最初は「自分1人」が基本
今回は、本格的な準備の「人」について述べる。
立ち上げの段階では、お金はほとんどない。なので、「最初は自分1人で動く」が基本だ。助成金やクラウドファンディングでお金が獲得できたとしても、いきなりスタッフ採用のために使ってしまうのはリスクがある。初期の段階では、基本的には固定費を最小限に。これが鉄則である。
とはいえ、立ち上げ時とはいえ、「たった1人で動く」には限界がある。そこで活用したのが「スタートアップ・ボランティア」だ。彼らに手伝ってもらい、ボランタリーチームをつくるのだ。
ボランティアには2種類ある。ひとつが「学生インターン」、もうひとつが「社会人プロボノ」。両者では、「コミットメント」(関与)してもらえる程度が異なる。ゆえに「仕事の内容・範囲」もおのずと違ってくる。
「時間」を提供してくれる学生インターン
学生インターンの多くは、社会人経験がほとんどないがゆえに、仕事の能力をいきなり社会人並みのものを期待することはできない。しかし、彼らの強みは、「時間」を提供してくれることにある。休みの時は週5日。平日でも最低でも週3日。期間は基本的に半年だ。前半3か月は慣らし期間。後半3か月でようやく戦力となってくれるとイメージするといいだろう。「休学して参加します」くらいにコミットしてくれるやる気がある人が理想だ。
仕事の内容は、立ち上げの際に必要な仕事のアシスタントが基本。具体的には、助成金などの申請書類作成や事業計画などの議論に加わってもらう、などだ。
フローレンスの場合も、古橋君という立命館アジア太平洋大学の学生インターンとして立ち上げに関わってくれた。彼は社会起業家志望で、大学を1年休学して九州から東京に出てきたツワモノ。立ち上げに際して、本当に大きな力となってくれた。
「知識」や「技術」を提供してくれる社会人プロボノ
一方、社会人プロボノは、プロとして仕事を持ち、その専門性でお手伝いをしてくれる人たちだ。時間に限りはあるが、知識や技術を提供してくれる存在。関わってもらえるのは、仕事後アフター6の数時間や休日などとなる。
こうした立ち位置ゆえに彼らには、期間限定で、「これ」と区切ったかたちで仕事をお願いするのがいい。たとえば、デザイナーの人だったら「このチラシの作成を2週間でお願いします」、マーケッターの人だったら「この市場の調査を1か月でお願いします」といった形式だ。
それぞれのプロフェッショナリティーとモチベーションの在処、コミットできる時間や期間を連立方程式に入れて、最適な仕事を任せよう。
どのようにして集めるか
こうしたボランティアたちをどう集めるかだが、たとえば、学生インターンならば、その募集をサポートしてくれる組織を利用しよう。代表的なものにNPO法人ETIC.の「アントレプレナー・インターンシップ・プログラム」がある。
また、社会人プロボノの場合は(学生インターンもだが)、フェイスブックやツイッターなどのSNSや、知人のツテを活用して募るという方法があれば、NPO法人サービスグラントのように、プロボノ支援NPOもある。
ボランタリーチームの適正人数は4~5人
立ち上げ時のボランタリーチームは、4、5人が適正規模である。「手伝います」と言ってくれる人がたとえ10人、20人集まっても、そこまで規模を広げるのはよしたほうがいい。なぜなら、そんな大人数をマネジメントすることはできないからだ。ボランティアマネジメントでは、「お金」以外のもので彼らのやる気を引き出す必要がある。
そもそも、彼らがなぜ手伝ってくれているのか。学生インターンであれば、みずからも起業家志望で、社会起業を手伝う経験がほしかったり、あるいは経営者のビジョンに惚れていたり、何かやりがいを得たかったり……。社会人プロボノの場合は、起業のプロセスなど会社では味わえない経験をしたい、何か社会貢献がしたい……などであろう。経営者はこうした動機に応えて、彼らをモチベートしていく必要がある。そこで重要になっていくのが「コミュニケーション」だ。彼ら一人ひとりに役割を与え、適宜、その進捗を確認し、仕上がりをほめ、感謝する。こうして彼らのやる気を引き出し、かつ維持していくのだ。それを1人の経営者が行っていくとなると、4、5人が限度であることが多い。
