2025年9月20日、フローレンスは寄付者向け事業報告会を開催しました。報告会では、フローレンスの活動の柱である各事業の成果報告を行いました。
目次
1.元官僚が明かす!フローレンス「政策提言」の全貌:粘り強い活動が社会を変える

登壇者:米田有希

代表室
担当マネージャー
役所からNPOへ――「社会を変える」実感を求めて
わたしは約5年前、厚生労働省からフローレンスに転職しました。霞が関にいた頃は、目の前の業務に追われ、「社会を変えている」という実感を持ちにくい日々でした。しかし、フローレンスに来てからは、自分たちの活動が世の中の仕組みを確実に動かしているという手応えを日々感じています。
わたしがフローレンスに入社した当初、政策提言活動は代表の駒崎がほぼ一人で担っていました。調査から要望書作成、ロビー活動(議員や役人への働きかけ)、成果報告までを一人で実施していたため、提言の深度や継続性に課題がありました。わたしは新規事業開発担当として採用されましたが、入社面談でいきなり「ロビイング(政策提言)の担当になってほしい」と言われた時は驚きました。ようやく役所を離れたと思ったら、今度は政策提言を「される側」から「する側」に移ったのか、と(笑)。しかし、やるしかないと腹を括り、駒崎と二人三脚で走り始めました。
少数精鋭からチーム体制へ、活動は進化

当初はわたしも含め少数でしたが、今は6~7人のチーム体制に進化しました。フローレンスでは常に10個以上のテーマを抱えており、これを一人で回すのは不可能です。そこで、保育、障害児、特別養子縁組など、専門分野ごとに担当者を設け、チームで深度ある提言活動を行っています。この体制強化のおかげで、活動量と質が格段に向上し、成果も以前とは比べ物にならないほど出てきています。
わたしたちの政策提言は、民間企業のロビー活動とは全く異なります。フローレンスが行う提言は、たとえ成立しても団体に一銭の利益も入ってこないことが殆どです。「こどもの笑顔のためになることなら、利益にならなくても提言する」というスタイルを貫いています。
徹底的な調査と「刺さるロジック」戦略
政策提言活動は、以下のような緻密なプロセスで進行します。
1. 徹底的な調査
国や自治体の既存制度、予算を細かく研究し、それでも足りない場合は子育て世帯等へのアンケート調査を実施します。海外事例も研究し、データで根拠を固めます。
2.ロジックの構築と要望書作成
ここが最も難しい部分です。元官僚として、「議員が何に関心を持ち、行政がどこを心配しているのか」を考えます。特に、財源やニーズの有無を聞かれることが多いので、しっかり答えられるように準備をし、相手の懸念を払拭する「刺さるロジック」を作成します。
3.「タイミング」を外さない面会
ロジックが完璧でも、タイミングを外せば無駄になります。わたし自身、役所にいた頃、予算編成後に「こうしてほしい」と要望されても「どうすることもできない」と困った経験があります。そのため、予算編成や重要方針が決まる前の適切な時期に、議員や役人への面会を重ねます。
政策提言の大きな成果:こども誰でも通園制度と日本版DBSの実現
この戦略が結実した大きな例が、「こども誰でも通園制度」の実現です。わたしたちが提言を始めた当初、「専業主婦は自分で育てたいから専業主婦なんだ」「待機児童がいるのにキャパはない」と猛反発を受けました。
しかし、わたしたちは諦めませんでした。すぐさま子育て世帯にアンケート調査を実施し、「専業主婦世帯の9割以上が定期的な保育園利用を希望している」という揺るぎないデータを示しました。これが議論を一変させ、去年、制度として成立しました。苦労した提言だけに、成立した時は心から喜びました。


また、「日本版DBS(こどもを性犯罪から守る制度)」の提言でも、わたしたちの粘りが活きました。当初、政府案が性犯罪者の就業制限を小学校や保育所などに限定していたため、学童保育やスポーツジムなどが対象から漏れてしまうという問題がありました。わたしたちは危機感を抱き、緊急で署名活動を実施。数日間で8万筆以上の署名を集め、当時の小倉こども家庭庁大臣に直接提出しました。この結果、政府は制度の対象を広げる案に変更し、制度の抜け穴を小さくすることができたのです。

70回の提言と11個の方針採択
これらの活動の結果、2024年度の政府の最重要方針である「骨太の方針」には、フローレンスが関わった政策内容が11個も盛り込まれました。また、議員や官僚への政策提言回数は年間で約70回に達しました。
わたしたちの政策提言は、こども誰でも通園制度や日本版DBSが成立しても、フローレンスに一銭も入ってきません。このすべての活動は、まさに寄付者の皆さんのご厚意とご支援があってこそ実現できています。心より感謝申し上げます。
今、わたしたちは「児童虐待等の逆境経験(ACE)」の連鎖を断ち切るための政策提言に特に注力しています。虐待を経験した人々が、将来、貧困や病気、そして再び虐待の加害者になってしまうという負の連鎖を、国全体として断ち切る仕組みを構築すべく、引き続き全力を尽くします。

