令和5年度より、自治体(神戸市)からの研修職員受け入れを行っています。初めての試みとなった令和5年度、2年目となる令和6年度とともに1名の研修職員が1年間の業務に当たってきました。今年度も4月より1年間、神戸市職員1名を、みらいのつながりはぐくむ事業部にて受け入れを開始しました。
フローレンス、神戸市双方にとって、3年目の取り組みとなります。
派遣された職員は、地方行政での経験を活かし、期間中は主に自治体連携プロジェクトの事業推進や、国・自治体への政策提言についてフローレンススタッフとともに推進します。
| 【研修職員受け入れの概要】 研修職員:(現)神戸市職員 1名 期間:令和7年(2025年)4月~令和8年(2026年)3月 研修受け入れ先:フローレンス内配属 みらいのつながりはぐくむ事業部 業務内容:自治体連携プロジェクトの事業推進、国・自治体への政策提言 等 |
|---|
※地方公務員法第39条第1項に基づき、研修の一環として、職員が民間企業等に派遣されるものです。神戸市とフローレンスは「研修生の派遣に関する覚書」を結び、研修職員には、神戸市役所を退職することなくフローレンスの業務に従事いただきます。
「やってみよう」の文化から得たスピード感と視野の広がり ー 前任者へインタビュー
今回お話を伺ったのは、過去に研修派遣され、現在は神戸市で勤務しているお二人です。神戸市では支援の現場を経験し、フローレンスでは事業推進を学び、そして再び神戸へ。その歩みの中でどんな気づきや変化があったのか、お二人にインタビューしました。
―― まずは自己紹介をお願いします。

令和5年度派遣の方
わたしは生活保護や児童虐待対応、ひとり親家庭支援の施策運営を経て、令和5年度にフローレンスに派遣されました。当時の所属は「みらいのソーシャルワーク事業部(現・みらいのつながりはぐくむ事業部)」です。現在は神戸市で「ひきこもり支援室」で企画管理をしています。

令和6年度派遣の方
平成30年に入庁して、生活保護ケースワーカーを3年、その後は児童相談所で虐待対応や発達相談など幅広い相談業務を経験しました。昨年度はフローレンスに派遣され、「みらいのつながりはぐくむ事業部」に所属しました。今は本庁で、こどもの発達支援に関する業務を担当しています。
―― フローレンスではどのような業務を経験されましたか?

令和5年度派遣の方
わたしは「おやこよりそいチャット山形」の運営チームに所属して、相談対応の助言やイベント企画を行いました。中でもアセスメントシートのkintone管理(相談記録シート管理アプリ)をプロジェクトチームで構築するにあたり、リーダーを務めさせてもらったことは大きな経験でした。
※アセスメントシートとは?
支援や相談の現場で、利用者の状況やニーズを整理・把握するための記録用紙やツールのこと。

令和6年度派遣の方
わたしは「おやこよりそいチャットやまがた」や「つながりよりそいチャット」、「文京区こども宅食」など、複数のプロジェクトに関わりました。立ち上げから運営、終了後の対応まで一連の流れを経験できて、行政では得にくい学びでしたね。
―― 派遣期間中に驚いたことはありますか?

令和6年度派遣の方
社風にびっくりしました。自己紹介スライドやスタンプラリーなどユニークな文化があって、個性豊かでセンスがある方が多く、在宅勤務でも距離を感じない点も印象的でした。
※スタンプラリーとは?
入社時(研修開始時)にチームのすべてのメンバーと30分程度会話をしてコミュニケーションを深める「スタンプラリー形式の制度」のこと。自己紹介時には専用のスライドを活用したりなど会話がしやすくなるよう工夫している。

令和5年度派遣の方
わかります! わたしは「やってみよう」の精神とスピード感に驚きました。民間団体ならではの実践力ですよね。それから、チャットという文字だけのやりとりでも、しっかり人とつながれるんだと実感しました。
―― 感動したことは?

令和5年度派遣の方
kintoneプロジェクト(相談記録シート管理アプリ)を相談員の方々と一緒に作り上げたときですね。完成したときの感動は忘れられません。それと、山形市でのリアルイベントで、普段チャットでやりとりしていた方に直接お会いできたこと。表情や視線などの大切さを改めて感じました。

令和6年度派遣の方
わたしは、フローレンスの職員の皆さんが「社会を変える」という強い思いを持ち続けて挑戦している姿に感動しました。福祉の現場では課題をゼロに戻すことが多いですが、フローレンスは「ゼロからプラスをつくる」んです。AI相談を立ち上げたとき、利用者の方から「AIに助けられた」と声をいただいたのも印象的でした。
―― 神戸市に戻られてからは?

令和5年度派遣の方
わたしは「神戸ひきこもり支援室」で、ひきこもり支援にかかる企画管理や事業推進、広報啓発に携わっています。

令和6年度派遣の方
こどもの発達支援に関する業務を担当しています。政策や施設運営、事業推進など、現場とは違う立場から支援に関わっています。
―― フローレンスでの経験は、今の仕事にどのように活かされていますか?

