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待機児童の壁を越えて──小規模保育制度化10周年、これまでの歩みとこれからの保育園

待機児童の壁を越えて──小規模保育制度化10周年、これまでの歩みとこれからの保育園

「小規模認可保育所」をご存知ですか?

小規模認可保育所とは、2015年に当時待機児童の多かった「0〜2歳児」を対象として新しく創設された定員6〜19名の小さな保育園です。制度開始から、今年で10周年を迎えます。

この記事では、小規模認可保育所が制度化されるまでのフローレンスの歩みを振り返りながら、これからの保育園に期待されることや、わたしたちが目指す保育園のあり方についてご紹介します。

待機児童問題をきっかけに、モデル事業をスタート

2008年、育児休業中のフローレンスのスタッフから届いた「保育園に預けられず、職場復帰ができない」この切実な声が、後に「小規模認可保育所」へと繋がる道のりの始まりでした。

当時、認可保育園設立には「預かるこどもは20名以上」という厳しい基準があり、場所の確保も運営も、高い壁となっていました。

そこで、こどもを預けたくても預けられない現状を変えるため、フローレンスは自治体や関係機関への働きかけを粘り強く続けました。その情熱が実を結び、「NPO法人等を活用した家庭的保育の試行的事業」として、制度の隙間を縫う新たな道が拓かれたのです。

そして2010年4月、当時「待機児童のメッカ」と呼ばれた江東区に、マンションの空き室を利用した定員9名の「おうち保育園しののめ」が誕生しました。

おうち保育園の開園は、フローレンスにとって、「既存の枠にとらわれず、子育てに悩む家庭に寄り添う、新しい保育園の形をつくる」という覚悟のあらわれでした。

小規模保育所、モデル事業からついに制度化へ

おうち保育園は「待機児童問題解決モデル」としてスタートし、開園以降、空き家などの限られたスペースを活用して保育園を増やせることを理解してもらうため、多くの政治家や官僚に視察に来てもらいました。

結果、2012年8月に「子ども・子育て支援法」が成立し、ついに「おうち保育園」は「小規模認可保育所」として、国の制度の中にしっかりと位置づけられることになったのです。

これはまさに、「おうち保育園」が、いちNPOの取り組みに留まらず、日本の国策そのものを変えたということになります。

この法改正を受け、2015年には正式に法制度化が実現。これによって、「小規模保育所」は全国各地で展開されるようになり、これまで保育園に入れなかった多くのこどもたちと保護者に、希望の光を届けることになりました。

小規模保育所制度化までの歩みについては、フローレンスも参加している小規模保育協議会より今年刊行された「小規模保育白書 2025年度版」に詳しく掲載されています。是非こちらもご覧ください。

フローレンスの保育園だからできること

小規模保育所のメリットと「おうち保育園」での保育

小規模保育園にはさまざまな利点があります。

一般的な認可保育所園よりも保育士の配置が手厚くなることから、こどもひとりひとりに目を向けられて個々の発達を丁寧に見守ることができます。

そのため、集団保育が望ましいとされる3歳児以上と比較すると、低年齢児においては、保育士の目が届きやすい小規模保育が適しているとも言えます。

愛着関係が形成される0歳から、小さい集団でおうちのように過ごし自己肯定感を育みます。転園の時期と重なる3歳からは、それぞれの成長に合わせてその子に合った保育園を選ぶことができます。同時に保護者とも密にかかわることができ、相談や連携がしやすいとも言えます。

小規模保育園って実際どう?おうち保育園あさがやの魅力紹介♪

そんな小規模保育園の利点を活かしながら、フローレンスの保育園では、こどもたちの共感性、内発性、創造性を伸ばしていくシチズンシップ保育を日々実践しています。

例えば0歳児は、泣いたら抱き上げるなど、些細な反応を受け止め、スキンシップを大事にしています。こどもの気持ちをまずは知る・感じること、そして戸外での活動を通じて、自然や地域社会に接することも実践しています。

1歳児は、後半から「イヤイヤ期」と呼ばれる時期になりますが、自分でできるようになったことが増えて、自分で行動したいという意欲が芽生える、大切な時期です。

例えば棚によじ登るのを無理に止めてしまうのではなく、安全は確保しながら見守るなど、気持ちに寄り添う、選択肢を提示してみる、本人が納得して行動できるようにすることを大事にしています。

2歳児になると自分の主張が激しくなってくる時期。言葉で上手に伝えるのは難しくても、こどもなりに理由があることがほとんどです。ひとりひとりが園の参加者であるという意識を持って、対話を大切にしています。

