6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2023」が閣議決定されました。
経済財政運営と改革の基本方針 2023 加速する新しい資本主義 ~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現
「こども家庭庁」設立や「次元の異なる少子化対策」が議論されるなど、子育てをとりまく課題や取り組みに注目が集まるなか、フローレンスも「いま本当に必要な子育て支援」は何かを考え、提言を続けてきました。
そして発表された今回の「骨太の方針」。
少子化対策・こども政策については、6月13日に閣議決定された「こども未来戦略方針」に基づき取り組んでいくこととされていて、わたしたちが提言してきた「みんなの保育園構想」と同じ趣旨の「こども誰でも通園制度(仮称)」が盛り込まれたほか、仲間とともに提言してきた「こどものウェルビーイング指標」「男性育休の取得推進」が入りました。さらに、「子育て無料社会」として提言してきた子育て世帯への経済的支援や、「伴走型相談支援」について記載されたほか、「医療的ケア児支援の強化」「こども宅食」「日本版DBSの導入」も昨年に引き続き盛り込まれています。
「こども未来戦略方針」にも触れながら、詳しくご紹介します。
#無園児を無縁児にしない 「みんなの保育園構想」が「こども誰でも通園制度(仮称)」として実現へ
全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するとともに、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化するため、現行の幼児教育・保育給付に加え、月一定時間までの利用可能枠の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付(「こども誰でも通園制度(仮称)」)を創設する
こども未来戦略方針p.17
骨太の方針に盛り込まれた「こども誰でも通園制度(仮称)」は、フローレンスが「みんなの保育園構想」として、実現を訴えてきた政策です。
今の保育制度では、親が働いているかどうかなど保育の必要性認定がなければ保育園を利用することができません。基本的に共働き世帯のための施設として提供され、専業主婦(夫)家庭などは対象外とされてきました。
しかし、保育園を必要としているのは共働き世帯だけなのか。わたしたちは独自調査を行って、保育園などに通っていない無園児(未就園児)家庭が「孤独な子育て」に陥りやすく、また、孤独を感じている家庭ほど、定期保育サービスの利用意向が高いことを明らかにしました。
不安や孤独を誰にも相談できないなかでの育児は、子どもへの虐待リスクが高まる恐れもあります。また、保育園で幼少期からたくさんの子どもや大人と関わることは、子どもの心身の発達にも大きなプラス効果をもたらします。
保育の必要性認定にかかわらず、誰もが週に1回でも2回でも保育園を利用できるように。これが、フローレンスが提言してきた「みんなの保育園構想」であり、骨太の方針に盛り込まれた「子ども誰でも通園制度」なのです。
「こども未来戦略方針」では、今年度・2023年度中に「こども誰でも通園制度」のモデル事業を拡充させ、来年度・2024 年度から制度の本格実施を見据えるとされています。
フローレンスが運営する保育園では、これまでも空き定員枠を活用して専業主婦家庭などの定期的なお預かりを試行してきましたが、今年度始まる国のモデル事業においても、東京・中野区と仙台市で実施事業者として採択されました。
報道によると、モデル事業は31市区町村の計50施設で実施される予定で、すでに保護者からの利用申込みが殺到しているケースもあるということです。
わたしたちもさらに実践を重ねて、重要性や課題を洗い出し、発信していきたいと思っています。
また、この制度を進めるには保育士の配置基準や保育従事者全体の処遇改善が大切です。
さらに、保育園に「通園」できない医療的ケア児や障害のあるお子さんたちの居宅保育にも適用できるようにする必要があります。
「通園」制度のままでは、医療的ケア児・障害児家庭が対象から抜け落ちてしまい、その親子を取り巻く困難な環境は置き去りにされてしまいます。
孤独な子育てで苦しむすべての家庭に支援が届くように、より良い制度につながるよう提言を続けていきます。
こどもたち自身が幸せを感じているかどうかで政策立案を 「こどもウェルビーイング指標」初記載!