令和5年度派遣の方
チャットやSNSを活用した情報配信の経験は、現在の業務に直結しています。今年度、ひきこもりご本人にひきこもり支援室の情報を届けるため、SNSを活用した広報啓発に取り組んでいますが、フローレンスで経験した「限られた枠内で情報をわかりやすくまとめる」工夫や、「ここで何ができるか」をわかりやすく示す工夫など、当時「どうすればチャットのことを知ってもらえるか、登録者にチャット相談を利用してもらえるか」と模索した経験が、今に活きています。また、ひきこもり支援室でもバーチャル空間を活用した支援やメール相談なども実施しており、フローレンスで福祉におけるSNS活用を経験させていただいたことで、時間や場所にとらわれず、当事者本人の状態やライフサイクルに合わせて相談出来る環境とは何かを考えることができました。

令和6年度派遣の方
わたしは事務局として事業を推進する立場を経験できたことが、今の本庁業務に直結しています。行政と民間のスピード感の違いはありますが、ツールを活用する力などは周囲より一歩先をいけているのがちょっとした強みですね(笑)。
――視点の変化はどうでしょう?

令和5年度派遣の方
「広報・啓発」の重要性を強く認識しました。困りごとがある場合でも、相談したいと思うタイミングは人によって異なります。相談しようと思った時に相談場所やツールがあることを知っておいてもらうことが早期発見・早期支援につながります。たとえば、ひきこもり支援室であれば本人が「相談してみよう」と思った時に支援室のことを知っていれば、ここに聞いてみようかなとすぐにアクセスすることができます。「おやこよりそいチャット」であれば、まずは子育て情報を得るきっかけとして登録してもらい、活用する中で必要な時に相談できる場でもあることも知っておいてもらうと、困ったタイミングで相談を投稿することができます。どちらも定期的にそういう場であるということを発信することが欠かせないという共通点があると思いました。派遣前には広報啓発にそこまで重きを置いていませんでしたが、今は予防や早期介入の入口として非常に重要だと考えるようになりました。
さらに、行政が民間団体に業務を委託することもありますが、受託者側の立場を体験できたことも貴重でした。行政と民間団体ではそれぞれの強みと弱みに違いがある中で、お互いの立場や強み弱みの違いを理解し歩み寄ることで、よりよい支援が可能になると思います。山形市との事業運営では、お互いに要望をぶつけるだけではなく、理由や背景を共有し、妥協点を模索するプロセスを経験しました。これにより「反対側の視点からも考える力」を養えたことは、自分にとって大きな変化だったと思います。

令和6年度派遣の方
派遣を経て、本庁に戻ってからは官民連携の機会が増えました。その中で、民間事業者の考え方や動き方への理解が深まり、お互いの立場や強みを活かし合うことの大切さを実感しています。
行政の強みである制度設計や継続性と、民間の強みである柔軟性やスピード感を組み合わせることで、よりよい取り組みにつながる-そうした意識を持てるようになったことが、派遣を通じて得た大きな変化だと感じています。
――このような派遣や連携に関心を持つ自治体職員や関係者へのメッセージをお願いします。

令和5年度派遣の方
民間団体ならではのスピードや視点を体感することで、行政の中にいただけでは得られなかった視点を得たり、経験をすることができました。貴重な経験をさせていただき、地域福祉の向上を考えていく上で、改めて原点を振り返る機会にもなりました。

令和6年度派遣の方
正直、人材不足の中で職員を派遣するのは自治体にとって簡単な選択ではないと思います。ただ、NPOへの派遣は職員一人ひとりのモチベ ーションを高め、長い目で見れば組織全体の力を底上げしてくれる取り組みだと思います。わたし自身も生活や環境が変わったことでたくさんの出会いや経験があり、自分の成長につながりましたし、普段の職場を離れることで、今まで気づかなかった組織の良さにも改めて気づくことができました。迷っている方や検討 されている自治体の方には、ぜひフローレンスへの派遣に挑戦してみてほしいです。きっと新しい視点や力を得られると思います!
フローレンスでの挑戦、その真っ最中ー現任者へインタビュー
現在、神戸市からフローレンスに派遣中の職員の方にお話を伺いました。
現場で実際に業務をしてみて、どんな成果や気づきがあったのでしょうか。
―― まずは自己紹介をお願いします。

令和7年度派遣の方
これまで児童発達支援センターや児童相談所など、児童福祉の現場を中心に勤務してきました。現在はフローレンス「あたらしいつながり創造局・みらいのつながりはぐくむ事業部・HSW(ハイブリッドソーシャルワーク)」に所属しています。
――現在の業務は?