一人ひとりに合った関わり方をする
ボランティアたちとのコミュニケーションでは、おさえておくべきことがいくつかある。その1つが、仕事をお願いするたびに、最初にそのゴールを明確に定義することだ。あいまいだと困惑させかねないし、モチベーションも下げてしまいかねない。
また、それぞれのコミットメントの度合いによって、仕事の幅を変えていくことも重要だ。たとえば、学生インターンのようにほぼ毎日という頻度でかかわってくれる人には、「何でも一緒にやろうよ」くらいに仕事の幅を広げてあげて、経営者と共に事業を創っている感覚を得てもらうことが、すなわち彼らのモチベーションに繋がることも多い。一方、社会人プロボノのように関われる時間が限られている場合は、「この期間に、この仕事の、この部分を手伝ってください」と、仕事の幅をある程度しっかりと区切ってあげたほうがいい。リソースに限度があるのに、「あれもこれも」では、結局、仕事がとっちらかってしまうからだ。
さらに忘れてはいけないのが「情報共有」だ。
まず、メーリングリスト等を使って、連絡事項を全員で共有する。しかし、すべてをメールですませるのは、危険性もある。メールは基本的には連絡ツール。体温を乗せづらい面もあるため、メンバーのモチベーションの向上には限定的だ。直接話すコミュニケーションもコンビネーションで入れこまなければならない。そこで、週1回の定例会議を設けるなど、メンバーが顔を合わせる場をしっかりと確保することだ。ただし、メンバー全員が一堂に会するのは容易ではない。なので、「●●プロジェクト会議」等、テーマごとに関係のある人が集まれるとかたちをとるのが妥当だろう。メンバーが遠隔地の場合等、直接が難しければ、スカイプ等のビデオ会議システムを活用する手もある。
チームがまわりつづける「仕組み」づくり
立ち上げ期のボランティアマネジメントにおいて(またそれ以外の期間においても)、コミュニケーション以外にもう1つ重要なことがある。「仕組み化」がそれだ。ボランティアはかなりの頻度で入れ替わる。たとえば、フローレンスでは、学生インターンは基本的に半年で交代だ。経営者は彼らが入れ替わることを前提に、それでもチームがまわっていくように仕組み化していくことの必要がある。
それには、「先輩が後輩を教える」という引き継ぎ方法を仕組み化しておくことだ。つまり、新しい学生インターンに対して、経営者ではなく、いまのインターンが教える仕組みをつくるのだ。そのための「仕事のマニュアル」も学生インターンに作成してもらう。
更に、例えばチームの進捗に関してブログやSNSで発信しておくと、それがアーカイブになり、チームの歩みといった暗黙知も伝えやすい。こうした仕組み化によって、学生インターンが入れ替わっても、チームは「一からやり直し」といった事態を防げ、ある程度の推進力を維持していけるわけだ。
大切なのは、ほめて伸ばすこと
最後に、ボランティアとのコミュニケーションにおいて、特に大切にしたいことを述べておこう。
「ほめて伸ばす」
彼らはボランティアである。お金をもらってやっているわけではないのだ。そこが「金もらってるんだから、やって当たり前」な通常の仕事と大きく違う。また必ずしも、100パーセント期待に完璧に応える仕事ぶりではない場合も多い。学生インターンにいたってはほぼ社会経験ゼロなので、なおさらだ。そうした中でも、良いところを見つけてほめる。完璧からの遠さを指摘する前に、アウトプットしたことをまずほめ、改善点はその後だ。
お金を払わないで、最高のパフォーマンスを上げてもらうボランティアマネジメントをマスターすれば、お金を払う普通のマネジメント能力はいやが上でも向上するだろう。
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