2023年4月から、改正育児・介護休業法により、男性の育児休業取得促進のため、常時雇用する労働者が1,000名を超える事業主は、育児休業等取得の状況を1年に1回公表することが義務付けられます。
これに先駆け、フローレンスは、厚生労働省「イクメンプロジェクト」、株式会社ワーク・ライフバランスとともに、国内の企業を対象に独自の実態調査を行いました。調査協力の呼びかけに応じた、141社の回答から得られた分析結果を3月15日、記者会見の席で発表いたしました。
※「男性育休推進企業」とは本調査に回答した企業のことを指します
日本全国の男性育休平均取得率は2021年度で13.97%(厚生労働省調べ)に対して、今回の調査の結果、「男性育休推進企業」では、平均取得率76.9%、平均取得日数40.7日という結果が出ました。
また、男性育休取得推進に向け、企業がどのような施策に取り組んだかについても調査しました。記者会見では4月の公表義務化を見据え、男性育休取得の現状と、取得促進につながった施策について発表。また、取得伸び率が高いなど、さまざまな視点から注目すべき企業名とその取り組みについてもご紹介しました。さらに今後企業が進めるべき施策について、イクメンプロジェクトの立場からご提案しました。
「男性育休推進企業実態調査2022」調査概
調査期間:2022年12月1日~2023年1月31日
調査回答企業:141社
調査内容:男性育休取得状況(平均取得日数、取得者数、対象者数)、男性育休取得促進の取り組み、制度と取得促進に関する方針の周知方法など
アンケート監修:一般社団法人エビデンス共創機構 代表理事/慶応大学大学院特任講師 伊芸研吾氏
司会進行を務めたのは、テレビ局において先駆的に育休をとったTBSの蓮見孝之アナウンサーです。
調査結果から明らかになったこと
過去3年間で、男性育休取得率は大幅に上昇。平均取得日数は40日前後で推移
今回プロジェクトの調査に回答した、男性育休推進企業の結果では、2020年が52.0%、2021年が59.7%、2022年が76.9%と直近2年間で24.9ポイントも増加しました。厚生労働省が毎年発表している男性育休取得率の2020年12.65%、2021年13.97%という推移と比較すると、男性育休推進企業の方が大幅に取得率を伸ばしていることがわかります。
男性育休推進企業においては、男性の育児休業取得が定着してきたことがうかがえます。一方で平均取得日数は40日前後で推移しており、大きな変化がありませんでした。男性育休の取得率と平均取得日数には相関がみられず、取得率が高いからといって取得日数が長いわけではありませんでした。
取得率が100%であっても平均取得日数が数日という企業もあったことから、本当に社内で男性育休が定着しているのかを見極めるためには「当事者が希望する期間の取得ができたのか」「取るだけ育休になっていないか」といった点で情報を精査する必要があります。
職場全体で働き方改革を実施すると男性育休取得日数が約2倍に
働き方改革の実施と育休取得率・取得日数の関係性を調べました。働き方改革を職場全体で「実施している」と回答した企業は育休平均取得率77%、平均取得日数も33日とともに高い傾向にありました。「一部部署で実施している」と回答した企業は平均取得率は76%と高いものの、平均取得日数は17日に留まりました。育休取得日数は、「職場全体で働き方改革を実施している」と、そうでない企業の約2倍になっています。
要因としては、仮に社内で声掛けや促進をすることで「取得率」が高まったとしても、取得日数は、職場全体で働き方改革をして、「仕事の属人化」を解消していなければ伸びないということが考えられます。なぜなら、仕事が属人化したままの企業では当事者が「周囲に迷惑をかける」という懸念から希望日数を取得しづらい環境になってしまうからです。
・普段から業務が属人化しないよう、業務についてはテキスト化を進め、社内チャットツールでもオープンコミュニケーションを取ることを促進しています。(金融・保険、100名以上300名未満)
フリーコメントより抜粋
・テレワークの推進、ダブル担当制の導入、業務分担の見直し、育児休業の他配偶者出産休暇や短時間勤務制度等の整備と周知、男性育休の社内教育。(その他の業種、100名未満)
「当事者以外への情報提供」による職場の風土醸成が取得日数向上のカギ
企業の取組について調べてみると、平均取得日数が14日以上の企業では、「当事者以外の従業員や、パートナーが男性育休の必要性について学べる仕組みがある」「社内外に向けて、取得者の事例を発信している」など、当事者以外への情報提供をしている割合が高いという結果になりました。育児休業を当事者の問題とせず、職場全体へ情報提供を通して男性育休取得への職場の理解や風土醸成をすることが取得日数向上に繋がっています。
