長年、フローレンスと全国小規模保育協議会が提言してきた「3~5歳児のための小規模保育」がついに全国で実現します!
3月4日に開催された、こども家庭庁「第9回子ども・子育て支援等分科会」で示された「児童福祉法等の一部を改正する法律案の概要」において、「全国において、3~5歳のこどものみを対象とする小規模保育事業の実施を可能とする」ことが明記されました。
止まらない少子化によって待機児童問題が解消に向かう中、国の保育政策は「量の確保」から「質の向上へ」と舵が切られました。今回の施策も、その一つと捉えられます。3~5歳児のみの小規模保育が全国で可能になることで、こどもたち一人一人の個性を尊重し、きめ細やかな保育を提供する新たな選択肢が生まれます。
小規模保育とは?その特徴と現状
小規模保育とは、定員19名以下の少人数制保育です。保育士がこども一人一人に寄り添い、家庭的な温かい環境の中で保育することができます。保護者の方とも密なコミュニケーションを取りやすく、信頼関係を築きながら、子育てをともに歩むことができるのが特徴です。
現行制度では、原則0~2歳児を対象としていますが、市町村の判断により3~5歳児も受け入れ可能です。例えば、過疎地やへき地などで近くに保育施設がない場合や、きょうだいで別々の施設に通園せざるを得ない場合、集団生活を行うことが困難である場合などが明記されています。その場合、例えば定員19人であれば、基本的には0~2歳の集団に、3歳以上のこどもがわずかにいることになります。
今回の法改正により『3~5歳児「のみ」を対象とした小規模保育事業』が、全国でできるようになります。例えば定員が19人であれば、全員が3~5歳ということです。今回の法改正は、こどもの性質や家庭の状況によって、多様な保育を選択できることの重要性を示しています。国の資料においても「子どもの保育の選択肢を広げる観点で意義がある」と明記されています。
小規模保育を取り巻く課題
1.「3歳の壁」
小規模保育では、原則として3歳児以上は卒園し、別の保育園や幼稚園に転園する必要があります。しかし、新たな受け入れ先を見つけるのは容易ではありません。3歳児を受け入れる認可保育園の定員は0~2歳児よりも少ないことが多く、待機児童が未解決の自治体では、入園が難しいという現実があります。
国の制度上、小規模保育は3歳以降の受け入れ先を確保することが求められていますが、地域によっては受け皿が不足していたり、連携先が遠方であったり、幼稚園であったりと、共働き世帯にとっては利用しづらい場合もあります。
一部の自治体では、小規模保育の卒園生が3歳児で保活をする際に加点をつけたり、連携園には優先的に入園できるようにするなどの対策を講じています。しかし、自治体によっては3歳になった時点で待機児童になってしまうリスクは0ではないため「3歳の壁」と呼ばれています。
3~5歳の小規模認可保育園が全国で作れるようになれば、卒園児の受け皿となることもできます。
2.3~5歳の小規模保育への誤解
小規模保育では、園庭や広い運動スペースの確保が難しいことから、3~5歳児の運動発達を促すにあたって保育環境が不十分であるという声もありました。
施設・設備については、これまでの小規模保育と同様に、近隣の公園や広場を日常的に利用して戸外活動がおこなわれる想定です。これらの場所は園庭の代替として認められており、こどもたちの外遊びや運動の機会を確保することができます。
また、3~5歳のこどもは、保育所保育指針において「こども同士のかかわりを通じた学び」が重視されており、多様な年齢のこどもたちとの関わりが社会性を育むとされています。そのため、小規模保育では集団保育で得られる経験が不足するという指摘があります。
しかし、大規模な集団での保育が、必ずしもすべてのこどもに適していると言えるでしょうか。
小規模保育ならではのメリット
手厚い保育と多様なニーズへの対応
発達に特徴があるこどもや、人見知りが強いというような性質を持つこどもにとって、大人数の集団はかえってストレスとなる場合があります。
また、生まれつきの疾病を持つこどもなどにとって、少人数のほうが感染症へのリスクが低い場合があります。
小規模保育では、こどもの数が少なく、職員の配置基準も手厚いため、こども一人一人の発達特性や個別のニーズに合わせた支援ができる環境が整っています。多様なバックグラウンドを持つこどもやその親に対し、大規模な園では実現しづらい、きめ細やかなサポートを提供できるという利点があります。
フローレンスと全国小規模保育協議会の政策提言活動の歩み
フローレンスは、全国小規模保育協議会とともに、長年にわたり3~5歳児の小規模保育の必要性を訴えてきました。

2016年3月:待機児童緊急対策として「小規模保育での3~5歳児の受け入れ拡大」を要望
