2012年に上梓され話題となった、リンダ・グラットン教授による『ワーク・シフト』で示唆されていた、時間にも、場所にもとらわれない働き方……そんな世界が当たり前となりつつある中、これから、私たちの働き方はどう変化していくのでしょうか。
国を挙げての「働き方改革」推進がスタートした今日、「多様な働き方への対応」は企業戦略の重要課題として注目が高まっています。「働き方改革」をリードする「サイボウズ」「メルカリ」「フローレンス」の3団体はどう進化し続けるのか。長時間残業問題、自ら働き方を選べる時代の人事施策とは……人事担当が、それぞれの想いと「多様な働き方への対応」について語ります。
※アジャイル:『すばやい』『俊敏な』という意味。ユーザーの要求を随時取り入れ、実際に動作するプログラムを短いサイクルでリリースする、日々テストし結果をフィードバックする、チーム連携を重視する、計画よりも具体的な実践を重視する、などが特徴。アジャイルの考え方は、特に変化の激しいWeb系、オープンソース系の開発で重視されている。
青野 誠(あおの まこと)
サイボウズ株式会社 事業支援本部 人事部 マネージャー。離職率が高かったころの同社に新卒で入社、営業やマーケティングを経験後に人事部へ。人材採用・育成、制度作りに携わる。1児の父。
石黒 卓弥(いしぐろ たかや)
株式会社メルカリ HRグループ。NTTドコモに新卒で入社。営業、人事、新規事業会社立ち上げ、その後に新規サービス企画を担当。2015年にメルカリにJOIN。採用を中心とした人事企画を担当。現在3児の父であり、第三子出生時には2ヶ月の育休を取得。
斉藤 幸子(さいとう さちこ)
認定NPO法人フローレンス 働き方革命事業部 人事マネージャー。新卒で入社した「100年続く、旧態依然とした」IT企業にて人事などを担当、その後2008年にフローレンスに転職。新規事業立ち上げなどを担当後、現職。3児の母。
自ら「働き方を選ぶ」時代の到来
斉藤
フローレンスに来る前は、新卒で入った、100年ぐらい続く古いIT企業に勤めていたのですが、ここは典型的な長時間労働を良しとする会社でした。
人事担当だったため、社内から変えていこうとしましたが、一向に変わらず「これはこの会社だけの問題ではない。社会を変えるしかない」と転職を決意したのが8年前です。
ちなみに私は社内結婚だったのですが、夫の働き方がとにかくひどい(苦笑) まあ家に帰ってこない。子育ても戦力外です。
石黒
僕も3児の父親ですが、パートナーが子育て戦力外だと大変ですよね。
斉藤
本当にきつかったですね……。フローレンスに転職後は、人事と並行しつつ中小企業向けの「働き方革命コンサルティング」を推進していました。ちょうど「ワークライフバランス」が注目されつつあり、フローレンス代表の駒崎が「働き方革命」という書籍を出した頃です。およそ7年前から残業禁止や在宅勤務などを推進し、当時は先駆け的存在でした。
その後広報や新規事業立ち上げを経て、今年7月に5年ぶりに人事に戻り、今に至ります。
青野
7年前から在宅勤務スタートとはまさに先見の明ですね。5年ぶりの人事ということは、以前とは状況が変わりましたか?
斉藤
当時と比べると、働く環境もフローレンス自体も大きく変わりましたね。特に働く人が求めるものが変わった気がします。企業に与えられた働き方をただ受け入れるのではなく、自らが「働き方」を選ぶ、そのために会社や仕事を変えたり選ぶことが当たり前になりつつある気がします。
また、当時は働き方改革を標榜する会社はまだまだ少なかったのですが、近年は多くの会社が積極的に推進するようになってきましたね。サイボウズさんの「選択型人事制度」やメルカリさんの人事制度「merci box (メルシーボックス)」の取り組みも刺激的ですし、大変参考になります。
石黒
たしかに、働き方を自ら選ぶ時代が到来しましたよね。パートナーは変わりました?