実施施策 | 0~13日 | 14~29日 | 30日以上 |
---|---|---|---|
当事者以外の社員も男性育休の重要性や制度・方針について学べる仕組みがある | 69% | 81% | 79% |
当事者及び自社社員のパートナーが男性育休の重要性や 制度・方針について学べる仕組みがある | 56% | 59% | 70% |
男性育休の重要性や制度・方針について、当事者以外の 従業員も情報を入手できる方法があり、周知されている | 77% | 89% | 86% |
社内に向けて取得者の事例を収集・発信している | 52% | 74% | 81% |
社外に向けて取得者の事例を収集・発信している | 33% | 52% | 47% |
・「子育て部」を創設し、育児中のパパ・ママが育児話をする機会を社内で創設。部署を跨いだ育児仲間を作り、育児休業取得が普通になる社内雰囲気の醸成に挑戦している。その他、社内研修の実施により、管理職層への働きかけを実施。(サービス、300名以上1000名未満)
フリーコメントより抜粋
・男性育休に関するセミナーや社内イベント(パパ育休取得者による座談会等)を定期開催。(製造、1000名以上)
・庁内ホームページ上で、男性育休の意義や及ぼす好影響について触れたコラムや、育休を取得した男性職員、配偶者が育休を取得した女性職員の体験談を掲載している。(官公庁・自治体、1000人以上)
男性育休推進企業の中でも直近3年間で大きな伸びを見せた注目企業
今回の調査の回答から、2020年~22年の3カ年連続で育休取得率・取得日数を記録していた企業について調べました。男性育休の取得率、取得日数が直近3年間で急速に伸びた企業、さらにこれまで、すでに男性育休取得推進への取り組みを進めており、その効果が顕著に現れている企業が明らかになりました。
評価指標は以下の通りです。
①2020年と2022年(見込み)の男性育休取得率の伸び率が上位の企業
②2020年と2022年(見込み)の男性育休取得日数の差異が30日以上の企業
③2022年(見込み)について男性育休取得率80%以上かつ取得日数30日以上の企業
取得日数の伸びが大きかった業界は建設・不動産・物流業界で、2.8倍でした(8日→23日)。建設・物流業界は労基法改正の残業上限適用が2024年に迫っています。他の業界に比べて5年遅れで働き方改革が進み、ここ2年の労働環境の変化が結果につながったものとみられます。
取得日数が短かった業界は金融・保険業界で、2022年の平均取得日数は11日でした。この業界の取得率は平均98%と高いのですが、日数が2週間に達していません。業界の特徴として長時間労働であり、長期では休めない実態がまだまだあるのではないかと考えられます。
取得率の伸びが大きかったのはIT・メディア業界で、2.1倍でした(23%→50%)。男性育休は、職場への負荷がかかるので、余裕がある大企業でしか出来ないとよく言われますが、今回の調査で取得率と取得日数で群を抜いていた2社は中小企業でした。
企業の事例紹介
サカタ製作所(新潟県長岡市)
従業員数150名の製造業です。男性育休取得率は2018年から5年間連続100%です。取得日数は154日で、従業員のご家庭で産まれる子どもの数が取組前の4.5倍になっていました。
行った施策としては、以下のような内容でした。
・2014年から働き方改革。仕事の棚卸しで属人化解消、残業時間は1日3分・有給取得率77%。
・育休シミュレーションシートで、給付金を計算して提示。漠然としたお金の不安を解消。
・トップが男性育休100%宣言。
ベアレン醸造所(岩手県盛岡市)
従業員数50名の地ビールの会社です。2021年から連続2年間の取得率100%であり、平均取得日数は90日です。男性育休取得率100%企業の中でも平均取得日数の長さで見れば第2位で、従業員のご家庭で産まれる子どもの数が取組前の4倍になっていました。
行った施策としては、以下のような内容でした。
・2016年から働き方改革に取り組み、54%の残業削減、有給取得率92%。
・プレパパに父親学級を実施。
・トップが男性育休100%宣言。
大王製紙株式会社(東京都千代田区)
141社の中で取得率の伸びが最も顕著でした。グループで13000人の企業ですが、2020年には、6.3%だった取得率が、2022年93%まで上昇し、約15倍となっています。取得日数も32日でした。
行った施策としては、以下のような内容でした。
・2021年から全社での働き方改革を実施。経営層・部長への働き方改革連続研修を実施。
・トップが男性育休100%宣言。
・管理職274名に男性育休の必要性研修、プレパパ108名に企業主導型父親学級を実施。
・役員リレービデオメッセージで男性育休を応援する動画を配信。
調査結果を受け、イクメンプロジェクトとしての提言
