自分たちのノウハウを、国にパクってもらう?
前回まで見てきたスケールアップやスケールアウト、新しいサービスメニューの開発・展開は、基本的には「自力」で拡大していく戦略だ。一方、拡大には「他力」を活用する方法がある。それが「政策化」という手法。簡単にいえば、自分たちのノウハウをわざと国に「パクらせる」のだ。
実際、NPOやソーシャル・ビジネスが取り組んでいることは、何らかの社会問題に対する問題解決の方法であることが少なくない。ただ、自分たちの力だけでは、それをより広い地域で展開していくのに限界がある。一方、国に政策化してもらえれば、全国でその問題解決策を実施してもらえるようになる。そうなれば、社会問題解決が、点から面へと広がって行く。
政策化されることは、横取りされることではない
「自分たちが一所懸命に考えたノウハウなのに、国に横取りされるのはちょっと……」と抵抗感をもつ人もいるだろう。ぼくもかつてはそうだった。しかし、いまはまったく抵抗感はない。今我々が当然と思っている社会保障の様々な仕組みは、先人たちがリスクをかけ、社会事業を行い、それを国がパクって制度化していった結果が、積み重なってできていったものだからだ。
例えば児童養護施設。近代児童養護施設の走りは、明治20年に石井十次が作った「岡山孤児院」だ。また、知的障害児施設も、明治24年に石井亮一・筆子夫妻が立ち上げた「滝乃川学園」に端を発する。こうした偉大な先人たちの営みに、連なることができるのだ。自らの事業が真似されることよりも、よほど痛快ではなかろうか。また、社会問題解決のスピードも変わる。国策化されることで、自分たちだけしかやっていなかった事業を、やってくれる組織が次々と現れる。これは言ってみれば、「コピーロボット」が全国に出現するということ。その分社会的課題のスピードは上がっていく。
実際、フローレンスが2010年に始めた、ミニ保育所「おうち保育園」も、「小規模認可保育所」として、子ども・子育て支援法の中で制度化された。
それまで、認可保育所は子どもの定員数が20人以上いなければ認可されなかったのだが、それでは待機児童の多い都市部で保育所を増やして行くことはできない。そこで、一軒家やマンションの空き室を使って、小さな保育所をできるようにすれば、待機児童問題は解決できるだろう、と考えた。
実際に東京都江東区のマンションの一室を借りて、9名定員の保育所を2010年4月に開園したところ、二十数名の申し込みがあった。成功したのだ。それが当時の内閣府の待機児童対策チームのリーダーであった官僚の方に伝わり、彼女が法案の中に、おうち保育園のようなことができるよう、盛り込んでくれた。これが小規模認可保育所へとつながっていった。
「視察」は、国策化につながる「営業」手法
では、いったいどうすれば、国にパクってもらえるようになるのか。それには、官僚や政治家に興味をもってもらう必要がある。そのためには、自分たちのビジネスモデルが、ある社会問題に対して明確な解決策となっていることは必須。
さらに、自分たちのやっていることを世間に広く知ってもらう。テレビ、新聞などのマスメディアやネットメディアに取り上げてもらえるように積極的に働きかけるのだ。メディアに露出するようになると、政治家や官僚の目にもとまりやすくなる。そのなかから「おもしろいことをやっているところがあるな」と興味をもち、「視察」に来てくれる人も出てくるだろう
視察は彼らにとっては仕事の一環。そこで得たアイディアに基づいて、官僚なら次年度の政策のヒントにするし、政治家なら、そこで得た知見をもとに質問を作ったりする。この視察の機会に、あなたの社会変革モデルが、どのように機能するのか、をしっかりと説明するのだ。
官僚や政治家は「パートナー」と思うべし
最後に、そのための心構えをお伝えする。一つ目が、視察に来た政治家や官僚を「敵」と見なさないこと。NPO業界には、ついそうした姿勢になりがちな人が、かつての僕も含めて多い。「あいつらは現場も知らないで変な制度ばかり作って、迷惑している!」と怒る方々もいよう。その気持ちは分かる。
しかし、彼らとは「パートナー」としてつきあっていく意識が重要だ。でなければ、制度化にはつながらない。きちんと信頼関係と対話のチャネルをつくり、モデルの肝を理解してもらわねばならないからだ。次に、彼らの視察の際には、紙で資料をきちんと準備しておくこと。例えば、「国でこのモデルを制度化すれば、これくらいの補助金で、これくらいの人を助けられ、それによってこうした社会的リターンがあります」という具合に、数字を活用して、効果を具体的に示しておくことが重要だ。ここが、政策化への第一歩。
次回から数回に分けて、これらのアドボカシー(政策提言)の具体的な方法について見ていくことにする。
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