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【社会起業のレシピ】vol.33「NPO=お金をかけない、ではない」

【社会起業のレシピ】vol.33「NPO=お金をかけない、ではない」

#政策立案・政策提言

ソーシャル・スタートアップが、損益分岐したら

NPOやソーシャルビジネス等の、ソーシャル・スタートアップの、サービスイン後の最初のマイルストーンは、損益分岐点(Breal Even Point:BEP)を達成すること。

つまり、月々の収入が支出を上回る「脱赤字」の状態になることだ。こうなれば自分たちはとりあえず「死なないビジネスモデル」を実践していることになる。

打ち合わせの様子
社員との打ち合わせの様子(2011年)

そして、ここから「投資」を考え始める必要が出てくる。これまでの「なるべくお金をかけない」という原則から一歩踏み出して、自分たちの商品やサービスを利用してくれる人をいま以上に増やす、つまり「成長」のためにお金を使っていくことを模索するのである。

NPOなのに投資?

NPOなのに投資、というと変な感じがするかも知れない。世のため人のためなのに、お金をかけるなんて、汚い、なんて思う人もいるだろう。

しかし、それは間違っている。NPOやソーシャルビジネスとはいえ、対価をもらうものは、そのサービスを進化させ続けなくてはならない

例えば保育サービスを行うソーシャルビジネスではどうだろう。「子どもにボランティア精神溢れる愛を持って接しているから、保育技術を磨かなくてもよい」と言ってしまっていいだろうか。僕は否と言おう。ボランティア精神があろうが無かろうが、子どもの命を預かり、心を育てる仕事だ。事故リスクを下げ、少しでも子どもの良き成長に寄与するのは、責務である。そのためには、研修や人材育成に投資しなくてはならない。

また例えば、ゴミ拾いを行うNPOだとどうだろう。ただ集まって拾えばいいのか。違うだろう。ボランティアの人達が気持ち良く参加し、継続してもらえるための仕組みが必要だろう。例えばそれは、見やすいWEBサイトであり、ボランティア同士交流できるLINEグループかも知れないし、またチーム意識を高められるユニフォームかも知れない。そうした広い意味での「質の向上」や進化を怠れば、NPOは容易に「善いことしてるからいいでしょ」という甘えの罠に囚われていってしまう。

投資の事例

代表的な投資は、採用であろう。採用する部門も、「現場スタッフ」だけでなく「本部スタッフ」にまで広げていく。そして、経営者がこれまで1人でこなしてきた営業、広報、人事、経理といった仕事を彼らに担ってもらうのだ。そのためにも、本部スタッフがそろってきたら必ず取り組みたいのが、組織の仕組みづくりの徹底化だ。

具体的には、前回までの「供給ラインの整備」で見た「採用」や「人材育成」「労務管理」「人事」などの制度を更に整えていく。目標は「経営者が口を出さなくても事業がまわっていく組織をつくる」である。それくらい徹底的に組織内の「仕組み化」を実践していく。そのための人材補強・トレーニング等に使う。それがスケールアップへとつながっていくことになる。

投資の対象は「人」だけでない。情報システムやオフィスにお金を回す、という選択もある。たとえば情報システム。これまでのスタートアップ初期では、無料のWEBサービスやフリーソフトを使って、できるだけお金をかけない、というのが原則だった。しかし事業が拡大していけば、それだけでは足りない部分がどうしても出てくる。有料版にアップデートして、セキュリティやパフォーマンスを向上させてもいいだろう。また、自分たちのWEBページについても、リニューアルを検討してみてもいいかもしれない。スタートアップ時点では、お金をかけず保守管理の範囲内で、だましだまし文言の微修正や、足りないところはバナーでしのいでいたりするものだが、きちんとしたものを作ることで、ブランド力を高めていくという方向性もある。

更に「ちゃんとしたオフィスを借りる」ことも、選択肢に入ってくるだろう。本部スタッフが増えてくれば、これまでスタートアップ初期において愛用、もしくは入り浸っていたコーヒーチェーンやカフェ、コワーキングスペースでは、さすがに手狭になってくるはずだ。5~10人くらいが入れる自分たちだけのスペースを整えたほう仕事の効率もアップする。

バランスの取れた投資を

ただし、贅沢は禁物である。オフィスビルにこだわらず、SOHO可能なマンションの一室を借りるなど、なるべく固定費である賃料を安価に抑え、一足飛びにコストを増やさないようにすることに留意する必要もあるだろう。

これはオフィスに限った話ではない。事業の有効性が証明されたからといって、手元の資金が突如として潤沢になるわけではない。調子に乗って身の丈を超えた投資は、身を滅ぼすことに。

そのためには、貴重な余剰資金を何に使うことが、事業を進化させるのに「本当に必要なのか」を問うことが重要だ。「あれもこれも」ではなく、優先順位をつけ、タイムラインを組み、一つずつ手を打っていくというやり方がいいだろう。

社会事業を育てることは、植物を育てるのに似ている。やっと出てきた若葉に、ホースで水をじゃぶじゃぶかけたら、根腐れしてしまう。じょうろで適切な量の綺麗な水を、定期的に、優しく声をかけながらあげていきたい。

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