「3歳の壁」と呼ばれる小規模保育所を卒園した3歳児の受け入れ先の課題に対し、待機児童解消のため、小規模保育での3歳児以上の受け入れを要望しました。当時おこなったアンケートの結果、50%もの事業者が「3歳以降の受け皿となる連携施設が見つからない」と回答していました。(全国小規模保育協議会「2016年版 小規模保育白書」より)
2017年9月:国家戦略特区で「特区小規模保育事業」開始
「特区(国家戦略特区)」において0~5歳や、3~5歳など、事業者の判断により小規模保育事業の対象年齢を0~5歳の間で柔軟に定める小規模保育事業の実施を提案し、実現しました。
当初、厚生労働省からは「小集団では集団保育の良さがないのではないか」といった指摘がありましたが、海外の同様の事例を紹介しながら、多様なバックグラウンドを持つこどもたちに寄り添える、きめ細やかな保育が可能で、そうした選択肢も必要であることを説明し、理解を得ました。しかし、自治体の積極的な参加が不可欠であり、全国的な広がりにはつながりませんでした。
2021年6月:子ども子育て会議で「3~5歳小規模保育の全国化」を要望
大阪府堺市など特区のみで行われていた3~5歳の特区小規模保育の有用性を会議で共有し、全国展開を訴えました。
また、少子化が進む地域では既存の認可保育園のインフラを維持できなくなる可能性があることを指摘し、0~2歳の小規模認可保育園と連携する形で3~5歳の小規模認可保育園を設置することで、保育インフラを維持できる可能性を提言しました。
2023年4月:0~5歳保育が全国で可能に(3~5歳のみは特区のみ)
こどもの保育の選択肢を広げる観点から、全国において、0~2歳を対象とする小規模保育事業において3歳以上の幼児を受け入れることについて、ニーズに応じて市町村が柔軟に判断できるようになりました。しかし、「3歳以上のみ」のように、事業者が対象年齢を0~5歳の間で柔軟に定めることは、引き続き特区内でのみ可能でした。
「3~5歳児のための小規模保育」で実現できること
1.過疎地における保育インフラの維持
少子化が進む過疎地域では、大規模保育施設の維持が困難です。既存の大規模保育園が廃園すると地域の保育の受け皿がなくなってしまいますが、小規模保育園は、狭いスペースでも開設できるため、地域の実情に合わせた保育を提供できます。
また、0~2歳児を対象とする家庭的保育・小規模保育事業からの卒園児の受け皿となり、「3歳の壁」問題の解消にも貢献します。
全国に点在する待機児童解決の一助となり、あらゆる地域のこどもたちの「保育を受ける権利」を保証することができます。
2.こどもの育成環境の小規模化
小規模な保育を提言してきたのは、少子化でこどもが減って大きな集団がつくれないから、という後ろ向きな理由だけでもありません。前述の通り、小規模な環境は、こども一人一人に寄り添った、きめ細やかな対応を可能にします。
小規模集団のメリットは、児童養護施設や小学校など、他の育成環境でも認識されています。児童養護施設ではグループホームやユニットケアが導入され、小学校では少人数学級化が進んでいます。
この傾向はあらゆるこどもの育成環境において進められており、こどもたちの健全な成長と自立を支援するために、より家庭に近い環境での養育が重視されているのです。
3.多様なバックグラウンドを持つこどもたちの選択肢
3~5歳児の保育料が無償化されているにも関わらず、未就園のこどもは依然として存在します。未就学児の通園は義務ではありませんが、その背景にはさまざまな要因が存在したり、地域とつながれておらず、孤独な子育てをしている可能性もあります。
これまで述べてきた通り、小規模保育は、一人一人の状況に合わせた柔軟な対応が可能であり、大規模保育では難しいかもしれない、きめ細やかなサポートを提供できます。障害などの理由で大人数での生活になじまないこども、困りごとを抱えた要支援家庭、言語・生活習慣において異なる文化を持つ外国籍の親子など、多様なバックグラウンドをもつこどもたちやその親に寄り添い支える保育に適しています。
3~5歳児のための小規模保育は、こどもたち一人一人の個性を尊重し、地域や利用者の多様なニーズに対応できる、新たな可能性を秘めた保育の形です。
今回の法改正を機に、小規模保育が全国に広がり、より多くのこどもたちが安心して成長できる環境が実現することを願っています。
「新しいあたりまえ」を目指して
フローレンスと全国小規模保育協議会は、今後もこどもたちがより良い環境で健やかに成長できるよう、保育の質向上と安心安全な子育て支援のために提言活動を続けてまいります。
フローレンスのこうした社会的アクションや政策提言活動は、皆さんからのご寄付によって支えられています。いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。引き続きご支援・応援をよろしくお願いします。