2023年2月24・25日にウェルビーイング財団、フローレンス等が「こども・青年のウェルビーイング国際会議」を開催しました。
この会議の目的はオックスフォード大学、ケンブリッジ大学等のアカデミア、OECD等の国際機関の研究者などウェルビーイングに関連する国内外の有識者らが一堂に会し、こども・青年のウェルビーイングの課題認識等を共有し、共通の大きなビジョンを共に開発すること。
フローレンスは「こども・青年のウェルビーイング国際会議」の共同主催を通じて、世界的に子どものウェルビーイングを計測する構想を、国内外の専門家の方々とともに、日本の政府や企業に提言しています。
こども・青年のウェルビーイングに関して、参加者の共通の問題意識は、「こども・青年のウェルビーイングを指標に置いて政策立案をすることが大事。だけど、このデータが世界で十分取れていなくて、政策立案に活かせない状態」というものでした。
目次
1.ウェルビーイングって?
みなさんは「ウェルビーイング」をご存知ですか?
WHOによると、「ウェルビーイングとは、個人や社会が経験するポジティブな状態のことです。健康と同様、日常生活の資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決定される。」と定義されています。
つまり、体も元気で、精神的にも安定していて、社会的にも自身が受け入れられていると感じられて、どの要素においても充分満たされていると実感できている・・・
そんな状態のことが「ウェルビーイング」であると言えそうです。
この「ウェルビーイング」は2種類に分けられます。
それは「客観的」ウェルビーイングと「主観的」ウェルビーイングです。
客観的ウェルビーイング・・・GDPや健康寿命、教育を受けられる年数など、数字で容易に取得が可能なもの
主観的ウェルビーイング・・・個人が自身の現状にどれだけ満足しているか、どれだけ自分のことを「幸せだ」と思えているかという主観的な実感値のこと
これだけ聞くと、GDPや健康寿命はニュースでも取り上げられていることがあり、客観的ウェルビーイングの方が重要な気がするかもしれません。ですが、昨今重要視されているのは主観的ウェルビーイングの方なんです!
実は日本の「客観的ウェルビーイング」は世界的に見てもとても高いのです。日本は世界GDPランキングでは3位、WHOによる世界健康寿命/平均寿命ランキング*では両方とも堂々の1位を獲得しています。
ですが、「あなたは日々満たされていると実感できていますか?」と聞かれて「はい」と自信を持って答えられる日本人は多くないと思います。
それもそのはず、国連が発表した“World Happiness Report 2022”※によると、日本人の幸福度は54位、G7の中では最下位だったのです。この幸福度は、主に主観的幸福度によって決定されています。自分の幸福度は0~10段階でどこに当たるかという聞き方をしています。
World Happiness Report 2022” Ranking of Happiness 2019-2021
2.オックスフォード大学、OECD等におけるウェルビーイング研究成果と課題
2月24日、富山県庁舎本館にて、ウェルビーイング富山セッションが開催されました。
オックスフォード大学ウェルビーイングリサーチセンターのJan-Emmanuel De Neve教授とLaura Taylor氏、マンチェスター大学のJose Marquez 氏が登壇。
Jan教授は、前出の“World Happiness Report”の主著者でもあります。
オックスフォード大学チームからの報告
●最近の研究で分析した39カ国において、2015年から2018年の間に15歳の学生の人生への満足度が世界的に低下していることが確認された。特に日本では急激に数値が悪化しており、ワースト2位の結果であった(1位はイギリス)。
●こどものウェルビーイングは家族、先生、友人との触れ合いに強く影響される。日常生活の中で、政策が介入できるのは学校であると示し、学校を通じてこどものウェルビーイングに大きな変化をもたらすべき。
OECDからの報告
次に、OECDのWISEセンターのOlivier Thevenon氏からの発表です。
