、医師から集団保育が可能と判断されているため、対象外でした。

制度の壁に悩むご両親の思いを知り、Hくんとも触れ合うなかで、スタッフは「なんとか力になりたい」「工夫次第で保育園でお預かりすることもできるのでは」と考えるようになりました。

そこで、フローレンスが運営する企業主導型保育園「おうち保育園かしわぎ」をご紹介しました。

この園は認可外のため、市を通さず園と直接契約することができます。そのため、市のガイドライン上では対象外とされていたHくんも、園の判断で受け入れ可能でした。

当園にとって、医療的ケア児の預かりは初めての経験です。

Hくんを安全に預かるために何が必要か。園内外の関係者が連携し、体制づくりを始めました。

連携した環境づくり、リスクを乗り越えるには

Hくんは鼻から酸素濃縮器につながるチューブを通して、常に酸素を受け取っています。肺や心臓が少し弱く、自力では十分な酸素を取り込めないためです。

普段は血中酸素の値を確認しながら、他のこどもたちと同じように過ごせます。

ただ、泣いたりして呼吸が乱れてしまった時には、酸素の流量調整が必要です。

容体によっては、すぐに病院へ連れて行く判断も求められます。

こうした医療的ケアに対応するため、園では小児経験のある看護師2人を新たに採用しました。

またHくんの主治医や訪問看護事業所の看護師、県の医療的ケア児支援センターと連携し、ケアのポイントや園での過ごし方、緊急時の対応フローなどについて助言を受けました。

保育士たちは、看護師から酸素療法や医療機器の扱い方を学び、安全を確保しながら他のこどもたちとも遊べる環境を工夫しました。

こどもたちが教えてくれた「共に育つこと」の意味

Hくんの入園から数ヶ月。

最初は集団生活に戸惑っていたHくんも、今では自分から周りの友達に手を伸ばし、笑顔を見せてくれるようになりました。

「スイカ割り」や「親子遠足」などにも参加しています!

わたしたちが最も驚き、感動したのは、周りのこどもたちの対応でした。

Hくんの使う酸素濃縮器は、設定を勝手にいじったり、チューブを引っ張ったりしてしまうと危険です。

最初は興味津々だったこどもたちも、保育士が「これはHくんのだいじなものだよ」と伝えると、そっと触れたり、友達同士で「だいじなんだよ」と教えあったりしてくれるようになりました。

Hくんの2歳の誕生日会も、ご両親や友達、先生たちに囲まれ、あたたかな時間を過ごしました。

「たんたん誕生日♪」の歌をみんなで歌い、誕生日カードをプレゼント。

カードを渡す役には立候補者が相次ぎ、5〜6人で一緒に届けました(笑)。

スイカ割りの様子
親子遠足で梨狩り

こどもたちの可能性を広げるために

園生活にすっかりなじんだHくんは、家でも以前より活発に過ごすようになったそうです。母親のAさんも無事に職場復帰を果たしました。

そしてもう一人、Hくんの入園を喜んだのはお兄ちゃんです。「自分は保育園に行ったのに、弟はどうして行けないの?」。そんな疑問を抱いていたそうです。

園ではHくんに続き、別の医療的ケアが必要なお子さんの受け入れも実現しています。

こどもたちは大人の線引きにとらわれず、多様性を自然に受け入れています。こうした姿から、わたしたちが学ぶべきことは多くあります。

もちろん、こどもの安全を守るためにガイドラインは必要です。しかし実際には、お子さんの状態や必要な配慮、ご家族の状況は一人一人異なります。

画一的な基準に当てはめようとするあまり、こどもたちの成長のチャンスやご家族の希望を阻む「壁」となってはいないでしょうか。

フローレンス仙台支社では、地域の当事者家族や支援団体と連携し、行政に制度改善を働きかけています。過去には障害児・医療的ケア児の支援体制の見直しを求め、仙台市長へ要望書を提出しました。

最近では、市内で同じように医療的ケア児の受け入れを目指す企業主導型の保育園の方々ともつながり、日々のケアや園での過ごし方、関係機関との連携方法について意見交換を重ねています。

こうした輪が地域に広がり、医療的ケア児が安心して通える場所が増えていくことを願っています。

すべてのこどもたちが、その子らしく笑顔で過ごせるように。

わたしたちは、一人一人の声に耳を傾け、工夫と連携を続けていきます。

おうち保育園かしわぎは、R8年度入園についてのお問い合わせや、見学受付中!

12月3日(水)『地域で進める!医療的ケア児の保育園入園事例勉強会』オンライン勉強会を開催!

フローレンスでは、12月3日(水)に『地域で進める!医療的ケア児の保育園入園事例勉強会』をオンラインで開催いたします。

本勉強会は、医ケア児の保育園受け入れを地域で推進する自治体職員・保育事業者・支援者の皆さんを主な対象としています。全国から奮ってご参加ください。


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