政府の各種の基本計画等におけるKPIへのWell-being指標の導入を加速するとともに、こどもに着目した指標の在り方について検討する。さらに、地方自治体におけるWell-being指標の活用を促進する
骨太の方針p.36
「ウェルビーイング」という言葉、まだまだ聞き慣れないかもしれません。
WHO(世界保健機関)によると「個人や社会が経験するポジティブな状態のこと」「健康と同様、日常生活の資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決定される」と定義されています。
つまり、体も元気で、精神的にも安定していて、社会的にも自身が受け入れられていると感じられて、どの要素においても充分満たされていると実感できている・・・そんな状態のことが「ウェルビーイング」であると言えそうです。
GDPや健康寿命などの「客観的ウェルビーイング」と、自分自身の人生への満足度などの「主観的ウェルビーイング」の2種類があり、近年注目を集めているのが主観的ウェルビーイングです。
フローレンスは、この主観的ウェルビーイングを子どもを対象に計測し、国の政策立案に活用することを公益財団法⼈ Well-being for Planet Earth(代表理事:石川善樹氏)、東京大学 鈴木寛教授らと共に提言してきました。
今年4月に創設された「こども家庭庁」の目指すところは、「こどもまんなか社会の実現」とされていますが、実施される政策や取り組みが本当に子どもたちを幸せにしているのかどうか、「こどもまんなか」になっているのかどうか、指標がなければ分からないのではないでしょうか。
骨太の方針の書きぶりでは「こどもに着目した指標の在り方について検討する」という段階です。
主観的ウェルビーイングが政策の指標として活用されるよう、提言を加速させます。
“実質100%賃金保障” 男性育休のさらなる推進へ!
給付面の対応として、いわゆる『産後パパ育休』(最大28日間)を念頭に、出生後一定期間内に両親ともに育児休業を取得することを促進するため、給付率を現行の67%(手取りで8割相当)から、8割程度(手取りで10割相当)へと引き上げる。 具体的には、両親ともに育児休業を取得することを促進するため、男性が一定期間以上の『産後パパ育休』を取得した場合には、その期間の給付率を引き上げるとともに、女性の産休後の育休取得について28日間(産後パパ育休期間と同じ期間)を限度に給付率を引き上げることとし、2025年度からの実施を目指して、検討を進める
こども未来戦略方針p.20
父親が「産後パパ育休」を取得し、母親も育児休業を取った場合、休業前の賃金を「夫婦ともに」実質的に100%保障するという方針が記載されました。
「産後パパ育休」は、「出産後8週間以内」に「4週間(28日)※4分割可能」まで男性が育児休暇を取得できるもので、2022年10月に始まった新しい制度です。
現在、「産後パパ育休」取得中には、賃金の67%の育休給付金を受け取ることができますが、これを80%に引き上げるとともに社会保険料の支払いも免除することで、実質的に賃金の10割を保障するということです。
「産後パパ育休」をとるのが当たり前になるように。
フローレンスが提言してきたことが大きく前進します。
フローレンス会長の駒崎は、2010年に厚生労働省と有識者で発足したイクメンプロジェクトのメンバーとなり、2013年には座長に就任。株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんをはじめ、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さん、父親支援NPOファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんなど、子育てと働き方改革に造詣の深い有志メンバーと共に「男性産休の創設」と「男性育休義務化」に向けて政策提言とロビイングを続けてきました。
今年4月から始まった、育児休業取得率の公表についても厚生労働省「イクメンプロジェクト」、株式会社ワーク・ライフバランスとともに独自の実態調査を行い、注目すべき企業の取り組みを紹介するとともに、取得日数の伸び悩みという課題や進めるべき施策をご提案。