●子ども時代のウェルビーイングが大人になってからのウェルビーイングに大きく影響を与えることがわかっている。こどもの頃にウェルビーイングが高かった人は、大人になってから経済的に豊かで、周囲と良好な関係を築き、精神的にも身体的にも健康である傾向が高い。反対にこども時代のウェルビーイングが低かった人は、低収入で人間関係をうまく構築できず、健康状態も良くない傾向にある。
●そして、それはGDPの平均3.4%分の喪失をもたらしてしまうという研究結果もある。(右端がOECD平均3.4%)
子どもが充分に幸せを感じながら暮らせる・・・感情的に考えると、いいことだと誰しもが理解できると思いますが、経済的な観点などを見てもこんなに影響を与えるのは驚きです。現在の大人のウェルビーイングももちろん大切ですが、国の将来を考えた時に、子どものウェルビーイングに投資をすることは健康的な社会の醸成に大きく寄与すると言えそうです。
しかし、、いま直面している大きな課題が一つあります。
それは、
「こども(15歳未満)の主観的ウェルビーイングに関するデータが圧倒的に不足している」
ということ。
もちろん、OECDによるPISAや、WHOによるHBSCなどの国際的な調査も存在していますが、いずれの調査でも調査項目に統一性がなかったり、調査対象地域が限定的だったりと世界全体で比較できるものではないようなのです。
そのため、しっかりと子どものウェルビーイング(特に主観的ウェルビーイング)を世界各国で計測できる指標を作り、定期的に計測を実施していくことが求められています。
3.富山ウェルビーイング戦略について
実は、今回の開催地、富山県は政治的に初めてウェルビーイングを成長戦略に落とし込んだ「ウェルビーイング先進県」なんです!
今後、ウェルビーイングを政策に提案していくにあたり、富山県の新田八郎知事から、いままでの取り組みと今後の戦略を共有いただきました。富山県の取り組みについて詳しく知りたい方は是非富山県/ウェルビーイングの推進をチェックしてみてください。
富山県が主観的ウェルビーイングにスコープを置いた背景には、人口流出問題が一因としてあるようでした。特に20〜24歳の女性の流出が顕著だそうです。流出数は、同じ年齢の男性よりも4倍程度大きいとか……。若年の女性の流出は、大局的に見た時に、県内の結婚率の低下、ひいては出生率の低下に悪い影響を及ぼします。
こうした現状を鑑みて、富山県で住むことに魅力を感じられるよう主観的ウェルビーイングの数値に基づいた政策を作るべきという意思決定がされたそうです。
富山県の先進的な取り組みのポイントは主に3点ありました。
<富山県の戦略の特徴>
① 組織横断のウェルビーイング専門部署を創設!
通常、行政は縦割り組織であることが多いのですが、富山県は全国で初めてウェルビーイング専門の横串の組織を作りました。この組織が主体となり、市民アンケートを地道に収集し政策の土台を作っているのです。
②スコープは主観的ウェルビーイング!
富山県は世界的にも珍しく、県民の主観的ウェルビーイングにスコープを設定しています。
③全国への事例展開を目指している!
富山県は富山県民だけでなく、富山から全国にウェルビーイング戦略の事例展開を広げていく未来を描いています。
主観的ウェルビーイングがスコープに設定されていることで、客観的な豊かさだけでなく、県民が個人として豊かさを実感することに重きをおいた施策を実施できているのではないでしょうか。また、仕組み化し他県への広がりを目指している所も、公益のために活動している姿勢が伺えました。こうした富山県のウェルビーイングに特化した行政改革・計画は、OECDなどの海外の参加者からも称賛を受けました。
今回訪問した富山県・石川県は、5月に開催されるG7教育大臣会合の開催地でもあり、同会合でもこどものウェルビーイングがテーマになると思われます。
4.自由なグループディスカッションで印象的だったこと
意見交換の場として参加者全員が小グループになって自由に交流する時間を設けました。そのなかで、2011年にイギリスで取り組まれたMappinessというプロジェクトを聞き、とてもおもしろかったのでレポートします。
住民のHappiness(幸福)度をMap(地図)に表すから「Mappiness」。
以下の画像の黄色や赤色は、その地域の幸福度を示しています。この幸福度をどう計測しているかというと、市民がMappinessというアプリをスマートフォンにインストールし、1日1回自分の精神状態の質問に答えます。
