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教室で顔を覆っている女の子

こどもに対する卑劣な性加害は断じて許さない!強い意志が込められた新しい法律「こども性暴力防止法」の中間とりまとめ案を解説します

保育や教育現場での、こどもに対する痛ましい性加害のニュースが後を絶ちません。

2025年7月、小学校の教員らのグループが女子児童を盗撮し、その写真をSNSグループで共有していたという事件の報道がありました。この事件の関係者が、児童の持ち物に体液をつけたり、児童の身体に触れるなどの加害行為をしていたこともわかっています。

▼児童盗撮共有の教諭2人再逮捕、楽器損壊やわいせつ疑い 捜査本部設置

性暴力は「心の殺人」とも言われ、被害に遭ったこどもたちの将来に大きな影響を及ぼします。わたしたちフローレンスは長年にわたり、こどもたちの生活の場に性犯罪者たちを立ち入らせない方法について、調査・提言を行ってきました。

こどもに対する性加害は断じて許すことはできないものであり、「性加害を起こさせない」仕組みを整えることが必要です。
その仕組みづくりを大きく進める「こども性暴力防止法」(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)が来年の12月より施行予定です。このような「こどもの性暴力」に特化した法律が成立したことは児童福祉にとって大きな一歩であるといえます。

現在は、関係省庁による施行準備検討会が開かれており、具体的運用やガイドライン策定など、制度施行までの準備作業が進行中です。その検討会にて、制度の骨格について示す中間とりまとめ素案が、先日こども家庭庁より示されました。
こども性暴力防止法の概要と、中間とりまとめ素案で示された詳細について解説します。

こども性暴力防止法の概要

こども性暴力防止法は、学校、幼稚園、保育園、学童、塾など、こどもと関わる事業者が、その事業においてこどもに対する性加害を起こさせないために講じる措置について定めています
講じる措置については、大きく5つ挙げられます。

ここで注目したいのは、「初犯対策」と「再犯対策」が組み合わされている点です。こども性暴力防止法の目玉の一つである「日本版DBS」(従事者の性犯罪歴を確認できる仕組み)は再犯対策であり、初犯を防ぐことはできない、という指摘もされてきました。
こどもに対する性犯罪の9割は初犯と言われており、初犯を防ぐための仕組みづくりも必要不可欠です。5つの措置のうち4つは「初犯対策」となっており、初犯対策にも重点が置かれていることがわかります。
それぞれの措置について、「中間とりまとめ素案」で公表された内容は以下のとおりです。

措置①未然防止のための環境整備

性暴力を起こさせないための環境整備として、就業規則などの中にこどもに対する性暴力防止のためのルールや取り組みを記載・周知し、全ての従事者の共通理解を形成することが求められます。
また、児童と1対1になりやすい環境、複数の目が届きにくい環境は性加害が起こるリスクが高くなることから、死角を可能な限りなくし、性加害が起きにくい環境づくりを行うことが必要です。物理的に死角をなくす対応に加え、定期的な巡回、防犯カメラの活用などの対応も考えられます。

措置②従事者に対する研修の実施

アルバイトやボランティアなどを含む全ての従事者に対する研修の実施が義務付けられます
研修を通じて、こどもの権利への理解、性暴力が生じる要因、不適切な行為や性暴力の疑いを発見した際の相談ルートの周知を行います。実際の現場で発生し得る事例をもとにしたケーススタディ、グループワークを行うことも効果的です。

措置③早期把握のための相談体制

こどもに対して、複数の相談ルートを用意することや、定期的な面談・アンケート調査などを行うことによって、被害発生時の早期把握に取り組むことが求められます。
性暴力が発生した際、こどもが自ら被害を訴えることは非常に困難です。こうした対応を行うことにより、被害発生時に被害児童が声をあげやすく、早期に発見できるような仕組みづくりを行うことが重要です。
また、公的機関もさまざまな相談窓口を設置しており、こうした外部の相談窓口をわかりやすく周知することも重要です。

措置④性暴力発生が疑われる場合の調査、被害児童の保護・支援

性暴力発生の疑いがあると認められた場合、その事実の有無や調査を行うことが義務付けられます。
調査にあたっては、専門的な知識を持つ者の協力を得ながら、児童に過度な負担にならないように配慮することが求められます。
また、調査を行う間も含めて、被害児童と加害を疑われる者を分離して児童を保護し、専門家と連携をしながら、児童が日常を取り戻せるまで、中長期的に支援していくことが事業者に求められます。

措置⑤性犯罪前科の有無の確認(日本版DBS)

こどもと接する業務に従事する者について、「特定性犯罪」を過去に犯していないかどうかを確認することが義務付けられます。不同意わいせつ、不同意性交等、児童ポルノ、盗撮などの性犯罪前科が確認された場合には、こどもと関わる業務に従事させない等の措置を講じる必要があります。また、性犯罪前科の確認のために取得した情報は、目的外の利用や漏えいが無いよう、適切に管理しなくてはいけません。