斉藤
残念ながら夫の働き方は、まだまだ改善の余地ありだと思っています。基本的に7時前に家を出て、帰宅は22時とか23時とか。出張で長く家を空けたりもよくあります。夫が平日の子育てにあまり関われないと、「母一馬力でも回る仕組み」をつくるしかなく、その課程で子どもたちはすっかり自分のことは自分でできるようになりました。
夫も土日はがっつり子どもと関わっているので今はあまり口うるさくは言いませんが、夫の働き方を変えることはまだ諦めていません(苦笑)。
そういう意味でも、日本全体の「働き方改革」はこれからが正念場だと思っています。
人事も「ABテスト」していくサイボウズ
青野
僕は2006年にサイボウズに新卒で入ったんです。新卒を採用し始めた頃で、当時は帰りたくても帰れない、有休も取りづらいという空気がまだありましたね。
入社する前年の2005年度の離職率は、28%という驚異的な数値を記録していました(苦笑)。
入社後は営業や新規事業を担当した後、3年半前から人事に異動しまして。現在は採用、研修、制度設計に携わっています。
斉藤
サイボウズさんは「社員が辞めない100人100通りの働き方」を推奨され話題でしたよね。
青野
多様な働き方を可能とする制度として「選択型人事制度」を2007年からスタートさせました。具体的には、社員一人一人が、ライフスタイルの変化に合わせて自らの働き方を選択できる制度です。
育児、介護に限らず通学や健康など個人の事情に応じて、勤務時間や場所を決めて宣言することができ、現在は9分類の働き方から選択可能です。
石黒
具体的にはどういう効果があるんですか?
青野
大きいのは「チームへの宣言による状況の可視化」です。メンバーがいつ出社するかわからない、という状態を避けたかったのです。5時で帰る人がいても納得感があり、チームでフォローできる。
ですが……大きな声では言えないのですが、実は9分類じゃ足りなくなってきまして。
斉藤
ええっ!
青野
先日マネージャー陣での合宿がありまして、「増やすか、一度撤廃して柔軟性を高めよう」という話題が出たばかりです。よく驚かれるのですが、サイボウズは人事制度も非常にアジャイル的というか、仮運用で効果測定して臨機応変に改変していくことが普通なんですよ。
青野
もともとこの制度、立ち上げ時には2分類しかなかったんです。ところが、ものすごいスピードで環境変化が起き続けている。働き方の多様化に対応して9分類に落ち着いたのもつかの間、副業の解禁などさらなる多様化が急速に進み、もはや今のままでは対応しきれなくなってきました。
ただ、これ以上増やすと細かすぎて管理しきれないというジレンマを抱えています。
石黒
一般的には人事系の施策って、一度決めたらなかなか変更できないイメージがありますよね。だからこそ一度進めた人事施策を、状況変化に応じてしなやかに見直せることって実はすごいことですね。メルカリでも「Webサービスのように人事施策を考えよう」と言っています。現在のビジネスのスピード感からしたらそれが当然なのかもしれません。
ちなみに、社員が一度決めた分類は変えられますか? そのときの評価ってどうなるんですか?
青野
あくまでもこちらは働き方の「宣言」なので、業務評価とは別軸です。変更も都度できますよ。いずれも難しいのはやはり給与との連動です。労働時間は短くてもアウトプットが非常に高い場合は、それを評価するべきです。
そもそも時間と場所という2軸で宣言させること自体も再考していますし、今後働き方の多様化がますます進むことが想定されるため、制度自体も柔軟、かつ可変である必要性を痛感しますね。
石黒
大きな会社だと人事って非常に強い存在と捉えられがちですよね。でも僕らは人間的に、しなやかに作り変えていきたい。いつ終わりになるかわからないなら、とりあえずはじめようと。
残業時間が月平均15分以内のフローレンス
斉藤
残業すべてを悪だとは考えませんが、業務評価という視点で考えると「労働時間に関係なくアウトプットを評価する」という視点は、今後より重要になりそうですよね。ちなみにフローレンスでは、そもそも時短勤務をしているスタッフが多いということもあるのですが、全社平均の残業時間は月平均で15分程度です。
石黒
以前もフローレンスさんからお聞きしたことはありましたが、月平均わずか15分は衝撃ですね。どんなところに工夫があるのでしょう。
斉藤
ベースには「時間と場所に縛られない働き方も報酬の一部」という考え方があります。
子育て期のお母さんお父さん社員が多く、時短勤務者も多いため、18時前後でほぼ全員帰りますね。経営者や管理職も一気に帰るので、心理的に帰りやすいというのはあるでしょう。ちなみに男女比率は8:2と女性が多く、おうち保育園の園長を含め、管理職も8割は女性です。
労働時間ではなくプロセス(課題に向かう姿勢)やアウトプットで評価することも重要です。そのため、短時間で質のよいアウトプットを出すための工夫や仕組みがたくさんあります。例えばメールコード制の徹底、MTGルールの徹底、フリーアドレス、そして保育業界での導入はまだ珍しいと思いますが、在宅勤務やノマド勤務(カフェなど出先での勤務)も推奨しています。もちろん副業もOKです。
青野
僕も今フローレンスさんで月2回人事プロボノをしていますが、フローレンスさんの人事施策はすでに先進的なのに、よりしなやかに、より良く改善していこうとする姿に学ぶことも多いです。
「裁量」という「自由」を提供するメルカリ
斉藤
メルカリさんは創業3年目ですよね。IT系で創業3年で世界展開……となると、かなり残業時間は長いんじゃないか、というイメージを持たれることもあると思うのですが、実際はいかがですか?