特に、産後うつの予防のためにも、産後2週間から2か月の時期に夫が育休を取得することが大切だと訴えてきました。
今回、骨太の方針に示された政策で、「4週間も休んだら給料が減って家計に影響が出てしまう」という、産後パパ育休取得を躊躇させる最大のハードルが解消されることになります。
ルールが変わり、賃金という経済的な障壁も取り払われようとしている今、残るは職場と、働く人一人ひとりの「空気」の変革だと考えています。それは、業務の属人化を防ぎ、誰が抜けてもチームメイトがカバーできる、真の意味での「働き方改革」にもつながっていくと思います。
男女ともに家事・育児の当事者意識をもち、家庭を共同運営するという新時代の家族のあり方を、フローレンスはこれからも提案していきます。
「子育て無料社会」への一歩 経済的支援の充実
出産等の経済的負担の軽減、地方自治体の取組への支援による医療費等の負担軽減
骨太の方針p.17
学校給食無償化の課題整理等を行う
骨太の方針p.19
家庭の経済事情にかかわらず、誰もが学ぶことができるよう、安定的な財源を確保しつつ、高等教育費の負担軽減を着実に進める。2024年度から、授業料等減免及び給付型奨学金の多子世帯や理工農系の学生等の中間層への拡大、大学院修士段階における授業料後払い制度の創設及び本格導入に向けた更なる検討、貸与型奨学金における減額返還制度の年収要件等の柔軟化による拡充を図るとともに、多子世帯の学生等に対する授業料等減免について、執行状況や財源等を踏まえつつ、更なる支援拡充を検討し、必要な措置を講ずる。地方自治体や企業による奨学金返還支援など多様な学生支援の取組の促進、初等中等教育段階も含めた関係者への周知等を図る
骨太の方針p.43
政府が「異次元の少子化対策」「子ども関連予算倍増」を検討し始めたのを受けて、フローレンスは、必要だと考える政策を洗い出し、独自に試算を行いました。
出産から大学卒業まで、保育も医療費も教育費も、子育てに必要な基本的なサービスが無料で、経済的な不安がなく安心して子育てができる社会を「子育て無料社会」と呼んで特設サイトで紹介してきました。
骨太の方針では、「出産等の経済的負担軽減」「医療費等の負担軽減」「給食費無償化」と「高等教育費」について触れられています。
このうち、高等教育費について。給付型奨学金の対象拡大や、大学院での授業料後払い制度創設は大切な取り組みですが、私たちが訴えてきた大学の無償化にまでは届いていません。
日本財団が10歳から18歳の1万人を対象に行なった調査では、国や社会が子どもたちのために優先的に取り組むべきことを複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「高校・大学までの教育を無料で受けられること」で、40.3%だったといいます。
せめて公立大学は実質無償で通えるようになれば、経済的な負担から子どもを産むのをためらう人を減らしたり、子どもたちが学びたい場所で学べるようになるのではないでしょうか。
誰もが希望すれば安心して産み育てられる「子育て無料社会」の実現を、わたしたちは諦めません。
「伴走型相談支援」 求められるデジタル化
妊娠期から出産・子育てまで、身近な場所で相談に応じ、多様なニーズに応じた支援につなぐ「伴走型相談支援」について、地方自治体の取組と課題を踏まえつつ、継続的な実施に向け制度化の検討を進める。その際、手続等のデジタル化も念頭に置きつつ制度設計を行う
こども未来戦略方針p.16
伴走型相談支援は、妊婦・子育て家庭の孤立防止のため、妊娠期から産後の間に3回、助産師さん等と子育てについて相談する仕組みです。
「出産・子育て応援交付金事業」という新しい制度で、この3回の面談を受けるとセットで合計10万円の経済支援が受けられるようになりました。
とても大切な取り組みですが、妊娠中や産後に外出して相談に行くのは大変ですし、行政の窓口が開いている平日の日中に時間を作るのも簡単なことではありません。また、3回の面談だけで本当に寄り添った支援ができるのかも疑問です。
そこでフローレンスは、さまざまな環境にある親子とLINEなどのSNSでつながり続け、対面とオンラインの両輪で伴走する相談支援=デジタルソーシャルワークを立ち上げました。社会福祉士等の専門資格を持つ支援員が、雑談・相談を受けながらゆるやかにつながり、情報提供、行政や他機関・団体と連携して地域の支援につなげています。
