こどもに対する性加害の報道が止みません。そんな中、2026年12月にはこども性暴力防止法が施行されます。わたしたち、こどもを取り巻く大人は、何ができるのでしょうか?
シリーズ「こどもを性暴力から守るために、わたしたちができること」では、フローレンス代表理事の赤坂が、新制度の解説や自団体での取り組み、保護者の方へのメッセージなどをつづります。
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フローレンス代表理事の赤坂です。
シリーズ記事2本目となるこの記事では、フローレンスが「不適切な保育・行為とその背景を放置しない組織」というポリシーを掲げながら行っている、さまざまな取り組みについてご紹介します。
わたしたちフローレンスは長年にわたり、こどもたちの生活の場に性犯罪者たちを立ち入らせないための仕組みである「日本版DBS」について、調査・提言を行ってきました。

また、このような政策提言活動と並行し、保育事業者として、性暴力をはじめとする不適切な保育・行為、虐待を防ぐための取り組みを実施してきました。
性暴力は、どんな現場でも起きる可能性があります。「わたしの職場に限って、まさか性暴力が起こることはない」という思い込みはとても危険です。
「自分の職場でも性暴力が起こる可能性がある」という意識のもと、それを防ぐための取り組みを行い、常に見直していく必要があります。
この記事では、フローレンスが行っている「性暴力をはじめとする不適切な保育・行為や虐待を防ぐための取り組み」についてご紹介します。
「こども性暴力防止法」の施行まで1年をきりました。
この記事が、皆さんの職場での取り組みの参考になれば幸いです。
「不適切な保育・行為とその背景を放置しない組織」であり続けるために

「フローレンス こどものセーフガーディング方針」の策定
フローレンスでは、不適切な保育や虐待を起こさせないために全スタッフが目指すべき行動指針である「フローレンス こどものセーフガーディング方針(以下、セーフガーディング方針)」を定めています。
これは、すべてのこどもの権利(「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」)を尊重し、それが侵害されることのない事業と組織を目指していくことを、団体の責任と考え定めたものです。
このセーフガーディング方針の中で、組織が目指す姿を「不適切な保育・行為とその背景を放置しない組織」と明文化。この理念を全スタッフへ浸透させるために、さまざまな施策を行っています。
また、セーフガーディング方針の中では「行動規範」も定めており、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、などの項目別に、スタッフが行ってはいけない禁止事項を定めています。
▼禁止事項の例
- 安全上・発達上必要な範囲を超えた身体の拘束や強要、無理な介助(身体的虐待)
- 愛着形成の範囲を超えた過度なスキンシップをおこなう(性的虐待)
- こどもを室内や閉所に閉じ込める、放置する(ネグレクト)
- こどもの表出や行為に対し、否定する、もしくは共感しない(心理的虐待)
- こどもが自分でできることを必要以上に手伝い、経験する機会を奪う(機会損失)
こうした禁止事項は全部で20項目以上あります。具体的な行動として明記することによって、スタッフ一人一人が自分の行動を客観的に振り返り、意識できるようになっています。
「こどもの権利委員会」を設置
フローレンスが関わるこどもたちの権利を守り、「不適切な保育・行為とその背景を放置しない組織」であり続ける。これを実現するために、「こどもの権利委員会」という全社横断の組織を設置しています。
こどもの権利委員会は、「こどものセーフガーディング方針」の浸透や万が一のケース発生時の対応フローの策定などの全社施策の推進を担っています。
スタッフ全員への研修

フローレンスでは、新規入社する全員が、入社初日に「フローレンスこどもの権利を守るための研修」を受講します。
この研修では、こどもの権利に関する基本的な事項や、こどものセーフガーディング方針、不適切保育が起こってしまった場合の対応方針等について説明します。
また、研修の最後にはミニテストを実施することで、定着度を自分自身で確認できます。
入社時の研修以外にも、定期的にこどもの権利について考える対話会やワークショップを実施しています。
具体的なケースをもちいたワークショップや、「どういった状況で不適切な行為が起こってしまう可能性があるか」などの対話を通じて、スタッフ一人一人が自分の保育を振り返ったり、学び合う機会となっています。
採用プロセスでの取り組み

