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医療的ケア児・障害児を置き去りにしないで! 「こども誰でも通園制度」は居宅訪問型保育も対象にしてください

医療的ケア児・障害児を置き去りにしないで! 「こども誰でも通園制度」は居宅訪問型保育も対象にしてください

#障害児・医療的ケア児家庭支援 #こども誰でも通園制度 #ソーシャルアクション

親が働いているかどうかなど、保育の必要性認定にかかわらず保育園を利用できるようにする「こども誰でも通園制度」。フローレンスが「みんなの保育園構想」として、実現を訴えてきたのと同じ趣旨の制度で、来年度・2024年度から試行的事業が始まることになっています。
国の検討会で行われてきた、試行的事業の内容についての議論が今、大詰めを迎えているのですが、そのなかでどうしても見過ごせないことがあります。
それは、病気や障害で保育園に通えないこどもたちを対象にした「居宅訪問型保育」が「こども誰でも通園制度」の対象外になろうとしていることです。

「居宅訪問型保育」は保育者が家庭を訪問し、1対1のきめ細かな保育を実施します。医療的ケアが必要なお子さんや障害のあるお子さんを受け入れている保育園はまだまだ少ないほか、感染リスクがあるために集団保育を受けられないお子さんもいて、「居宅訪問型保育」が必要とされています。

「すべてのこどもの育ちを応援」「すべての子育て家庭」が対象であるはずの「こども誰でも通園制度」。医療的ケア児などの障害児が置き去りにされそうになっていることに強い疑問を感じ、フローレンスは障害児・医療的ケア児家庭の声を国に届けようと、保護者にアンケート調査を行いました。

アンケート概要

調査方法:インターネット上での回答
調査期間:2023年11月24日~11月30日
調査対象:全国の障害児・医療的ケア児の家族
回答数:149人

約9割が求める「定期的な保育」

アンケートは、障害児保育・支援の情報をお伝えするためにフローレンスが運営しているLINEグループなどを通して行いました。アンケートの期間は1週間足らずでしたが、149人もの方から回答がありました。
このなかで、「こども誰でも通園制度」の趣旨である「就労の有無を問わない定期的な保育」を利用したいかどうか尋ねたところ、利用を望む声が約9割にのぼったのです。

定期的な保育利用の意向グラフ

「障害児を受け入れた前例はない」 泣きながら帰った日

アンケートには切実な声が数多く寄せられました。

健常児だったら働いてなくても保育園にいけるのに、障害や病気があるだけで享受できない制度があるという状況にはしてほしくない。 特に未就学児のうちはまだ親が子どもの障害を受け入れきれていないことも多く、孤独感から死を考えることは決して珍しいことではない。 私が今生きているのは、ただただ運がよかっただけだと思っている。 どうか、どんなこどもであっても社会で受け入れる世の中であってほしい。 親子を守る制度を作って頂きたいと切に願う

こう綴ったのは、東京都に住むAさんです。
現在8歳になるお子さんは560グラムの超低出生体重児で、脳内で出血が起きるなどして病院を退院できたのは1歳1ヶ月の時でした。
Aさんはひとり親。出産も子育ても初めてです。
栄養を投与するためのチューブが取れて胃ろうとなり、在宅酸素も24時間必要ではなくなった頃、1年半の育休の終わりが近づいてきたため、Aさんは復職に向けて保育園の相談をしようと最寄りの区役所を訪ねたと言います。

ひとり親ですし、働かないと暮らしていけないので、当然、保育園を利用しようと役所に相談に行きました。
そうしたら、「障害のあるお子さんを受け入れた前例がないので、申し込みをしても無理だと思いますよ」と言われたんです。
目の前が真っ暗になりました。
前例がないなら、どうやって受け入れていくか相談させてもらえると思っていました。
障害を理由に断られるなんて想像もしていませんでした。
社会に受け入れてもらえないという孤独感、絶望感に襲われました。
障害のある子を持って初めて知りました。こんな気持で暮らしている人がいるんだと、無知だったと思いました。
「おうちでみられないんですか?親御さんにお願いできませんか?」と。
保育園以外に利用できる施設やサービスの紹介もなく、泣きながら帰りました。

孤独感のイメージ

Aさんは児童発達支援事業所を利用することで仕事に復帰しました。
児童発達支援事業所は、障害のある未就学のこどものための支援のひとつで、日常生活での基本的な動作の指導や知識技能をつけるための通所施設です。保護者の付き添いが必要な場合が多いですが、Aさんは一定時間預かってくれる、「預かり型」と呼ばれる事業所を利用しました。朝9時に迎えに来てくれて、預かってくれるのは15時まで。時短勤務をしていましたが、それでも迎えの時間には間に合わないため、両親の助けを借りました。
上司の理解はありましたが、お子さんは年に3回ほど入退院が必要になることもあって、同僚からは「休んでばかりで仕事を押し付けている」と言われるなどし、正社員からパートに切り替えました。