石黒
平均的な時間外労働も20時間以下と少ないのですが、そもそも時間外労働はいい意味で気にしていません。もともと、アウトプットのみを評価するカルチャーが強く、働き方の分類はせずに個々人の裁量でカバーしています。
勤務時間はフレックスです。エンジニアのコアタイムは12−17時、ビジネス系は10−16時と時間の制約が少なく融通が効くので、不必要に長く働く人はほとんどいないんですよね。
斉藤
メルカリさんの成長スピードでそれは衝撃ですね! 在宅勤務やノマドなどはどうされていますか?
石黒
実は、現在在宅勤務については原則認めていないんです。創業期というのもあり、「膝を付き合わせたコミュニケーション」を大切にしているというのもあります。
とはいえ、例えば午前中授業参観で、「小学校に立ち寄ってから出社したい」といったケースなども柔軟に対応できています。Slack上でチームメンバーに連絡しておしまい。
在宅勤務は原則なしといっても、アメリカなど時差のある地域とテレビ会議するときは朝にちょっと在宅で……と、実際はケースバイケースで柔軟に対応することもあります。
性善説に基づいて、裁量の範囲が幅広いんですよね。信頼関係ありきではありますが、かなり柔軟にオペレーションで対処できている。今の人数規模ならこれぐらいがちょうどいいかなと。
青野
なるほど。ほかにも残業時間抑制に効いている施策はありますか?
石黒
やはり「選択と集中」でしょうね。たとえばSlackなどの代替手段で補完することでミーティングを廃止したり、同じような内容のミーティングが乱立していたら一つにまとめたりと、定例ミーティングの断捨離を進めています。
もう一つは、パワーポイント(に代表される社内向けの説明資料)を作らない。社内資料に時間をかけることが無駄だという考え方です。僕は登壇資料を作る以外で2年近くパワポ使ってません。上司への相談などもSlack上でクイックに意思決定されますので全く問題ありません。
それから意外と効いているのは、オンオフの切り替えを促す施策ですね。
例えば部活制度。社員が300人ぐらいになると顔と名前が一致しにくくなるので、横や斜めのつながりを促進するためにも推進してます。これもシンプルでして、5人集まれば部費を月1万円支給します。
フットサル部、キャンプ部、それから面白いところでは米部。日中にお米を炊きます(笑) 他には日本酒部、焼酎部、ワイン部、ビール部……って、酒の種類だけ存在します。あとは映画部、バスケ部、仙台アイスクリーム部、都市伝説部、自動車部などなど。ちなみにコーヒー部が最大勢力です。コーヒーを飲むだけですけど(笑)
こういった集まりは日中の業務の合間や平日の夜に開かれることが多いので、結果的にオンオフのいい切り替えにもつながっています。
斉藤
酒部いいですね(笑)フローレンスにも部活がたくさんあります!「音楽部」とか「野球部」とか、みんなで保育士試験合格を目指す「サクラ咲く部」なんてのもあります。
部署異動も原則3年おきで、事業部横断プロジェクトが複数立ち上がったり、プロボノや外部コンサルなどにも積極的に参画してもらうなど、業務上でも横やナナメのつながりを促進する施策を取り入れています。
これからこういった風通しの良さは、働き方の多様化に応じてますます重要になりそうですね。
男性も育休を取ることが当たり前の時代
青野
ちなみに石黒さんはメルカリに転職される前はどういったキャリアを歩んでいたんですか?
