マリファナを吸ってOK、売春が合法、安楽死も合法、なによりわざわざ海面より低い土地を干拓して暮らしている、それも中世から……
そんな尖った国が、この地球にはあります。それは、オランダです。
オランダと聞くと、風車やチューリップ、牛などの放牧といったのどかな風景を思い浮かべる方も多いと思います。
しかし実は、フィリップスやユニリーバ、ハイネケンといったグローバルで展開する企業も、オランダ発。人権についての意識も非常に高く、福祉や教育にも力を入れている、オランダはそんな国です。
2018年9月、フローレンスから4人のメンバーが、一週間のオランダ視察ツアーに行ってきました。その目的は組織づくりと子どもの福祉について知見を深めること、そして新しく始める訪問看護事業のためのヒントを得ること。
安くない視察費用を使って行ってきたからには、組織にしっかり還元しなくては、ということで帰国してから何度か社内での報告会を行い、施策への落とし込みなどを進めています。
しかしそれだけでなく、社外にもその学びをシェアしよう!と意気込んで、何度かに渡ってレポート記事を出していくことになりました。今回はその導入となります。
オランダから学んできたフローレンス
実は以前にもオランダには視察に行っています。そのときは保育・幼児教育にフォーカスした視察で、フローレンスの保育現場に関わるスタッフがオランダの小学校などを見学しに行きました。
この視察で学んだピースフルスクールプログラムや、子ども同士の対話といった要素は、2017年に開園したみんなのみらいをつくる保育園の保育に取り入れられています。
今回の視察は、前回とは少し違った角度からのもの。以下のような4日間のスケジュールで、いくつかの福祉事業者やシンクタンクに視察に行ってきました。
1日目
アムステルダム市内にてオリエンテーション。オランダの歴史や市民社会の背景について説明
2日目
午前 女性問題のシンクタンクAtria(アトリア)で、オランダの女性の地位や働き方についての制度や歴史についての講義
午後 市民のための福祉アドバイスと支援サービスを行っている全国組織MEE(メイ)のアムステルダム支所を訪問
3日目
認知症高齢者の養護施設De Hogewey(デ・ホーヘウェイ)を訪問
4日目
近隣社会をベースに在宅看護・支援サービスを行っているBuurtzorg(ビュールトゾルフ)を訪問
目玉は訪問看護事業者ビュートゾルフ。2018年に話題になった『ティール組織』という新しい組織論についての書籍で事例として紹介もされた、知る人ぞ知る「自主経営(セルフマネジメント)」組織です。
もちろんビュートゾルフだけでなく、他の視察先も、オランダという国の進んだ市民社会の背景を理解したり、日本の福祉をアップデートしていくためのヒントなど、学びは数多くありました。順次記事にしていきますので、ぜひ楽しみにしていてください。
本記事では、この視察のオリエンテーションで伺った内容を中心に、オランダの市民社会の背景について簡単に紹介します。
オランダではなぜ「ソフトドラッグ合法」なんて意思決定ができるのか
冒頭でもお話したとおり、オランダではマリファナ等のソフトドラッグ(依存症がなく人体にも害が少ないもの)が合法、自由意志が確認された上での安楽死が合法。
また働き方の面では、短時間・パートタイムでも正社員扱いの待遇が保証されるワークシェアリングが浸透しているなど、非常に先進的な取り組みが国レベルでなされています。ちなみに同性婚を2001年に世界で初めて合法としたのもオランダです。
オランダの子どものお迎え自転車の様子
こういった施策は一見ものすごく尖っているように見えますが、
ソフトドラッグ合法 → 健康被害は少ないし、実は禁止するより依存症になる人が減る
ワークシェアリング → 賃上げ回避で企業は競争力キープ可能、労働者は複数の仕事をかけもちして収入をキープ可能
という感じで、非常に合理的な意思決定のもと実施されていたり、
安楽死、同性婚合法 → 本人の自由意志を何よりも尊重
というように人権のあり方、本人が自分の意志で何をするかを非常に重視するという国としての志向があったりします。
なぜ、こんなにひとりひとりを尊重し、かつ合理的な考え方をするのでしょうか?
「足が濡れないように」というマイノリティ社会の危機感
もともとオランダは、海抜より低い土地から水を抜いて、牧畜地や居住地に転用してきました。有名な風車も、水を土地から引き上げるための動力だったりします。海面より低い土地の割合はなんとオランダ全土で6割にのぼるそうです。
船が通るための跳ね橋がアムステルダム街中に
もともとどうにか水を抜いて生活している上に、これから地球温暖化で海面はもっと高くなるかもと言われています。オランダの歴史上、その土地に暮らすということに対する危機感が、他の国に比べてだいぶ高いと言えるのではないでしょうか。
また、オランダ社会の特徴のひとつに、同じ主義主張を持つ人が単独で過半数を取りづらい「マイノリティ社会」であることがあげられます。
キリスト教のカトリック、プロテスタント、また自由主義、社会主義など、さまざまな考え方の人々がひとつの国にいながら、「この人達が圧倒的に多い」という状況ではない。そうするとどうなるかといえば、国を動かすためには、連帯・連立して施策などを進めていかなければなりません。
自分と主義主張が異なる人を相手に意見を伝え、相手の意図を理解し、合意を形成していくというのが、とても重要になってきます。
実際、オランダでは、小学校から合意形成のトレーニングが行われており、ロールプレイなどを通した子ども同士の問題解決の練習が日々実践されています。そちらは先ほど紹介した過去の視察でもスタッフが実際に目にしています。
のほほんとしていたら土地が海に戻ってしまうかもしれないという緊張感、そしてその中で国を前に進めるためには意見の異なる相手との合意形成が欠かせない。そんな歴史と風土を背景に、オランダでは合理性や個人の意志を尊重した施策が着々と進められてきたわけです。
そんなオランダの福祉の現場ではどんなことが起こっているのでしょうか? そして個人の意志と合理性を突き詰めた先に生まれた、ビュートゾルフという超セルフマネジメント組織の実態とは・・・
ちょっと煽りすぎですが、そんな感じで、今後公開される各視察先のレポート記事を、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
ではでは!