そしてAさんは、区長や区議会議員にメールで実情を訴えました。全くつてはありませんでしたが、なんとかしなければ何も動かないと考えたのです。議員の1人が直接話しを聞いてくれ、区役所に働きかけてくれて、ようやく「お子さんの様子を見たい」と連絡がありました。
区の保育園での受け入れ実績がなく、すぐに受け入れは難しいが居宅訪問型保育制度はある。家で訪問保育を受けるのはどうかと提案されました。
こどもの体力面や安全面を冷静に考えると集団保育は難しいと感じたAさん。フローレンスの「障害児訪問保育アニー」の利用を始めることになりました。
お子さんは4歳になっていました。

保育の様子

集団保育が難しいこどもたち 居宅訪問型保育で得られること

Aさんのように、受け入れてくれる保育園がなかったり、お子さんの体調面のリスクを避けるため居宅訪問型保育制度を必要としている家庭は少なくありません。
アンケートで「保育園への入園が難しい理由」を複数回答で尋ねたところ、「保育園にケアを行う専門職がいない」が76.5%、「障害児の受入実績がない」が69.8%、「感染リスクがある」が44.3%と続きました。

保育入園が難しい理由のアンケート

Aさんのお子さんは小学校入学まで「アニー」を利用。Aさんは当初、集団保育を希望していたと言いますが、今は居宅訪問型保育で良かったと心から思っていると話します。

息子は目が悪いので、みんなで集まって絵本を読んでいてもよく見えないんです。集団でなにかやりましょうと言ったところで興味を向けられないので、1対1でしっかり関わってくれる人がいる、目の前で絵本を読み聞かせてくれる人がいる。それは息子にとってとても良かったと思います。
もともと絵本には興味がなかったのですが、根気よく読み聞かせしていただいているうちに絵本が大好きになりました。自分で本棚からお気に入りを引っ張ってきたりするようになりました。
集団保育だと薄まってしまう刺激が、居宅訪問型保育によってしっかり対応してもらったと感じています。

Aさん家族

居宅訪問型保育にこそ「こども誰でも通園制度」を

アンケートでも「保育の利用を希望する理由」として最も多かったのが「保育活動を通してこどもの心身の発達に良い影響がある」で85.9%でした。

保育希望の理由アンケート

「こども誰でも通園制度」から「居宅訪問型保育」が対象外とされていることについて、Aさんは次のように話します。

医療的ケア児・障害児家庭で、すべてを受け入れることのできている人は少数派だと思うし、孤独感を抱えていない人はいないと思います。
公共の遊び場にはとても行けなかった。集団保育にお願いする勇気もなかったし、他のお子さんと比べてしまうのも嫌だったと話す人が多いのです。
さらに、共働きの家庭なんて何%あるでしょうか。
働けなくて困っている、頻繁に休んでも許されるような職場が見つからずに困っています。
居宅訪問型保育利用者こそ、就労の有無に関わらず利用できる、この制度が必要です。
障害者を受け入れてくれる社会にはなっていないのに、制度からすら締め出されてしまったら本当に救いがありません
大事なのは、選択肢があることではないでしょうか。
制度を作る皆様には、障害をもって生まれた子とその家族が安心して生活することができるにはどんなものが必要なのか、今よりほんの少し耳を傾けてもらえたらと切に願います。

障害児福祉の現状に愕然 家族の未来のために転居した父親も

アンケートには、フローレンスの障害児保育の利用者ではない方からも多くの回答をいただきました。
そのうちの1人、Bさんは次のような意見を寄せてくれました。

健常児と分け隔てなく障害児・医療ケア児にも制度を適用してください。 政治家・官僚の皆さんは既に福祉サービスがあるから対象外とお考えのようですが、現状の福祉サービスだけで充足してると思いますか?障害児・医療ケア児がいる家庭はほとんどが共働きもできず、日頃のケアだけで手一杯です。そんな中で藁をもすがる思いで新しい制度やサービスに頼りたいと考えています。 どうか対象となるようご検討をお願い致します。

Bさんは、去年7月に生まれた第一子が重症新生児仮死と診断され、急遽、1年あまりの育休を取得。これからどう生活していくか、行政や病院に相談しましたが“支援のなさ”に愕然としたと言います。

妻もフルタイムで働いているので、いずれ妻も復職することを前提に相談しました。それに対し、はっきりと言われるわけではありませんが、「本気ですか?」という雰囲気なんです。「正直難しいですよね」という反応でした。
腹立たしかったですね。
そもそも、こどもや家庭をサポートするノウハウと知識を持った人がいない
そしてサポートを実現する物理的な場所や金がない
この2つの課題があると痛感しました。

Bさん家族

当時、神奈川県に住んでいたBさんは、病院や行政の体制、医療的ケア児・障害児を受け入れている認可保育園の数や受け入れ人数、どれくらいのケアレベルを受け入れているのかなどについて東京23区すべてを独自調査
最も充実していると感じた、世田谷区に転居しました。
お子さんは重度脳性麻痺で筋緊張があり、呼吸器は数十分の離脱は可能ですが24時間着用、1時間に1、2回の吸引が必要で、胃ろうを受けています。
現在は、週5日の訪問看護のほか、児童発達支援事業所を週1回利用していて、妻の復職を見据えて今後、保育園の利用も希望しています。