次は、採用プロセスでの取り組みをご紹介します。
「こども性暴力防止法」が施行されると、採用時に内定者の性犯罪歴を確認する、いわゆる「日本版DBS」の仕組みがスタートしますね。
フローレンスではこれに先駆け、現在は採用前の「性加害歴の自己申告」を取り入れており、「過去に性加害歴がないこと」を採用条件としています。選考へのエントリー時、応募者に対して、前科に限らず、起訴猶予、示談成立による不起訴、事業主からの懲戒処分等も含み「性加害歴がない」ことの自己申告を求めています。
採用時に性加害歴の確認を行っておくことで、万が一後から性加害歴が明らかになった場合に、「虚偽申告」として適正な対応(解雇や配置転換等)をとるための重要な根拠となります。ですから、こども性暴力防止法施行後も、こうした手立てをしておくことは有効な手段となります。
また、採用時から「こどものセーフガーディング方針」への同意を応募者に求め、入職し勤務する際には、自身の業務役割の中でこの方針を守ることをお約束いただいています。
相談・対応体制の整備
フローレンスでは、「こどもの権利委員会」が運営する「声の宅急便」という相談窓口を設けています。
「声の宅急便」では、日々の保育の中で「ちょっと気になること」、「これって不適切保育では?」と思ったことに対して、専用フォームから投稿できる仕組みです。不適切保育に至る前のグレーな言動や、日常の小さな違和感といったレベルでも投稿OKとしています。
匿名でも投稿ができ、送信された内容はこどもの権利委員会が受け取り、対応を検討します。不適切保育と判断される緊急ケースについては、こどもの権利委員会が「ケース発生時の対応フロー」に基づき、こどもの安全確保を第一として、速やかに対応を行います。
何かあった場合、もちろん、まずは職場の園長など身近な上長への報告を推奨していますが、身近な人にこそ言いづらい…というケースがあることを想定し、このような相談ルートを設けています。
また、万が一不適切な保育や虐待などの事案が発生してしまった場合の対応フローを整えておくことも極めて重要です。フローレンスでは「ケース発生時のフロー」を定め、万が一ケースが発生した際すぐに動けるよう、内部の対応方法や、行政への報告ついて明記しています。
さらに外部の有識者の方とも連携し、事案が発生してしまった際の対応についてアドバイスを受けながら迅速に対応できる体制を整えています。
性加害を発生させないための環境づくり
次に、性加害の発生を防ぐための、保育現場でのソフト面・ハード面での取り組みをご紹介します。
0歳から「プライベートゾーンを大切に」
フローレンスが運営する保育園では、0歳からの意識付けを大切にして、こどもの人格を尊重した保育を実践しています。
- 着替えの時に全裸にならない工夫をしたり、おむつ替えの時についたてを利用したりして「見ない見せない意識」を伝えています。
- 着替えや身体測定時にロールカーテンを閉めて外部から見えないように徹底しています。
- こどものプライバシーのためトイレや着替えを他のこどもから見えない場所で実施しています。密室にいる時間を少なくするために、できるだけ素早く行って、他のスタッフがいる場所へ戻るようにしています。
- こどもとの1対1のやりとりで時間がかかる時は、こどもへの声掛けを多めにして、他のスタッフへ「今何をしているのか」わかるようにしています。
赤ちゃんや幼児といえど、人前で全裸にしたり、プライベートゾーン(水着で隠れる部分)をさらさない。こども自身に、「見ない見せない意識」を早くから持たせるためにも、とても大事なことだと考えています。
また、プライバシーを守るためには1対1にならざるを得ないことも多いでしょう。
そんな時でも、「素早く行動する」「何をしているかを周りに知らせる」ことで、こどもが安心しますし、大人もあらぬ疑念をかけられることを防げます。
防犯カメラの活用

施設型保育・訪問型障害児保育においては、性暴力の抑止のみでなく、不適切保育の防止、ケガや事故など含めて何かあった場合の状況確認のため、カメラを設置しています。
特に、フローレンスでは医療的ケアのあるお子さんの保育も行っていますが、こうしたお子さんの保育中の事故は生命の危険につながる可能性もあります。このため、訪問型障害児保育では、リアルタイムで事務局スタッフがモニタリングできる体制を構築しています。これにより、万が一の異変や、不適切な保育が起こった場合においても、すぐに気付き対応できる環境となっています。
防犯カメラの活用については、こども家庭庁も性暴力の未然防止のための有効な策のひとつとして挙げています。カメラの設置について、「保育士が萎縮してしまうのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、フローレンスでは、「カメラを設置することは保育士の適切な関わりを証明し、スタッフを守ることにもつながる」と説明し、こどもの安全を最優先に考えてカメラの設置を行っています。
こどもたちへの性教育

フローレンスの「みんなのみらいをつくる保育園東雲」では、4・5歳児を対象に性教育の時間を継続的に設けています。
性教育の中で大事なメッセージとして、「自分の大切な体、相手が親しい人であっても、そうでなくても、触られそうになって、いやだと感じたら、嫌って言って良い」ということを伝えています。
園内では「いやだ! やめて!」と言う練習もしています。
とある日の話し合いでは、こどもから「どうして男の子の水着は下だけなの?」という鋭い質問が。このときは、「男の子も上も着ていいんだよ」と保育士から伝えました。
このように話すきっかけをつくると、こどもなりにさまざまなことに疑問をもち、深く考えてくれているな、と感じます。
「こども性暴力防止法」では、事業者が「児童等への教育・啓発」を行うことが求められています。年齢や発達段階に応じて、こどもの権利や性に関するルールについて、こどもたちに伝えていくことが重要です。
最後に
この記事でご紹介したとおり、フローレンスではさまざまな取り組みを行っていますが、実施状況や効果を継続的に点検し、日々アップデートさせていくことも必要だと感じています。
「こども性暴力防止法」の施行に向け、改めて団体の取り組みを点検し、さらなるアップデートに取り組んでまいります。
こども性暴力防止法は、こどもへの性暴力を防ぐために必要な制度である一方、事業者側が求められる事項は多岐にわたり、対応への負担がかなり大きいのも事実です。
それでも、この法律をきちんと実効性のあるものにしていくためには、事業者一人一人が、法で求める事項を着実に実行していく必要があります。そのために、事業者どうしの事例を持ち寄りながら、業界全体で取り組んでいくことも重要だと感じています。
この記事が、ひとつの保育事業者での取り組み事例として、皆さんの参考になれば幸いです。

書いた人 赤坂緑

認定NPO法人フローレンス代表理事。保育園事業・人事担当役員。慶應義塾大学卒業。事業会社にてマーケティング・育成等を経験後、2014年認定NPO法人フローレンス入職。Mr.Childrenをこよなく愛する男子2児の母。趣味のフラメンコが息抜きの時間です。

