長期休みのたびに話題になる、こどもの「体験格差」。ここ数年、体験格差という言葉が社会的に広まり議論を呼んでいます。
体験格差とは何なのか。この記事では、体験格差の定義とデータ、なぜ令和に体験格差が問われるのか、国や自治体の最新動向を網羅的に解説します。
体験格差とは
体験格差とは、学校外での体験の機会が、家庭の経済的・時間的な余裕によって左右され、こどもの間に差が生じることをいいます。「格差」という言葉により他人との比較(多い・少ない)に焦点が当たりがちですが、フローレンスは、体験格差の本質的な課題は、家庭環境や社会構造の制約により体験が「ゼロ」、もしくは極端に少ない状態に置かれたこどもが存在することであり、ひいては、それがこどもの健やかな成長やウェルビーイングに望ましくない影響を与えていることだと考えています。
経済的困窮による体験の偏り
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが実施した調査によると、世帯年収300万円未満の家庭では、3人に1人(29.9%)が直近1年間で学校外の体験(※1)がゼロでした。これは年収600万円以上の家庭(11.3%)と比べると2.6倍の開きがあります。

体験の世代間連鎖
体験格差は一世代にとどまりません。保護者自身がこども時代に体験をしていない場合、そのこどもも体験ゼロとなる割合は50.4%にのぼります。保護者に体験がある場合(13.4%)と比較すると3.8倍に達し、体験の有無が世代を超えて引き継がれる傾向が示されています。

(※1)公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの調査では、「子どもの育ちにとって重要な体験は幅広く存在するが、本調査では、特に『学校以外の時間(放課後)に行う体験』に焦点を当てた」としています。
多角的な社会的・構造的課題
こどもの体験機会を狭める要因は、家庭の収入や親の経験だけに留まりません。その他にも、以下のような社会的・構造的課題が複雑に絡み合っていると言われています。

そもそも体験とは?
そもそも「こどもの体験」とは何なのでしょうか。
日本の青少年教育の振興および青少年の健全育成に取り組む「独立行政法人国立青少年教育振興機構」では、「こどもの成長を支える20の体験」を定義付けています。

体験とは、特別な体験活動だけを指すのではなく、普段の日常生活、周囲の人との関わりも含む幅広い概念であることが伺えます。
また、国立青少年教育振興機構によると、体験とは、活動や行為を「すること」だけを意味するわけではなく、その活動や行為を通じて得られる感情や気づき、学びなどいわゆる体験の質に関わる部分も含まれる、とされています。

体験格差が起こる令和の社会構造
「格差は昔からあったのではないか」——そう思われる方もいるかもしれません。
ではなぜ近年、体験格差が改めて社会課題として問われるようになったのでしょうか。そこには、令和ならではの社会構造の変化に伴う2つの理由があります。

変化①:こども全体における日々の遊びの喪失
こどもたちだけで秘密基地を作り自由に遊ぶ。放課後、近所の公園に集まってボール遊びをする。かつてあたりまえだったそんな光景を見る機会は、現代社会において劇的に減少しています。
大人の目と地域コミュニティの消失
その原因の一つは、放課後にこどもの遊びを「遠巻きに見守る地域の大人」が街から姿を消したことです。
現在では専業主婦世帯と共働き世帯の比率は完全に逆転し、共働き世帯は専業主婦世帯の約3倍となっています。また、三世代同居世帯は1980年の19.9%から2020年には7.7%へと激減しました。平日に家に帰っても大人が誰もいないこどもが増えています。


また、近所付き合いが希薄化したと感じている人の割合も増加しています。内閣府が実施した社会意識に関する世論調査では、「現在の地域での付き合い方の程度」について、あまり付き合っていない・全く付き合っていないと回答した人の割合は、平成14年/2002年(30.1%)と比較し、令和3年/2021年(42.7%)では1.4倍に増加しています。

こどもの遊びにおける空間・質の変化
こどもたちが自由に遊べる空間自体も激減しています。一般社団法人TOKYO PLAY代表理事嶋村仁志氏によると、「横浜での遊びの空間量の調査では、たとえば自然のスペース、1955年には162,000m2あったのが、2003年には162m2と、1/1,000に減って」います。(※2)
さらに、公園があっても全国の約6割、東京都内では約8割の公園でボール遊びが規制されており、こどもが自発的に遊べる環境や“余白”が急速に失われているのです。

