医療的ケア児が保育を受けられる可能性が広がることになりました。
医療的ケア児を預かる企業主導型保育施設に対し、看護師などの配置を支援する加算を創設することが、令和5年度の予算案に盛り込まれました。全国小規模保育協議会の理事を務める弊会の駒崎が、内閣府の「子ども・子育て会議」で提言してきた政策が実現したのです。
医療的ケア児家庭に保育の場を
たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な「医療的ケア児」は、新生児医療の進歩などを背景に増加傾向にあり、全国に約2万人いると言われていますが、そうしたお子さんをお預かりする施設は極度に不足しています。結果として、保護者が24時間ケアを担うことになり、就労の機会を失っている実態があります。
受け入れ可能な保育施設を増やすことが喫緊の課題ですが、医療的ケア児をお預かりするためには、ケアに対応できる専門人材の配置や環境整備などが必要になります。それだけコストも賄わなければなりませんが、企業主導型保育施設では難しいのが実情でした。
企業主導型保育施設が抱えていた課題
企業主導型保育施設とは、企業が従業員の働き方に応じた柔軟な保育サービスを提供するために設置する保育所や、地域の企業が共同で設置・利用する保育所のことです。2016年に内閣府が開始した「企業主導型保育事業」という助成制度のもと運営されています。
「認可外保育所」に分類されますが、認可保育所並みの助成金を受けられるということもあって、年々増加しています(令和4年4月1日時点で全国で4,420施設)。
しかし、医療的ケア児を預かる際の加算や、看護師等を配置するための加算については、企業主導型保育施設には適用されていませんでした。
内閣府の「企業主導型保育事業を行う施設における 医療的ケアの必要な児童の預かり実態についての調査研究 報告書」によると、「医療的ケア児の入所相談を受けたことがある」と回答した施設のうち、実際に「受け入れたことがある」と回答したのは20.4%にとどまっています。
そして、受け入れにあたっての課題としては、医療的ケアについての基礎知識の不足や事故等のリスク対応への不安のほかに、「医療的ケアへの対応が困難であるため、保育従事者のマンパワーが不足する」(57.5%)、「看護師等の確保が難しい」(56.4%)、「受け入れ体制を整備するための資金が不足している」(41%)といった指摘がありました。
※内閣府 令和3年度子ども・子育て支援調査研究事業「企業主導型保育事業を行う施設における医療的ケアの必要な児童の預かり実態についての調査研究報告書」(2022年3月 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)より抜粋
今回、医療的ケア児を受け入れるための看護師などの配置を支援する加算が創設されることで、これまで難しさを感じていた企業主導型保育施設でも積極的な受け入れが進むと期待されるのです。
医療的ケア児保育のパイオニアとして支援の輪を広げます
フローレンスは、医療的ケア児・障害児保育のパイオニアとして、これまで様々なかたちでお子さんやご家族のサポートを行ってきました。2014年に日本で初めて医療的ケア児・障害児を専門的に長時間お預かりする「障害児保育園ヘレン」を開園、翌年にはご自宅でマンツーマンの保育を実施する「障害児訪問保育アニー」をサービスイン。
2019年からは「医療的ケアシッター ナンシー」をスタートし、24時間介護をお休みできない親御さんに、レスパイト(休息)の時間を提供しています。
さらに2021年には障害のあるお子さんを自宅でお預かりしながら、一度仕事を離れた親御さんでも再就職を希望する方がサポートプログラムを受けられる『障害児かぞく「はたらく」プロジェクト』も始めました。
こうした事業と同時に力を入れているのが、医療的ケア児・障害児とそのご家族を取り巻く環境をより良くする取り組みです。
2015年にフローレンスが中心となり、医療的ケア児のお預かりに課題があることの啓発活動を行う全国医療的ケア児者支援協議会を設立。支援の拡充を訴え続けた結果、2021年9月、日本の歴史上初めて、国や地方自治体が医療的ケア児の支援を行う責務を負うことを明文化した「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(通称:医療的ケア児支援法)」が施行されました。
この法律の後押しもあり、認可保育園では医療的ケア児・障害児を含む子どもたちを同じ環境で保育する「インクルーシブ保育」が広まりつつあります。フローレンスが行なった調査では2022年10月現在、東京23区で医療的ケア児・障害児保育の受け入れをしている、あるいは来年から検討している認可保育園は8割を超えることがわかっています。
また、近年は東京都内の各区で、保育園での医療的ケア児の受け入れに関する講演や研修を行うなど、フローレンスが培ってきたノウハウを他団体や自治体に共有する取り組みも行っています。
すべては、子どもも家族も笑顔で生きられる社会のために。
誰も取り残されることなく、可能性を叶えることができる、そんな「あたらしいあたりまえ」を目指して。
フローレンスは、支援現場を自分たちの手で運営しながら、そこから日々得られる親子の生の声や、事業ノウハウを社会に広げ、国や自治体に具体的施策を提言をすることで、日本の子どもを取り巻く環境、綱渡りを強いられているハードな子育て環境を、アップデートしていきます。
こうした取り組みは、皆さんからご支援いただく寄付を原資に実施しています。