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【社会起業のレシピ】vol.15「テストをしよう(事業編)」

【社会起業のレシピ】vol.15「テストをしよう(事業編)」

#政策立案・政策提言

ミニチュア版で試し、成功率を高める

価格も決まり、それで財務モデルをまわしてみても、うまくいった。さっそく「ゴー!」といきたいところだが、その前にもう一段階踏む必要がある。

文字どおり「テスト」だ。

ビジネスプランや財務モデルをどれほど緻密につくっても、あくまでシミュレーションである。自分では気がつかない「抜け」がいくつも残っているものだ。その状態でいきなり「本番」では、とんでもない失敗をしかねない。そこで、まずは「ミニチュア版」でリアルにやってみるのだ。

こうすることで「抜け」に気がつくことができる。そこからビジネスプランや財務モデルをブラッシュアップしていくことで、本番での失敗を極力減らしていけるのだ。

実は僕自身は、このテストをしないまま「本番」をスタートしてしまった。その結果、何度もテンパる羽目になった。そうした後悔もあり、みなさんには、事前の「テスト」を勧めたいのである。

ちなみに、このようにテストを繰り返しながら最終プロダクトをつくっていく手法は「リーンスタートアップ」と呼ばれ、昨今注目されている起業メソッドである。主にIT業界において発展していっているが、資金の少ないNPOやソーシャルビジネスにとっても非常に有効な方法だといえるだろう。

日本病児保育協会の設立記念シンポジウム
理事長を務める日本病児保育協会の設立記念シンポジウムで(2012年9月)

モノを売るソーシャルビジネスの場合

では、具体的にどのようなテストの方法が可能だろうか。いくつか紹介しよう。例えば、あなたがモノを売るタイプのソーシャルビジネスを考えているのならば、インターネットで売ったり、フェアやお祭りなどでブースを借りて販売したりしてみるといいだろう。

その際、ぜひ行ってほしいのが買ってくれた人へのヒアリング。「なぜ、買おうと思いましたか?」と聞いていく。すると、意外な点が「売り」になっていることに気がついたりする。

さらに、勇気を出して、商品を手にとってくれたものの、購入にはいたらなかった人にもヒアリングを試みてみよう。買わなかった理由を教えてもらうのだ。尋ね方は単刀直入に、「すみません、ちょっと後学のために、買わなかった理由を教えていただけますか?」でいい。もちろん、「べつに……」とはぐらかされてしまうこともある。一方で、「なんか見映えがね……」と真摯に答えてくれる人もいる。そうした意見はありがたく頂戴し、商品の改善に生かしていく。

また、強力な改善手法の一つに「ABテスト」がある。これは主にウェブの世界で利用者の反応を探るために使われるテスト法だが、これをモノの販売にも活用するわけだ。例えば、フェアトレードのコーヒーをテスト販売しているとする。例えば包装紙のデザインを変更したら購買確度が高まる、という仮説を持ったとする。そうすると、現在のデザインAに加えて、新たなデザインBというパターンをつくり、小さく販売実験をしてみるのだ。これはデザインに限らず、例えば声がけのタイミングであるとか、POPの有無、コーヒーの分量等、様々な切り口で使える。

教室系のソーシャルビジネスの場合

教室系のソーシャルビジネス(低所得者向けスクール、キャンプ……)であれば、単発のイベントを開催するという方法がある。日帰りのアウトドア教室だったり、1日限定の学習会だったり。

単発でも、継続的なものであっても、募集して、実施して、フォローして……と、基本的にやることは同じ。なので、単発イベントで本番に起こりうるさまざまなことが体験できる。

なお、テストの段階では、本番に向けてのデータ集めとして、募集の媒体をいろいろ試してみたり、集まってくれる人のタイプを分析したり……といったこともしっかりやっていくといいだろう。

サービス系のソーシャルビジネスの場合

サービス系のソーシャルビジネスであれば、体験モニターを募り、限られた人々にサービス提供をしてみるという方法もある。

ただ、弱点として、モニターの場合、お金を払ってもらえないことだ。お金を払えば、体験後の感想もそれなりにシビアになるが、支払いが発生しない場合、利用者の意見も多少甘くなってしまいがちなのは注意しないといけない。

「お金をもらう」というプロセスは、実際にやってみないとなかなか気がつかないことがたくさんある。たとえば、クレジットカードでの入金の場合、こちらには加盟店手数料の負担が発生し、そのぶん利益が減る。それに気づかないまま本番を迎えてしまえば、当初の財務モデルが狂ってしまいかねない。

お金は財務モデルにも深く関係してくるので、テストの時点でそのプロセスを体験できるように、いろいろ工夫する努力が必要だ。

テストしづらい業種の場合、「疑似」という方法がある

一方で、テストしづらい業種がある。

例えば、僕がやっている病児保育は、典型的な「テストしづらい業種」。なにせ、熱を出したわが子を預けるなんてことは、相手を相当に信頼していないとなかなかできない。「試しに預かります」といっても、親からはまったく相手にしてもらえないのだ。僕がこのビジネスをテストなしでスタートさせたのは、「しなかった」というより、「できなかった」というのが実情だった。

しかし、今の僕だったら、たとえやりづらい業種であっても、テストはするだろう。疑似的な商品(サービス)でやってみることは、決して不可能ではないからだ。

疑似というのは、できるだけ似たかたちのビジネスで試してみるという方法。例えば、僕の場合だったら、「病児」は無理として、「健康な子」を対象に訪問型の保育を行うことはできる。

そうした「疑似」のテストを通して、依頼を受け、保育スタッフを派遣して、料金をいただいて、スタッフに賃金を支払って……といった一連の流れを把握していく。その体験から、想定もしていなかった問題点を発見でき、本番に備えることができるものだ。

テストは「学び」の時間である

テストを繰り返すことで、いろいろ失敗したり、テンパったり、「こんなの無理だ」といわれたり……としんどい思いをたくさん経験するだろう。

そこで、多くの人が凹んでしまいがちだ。それでも、「本番」で気づくより100倍いい。

だから、問題が見つかるたびに、「助かった!」と喜ぼう。そして、どうすればその問
題点が解決できるかを考えよう。それが本番での成功率をさらに高めてくれる。

テストは、本番前の「学び」の時間。体験を重ね、利用見込み者たちの意見をどんどんヒアリングし、リアルなソーシャルビジネスとして成り立つかたちになるように試行錯誤していく。

そして、「これはやれる!」という手応えを感じられるようになったとき、それが「ゴー!」の合図となる。

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