(※2)嶋村仁志.専修大学法学研究所「第3回 学生と市民のための公開講座」(2024年12月20日).専修大学学術機関リポジトリ.file:///C:/Users/01-0410293/Downloads/3071_0071_06.pdf(参照 2026-9-10)
変化②:こどもの体験の外部市場委託化
日々の自由な遊び場が消える中で、こどもの放課後の過ごし方は大きく変容しました。
学研教育総合研究所「小学生白書2019」によると、「習い事をしている子どもの割合は、全体で80.4%。ちょうど30年前の1989年度調査(※3)では、習い事をしている小学生は39.1%」となり、習い事をしている小学生は30年で約2倍に増えています。

(※3)1989年度(平成元年)調査は、2019年度調査とは母数と母集団形成方法が異なるため、統計的に厳密な比較は難しい。
放課後児童クラブの利用者も2026年に160万人(速報値)を超えて過去最多を更新し続けています。

一方で、小学生の76%が「平日の放課後に外遊びを全くしない」、さらに18%が「放課後に遊ぶ友達が0人」と回答するデータもあり、放課後に誰とも遊ばず過ごすこどもの姿が浮かび上がってきます。

その結果生じた「令和の体験格差」
かつては家庭の経済力に関わらず、地域社会の中で「無償」で誰でもアクセス可能だった日々の遊びや体験が、現代では塾や習い事、有料施設といった「有料の市場サービス」へと外部市場委託化されました。
その結果、市場サービスへアクセスする経済的・時間的余裕がない家庭のこどもたちは、体験の選択肢や社会的つながりから静かに締め出され、選択肢が非常に限られる構造的な「体験格差」に直面しているのです。
体験格差の何が問題なのか
体験格差は、体験の数や華やかさの差として語られがちです。しかし、こどもにとって何が損なわれているのかを考えると、別の側面が見えてきます。
フローレンスが「こども冒険バンク」の利用会員を対象に行った調査(※4)では、こども冒険バンクや学校以外の体験を「自分から希望してやっている」と回答したこどものうち、ウェルビーイングスコアが4.0以上(5点満点)だった割合は57.4%でした。「希望してやっていない」と回答した層(34.5%)の1.7倍にあたります。自己決定の度合いが下がるほど、スコア3.0未満の割合が増える傾向も見られました。

また、こどものウェルビーイングスコアの平均値は、6〜8歳の4.07から15〜18歳の3.24へと、年齢が上がるほど低下する傾向がありました。ただし「自分から希望してやっている(とてもそう思う)」と回答した層では、15〜18歳でも平均3.87と、同年齢層の全体平均を上回っています。
しかし、こうした「自ら選ぶ第一歩」すら踏み出せない環境に置かれているこどもたちがいます。支援の現場では、やりたいことを言っても叶わない経験が重なるうちに、選択肢の少ない状態が当たり前になり、自ら「やりたい」と口に出さなくなっていく姿が見られます。保護者もまた、我慢させている申し訳なさを抱えながら手立てがない状況に置かれています。