石黒
僕は新卒でNTTドコモに入り、営業を3年やったあと人事を担当していました。
当時の業務内容は新卒・若手研修、管理職の研修制度設計、有期社員の雇用、フィリピンやバングラディシュなど海外拠点の子会社を作ったりと多岐に渡ります。ある新規事業立ち上げに参画したときは、当初10名のプロジェクトメンバーが400人名に増えるまで見届けましたが、帰宅が遅い時間になることもしばしば。ちょうど次男が産まれる前後でしたが、なかなか忙しい日々を送っていました。
斉藤
うちの夫レベルですね(苦笑) 大変でしたね……
石黒
実は、当時フローレンスをつくられた駒崎さんの著書「働き方革命」に出会って衝撃を受けるんですよ。駒崎さんも2回育休を取られている。
社内外の方々に相談し、第二子出産後の妻の復職タイミングで一度検討した育休ですが、そこでは実現に至らず、第三子出産時に意を決して育休を取りました。人事という仕事に関わっていく上でいつかこの経験が活きることは確信していました。
青野
サイボウズでは社長の青野が「人事部長になりたかったら育児休暇を取れ」とよく言ってますね。社長自身も取得していますし、私も息子がちょうど12月に生まれたため、年末年始+αで実質1ヶ月程育休的な休みを取っています。
充実した環境を用意するのは、何のため?
斉藤
メルカリさんは「merci box」という画期的な人事制度を発表されて話題になりましたよね。中でも「妊活支援」や「病児保育支援」、「産休・育休期間中の給与を会社が100%保障」という内容には驚きました。
石黒
メルカリの制度の考え方は、バリューの一つであるGoBold(大胆にやろう)にも紐付いていますが「Go Boldにおもいっきり働ける環境をより充実させていく」ための制度を整えていこう、というメッセージングなんですよね。
当社はCFOもCTOも育休を取っています。経営陣が行動すると他の人も取りやすい。何よりも、社員が辞めてしまってから採用するコストを考えたら、今働いている社員を大切にしたほうが社員にとっても、家族にとっても、会社にとってもメリットがあると。
青野
まさに「三方よし」ですね。逆に言うと、仮に残業等で一時的に売り上げ目標を達成できたとしても、社員が不幸で離職率が高い状態が果たして企業として健康なのかという。
サイボウズはかつて離職率が28%だった時代があったので、その頃の反省を活かして社員が辞めない「100人100通り」の働き方ができる会社にすべき、と多様性マネジメントに舵を切っているんですよね。極端な例えですが、売上を一時的に多少落としても、みんな幸せに働ける方が長期的にはメリットが多く、企業としても持続可能なのではないかと思うのです。
石黒
一方でこういった条件面を押し出しすぎてしまうと、条件につられた「だけ」の応募者が増えてしまうという側面もあります。条件だけで採用するのは、社員にとっても会社にとっても不幸ですよね。
斉藤
わかります。フローレンスの場合、働き方の自由度に共感して面接を受ける方が少なからずいるのですが、「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」というビジョンに共感する人でなければ、どんなに優秀な方でも採用しないようにしています。
便利な制度も仕組みも最終的には「ビジョン・ミッションの達成のため」という真の目的のもとに存在するということを忘れてはいけないなと。
青野
確かに。例えばサイボウズでは外出時の隙間時間にノマドワークをする際のカフェ代を支給する制度が始まりました。これは決してカフェ代を払う社員が可哀想だから支給するのではなく、最終的には「世界で一番使われるグループウェアメーカーになる」というビジョンを実現するために支給するんですよね。制度の起点や目的を履き違えないようにしないといけない。これが理解されていないと、なぜか「なんとかフラペチーノ」みたいなオーダーをする社員が続出する(苦笑)
「自由と責任は表裏一体」と言われる通り、裁量を広げるためには「社員の自立」と「真の目的の理解」が必要不可欠だと思っています。
残業は悪か
斉藤
最近は「長時間労働」の是々非々が取り沙汰されるようになってきましたよね。サイボウズさんはある種クライアントワークの部分も多く、自分たちの意思で残業時間を削減しづらい部分がありそうですが、いかがですか?
