「イクメン」の発足から「男性育休義務化」を勝ち取るまで
創業以来約18年間、フローレンスでは、親子をとりまくあらゆる社会課題の解決に取り組んできました。しかし同時に、多くの課題に直面すればするほど、「男性の家庭進出」が進んでいないことを実感する機会が多かった18年間でもありました。
フローレンスでは、男性社員に子どもが生まれる時に「育休取る?」とは聞きません。「育休はいつ取る?」と聞きます。つまり取ることが前提。半年や1年など、比較的長期の休業を取る社員も珍しくない文化で、「男性育休取得率100%」が自慢の組織です。 男性育休にまつわる社員の実録も度々発信してきました。
しかし社会全体を見てみると、100%には程遠いというのが現実でした。この大きな課題に対して、当事者意識を持って取り組んだきっかけが、2010年に厚生労働省と有識者で発足したイクメンプロジェクトでした。フローレンス会長の駒崎は発足時よりこの有識者メンバーに入り、2013年には座長に就任しました。
こうしたフロジェクトへの参画と同時に、駒崎は有志メンバーやフローレンスと共に度々、「男性産休の創設」と「男性育休義務化」に向けて政策提言を続けてきました。
有志メンバーは、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんをはじめ、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さん、父親支援NPOファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんなど、子育てと働き方改革に造詣の深いメンバーが集まりました。このメンバーと共に「男性育休義務化アベンジャーズ」と称して数々のロビイングを続けます。
当時駒崎はこのロビイングにかける思いをブログに綴っています。
産まれた直後からワンオペ育児に放り込まれる母親を、1人でも減らしたいんです。
自分の子育てなのに、妻にワンオペさせてそれが当たり前だと思っている父親を1人でも減らしたいし、そう言う姿勢を従業員に望む会社を一社でも減らしたい。
男性育休義務化アベンジャーズの努力は、2021年6月、育児・介護休業法の改正という形で実を結びました。それから同法は2023年4月へ向けて段階的改正を重ねていくことになりました。
育児・介護休業法の段階的改正
①2022年4月1日~制度の個別周知・意向確認義務
→企業は、妊娠や出産(本人または配偶者)を申し出た従業員に、制度の個別周知や取得意向を確認しなければならない②2022年10月1日~雇用環境整備義務
→出生時育児休業(産後パパ育休)制度が新たに創設、育児休業の分割取得が可能に③2023年4月1日~育児休業取得率の公表
→従業員1000人以上の企業は、従業員の育休取得状況を毎年公表しなければならない
13.97%という数字が示した現実
こうした法改正が整い始めただけでなく、イクメンプロジェクト発足当初の2010年から比べると、社会も、働く人たちの価値観や意識も大きく変容しました。従業員のワーク・ライフ・バランスが企業価値に直結することは、多くの人たちの共通認識になってきています
しかし現実的な数字に目を転じてみると、2021年度の男性育休取得率は「13.97%」という結果。取得率の男女差も大きく開いたまま。社会全体を見渡してみれば、男性育休はまだまだ「新しいあたりまえ」にまでは到達していません。
ルールは変わったのですから、これからやることはひとつ。それが「空気の改革」です。
「オレ、育休取ります」を言わせない「空気」って?
日本の育休制度は、国(雇用保険)から給付金が出て、最長で2年間の取得が可能。期間中の社会保険料が免除になるなど、実は世界的にも非常に手厚い制度で、ユニセフによるランキングでも日本は先進国の育休、保育政策において世界一にランクインしています。
これに加え、2022年10月1日から施行された雇用環境整備義務を紐解いてみると、働く人とその家庭に多くのメリットが生まれることがわかります。
子の出生後8週間以内」に「4週間(28日)まで
→妻の産褥期(産後1ヵ月間)を支えることができる!妻の産後鬱のリスクが高い時期を二馬力で乗り切るためには最低1ヵ月間が、育休取得期間として適切であると考えられる
労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能
→「人手不足」「仕事を引き継ぐ人がいない」「仕事を止められない、完全には離れられない」という悩みに対して、仕事と育児を両立する柔軟な取得が検討できる!
休業の2週間前まで」に申し出ればOK。分割して2回の取得が可能(※はじめにまとめて企業側に申し出ることが必要)
→ハードルが下がり、家庭の状況に合わせた選択が可能に!
それでも、男性の育休取得率が伸び悩むのは、実は「空気」のせいだとしたらどうでしょうか?
「仕事を休めない/休ませない空気」「男性が育休取って何するの?という空気」「子どもはお母さんと一緒にいれば幸せという空気」。日本社会にはさまざまな「空気」がはびこっています。
誰もが障壁を感じることなく、新しいルールの恩恵を受けられる、そして育休を取った男性の意識が周囲の人や社会の空気を変える力となって伝播していく。そんな「文化」を子どもたちの世代に繋いでいくためには、働く人一人ひとりの「空気」の変革が必要なのです。
育休は男性が家庭の「当事者」となるスイッチ
フローレンスでは、男性の育休について「取ること」がゴールとは考えていません。多くのメディアに掲載される男性育休のインタビューや記事を見ていると、男性の育休取得の目的として、「出産したママをサポートするため」、「男性が、親になった自覚を認識するため」、「産直後の目まぐるしい育児を共有するため」……といった表現が目に付きます。
しかしこれには、主担当として走るのは産んだママで、パパはサポート役の「並走者」であるという構図があります。
この出発点で、男性が育児の、家庭の「当事者」を担う日はやってくるでしょうか?
「男性育休=パパが育児サポート」の時代は終わったと、フローレンスは考えます。「併走者」ではなく「当事者」へ意識を切り替えるスイッチが育休です。家族という集団の中において、自分がどういう個人でありたいか。どういう夫婦でありたいか、課題に対してそれぞれがどのような立場で、どう向かい合うのか。その背骨をもとに歩むことで、未来の家族の姿はより成熟し、一歩進んだ経験値を与えてくれるはずです。
そして家庭と育児の「当事者」となった男性が職場に復帰したとき、その男性は社会にポジティブな「空気」をもたらす存在になっているはずです。
2023年4月、企業の育児休業取得率の公表に向けて、企業向けの調査を実施中です!
文中にも登場した、「男性育休義務化アベンジャーズ」メンバーでもある株式会社ワーク・ライフバランスさんとフローレンスでは、厚生労働省イクメンプロジェクトによる「男性育休推進企業実態調査2022」という調査を実施中です。
今年4月より、従業員1000人以上の企業で育休取得率の公表が義務化されます。また有価証券報告書にも男性育休取得率や取得日数が記載される方向で議論が進んでいます。そのため育休取得率だけでなく、真に推進している企業はどこか、という点に新卒の学生や中途採用の求職者の注目が変化しています。そこで厚生労働省イクメンプロジェクトでは、株式会社ワーク・ライフバランスさんとフローレンスと共に、企業がどのように男性育休の推進を図っているか、調査を行うことになりました。
今回の調査結果は法改正のタイミングで厚生労働省と2023年3月に記者会見での公表を予定しており、各社の取組みや成果の発信をサポートしていく方針です。
ぜひ多くの企業からのご回答をお待ちしております!
※過去3年間の育休取得実績、平均残業時間、平均有給取得日数のデータをご準備いただくと、回答がスムーズです。
調査概要
調査実施:厚生労働省イクメンプロジェクト
調査協力:認定NPO法人フローレンス、株式会社ワーク・ライフバランス
アンケート監修:慶応大学大学院特任講師 伊芸研吾氏