こども未来戦略方針では「手続等のデジタル化を念頭に」とされていますが、本当に必要なデジタル化は相談の部分です。
「外出することなく」「いつでも、何度でも」子育てについて相談できるように。
より使いやすい制度になるよう、これからも提言を続けていきます。
引き続き盛り込まれた政策 スピード感持って具体化を
昨年の骨太の方針に続いて盛り込まれた項目のひとつ、「医療的ケア児支援」については、次のように書かれています。
発達障害児や強度行動障害を有する児童、医療的ケア児を始めとする全ての障害のあるこどもへの支援体制の整備等、多様なニーズを有するこどもの地域の支援基盤の強化を図る
骨太の方針 P.18
たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な「医療的ケア児」は、新生児医療の進歩などを背景に増加傾向にあり、全国に約2万人いると言われています。
フローレンスは、2014年に日本で初めて医療的ケア児・障害児を専門的に長時間お預かりする「障害児保育園ヘレン」を開園、翌年にはご自宅でマンツーマンの保育を実施する「障害児訪問保育アニー」をサービスイン。2019年からは「医療的ケアシッター ナンシー」をスタートするなど医療的ケア児・障害児保育のパイオニアとして、お子さんやご家族のサポートを行ってきました。
2021年には障害のあるお子さんを自宅でお預かりしながら、一度仕事を離れた親御さんでも再就職を希望する方がサポートプログラムを受けられる『障害児かぞく「はたらく」プロジェクト』も始めています。
また、フローレンスが事務局を務める「全国医療的ケア児者支援協議会」も、「永田町子ども未来会議」のメンバーとして医療的ケア児の支援拡充のために提言を行ってきました。
こうした活動は2021年、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の制定につながりました。
医療的ケア児に対する支援は各地で始まったばかりで、課題はまだまだ残されています。
骨太の方針に具体策は書かれていませんが、スピード感を持って支援が強化されるよう強く願います。
ほかにも、過去に性犯罪歴がある人が保育・教育など子どもと関わる仕事に就けないようにする仕組み「日本版DBS」や、地域社会から孤立しがちな環境にある子どもを出前型支援で見守る「こども宅食」なども、昨年に引き続き入りました。
日本版DBSについては6月16日、小倉こども政策担当大臣が今年秋に見込まれている臨時国会に関連法案を提出する考えを示したと報じられました。 6月中に有識者会議を立ち上げ、議論を進めるということです。
フローレンスは保育・教育現場をはじめ、子どもに関わる職業全てを対象に、過去に性犯罪を犯していないことの証明を義務付ける日本版DBSの創設をいち早く訴え、ソーシャルアクションを続けてきました。 こども家庭庁の目玉施策とされてきた日本版DBS。 ようやく実現が見えてきました。 制度の実効性と安定的な運用のためには、いくつか重要なポイントがあり、今後の議論を注視したいと思います。 わたしたちが考える5つのポイントはこちらから詳しくご確認いただけます。
誰もが笑顔で産み育てられる社会に
その年の重要政策の方向性を示す、骨太の方針。
医療、雇用、教育、防衛など多岐にわたる項目の中でも、今年の注目は少子化対策と言われていました。
去年1年間に生まれた子どもの数は初めて80万人を下回り、出生率は過去最低。2025年頃から20代の人口が急激に少なくなると見込まれていて、少子化対策のタイムリミットは目前に迫っていると指摘されています。
誰もが安全・安心に、そして笑顔で産み育てられる社会にしなければ。
フローレンスはこれからも全力で取り組みます。
支援現場を自分たちの手で運営しながら、そこから日々得られる生の声や、事業ノウハウを社会に広げ、国や地域に具体的施策を提言することで、親子を取り巻くあらゆる課題の解決を目指します。綱渡りを強いられているハードな子育て環境を、アップデートしていきます。
こうした取り組みは、皆さんからご支援いただく寄付を原資に実施しています。
いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。
これからもよろしくお願いします。