将来への不安がすごくありましたが、転居してきて、相談相手や同じ立場の人の話を聞ける場もあり、未来に希望を持てるようになりました。それでも、世田谷区の認可保育園で医療的ケアが必要なお子さんを受け入れているのは6か所で、各園1人だけ、対応可能なケアも限られています。
集団保育を受けられる体制がまだまだ整備されていないなか、「こども誰でも」と言うからには、機会を均等にしてください。

医療的ケア児・障害児家庭に保育を

アンケートでは、集団保育が難しい場合、「居宅訪問型保育の利用を希望」する人は約9割にのぼっています。

居宅訪問保育の希望者割合

アンケートに寄せられた声です。

医療的ケアの必要なこどもをもつ親が働くというのは(中略)本当に厳しい現実だと実感しています。
かと言って、働かないという選択をすると、ずっとこどもと二人きりで家にいて引きこもりのようになりがちで、社会から切り離されたような、自分たちだけ溝の隙間に落ちてしまったかのようなとても暗い気持ちになることが多かったです。

医療ケアがあると、通常使えるサービスも利用困難です。(ベビーシッターや一時預かり施設など)そもそもの選択肢がないのに、なぜ奪う

医療的ケア児の親は、睡眠時間を削って毎日毎日終わりのないケアをしています。(中略)こどもらしく遊んでやる余力はまったく残りませんそれでも、こどもらしいことを少しでも経験させてやりたいのです

医療的ケア児・障害児と家族の声を聞いてください

Bさんは最後に、こんなことも話してくれました。

こどもが生まれるまで、仕事ばかりで育休を取るつもりはありませんでした。営業の仕事だったんですが、マネージャーになって1年たたないタイミングでした。正直、これまで通りに働くのは難しいと思い、会社を辞めることも考えました。
追い詰められて、まともに頭が回っていない状態でした。
でも、人事の人と相談を重ねて、仕事の内容を変えて働き続けることに背中を押してもらいました。
デリケートな家庭の話をするのはハードルが高いですが、話したらサポートしてもらえました。
まずは伝えていって、知ってもらわないといけない。知らないと理解してもらえない。
制度への不満はもちろんあるんですが、制度を作る人に声を届けていかないといけないと思うんです。

Bさん家族

そう。だから、フローレンスは仲間とともに声を届けます。
こども家庭庁の「子ども・子育て支援等分科会(第4回)」(12/6開催)で、アンケート結果と、それに基づく提言を行いました。

提言

国は「今ある障害児福祉の制度(居宅訪問型児童発達支援・居宅介護)で対応可能」としていますが、これらは「療育」と「親の負担軽減」を目的としています。
「子どもの育ちの保障」を目的とする「こども誰でも通園制度」と重複するものではありません

その上で、今の障害児福祉の制度は
・自治体によっては支給決定のハードルが高い
・サービスの提供頻度が少なく、時間も短い
保護者の付き添いが必須の場合が多い
・短時間の外出が可能なお子さんでも、散歩や屋外あそびに制限がある

こうした課題があり、障害児・医療的ケア児家庭を支える仕組みとして十分機能しているとは言い難いのが現状だと考えます。

「こども誰でも通園制度」の試行的事業の内容は今年・2023年中にまとまる予定で、国は2025年度に制度化し、3年後の2026年度には全国すべての自治体での実施を目指すとしています。

居宅訪問型保育も制度の対象に。
医療的ケア児・障害児と家族の声をフローレンスは届け続けます。

自治体・民間企業に本アンケート結果を提供します

フローレンスは、本調査の結果を、ぜひ今後の支援施策の参考としてご活用いただきたいと考え、以下に調査結果のデータを公表いたします。下記より、ダウンロードの上ご活用ください。引用元として「認定NPO法人フローレンス」と明記をお願いいたします。使用費はいただきません。

参考資料

【報告書】全国の障害児・医療的ケア児の家族に対する、こども誰でも通園制度に関するアンケート結果

※ご使用の際には、下記2点をお願いしております。 
・引用元として「認定NPO法人フローレンス」と出典の明記をお願いいたします。 
・弊会の取材申込フォームに使用用途を記載の上お知らせください。

取材申し込みフォーム

ソーシャルアクション・政策提言は皆さんのご支援で運営しています

フローレンスは、支援現場を自分たちの手で運営しながら、そこから日々得られる親子の生の声や、事業ノウハウを社会に広げ、国や地域の制度に具体的施策を提言をすることで、日本のこどもを取り巻く環境、綱渡りを強いられているハードな子育て環境を、アップデートしていきます。

今回、行ったアンケート調査、提言活動についても全て皆さんからの寄付により実現しています。いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。

現在、フローレンスでは、「#こどもの体験格差をなくそう」を合言葉に、家庭の事情により学びやレジャーなどの体験の機会を得ることが難しい全国のこどもたちに、体験機会を提供する「こどもの体験格差解消プラットフォーム」の立ち上げを目指し、ふるさと納税型クラウドファンディングに挑戦しています。ぜひ、皆さんの応援をよろしくお願いいたします。


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