障害児保育園ヘレン、障害児訪問保育アニー、医療的ケアシッター ナンシーを運営する私たちにとって、本当に嬉しいニュースが飛び込んできました。医療的ケア児を育てる保護者の方、フローレンスを応援してくれている皆さんに、ぜひお知らせしたいと思います。
2019年9月、ついに、ついに山が動きました!!
東京都教育委員会が、長年の課題であった「医療的ケア児の母親が教室に付き添ってください(=すなわち、母親は仕事をやめる)。そうでなければ、医療的ケアのある障害児は特別支援学校に来れないよ」という問題に対し、「親の付き添いをしなくて良いよ」と言う答弁を行ったのです。
該当部分を見てみましょう。
都立特別支援学校における人工呼吸器のモデル事業を踏まえた今後の展開についてでございますが、都教育委員会は対象の児童生徒の安全な学校生活に向け、看護師・教員等の役割分担及び安全管理の方策など、これまでの検証結果を取りまとめ、各学校に示したところでございます。
今後は年度内にガイドラインを策定周知し、看護師を校内における人工呼吸器管理の実施者とする規定改正を行い、対象の児童生徒一人ひとりの状況に応じて、来年度から保護者の付き添いなく学校生活を送ることができるよう校内管理体制を整えて参ります。
出典 https://www.gikai.metro.tokyo.jp/live/reg2019-3.html より
フローレンスは2015年に日本で初めて障害児保育事業を立ち上げてから、国内で最も医療的ケア児の保育に携わってきた事業者です。
『障害児を産んだら、お母さんが仕事を辞めて24時間家庭にとじこもって介護をしなければならない。』
『障害児は保育を受けられず、同年齢の子どもたちと遊ぶ機会ももてない。』
こうした課題はヘレンやアニーを運営することで、少しずつ改善してきました。しかし、特別支援学校へ進学する親子に立ちはだかるのが、この「特別支援学校、親の付き添い必須」問題だったのです。
せっかくヘレンやアニーがあることで仕事を続けられたお母さん達が、小1の壁の前に泣いていました。
私たちは、全国医療的ケア児者支援協議会という団体を業界の仲間と共に立ち上げ、何年もこの問題について、当事者や仲間とともに闘ってきました。
付き添いで仕事を諦める母親
最初に特別支援学校に視察に行って、付き添いをしている母親を見た時は衝撃でした。
教室の端っこで座っている。そして本当に時々、医療的ケアを自分の息子に行っている。
でも、学校看護師さんはいる。
「なぜ看護師さんが医ケアをしないのです?」と校長先生に聞くと、「規則でそうなっているのです」とおっしゃいました。
母親という医療の専門家でも何でも無い人が医療的ケアを行い、医療の専門家である看護師が何もしないルール。そんな矛盾に満ちた東京都の学校現場の状況に愕然としました。
学校に行けない小学生
萌々華(ももか)ちゃんという子がいます。小学校5年生。彼女は医療的ケアを必要とする障害児ですが、お話がとっても上手です。
でも、特別支援学校には行けません。親御さんが共働きで、付き添いができないからです。
代わりに先生が訪ねてきてくれますが、週3回、2時間のみ。この日本に義務教育をまともに受けられない子どもたちがいたことに、愕然としました。
萌々華ちゃんは偉い人に向けてお手紙を書きました。
「私は学校に行きたいです。お友達といっぱいお話したい。私が学校に行けないのは、神様からの罰なのですか?」
当事者や私たち関係者の闘い
こうした状況を見て、医療的ケア児に関わる私たち事業者、医療的ケア児の親当事者たちで結成した、「全国医療的ケア児者支援協議会」は、2015年から積極的な要望活動を重ねました。
記者会見をしたり
都知事(当時は候補)に障害児保育園ヘレンの現場で医療的ケア児の存在を知ってもらったり
都議会議員の方に何度も要望書をお渡ししたり
国会議員の方々に超党派会議を作ってもらって、この問題を認識してもらったり
文科省に全国の教育委員会にガイドラインを出してもらったり
医ケア児の「親同伴問題」解決に向け、有識者会議から画期的な提案が
国家戦略特区を使って安倍総理にお願いしたり
安倍総理に「医療的ケア児が普通に学校に行ける」ようにお願いしました
ありとあらゆる方法を使って、「付き添い強制を辞めさせて」と訴え続けました。
都議会議員の方々が動いてくれた
それに呼応するかのように、国会議員、都議会議員など、多くの皆さんが動いてくださいました。
都議会議員の方は、萌々華ちゃんら医療的ケア児とその母親と、都知事と教育長が会う場をセットしてくれました。
その場で萌々華ちゃんは、教育長にお手紙を読みました。
「私を学校に行かせてください」と。
社会が変わった瞬間・そしてこれから
そして今回も公明党に都議会にて質問をしていただき、引き出せたのが冒頭の「付き添い廃止」宣言だったのです。
このように、多くの当事者たち、福祉事業者たち、政治家の皆さんたちが立場を超えて連帯し活動してきたことが、実を結んだと言えるでしょう。
また、自分たち自身をアップデートするという難しい作業をしてくれた、東京都教育庁(教育委員会事務局)にも心から感謝いたします。
ただ、医ケア児を巡る問題は、これで終わりではありません。
あいかわらず、就学前の保育・教育の場所は数少ないです。
ちょっと預けて一息つけるサービスは、ほとんどありません。
学校に行けても、放課後医ケア児を預かってくれる放課後デイも、非常に少ないです。
学校卒業後の居場所もありません。
こうしたまだまだ足りない社会インフラを、まだまだ足りない制度を、これからもフローレンスは、事業モデルの拡大と両輪で政治と社会に訴え、そして実現していきたいと思います。
「医療的ケアや障害が理由で困っていた時代なんて、あったんだ?」
そんな風に言われるまで。
これからも、社会を変える私たちフローレンスの活動を応援してください。そして、共に「新しいあたりまえ」を最前線で見てみませんか。