型にはめることなく、こどもの気持ちや意見を尊重して、園全体でその成長を見守っていくことで、0歳児〜2歳児まで目まぐるしく成長する大事な時期に、自己肯定感をしっかりと育むことができます。

シチズンシップ保育は、こどもの権利を尊重しつつ、社会の中で自分らしく、そして他者と協調しながら生きていくための「未来を生きる力」を育むことを目指しています。

フローレンスの保育園が目指す、親子のセーフティネット

制度化から10年、小規模保育所は全国で5800施設以上(2022年10月時点)に増え、都内を中心に待機児童問題は解消されつつあります。

ただ、小規模保育所が役目を終えたわけではなく、保育の専門性を活かして、地域の親子のセーフティネットとしての新たな役割を果たせると考えています。

フローレンスが保育事業を通して実践しているのが、多様なこどもたちが共に学び、育ち合える環境をつくる「インクルーシブ保育」です。杉並区のおうち保育園えいふく町では、医療的ケア児をお預かりしています。同じ保育室で一緒に時間をすごすことで、こどもたち同士の自然な関わりが生まれ、目覚ましい成長がみられました。

その他にもさまざまな親子の課題に専門的な視点で、保育園に伴走支援する「保育ソーシャルワーク」、在園家庭に閉じずに食を通じて地域とつながる「保育園こども食堂」「フードパントリー」などの活動を行っています。

更に、孤立化する子育て家庭が増えてきている中で、親が働いている家庭だけでなく全ての家庭のこどもが保育園に通えるよう「みんなの保育園」構想を提唱します。自主的に保育の空き枠を使い、専業主婦家庭のお子さんの定期預かりを実施しました。

その取組みが、「こども誰でも通園制度」の基となり、2023年には、国のモデル事業がスタート。フローレンスの保育園では、仙台にある2園と中野区の園が実施事業者に採択されました。

実際にモデル事業を行ったおうち保育園なかの大和では、切実な事例がありました。

2人お預かりした中で、1人は4人兄弟の末っ子さん。

お母さんは、家で4人の子をワンオペ中で、上の子達にも手がかかる中、末っ子に十分に手をかけられないことに悩み、疲弊していた様子でした。

お預かりを始めたときは、新しい環境に緊張していましたが、すぐに他の子と遊ぶようになりました。ご家庭では、食もあまり進んでいないようでしたが、保育園に来るようになってからは、他の子の影響も受け始め、食への関心も増し、給食もよく食べてくれるようになりました。

もう1人は、生後2ヶ月で応募があり、3ヶ月で受け入れを決めました。

その子が来たときに、お母さんの笑顔が少なかったことが印象的でした。実際にお預かりして保育士がかかわってみると、その子にも繊細なところがあることがわかりました。

最初はなかなか環境に慣れずによく泣いていましたが、最終的に担任にはよく懐いてくれました。お母さん1人での子育てだったら、きっと大変だったと思います。

お預かりをする中で、ご家庭での育児についての相談にのるうちに、お母さんの表情もどんどん明るくなっていきました。

変わる時代、変わる保育園:未来を育む「みんなの居場所」

フローレンスは『今を生きるわたしたちとまだ見ぬこどもたちが希望と手を繋いで歩める社会』を目指して活動しています。

「こども誰でも通園制度」は、2026年度から全国の自治体で本格的に実施されることとなり、現在(2025年8月時点)では、試行的事業を通じて、制度の課題や運用方法が検証されている段階です。

制度化はされましたが、これで万事順調ということではなく、利用枠の確保、保育士の人材確保、利用時間や利用頻度の柔軟性など、まだ検討すべき課題はあると考えます。

どんな状況の親子もみんなが使えるよりよい制度にしていくために、わたしたちは保育事業を通して、これからも実践と提言を進めて行きます。

フローレンスの保育園で働く仲間を募集しています。

フローレンスの保育園では、こどもたち一人一人の気持ちや意見を大切にし、こどもたちの「やってみたい」を応援する「シチズンシップ保育※」を実践しています。

「シチズンシップ」とは?「一人ひとりが社会の一員として、よりよい社会の実現のために、積極的に多様な人々と協働して課題解決する」資質、能力のこと

わたしたちと一緒にシチズンシップ保育を探究する仲間も募集しています。詳細は下記よりご確認いただけます。

フローレンスの保育園の園見学や保育体験を受付中です

フローレンスの保育園は、0~2歳児こどもたちのための小規模認可保育園おうち保育園、0~5歳のこどもたちのための認可保育所のみんなのみらいをつくる保育園を運営しています。

入園を検討されている方向けに各園で保育所体験や園見学を実施しています。 パパママがお子さんと一緒に来園することももちろん大歓迎。「参加してみたい!」という方は、ぜひ下記からお問い合わせください。


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