これからもチームで頑張っていきますので、応援していただけると嬉しいです。引き続きの応援をよろしくお願い申し上げます。
2.「こども冒険バンク」が挑む体験機会の格差:親子の孤立を防ぐ社会の応援団

登壇者:前田 晃平

こども冒険バンク事業
担当マネージャー
制度の壁を越え、こどもたちの「やってみたい」を届ける
わたしはかつて、こども家庭庁や内閣官房で政策立案に携わり、制度を作る側にいました。しかし、その経験を通じて痛感したのは、どんなに立派な法律や制度ができても、現場のこどもたちの実情、特に「体験機会の格差」という名の格差を解消するには、それだけでは不十分だということです。
この国では、年収300万円未満の世帯のこどものうち、3人に1人が年間を通じて学校外の体験を全くしていないというデータがあります(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「子どもの『体験格差』実態調査最終報告書(2023)」)。体験は、将来のロールモデルや選択肢を広げ、こどもの成長に不可欠です。

この格差の要因は、単に「お金がない」というわかりやすい理由だけではありません。シングルマザー・ファーザー世帯のように、こどもに体験をさせたいと思っても、仕事で手一杯で付き添う「時間や余力がない」ケース。あるいは、医療的ケア児のように、受け入れ体制のある「施設や設備がない」という理由で挑戦を阻まれているケースも少なくありません。
わたしたちは、この複合的な理由で生まれる「体験機会の格差」を解消し、「こどもが何かをやってみたいと思った時に、その挑戦したい気持ちを社会が応援する」仕組みを、社会全体で構築する必要があると考えました。その答えが、昨年8月に立ち上げた「こども冒険バンク」事業です。
寄付で成り立つ「無料の冒険プラットフォーム」
「こども冒険バンク」は、こどもの冒険(体験)と、それを必要とするご家庭をマッチングするプラットフォームです。
利用対象者は、相対的貧困世帯、ひとり親世帯(離婚成立前の実質ひとり親世帯を含む)、障害・医療的ケア児のいる世帯に限定し、証明書で確認させていただいています。体験の提供はパートナー企業・団体にご協力いただき、利用者からは一切の費用をいただいていません。事業運営費は全て寄付金で賄われています。利用者からお金を徴収すれば運営は楽になりますが、「この格差を是正する」というミッションを果たすため、無料にこだわっています。

事業開始から1年が経ちましたが、おかげさまで約1,695世帯にご登録いただき、29社の企業から約6,700枠もの「冒険」をご提供いただきました。まだ「赤ちゃん」のような事業ですが、確実に手応えを感じています。
冒険が生む「親子への社会からの応援」
提供された体験は、こどもたちに大きな刺激を与えています。例えば、航空会社の格納庫見学では、重厚な扉が開いた瞬間に飛行機の雄大な姿が目の前に広がり、こどもたちの「うわっ!」という驚きの声が最高です。飲料メーカーのオフィスツアーでは、銘柄ごとにデザインされた会議室を見学した後、こどもから「どうやったらこの企業で働けますか?」という質問が飛び出しました。
児童養護施設出身のこどもたちが、ロールモデル不足から福祉職に偏りがちです。また、高い離職率に直面しているというデータもあります。※日常で触れられない世界に連れて行き、多様な「仕事」や「世界」の可能性を見せることは、こどもの将来の選択肢を広げる上で非常に重要なのです。
そして、この事業が持つもう一つの大きな価値は、親御さんへの心理的サポートです。高所作業車での仕事体験に参加した親御さんが、「こどもが喜んだのはもちろんですが、自分自身が社会から応援してもらった気持ちになった」と涙ながらに話してくれたことがありました。
地域や社会から孤立しがちなご家庭にとって、企業の社員さんが温かいホスピタリティでこどもと関わってくれることは、「自分たちは一人ではない」「社会が子育てを応援してくれている」という安心感につながります。わたしたち独自の調査でも、親のウェルビーイングが高いほど、こどものウェルビーイングも高まるという相関関係が出ています。つまり、「こども冒険バンク」は、単なる体験提供ではなく、「親子の孤立を防ぎ、支える社会の応援団」としての役割を果たしているのです。
この仕組みは、現在、首都圏が中心ですが、わたしたちはこの事業を全国に広げ、日本中のありとあらゆる親子に「冒険」を届けていきたいと強く思っています。ぜひ、趣旨にご賛同いただける企業の皆さんには、この「こども冒険バンク」へのご参画を、そしてこの運営を継続するためのご支援を心よりお願い申し上げます。
※認定 NPO 法人ブリッジフォースマイル 全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2025
3.15,564世帯とつながりを築いたフローレンスの新たな挑戦。孤立を防ぐ「ハイブリッドソーシャルワーク」の支援とは