以上のような措置を、対象となる事業者は行っていく必要があります。
通常の業務に加えてこのような措置を行っていくことは、事業者の方にとっても大きな労力がかかることで、取組のハードルは決して低くはないといえるでしょう。
各措置に関する具体的な取組指針については、こども家庭庁が公表した「横断指針」の中に示されていますので、対象事業者の方はぜひ参考にして下さい。

▼教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針(横断指針)_こども家庭庁

対象となる事業者は?「義務」「認定」の2種類がある

次に、「どんな事業者がこども性暴力防止法の対象となるのか?」について解説します。
対象となる事業者として、「義務」「認定」2つの区分があります。
「義務」となる事業者は、学校、幼稚園、保育園、児童館、放課後等デイサービスなど。

一方、民間教育事業(塾や習い事)や学童保育は「認定」対象の事業者であり、上記の5つの措置を講じることができていれば、認定を取得することができます。
つまり、措置を講じて認定を取るかどうかは事業者に委ねられており、各事業者によって対応にはバラつきが出ることが想定されます。

この「認定」の制度を意味のあるものにしていくためには、このこども性暴力防止法の制度を広く保護者が理解し、事業者を選ぶ際の選定基準の一つとしていくことが重要です。こうすることにより、事業者にとっては認定を取ることへのインセンティブが働きます。

認定を取得した事業者は、認定を受けたことをHP等で公開し、「認定マーク」を表示することができます。ぜひ、法施行後は、塾や習い事を選ぶ際に、「認定を受けているかどうか」を調べるようにして下さい。

さらにこどもの性被害が起こりにくい仕組みにしていくために

2026年の12月から施行予定の「こども性暴力防止法」。「こどもへの性加害をなくそう」という、強い意志が込められた法律と言えます。
しかし、まだ抜け穴があるのも事実です。より良い制度へとアップデートしていけるよう、フローレンスとしても引き続き提言を行っていきます。
さらにアップデートが必要だと考えているのは、「犯罪事実確認の対象となる性犯罪」についてです。

冒頭で触れたような「児童の持ち物に体液をかける」行為は、「器物損壊罪」となり、また、下着を盗む行為は、「窃盗罪」となり、今回の法律上はチェックの対象となりません。つまり、このような犯罪によって教職の地位を失ったとしても、再び塾などの認定事業者で働くことができてしまうのです。
このような抜け穴を塞ぐために、「性的器物損壊罪」「性的窃盗罪」のような罪を新設し、犯罪事実確認の対象としていくことを求めます。

似た事例として、2023年7月に「性的姿態撮影等処罰法(略称)」が施行され、「撮影罪」が新設されたことがあります。
撮影罪とは、人の性的な部位等をその人の同意なく撮影する行為を処罰する規定であり、かつては「迷惑防止条例」で処罰されていました。迷惑防止条例は都道府県ごとに定められており運用が難しく、刑罰が軽く済んでしまうという課題があり、新たに全国一律に適用できる「撮影罪」が新設されました。こども性暴力防止法でも、この「撮影罪」は犯罪事実確認の対象となっています。

「こども性暴力防止法」をさらに実効性あるものにしていくために、フローレンスでは提言を続けていきます。

仕組みを整えると同時に、わたしたちができること

このような法律によって仕組みを整えていくことと同時に、わたしたち一人一人の意識のアップデートと、こどもへの性教育が必要です。

こどもへの性暴力の多くは、こどもにとって身近な大人によって行われます。
もちろん、こどもと関わるすべての大人に対して、いわれのない疑いの目を向けるべきではありませんが、「身近な場所で性加害が起こる可能性がある」という意識のもと、性加害が発生した際にはいち早く発見することが重要です。

こどもが被害にあった際、こども自身が「これは被害である」ということを認識し、周囲に相談するまでには多くのハードルがあります。「すべてのこどもを性被害から守る責任は社会と大人一人一人にある」という視点を持って、常に知識や価値観をアップデートしつづけることが大切です。
こどもが性に関して正しく理解をし、自分自身の身を守ることができるよう、ぜひご自宅での性教育にも取り組んでみてください。こども向けの性教育の絵本などもありますので、こうしたツールを使って始めることもおすすめです。

社会を変えるソーシャルアクション・政策提言活動を皆さんとともに

日本のこども・子育ての課題を支援事業と政策提言によって解決するフローレンスは、これからも親子・子育てのリアルを政治や社会に届けていきます。こどもに対する性暴力防止だけでなく、こどもたちや子育ての環境に「新しいあたりまえ」をつくるためのソーシャルアクションを続けます。

フローレンスのこうした社会的アクションや政策提言活動は、皆さんからのご寄付によって支えられています。

※フローレンスは児童福祉支援活動の分野において東京都で最も早く「認定」を受けた認定NPO法人の一つです。フローレンスへのご寄付は寄付金控除の対象となります。


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