対価モデルとは
今回は具体的なマネタイズのモデルを見ていきたい。まずは受益者から収入を得る対価モデルだ。NPOやソーシャルビジネスの受益者は何らかの問題により「困っている人」だ。とはいえ、「困っている」というのが、必ずしも経済的な事象とは限らない。例えば僕が行っている病児保育。子どもが熱を出した時に、保育園に代わって預かりケアする仕事だが、保護者の方の多くが共働き家庭だ。つまり、困っている=支払い能力がない、という等式が必ずしも成り立たない。これは介護や教育、障害者福祉や農業、男女共同参画等様々な分野で見られる。障害児の親が富裕層である場合はあるし、学校教育からのドロップアウト世帯がアッパーミドルである可能性もある。
もっと言えば、フェアトレード商品を買う人は、どちらかというと経済的レベルが高かったりする。このように、「困っている」と支払い能力を分けて考えることで、受益者個人(や親)から対価を頂いて事業を行うことができる。
B2B
また、企業から対価を受け取る方向性もある。グローバル人材育成のために、企業に勤める若手従業員を、新興国のNGOに派遣し問題解決を体験させる「留職」プログラムを提供しているクロスフィールズは好例だ。直接の受益者は従業員であり、NGOではあるが、お金の出し手は人材育成をしたい企業になる。更に例えば、NPO法人ニューベリーは、ニート・ひきこもりの遠因に大学中退があることに注目し、大学への中退予防コンサルティングによって収入を得ている。そこで蓄積したノウハウを出版化し、より広く中退予防についての意識を広げることを試みている。この場合も、大学という組織・団体から収入を得られる。このように、個人である受益者からの収益ではなく、その個人が属していたり、ステークホルダーであったりする組織や団体から収入を得る方法がある。
BOPモデル
更にこの考えを敷衍してみよう。「経済的に困っている」場合は、絶対に対価モデルが取れないか。答えは否だ。バングラデシュの子どもたちに栄養価の高いヨーグルトを販売するグラミン・ダノンや、洗剤を超低価格でインドの低所得者層に売るヒンドゥスタン・ユニリーバ等の、いわゆるBOP(Base of Pyramid)志向のモデルの組み立ては可能だ。すなわち、機能を大きく制限することでコストを下げ、低価格だが大量に販売することで十分な利益を得るモデルだ。
準市場利用型モデル
介護や医療、障害者福祉等は、税や保健の形でお金が徴収されて、利用ごとに利用者に補助が行くような仕組みになっている。我々がアメリカと違って、風邪で医者に行っても1000円等(3割負担)で済むのは、残りの約2000円(7割)が自分を含めた共同体で出しあったお金で補助してもらえるから。こういう準市場においては、サービスを行うと、利用者からの低額の利用料と共に、共同体のお金が上乗せされるので、経営の安定に寄与しやすい。介護事業者や医療法人が大規模化しているのは、こうした準市場による経済効果が大きい。例えば発達障害を持つ子どもたち向けの学習塾に自立支援法のスキームを利用する等の方法で、受益者から対価は頂きつつも、追加的な収入を得ることができる。
対価モデルの長所と短所
対価モデルは通常のビジネスと同様に、ニーズにマッチして良質なサービスを提供すれば、事業としては回しやすいという点が長所だ。また、経営の自由度が極めて高い。後に説明する行政事業受託モデル等のように、行政の仕様書に過度の制限を受けるとか、寄付モデルのような過度の説明責任の危険性からもある程度自由だ。しかし、短所としてしばしば社会的使命と経済性のジレンマに悩まされやすい。「多くの人を助けたいのに、お金を持っている人しか助けられないじゃないか」という批判を、内外から受け、存在意義の見直しを迫られる機会も多くなる。また、場合によっては純ビジネスの企業と競合することになり、彼らほど徹底してビジネスの論理を貫徹できないことで競合劣位になり、埋没していくこともある。
短所の克服方法
社会性と経済性のジレンマに関しては、支払い能力のある層へのビジネスが一定程度軌道に乗った後に、支払い能力に欠けた層への割安モデルを構築することで克服可能である。またその場合に、部分的に寄付モデルを取り入れる混合型に移行することも可能だ。実ビジネスとの競合に関しては、自社の使命を定義し、それを内外に向けてプロモーションしてブランドを確立していくことで、十分に差別化可能になる。
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