思いつきを「絵」にしていく
今回のテーマは、「ソーシャル・ビジネスプランを描く」である。
現場でのヒアリングなどを通して、問題解決のための仮説が導き出された。それを事業計画書に落とし込んでいく作業である。その前にすることがある。それは、ビジネスモデルを考える作業だ。つまり、どんな仕組みの、どんな事業を行うのかを、ある程度、明確にしていくのである。最初は思いつきベースで構わない。
僕の場合、「病児保育の施設が不足している。だったら、つくればいい」という、めちゃくちゃプリミティブな地点からのスタートだった。これを「絵」にする。ビジネスモデルを考えるときは、「絵」にすることが欠かせない。頭の中で考えているだけではダメだ。スケッチブックや手帳、パワーポイントなどに、頭の中にあるものを絵や図にして描き出していく。四角や丸でプレーヤーを列挙して、矢印で誰が誰に何を提供するのかを描く。できれば、最初は手書きがいい。そのほうが自由だし、集中できる(ただ、スケッチブックだとプレゼンなどに不向きなので、ある程度まとまったら、パワーポイントに移し替えたほうがいいだろう)。
絵は100枚以上描き直す
この「絵」(模式図・モデル図)は、最初の1枚目で完成ということはまずない。どんどん描き直したりしていくことになる。僕が最初に絵にした時を思い出すと……。病児保育の場合、「病気の子ども」と「親」がいる。そして、その子供を預かる「病児保育のための施設」がある。子供を預かるためには、誰かがいなければならない。「保育士」だ。ただし、預かるのは病気の子供なので、親に安心してもらうには「看護師」も必要だ。さらに、「病気の子供を預ける親ってどんな人?」「預けられる子供は何歳くらいまで?」など、頭の中にいろいろツッコミが浮かぶ。それをまた絵にしていく。
そんなことを繰り返しながら、僕は結局、100回以上描き直していた。
反証され、妄想が現実に近づいていく。
自分の中で考え、絵にしているうちは、「妄想」にすぎない。なので、途中からは人にも見せていく必要がある。他者の視点が入ることで、「妄想」が現実味を帯びてくるからだ。まず見せるのは当事者だろう。
病児保育だったら、幼い子供のいる親御さんだ。この時、必ず反証が出る。それは100%確実と言ってもいいだろう。自分の「妄想」にすぎないのだから当然だ。なので、反証されても凹む必要はない。「なるほど」と受け取り、「じゃあ、どうしようか」と考えるチャンスにする。そして、「こうしよう」と浮かんだアイデアを絵に描き加えていけばいい。「妄想」が少しずつ現実のものとなっていくプロセスだ。
事業計画書を作成する
こうした作業を経て、ようやくソーシャル・ビジネスモデルのたたき台のようなものができたら、次はソーシャル・ビジネスプランを作成する段階に入る。「ビジネスプラン」といわれても、どうやって作成したらいいか戸惑ってしまう人には、総務省がウェブで公開している「事業計画作成とベンチャー経営の手引き」が参考になる。これに沿ってやっていくと非常に作成しやすい。
ただ、218ページにもなる分厚い手引書で、かつ内容も専門的である。「これは自分にはハードルが高い……」という人は、まずは下に挙げる項目を押さえたシンプルなソーシャル・ビジネスプランをつくってみよう。
【駒崎式・事業計画書】
■どんな人を助けたいのか? [ターゲット]
■助けを必要としている人は、どれくらいいるのか? [市場規模]
■どのような仕組みで助けるのか? [モデル]
■お金は誰が払うのか? 助けたい人から、いくらもらうのか? [マネタイズ]
■ほかに、似たような事業を行う人や団体は存在するのか? [競合]
■上記の人や団体と、自分たちのとの違いは? [差別化]
■どういう組織にするのか? [組織デザイン]
■今後、どのようにして広がっていくのか? [スケールアウト]
これでとりあえず、ソーシャル・ビジネスプランができた。
「さっそく、スタートだ!」といきたいところだが、それは性急だ。このソーシャル・ビジネスが、本当にお金を稼いでいけるものなのかを確かめる必要がある。ビジネスとして成立してこその、ソーシャル・ビジネスである。そこで今度は「財務モデル」づくりだ。次回、財務モデルをどうつくり、まわしていくかについて見ていく。
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