青野
残業時間は働き方の選択が人それぞれ違うのでばらつきがありますが、感覚的には20時以降に残っている社員はかなり少ないです。なぜかというと、チームで動く組織に変わってきたからです。特に営業などはまさにクライアントワークで、業務時間が外部要因に左右されやすいですが、例えば個人メールを使わずにチーム共通のメールアドレスを使い、資料や案件の共有を徹底することによって、チームでフォローしやすくなり、結果として残業時間も減らすことも実現できています。
まさに「チームのことだけ考えた」ですね。
石黒
社長の青野さんの本ですよね。僕も読みました。たしかに個人の負担をチームでカバーする方法は理にかなっていますよね。
メルカリも創業期のわりに時間外労働は少ない方だと思いますが、そもそも長時間労働が全くダメとも言っていないんです。人それぞれ成長フェーズがあると思うんですよ。例えば20代で今の時期にがんばりたい人、スキルアップしたい人はがんばればいい。それはそれで多様性の一つだと思っています。
ただし、そうしたくない人が無理やり残業することを、決して勧めてはいけない。あくまでも自立的、能動的に働く時間を選択してほしいですね。
そういう意味では「ノー残業デー」なんて会社の押し付け以外のなにものでもない。自らが選択し行動できるような風土と環境こそを、会社は提供すべきだと思っています。
斉藤
チームといえば、サイボウズ式で社員の息子さんをチーム内の別の社員がめんどうみる記事を読んで、びっくりしました。お互いが助け合うことが自然にできる、これも一つの進化の形ですよね。
青野
あの記事は賛否両論でしたが、ある種の議論を巻き起こすことはできました。育児もそうですが、介護問題はこれから間違いなく増加します。
互助的機能を持つチームの存在は、そういった課題の解決手段の一つとして進化の余地があると思うんです。
信頼されているから、自由に働ける
斉藤
ここまでで出てきたキーワードの一つに「自立」というのがありますが、社員の自立を促すための施策はありますか?
青野
働き方やキャリアを自分で主体的に選んでもらうことですね。自分で選んでコミットするからパフォーマンスも高くなる。そのためにも問いかけが重要だと思っています。
石黒
うちは「採用時」にすでに自立可能な人材をフィルタリングしています。それが大きいですね。
まだ自立していないメンバーを自立させるには、多くのコストがかかります。
斉藤
そうですね。「自立」して動くことができない人、自らの行動に責任を持てない人が来てしまうと、単なる制度のフリーライダーになってしまう、という危機感もありますよね。
青野
そうなんです。一方で次の課題は、多様な働き方と給与の連動、要するに自由とパフォーマンスの連動なんです。
サイボウズでは働く時間や場所を自分で選択することで、社員のパフォーマンスが上がることがわかってきています。副業も積極的に勧めていますし、もはや社員を職場にくくりつけておくことと成果は比例しないと思っています。
斉藤
より自由になるからこそ「信頼」をどう勝ち取るか、という点も重要な軸でしょうね。
青野
はい、そこは非常に重要です。もちろん本人の信頼もそうですが、評価者としてのマネージャー自体が信頼できるかが、実は大きい。例えばフルタイムで働いていた社員が週4日在宅に切り替わりました。評価時にマネージャーが「彼は働き方が変わってもアウトプットが変わらない」と言った時、それを信用できるかどうか。人事だけで制度を作ることは不可能で、評価者もより厳しい視点で選出されていく必要があると思っています。
石黒
会社が成長していくと、反比例してコミュニケーションが減りがちですよね。「顔と名前が一致しない問題」から疑心暗鬼が生まれやすい。
そこで僕たちはコミュニケーションを増やすことで「社員間の信頼を高いレベルで維持する」方法を試みています。
部活、シャッフルランチ、ファミリーデーなど、ありとあらゆる方法を模索中です。もちろんオンラインツールも多用しますが、その場合も全員が見えるオープンチャンネルにして、極力オープンな場所でのコミュニケーションを推奨するなど、いろいろな角度でコミュニケーション強化を試みていますよ。