調査結果から明らかになったこととしては、以下が挙げられます。
①取得率は伸びているが、日数はばらつきがあり、「取るだけ育休」になっている企業がある。
②「職場全体で働き方改革を実施している」企業の育休取得日数は、そうでない企業の約2倍。職場全体で業務の属人化を解消する働き方改革を実施しなければ、取得日数の伸びにはつながらない。
③当事者以外への情報提供の有無と取得日数は相関関係にある。育休取得への職場の理解や風土醸成が取得日数増加へつながっている。
つまり、男性育休は取得率の向上だけでなく、取得日数を向上させるには「職場全体での働き方改革」と「当事者以外への情報提供」を行う必要があります。
取得日数を伸ばすべき大きな理由としては、「産後うつ予防」が挙げられます。産後の妻の死因の1位は自殺です。その要因の「産後うつ」を予防するには、産後に7時間睡眠を取れる生活が重要ですが、夜中も2時間ごとの授乳があり、一人で育児をすると7時間寝ることは不可能です。
日本社会が核家族化し、妻が一人で育児をするようになってから、児童虐待の件数も増え続けているのです。この産後うつのピークの時期である産後2週間から2か月の時期に夫が育休を取得することが出来れば、妻と子どもの命を救うことにつながります。だからこそ男性の育休は重要です。
また、第一子出生の際に夫の育児・家事時間が長い家庭ほど、第二子以降が生まれており、実際の家事育児参画時間が少子化改善には重要です。男性育休の本来の目的から考えると、数日だけの取得では本来の役割を果たすことが出来ず、「取るだけ育休」となってしまいます。
2022年4月の法改正により、企業から当事者へ、取得の意向確認を行うことが義務付けられて、「男性育休の取得を申し出ること」のハードルはなくすことが出来ましたが、まだ数日休むのがやっと、という職場が多いことから、2023年からはその中身に注目していくことが重要になります。
そこで、イクメンプロジェクトとしては今回、2023年4月から1000人超の企業に取得率公表が義務付けられる機会を契機として、取得率のその先にある「取得日数」に注目して分析を行いました。
2023年4月より、従業員1000人超の企業には、取得率の公表が義務付けられます。公表する場としては、自社のHPや厚生労働省の両立支援ひろばだけでなく、上場企業は内閣府令の改正により「有価証券報告書」への記載も求められるため、今後株主・機関投資家から注目されるようになります。
日本生産性本部による調査では、男性新入社員の79.5%が男性育休を取得したいという結果もあることから、今回の取得率公開は、人材獲得競争において自社の優位性を示し、優秀な人材を惹きつけるために非常に重要な鍵となることは間違いありません。
それだけでなく、株主・投資家に対して、優秀な人材の獲得と満足度向上を通じてサステナブルに成長し続けられる企業であることを示し、積極的な人的資本投資の姿勢と成果を見せていくことが経営戦略として待ったなしであると言えるでしょう。
イクメンプロジェクトについて
「イクメンプロジェクト」は育休制度見直しと合わせ、社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメントを巻き起こすべく、2010年6月に発足し、以降、様々な活動を展開してきました。2021年6月に育児・介護休業法が改正され、新たな「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、制度改正は段階的に進められてきました。今後「イクメンプロジェクト」では、新たな制度である産後パパ育休や企業の取り組みなどが社会に浸透・定着し、あらゆる職場で男性が育児休業を取るのは当然、となることを目指しています。今後も各分野の有識者等で構成される推進委員会を設置し、イクメンの皆さん、ご家族や企業・自治体等イクメンサポーターの皆さんとともに、時代を牽引していきます。
今回の記者会見に登壇した駒崎弘樹、小室淑恵の両名は、推進委員会委員(駒崎は座長)としてイクメンプロジェクトに参画しています。
フローレンスの政策提言活動・ソーシャルアクションについて
フローレンスは、支援現場を自分たちの手で運営しながら、そこから日々得られる親子の生の声や、事業ノウハウを社会に広げ、国や地域の制度に具体的施策を提言をすることで、日本の子どもを取り巻く環境、綱渡りを強いられているハードな子育て環境を、アップデートしていきます。
今回の記者会見、全国調査、広報活動についても全て皆さんからの寄付により実現しています。
いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。
日本中のすべての親子の笑顔のために、フローレンスはこれからも皆さんと共に「新しいあたりまえ」を形にしていきます。