登壇者:玉川 孝大

ハイブリッドソーシャルワーク事業
担当マネージャー
「つらい」と言えない人に支援が届かない日本

(写真はイメージです)
もし、あなたの大切な人が、誰にも頼れずたった一人で子育てに苦しんでいたとしたら―。「誰に相談していいか分からない」「誰に助けを求めたらいいか分からない」そんな孤独を抱える人が、実は少なくありません。
本当は助けを求めたいのに、役所の窓口に行くことができない。誰かに電話をかけることもできない。見えない壁に阻まれて、孤立している家庭が数多くあります。
声を出せない事情はさまざま
「辛いのに、なぜ助けを求めないのか。」そう思う方もいるでしょう。しかしわたしたちは活動するなかで、本当は助けを必要としているのに、声をあげられないでいる親子の様子を数え切れないほど見てきました。
ある人は「仕事を掛け持ちしながら子育て。平日に窓口に行く余裕がない。」
またある人は「フードバンクやこども食堂に行きたくても、ガソリン代や駐車場代を出すお金の余裕がないんです。」といいます。
「家計も赤字だし、子育てもうまくできていないし、人に知られたら『親として失格』と思われるのでは」
「貧しい、生活が苦しいというのを、周りに知られたくなくて。特に保育園の人には」
このようにさまざまな壁が、困難を抱えている親子を支援から遠ざけているのです。

わたしたちフローレンスは、「子育て家庭の孤立を生まない社会」「誰もが支援を受けて子育てをすることが、あたりまえの社会」を目指して活動しています。そのひとつが、デジタルと対面支援を組み合わせた新しいしくみ「ハイブリッドソーシャルワーク」です。
いまや年代を超えて一般的になりつつある「LINE」アプリ。家族や友人との連絡手段として、プライベートではメールよりも使用頻度が高いツールになっている、という方も多いのではないでしょうか。
わたしたちは、このLINEでたくさんのご家庭とつながります。「ミルクの量が足りているか心配です」そんな、ちょっとした相談から始まって、自然なやり取りをLINEを通してする中で、声をかけ、雑談をし、相談にのり、利用者さんとの関係性を少しずつ作っていきます。その中で、ご家庭が必要としている情報の提供や、対面での支援へつなげていきます。
相談に対応するのは、社会福祉士などの専門知識と経験がある相談員。2022年の開始以来、多くの家庭に寄り添ってきました。
チャット相談事例:2歳児を育てるAさんのケース

(写真はイメージです)
夜遅く、2歳のお子さんを育てるお母さん(Aさん)から相談が寄せられました。

Aさん
こどもが2歳でイヤイヤ期に入っています。自分のイライラが重なり、こどもに優しくできない自分が本当に嫌です。このままだとどうにかなってしまいそうで…話を聞いてほしくて、このチャットを利用しました。

相談員
メッセージありがとうございます。夜遅い時間に、おひとりで不安な気持ちと向き合っていらっしゃったのですね。心がどうにかなってしまいそうと感じたときにこうしてチャットしてくださったこと、本当に大切です。これからのこと、一緒に考えていきましょうね。
相談員はまず、つらく大変な中でメッセージを送信してくれたことへのお礼を伝え、気持ちを受け止めながら丁寧に対話を重ねました。
話を聞くうちに、Aさんの夫は仕事の帰りが遅く、頼れる実家も遠い「ワンオペ育児」の状況にあることが分かりました。
チャットでのやり取りの後、Aさんからは「話を聞いてもらって、少し気持ちが楽になりました。また困ったとき相談させてください」という前向きな言葉が聞かれました。
Aさんとはその後、約半年間にわたってチャットでやりとりを繰り返し、家庭訪問型の支援を実施している地域の支援団体へ連携・定期的に家庭を見守る方と地域の中でもつながることができました。
この小さな一歩が、孤立を防ぐための大きな力となります。
15,564世帯の孤立を防いだ支援

(写真はイメージです)
このハイブリッド・ソーシャルワークを通じて、わたしたちはこれまで15,564世帯という、多くの親子の人生に寄り添い、伴走支援を行ってきました。もし、この活動がなければ、この数のご家庭が今も孤独の中で苦しんでいるままだったかもしれません。
LINEで相談が届く親子のおかれている状況はさまざまです。
望まない妊娠をしてしまった若年妊婦、離婚成立前の実質ひとり親、医療的ケア児がいるご家庭、行政の縦割りでは対応の難しい「複合的な課題を抱えた家庭」など、いずれも自治体の事業では手が届きづらい、支援のはざまに落ちてしまうご家庭です。
こうした取り組みは社会的な評価も受け、政府が政策の基本的な方針を示す「骨太の方針」においても「相談のデジタル化」が盛り込まれました。フローレンスの挑戦は、新しい支援の標準モデルとして注目されています。
誰もが子育てに幸せを感じられる社会を築きたい
「LINEで気軽に相談できて、訪問支援につながった。とても救われました。」
利用者さんから届いた声です。この安堵の声の裏に、どれほどの孤独があったのか、想像せずにはいられません。一つ一つの相談が、誰かの心を救うことにつながっています。
子育てには大変なこともありますが、本来、楽しくて幸せなものです。親だけではなく、こどもにとっても、親子で育む時間は、かけがえのないものであるはずです。ハイブリッドソーシャルワーク事業を通じて、皆さんと共に、少しでも多くの親子がそんな幸せを感じられる社会を創っていきたいと考えています。
これからも引き続きの応援を、どうぞよろしくお願いいたします。