子どもと接する職業に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度「日本版DBS」の導入に向けた検討が大詰めを迎えています。フローレンスは9月1日、8万筆超の署名をこども家庭庁の小倉こども政策担当大臣へお渡しし、日本版DBSの対象を塾や習い事、無償ボランティアも含めた「子どもと関わる仕事すべて」とすることを強く要望しました。
性加害者を子どもと接する仕事に立ち入らせない仕組み「日本版DBS」。塾や習い事が義務化対象外に
性加害者が子どもと関わる仕事に就くことを防ぐため、今秋の臨時国会に「日本版DBS」導入に関する法案が提出される見通しです。
しかし、国はその対象施設を保育園や幼稚園・学校に限定し、塾やスポーツクラブは義務化の対象とはせず、採用時、自主的に性犯罪歴の確認を行う場合に「適合マーク」を与える案が有力との報道がなされています。この線引きでは、性犯罪歴の確認を行うかどうかは事業者に任されることになり、チェックが行われない職場へ性加害者が紛れ込むリスクがあります。このような抜け道のある制度では、子どもたちを守ることができません。
8月19日には、大手学習塾で講師として勤務していた人物が、児童にわいせつな内容を言わせるなどした姿をスマートフォンで盗撮して逮捕されています。容疑者は「十数人の女子児童を盗撮して、SNSのグループチャットに動画を複数投稿した」と供述しており、これまでにも多くの児童に性加害を行っていたものとみられます。
「四谷大塚」で生徒盗撮、25歳の元講師に有罪判決…小児性愛者のグループチャットに投稿
小児性犯罪の再犯率は他の性犯罪と比べても高く(※)、逮捕・処分歴のある教員・保育士などが、それを隠して別の場所で再び犯行に及ぶ事例は決して珍しいものではありません。
※法務省『平成27年版 犯罪白書』第6編/第4章/第4節/2:https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_4_4_2.html
【独自】わいせつで免職の元教員、免許状コピーで障害児支援企業に再就職
【独自】わいせつ処分歴隠し学童再就職、児童にまた被害…情報共有の仕組みなし
8万を超える賛同の声をこども家庭庁に届ける
国内の子ども・子育ての社会課題解決に取り組むフローレンスは、2017年より、子どもを性被害から守るため、日本版DBSの導入を求めて政策提言活動を行ってきました。
制度化が実現したとしても、性加害者に抜け道を残すような仕組みでは子どもを守れません。そこでフローレンスは、日本版DBSの対象を塾や習い事、無償ボランティアを含め、すべての子どもに接する仕事とすることを求め、8月10日より小児科医や産婦人科医の方々と共同で署名活動をスタートしました。
署名に参加してくださった方の数は、開始から21日の8月31日時点で81,801人。並行して、署名に参加してくださった方を対象に日本版DBS導入に向けた思いをアンケート形式で伺ったところ、8月25日からの6日間で448件もの声が寄せられました。
・子どもの小学校の臨時講師が教え子に対する性犯罪で逮捕されました。数年後、近隣市の小学校で再び講師をしているとの噂を耳にし、絶望したものです。 こういった人間が、その後塾等に流れるとよく聞きます。子どもにかかわるどころか全ての仕事を対象にDBSを導入していただきたい。
・自分自身が性被害を受けたことがあります。50年経った今でも、当時の犯人の顔、大人たちの反応は覚えています。忘れることはできません。
・学習塾を運営しています。子どもたちの未来のためにも、塾含む各種教育事業領域において、当該制度の適用対象の拡大を求めます。
・塾やスポーツクラブ、子ども対象のボランティア等を、学校や家以外の「居場所」としている子どもは多くいます。子どもの心身が守られて、安心して過ごせる場所にしてください。
・加害者の職業選択の自由と子どもの人権や未来を天秤にかけないでください。
そして本日9月1日、こども家庭庁の小倉こども政策担当大臣に直接お会いする機会をいただき、日本版DBSの対象を無償ボランティアも含めた「子どもと関わる仕事すべて」とすることを要望しました。
小倉大臣からは以下のようなお話をいただきました。
「8万を超える国民のみなさん1人1人の声を重く受け止めた。可能な限り多くの事業者を対象にし、実質義務化したい。担当大臣として、力を尽くしたい。」
塾や習い事などの事業者による性犯罪歴のチェックが、任意ではなく、事実上の義務化になりうる可能性が高まりました。設置時に行政の許認可が不要な業種については規制が難しい側面もありますが、こうした業種への制度適用に向け、前向きで力強いお言葉をくださった小倉大臣に心から感謝申し上げます。
今回、このように要望を政府に直接届けられたのは、たくさんの方が署名に参加し、声を上げてくださったからです。署名に参加してくださった皆さん、アンケートで貴重な声を寄せてくださった皆さん、この取り組みをSNSで拡散してくださった皆さん、寄付で支えてくださった皆さん、本当にありがとうございました。
被害者の心に生涯消えない傷を残し、「魂の殺人」とも呼ばれる性被害。今回の提言が、日本版DBSの対象を拡大し、子どもと関わるすべての職種とする後押しとなることを願います。
また、フローレンスは以前から、前科(刑事裁判で有罪判決を受けて確定した経歴)だけでなく、前歴(逮捕など捜査対象になったが不起訴に終わった犯罪)も日本版DBSの対象とするよう提言してきました。
裁判で有罪が確定するのは、子どもに関する性被害のごく一部です。起訴猶予も対象とし、刑法以外の条例違反も含めるなど、実効性のある制度となるよう、今回改めて小倉大臣に要望しました。
真に子どもたちを守れるように、引き続き日本版DBSに関する提言活動を続けてまいります。
こうした政策提言活動は、皆さんからのご寄付に支えられています。ぜひ、今後ともフローレンスの活動を応援いただきますよう、よろしくお願いいたします。