斉藤
量だけでなくコミュニケーションの質の強化が特に重要になりそうですね。社員が増えても、コミュニケーションの濃度を維持するというのはなかなか難しい課題です。
石黒
試行錯誤を繰り返していくしかないんでしょうね。例えば今後エンジニアを国外から受け入れることも増えていけば、文化や肌の色の違いで距離が生まれたりと、今はないバイアスがかかる可能性もある。
トライ&エラーでいろいろな施策を試し、一つ一つ乗り越えていければなと。採用競争力を持つためにも、今後も多様化を促進する採用を強化していくと思います。
リモートワークが広がっていく
斉藤
リモートワークについてはいかがですか? フローレンスではいま、金沢に移住した社員が、代表秘書業務をフルリモートで対応中です。初めての試みですが、もともと本人がフローレンスに数年勤務していたため、すでに実績、信頼がある状態で、比較的スムーズに移行できています。
在宅勤務自体が浸透しているため、システムのクラウド化や、チャットツールでのオンラインミーティングなど、場所にとらわれない仕組み・環境を以前から構築しているということもあって、リモートでも無理なく業務ができています。
他にも、鹿児島の実家に戻ってフローレンスを退職していたメンバーに、リモートで経理業務を依頼していたりもします。
青野
おお、進んでますね! うちも岡山でフルリモートの社員がいますよ。介護等の事情で以前なら辞めざるをえなかった社員が辞めなくても済むようになってきた。職種にもよるでしょうが、しっかりしたスキルを持つ人だと余計に進めやすいですよね。今後も事例が増えていきそうです。
斉藤
代表秘書のケースは、「スケジューリングが速くていい」と代表本人も喜んでいますね。本部や現場との連携部分についてはまだ手探りです。もともとフローレンスは退職してもしばらくしてから復職してくれたり、業務委託で戻ってきたりと、つながりがとても柔軟なんですよね。とぎれない。
「どんな形であれ、いつまでたってもフローレンスの仲間でいてほしい」というメッセージのあらわれでもあります。
青野
あとは、なんだかんだで「健康で楽しく働ける」というのも大切なんじゃないかと。ありがちですが「前年比110%ですから!」と声高に訴えてもテンション上がらないのは事実ですし。
メルカリではほとんど仕事の愚痴を聞かないんですよ。少なくとも僕の周りでは。「会社や仲間から大切と思われて、楽しく健康で働ける」って、働き続けるためには一番本質的で重要なことなんじゃないかなって。そういう気持ちで働き続けてもらうためにも、遠隔でも働き続けられる環境を用意したり、コミュニケーションを活性化させたりと、試行錯誤しつつ、そのフェーズに応じた環境を用意するべきじゃないかなって。
会社に縛られることすら無くなっていく時代に
青野
みなさんのお話を聞いていると、今後ますます多様な働き方が広がっていきそうですね。自立し責任を持つことと、自由に働くことが表裏一体の関係になっていくんでしょうね。
もはや、会社に縛られることすら無くなるかもしれません。
サイボウズが副業を推奨しているのは、「一つの会社に縛られることなく、個人としての市場価値を高めてほしい」というメッセージでもあるんです。
斉藤
企業側は、いろいろな思いを持って働いている人たちに、柔軟な選択肢を提供できるかどうかが強く問われる時代になったんだと思います。
働く側にとっては「自立」「信頼」がキーワードになりますよね。自立することで自由を得ることができ、自立できない人は自由を勝ち取れない。
石黒
そうですね。自由はすぐそこにあるけど、それは自分で取りに行く必要がある。待っているだけでは今までと変わらない。会社のものさしではなく、自分の中にものさしを持っている人。主体的に動ける人がより一層求められていくと思います。
どこの会社に行っても、起業しても、しんどいことは完全には回避できませんし、逆境もあるでしょう。でも自立している人であれば、解決方法を自ら探せるんじゃないでしょうか。
斉藤
そう。私たちは、これからも新しい働き方をしなやかに改革していきます。山を一緒に越えよう。待ってます!