このように、体験の「入口」での選択すら諦めざるを得ない環境は、こどもが自らの「好き」や「苦手」に出会い、周囲との関係を築き、試行錯誤しながら世界を広げていくプロセスそのものを閉ざしてしまいます。フローレンスでは、体験格差の本質とは思い出の数の多寡ではなく、こどもが主体的に選び・決める「自己決定」の機会が極端に少ないことだと捉えています。
(※4)こども冒険バンクは、さまざまな事情により体験が不足しがちな家庭が、企業などが無料で提供した体験コンテンツを自由に選び申し込みできるプラットフォーム事業です。フローレンスが2024年8月より運営しています。本調査は「こども冒険バンク」会員という限定的な対象への調査であり、社会全体の傾向を示すものではありません。
体験格差への取り組み
体験格差は、個々の家庭の努力によって埋められる問題ではありません。体験の場が地域から市場へと移った構造そのものに起因するため、社会の側の打ち手が必要になります。現在進められている取り組みは、大きく3つの型に整理できます。
① 【経済的支援・伴走型】費用を補助し、伴走する
体験費用を補助し、金銭的障壁を取り除く打ち手です。自治体や民間のクーポンや奨学金などによるサポートが該当します。金銭給付だけでなく、地域のボランティアや専門家がこどもや保護者に寄り添う「伴走支援」を伴う取り組みもあります。費用負担の軽減と同時に、家庭の外に「地元地域で信頼できる大人とのつながり」を作り出しています。
② 【拠点・居場所型】アクセスしやすい場と「余白」をつくる
安価もしくは無料でこどもが地域で自由に過ごせる場を用意する打ち手です。学校併設の学童保育、児童館やプレイパーク、こども食堂などが該当します。近年は単に「安全な居場所」があるだけでなく、大人の過度な管理を避け、こども自身が遊びや過ごし方を自発的に決められる「余白」が確保されているかという、体験の質も重視されています。
③【機会提供・共創型】 体験の機会と社会資源を持ち寄る
企業や地域、NPOが持つ施設やイベント等の資源を体験として提供し、子育て家庭とつながる打ち手です。体験現場で企業の社員ボランティア等が「新しい近所の大人」としてこどもと関わることで、多様なロールモデルや社会とのつながりを生み出します。
いずれの型も、単独で届く範囲は限られ、地域による差も大きいのが現状です。では、国や自治体はこれらの取り組みをどのように位置づけているのでしょうか。
国や自治体の最新動向
国も「こども大綱」「こどもまんなか実行計画2026」でこどもの体験の重要性を認識し推進する必要性があるとしています。
こども大綱
こども施策に関する重要事項の一つとして、「多様な遊びや体験、活躍できる機会づくり(遊びや体験活動の推進、生活習慣の形成・定着、こどもまんなかまちづくり 等)」と掲げられています。
こどもまんなか実行計画2026
6月に発表された2026年の実行計画では、すべてのこどもが多様な体験活動に参加できる機会を確保することの重要性が改めて示されました。
「体験の意義や基本的方向性を整理しつつ、情報不足・無関心層への普及啓発に取り組むとともに、こどもが体験の場や機会と着実につながれるよう図り、児童福祉文化財の推進、官民連携した自然・文化芸術・職業体験等の機会の提供等を拡充する。」
こども家庭庁令和9年度予算概算要求
若者が希望を持てる環境の整備として、こどものウェルビーイング基盤整備事業(居場所・体験創出基盤事業)に7億円を要求しています。
■事業の目的(抜粋):すべてのこどもにとって必要な居場所・体験機会を確保するために、地域全体で多様なこどもの居場所づくり・体験提供を支え、こどもの居場所づくりや体験活動に取り組みやすく、また活動を継続しやすい環境を実現する。
東京都の「こども未来アクション2026」
東京都では、「全ての子供が自らの希望に応じて多様な体験活動や遊びにチャレンジできるよう、幅広い分野で子供目線に立った体験活動や遊びの機会創出を図る区市町村を支援するため」に、令和8年度予算として6億円計上しています。(補助率:10/10〈最大3年間〉、補助上限額:1,000万円)
国・自治体としても「こどもの体験」は取り組むべき重要課題と位置づけているものの、現状としてはまだまだ取り組むプレイヤーが少ないのが現状です。社会全体での体験格差の課題の周知と理解が求められています。
フローレンスではこどもの体験格差への取り組みとして、企業と連携して無料で体験を届ける「こども冒険バンク」事業を運営しています。
参考文献リスト
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「子どもの『体験格差』実態調査最終報告書(2023)」https://cfc.or.jp/wp-content/uploads/2023/07/cfc_taiken_report2307.pdf
独立行政法人国立青少年教育振興機構「子どもの成長を支える20の体験子どもたちのために私たち大人ができることは」https://www.mext.go.jp/content/20220930-mxt_chisui02-000025230-8.pdf
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の早わかり グラフでみる長期労働統計>図12 専業主婦世帯と共働き世帯 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html
男女共同参画白書 令和4年版 全体版 特-5図 家族の姿の変化https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo00-05.html
令和4年版 犯罪白書 第8編/第2章/6地域との関わりの変化https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/69/nfm/n69_2_8_2_0_6.html
「地方自治体による街区公園のボール遊びの規制実態に関する研究」(寺田 光成, 木下 勇) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilaonline/13/0/13_52/_pdf/-char/ja
学研総合教育研究所「小学生白書WEB版」https://www.gakken.jp/kyouikusouken/whitepaper
こども家庭庁「3. 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況等」https://www.cfa.go.jp/policies/kosodateshien/houkago-jidou/overview
2019年7月26日朝日小学生新聞 小学生8割「外遊びしてません」https://news.line.me/detail/oa-asahikids/7e9e2d39dcb7