そうすると、その結果が位置情報とともに送信され、各エリアで幸せに感じている人(もしくはそうでない人)がどのくらいいるかリアルタイムに把握できるのです。
もし人のウェルビーイングを政策目標にしていれば、学校付近で不幸せに感じている人が多い時、行政はそこに対する施策を講じるべきだと判断がつくのです。
5.石川県にて知事との面会と今後の方針の策定
2日目は、石川県に移動し、石川県の馳知事との意見交換を行いました。海外の有識者らとこどものウェルビーイングについて意見を交換し、G7でのこどもウェルビーイングの採択という共通の目標に向かって認識を合わせることができました。
この日の午後には、参加者全員で「今後の方針」をまとめました。
今後の方針
1. こどもと青年の主観的なウェルビーイングの推進が重要であること。文部科学省が、教育振興基本計画においてウェルビーイングの要素を入れ込んだ努力を歓迎する。
2. こどもと青年のウェルビーイングに関する世界規模でのクロスセクション調査及び縦断調査が必要であること。当該調査は、人口動態や主観的なウェルビーイングの要素、主観的なウェルビーイングの決定要因、カバーされる国という観点で現時点における欠落を埋めるとともに、国際的な理解を強化するための国を超えて利用可能なデータの提供を行うものであること。
3. 測定のためのガイドラインは、国際機関や専門家の協働的な取組を通じて構築されるべきであること。その際、こどもや青年の有意義な参加が求められること。また、当該ガイドラインは、存在する科学的な知見に基づくとともに、社会文化的な多様性を反映して構築されるべきものであること。
4. 上記の取組は、こどもと青年のウェルビーイングを向上する目的で実施される、エビデンスに基づいた政策の土台となるべきこと。
この方針について、
・こどものウェルビーイング向上を基本方針としている こども家庭庁
・G7教育大臣会合の実施等を担当している 文部科学省
・「将来のための国連サミット」を担当する 外務省
・関西大阪万博の準備を進めている 経済産業省
・自民党ウェルビーイング特命委員会
上記関係者や会議体に共有することとなりました。
こども家庭庁を設立し、こども政策を本気で進めていこうとしている日本こそ、この動きをリードしていくべきだと考えています。そして、5月に文部科学省が主催するG7教育大臣会合でも「こども・青年のウェルビーイング」について議論し、世界でのデータ取得と政策立案への活用の必要性について認識を共有してほしいです。
今回の国際会議を皮切りに、フローレンスは、今後も「こども・青年のウェルビーイング」に貢献できるよう、調査や提言を進めていきます。
今回の国際会議で「今後の方針」を一緒に作った参加者の皆様
石川善樹(公益財団法人Well-being for Planet Earth/一般社団法人ウェルビーイング学会/九州大学/東京財団)
小澤いぶき (PIECES)
金山亮 (デロイトトーマツグループ)
金森由晃 (慶應義塾大学/東京財団)
河野優祐 (Life is Tech !)
駒崎弘樹 (認定NPO法人フローレンス)
鈴木寛(一般社団法人ウェルビーイング学会/東京大学)
Rajesh Srinivasan (ギャラップ社)
Laura Taylor (オックスフォード大学)
Jan-Emmanuel De Neve (オックスフォード大学)
Olivier Thevenon (経済協力開発機構(OECD))
中山友希 (パーソル)
幡谷拓弥(認定NPO法人フローレンス)
東野瑠華 (慶應大学/東京財団)
Jose Marquez (マンチェスター大学)
町田来稀 (活育財団)
丸本徳之 (Life is Tech !)
皆川春菜 (認定NPO法人フローレンス)
宮田裕章 (一般社団法人ウェルビーイング学会/慶應義塾大学/東京財団)
村上(内堀)愛恵 (慶應義塾大学/東京財団)
森本真弘 (MS&ADインターリスクリサーチ&コンサルティング)
米田有希 (認定NPO法人フローレンス)
渡邊淳司 (NTTコミュニケーション科学研究所)
(敬称略・五十音順)
こどもウェルビーイングを測定する国際指標はまだありません。子どもの主観的ウェルビーイングを計測する構想における、今回のような国際会議の実施や調査・提言の実施は、みなさまからの寄付によるあたたかいサポートに支えられています。これからも、どうか厚いご支援をよろしくお願いいたします。