ソーシャルビジネス・マトリックス
NPOや社会的企業(以下、ソーシャルビジネス)と通常の企業のマネタイズの最も異なる点は、「受益者からお金がもらえないことが多い」点だ。
例えば牛丼屋さんならば、牛丼を食べた受益者が、お金を払う。当たり前の話だ。牛丼を食べるお金がない人は、そもそも牛丼屋さんには来ないし、お金を払わない人に牛丼を出す必要は、牛丼屋さんにはない。
しかし、ソーシャルビジネスの場合は、受益者がホームレスだったり、過疎地の高齢者だったり、カンボジアの子どもたちだったりする。この場合、どうやって成り立たせるか。当然、受益者からはお金がもらえないので、受益者以外から収入源を開拓しなくてはならない。
ここで、以下のソーシャルビジネスのマネタイズ・マトリックスを見てほしい。(偉そうな名前をつけてみたが、僕が勝手に作成したものだ)
縦軸に受益者の支払い能力(Payability)をとり、横軸にその事業がどれだけ共感され、寄付を出してもらいやすいかという共感可能性(Sympathizability)を取る。
「寄付モデル」と「対価モデル」
では、マッピングしていこう。共感可能性が高く、支払い能力が低い場合、寄付が有効なマネタイズ手法になるため、ソーシャルビジネスモデルは「寄付モデル」を選択できる。
また、事業の共感可能性は低いが、受益者の支払い能力は高い場合、受益者から直接収入を得る、「対価モデル」を構築できるだろう。この「対価モデル」は、純粋に対価をもらうピュアビジネスに近い形を「純対価型」。医療保険収入や介護保険収入、障害者自立支援法収入等が入る「準市場利用型」とに大別できる。
後者が一般的には分かりにくいので補足しよう。医療や介護、障害者福祉等では、受益者の支払い負担は一定の割合に留とどめられる。我々が医者に行ってもかかったコストの全てを払わずに、3割の負担で済むのは、残りの7割を医療保険という「みんなのお金」がカバーするためだ。こうした仕組みを準市場という。それぞれのサービスに値段はつくが、個人に補助金が来て結果としてサービスは割り引かれる。
準市場を活用したソーシャルビジネスとして、発達障害児の学習支援や障害者の人材紹介業等のスタートアップが生まれ始めている。(訪問介護や訪問看護など、準市場の枠組みに既に埋め込まれた事業をソーシャルビジネスと呼ぶか否かは、ソーシャルビジネスの定義による。本稿では基本的に、まだ市場として解決主体が多数存在しない社会問題領域に、革新性を持って挑む事業を想定している)
混合モデル、労働モデルも
また、対価モデルを取りながらも、寄付を集める、という混合モデルも取れる。産後のボディケアを行うマドレ・ボニータは、レッスン料を受益者から取りながらも、低所得のひとり親等には寄付を原資に安価にレッスンが受けられる仕組みを取っている。更に、支払い能力が十分ない受益者を、労働力に変えて価値を生み出す「受益者労働モデル」もある。例えばビッグ・イシューはホームレスの人々が駅前等で雑誌を売り、代金の一部を受け取ることで自立へと進んでいくし、スワンベーカリーでは知的障害者がカフェでスタッフとして働き、彼らの経済的自立と社会的包摂を達成する。
最後に、支払い能力に関係なく(つまりは最も支払い能力がない人でも使える)、共感可能性にも関係しない(共感可能性が低くても良い)のが「行政事業受託モデル」だ。行政から一定金額で委託をされた事業を受けていく形となる。以上の区分に関しては便宜的なものなので、このマトリックスに位置づけられないモデルももちろん存在するが、ソーシャルビジネスモデル発想の一助にはなるのではないだろうか。それぞれのモデルには一長一短と、特徴的な罠がある。次回ではそれぞれ詳しく掘り下げていきたい。
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