令和7年度派遣の方
わたしの所属する部署では、デジタルとリアルを組み合わせた「ハイブリッド支援」を実践しています。現在は全国・地域ごとに8つのプロジェクトが稼働しており、わたしはLINE相談2事業の運営のほか、子育て家庭向けの情報配信、こども宅食の調整やイベント企画、広報活動など幅広く担当しています。業務は日々変化に富んでおり、改善や創造的な発想が常に求められることを実感しています。フローレンスは目標に向かって柔軟に変化し続け、社会のニーズに応える力を持った組織だと感じます。
――印象的な経験を教えてください。

令和7年度派遣の方
この仕事を通じて、ゼロから立ち上げた事業を持続可能な形にしていく難しさを強く感じました。例えばLINE相談事業では、相談支援を行うために、DSWer、事務局、市がスムーズに連携できる体制を整えることが必要です。さらに、よりよい支援を届けるために業務改善を重ねることも求められ、手間や工夫が必要になります。
わたし自身については情報配信や広報、イベント企画など、これまで経験のなかった分野にも携わり、新たな学びを得ました。視野が広がっていることを日々実感しています。
――学びや気づきはありますか?

令和7年度派遣の方
民間の現場では、スピード感と柔軟性が重視されます。役所時代は事前の計画や合意形成に時間をかけていましたが、フローレンスでは「まず仮説を立てて動き、改善する」という姿勢が根づいています。この違いは大きな刺激であり、自分自身の行動や判断にも良い影響を与えています。
――神戸市に戻って今の仕事を活かせそうですか?

令和7年度派遣の方
神戸に戻った後は、現場の声を丁寧に拾いながら、スピード感を持って施策を実行するという民間での学びを活かしたいです。また、デジタルとリアルを組み合わせた支援のノウハウを行政に持ち込み、より多様な支援を実現したいと考えています。
――官民連携の魅力とはなんでしょうか。

令和7年度派遣の方
官と民にはそれぞれの強みがあります。官は制度設計や継続性に優れ、民は柔軟性や現場の肌感覚を活かした即応性に長けています。両者が互いの強みを尊重しながら連携することで、支援の幅は大きく広がり、より多くの方に届く支援が可能になると感じています。
フローレンスの神戸市での活動実績

フローレンスでは、「ハイブリッドソーシャルワーク」という新しい親子支援のカタチを自治体と連携して行っています。「ハイブリッドソーシャルワーク」の「ハイブリッド」とは、デジタルと対面、両方のメリットを活かした相談支援のことです。
LINEを活用し、さまざまなお困りごとを抱える子育て家庭に対し、専門資格をもった相談員から情報提供を行ったり、生活や子育ての相談にのったり継続的につながりをもち続けています。LINEでつながりつつ、ご家庭の状況等に応じ行政支援等へつなぐ対応も自治体や地域の支援者と連携しながら行っています。
この取り組みは、2021年6月に神戸市でスタートし、現在は「ここならチャットKOBE」として2023年11月より神戸市から受託し運営をしております。
今後も神戸市とさまざまな面で協力しながら、官民連携で子育て中の方への支援をしていきたいと考えております。
▼神戸市でのフローレンスの活動
①ここならチャットKOBE (提供元:神戸市/運営:フローレンス)お役立ち情報のプッシュ型配信のほか、LINEでの相談・質問に対し、専門的な資格をもった相談員がお返事するとともに、必要に応じて地域や行政等の支援機関につなぎます。また、2025年4月現在で登録者数は約4,000人に上ります。
② 神戸こども宅食(運営:BE KOBEミライProject、必要に応じてフローレンス) 神戸で子育てを頑張っているご家庭を応援するために、市民や企業から食品等の寄付を募り、集めた食品等を年4回、各回250世帯に無償でお届けしています。基本は宅急便を利用したお届けですが、場合によって一部、フローレンスの相談員がお届けしている世帯もあります。
▼2024年度神戸市での活動報告

フローレンス × 自治体の連携が生む未来ー官民連携でよりよい社会づくりへー
「こどもたちのために、日本を変える」をタグラインに、日本のこどもの貧困、障害児家庭への支援不足、こどもの虐待、親子の孤立など複雑化する親子領域の課題解決に取り組んでいるフローレンス。
今後も、社会課題への「小さな解」を自ら実践しながら、官×民の強みを掛け合わせ国や自治体とともに制度をつくり日本の親子領域の社会課題解決に取り組んで参ります。
また、フローレンスでは官公庁出身のスタッフの積極的受け入れと、官公庁へのフローレンス職員の登用、そして今回の自治体からの研修派遣の受け入れなど、官民がなめらかに連携できる仕組みづくりを推進しています。
こうした取り組みやフローレンスの想いに、少しご興味を持っていただける自治体の皆様からのご相談は常時、受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。
【お問い合わせ先】
認定NPO法人フローレンス
みらいのつながりはぐくむ事業部 担当:中田
メール:oyako-yorisoi@florence.or.jp
電話:03-4500-1904




