親の就労の有無にかかわらず、こどもが保育園を利用することができる「こども誰でも通園制度」。令和8年度から全国の自治体で始まります。少子化対策である「こども未来戦略方針」に基づき、全てのこどもの育ちを応援し、全ての⼦育て家庭に対し支援を強化するために創設される新たな保育施策です。
フローレンスでは、すべての家庭・こどもたちが保育を受ける権利を保証するため、このような制度の創設を提言してきました。本制度の法案成立後も、利用者・保育事業者の双方にとってより良い仕組みとなるよう、所属する全国小規模保育協議会を通じ、内容の改善について検討会での提言を続けています。

しかし、まだまだ課題の残る本制度。現場の負担感や、利用時間「月10時間」での効果などに対し不安や疑問の声が聞かれます。
そこで今回、フローレンスは、この「こども誰でも通園制度」に先駆けておこなわれた令和6年度試行的事業に関して、現場のニーズと課題を明らかにするための全国アンケートを実施。
アンケート結果をもとに、全国小規模保育協議会として、10月10日に開催された国の検討会(こども誰でも通園制度の本格実施に向けた検討会(第2回))にて制度の改善を提言しました。
アンケート概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 調査方法 | インターネット上での回答 |
| アンケート 実施主体 | 認定NPO法人フローレンス |
| 調査協力 | 特定非営利活動法人全国小規模保育協議会、一般社団法人こどもDX推進協会、株式会社アスカ |
| 調査対象 | 全国の保育事業者(経営者、施設長)※小規模保育に限らない |
| 調査時期 | 2025年8月26日~9月16日 |
| 回答数 | 令和6年度試行的事業 実施施設:24施設、非実施施設:129施設 |
調査結果サマリ
<トピックス>
1.令和6年度試行的事業を実施した施設 9割近くが「来年度も実施したい」
2.令和6年度試行的事業を実施していない施設 6割が来年度の実施に消極的
3.保育現場からの声
1.令和6年度試行的事業を実施した施設 9割近くが「来年度も実施したい」
9割近くが「来年度も実施したい」
「来年度も実施したい」または「課題が改善されれば実施したい」は9割近く(87.5%)となり、制度の継続に前向きな意向を示した施設が多数を占めました。

地域の新しい家庭とのつながりに寄与
こども誰でも通園制度を「やってよかった」と感じた点として、「初めて園に通う地域の家庭との新しいつながりができた」が最多で70.8%でした。

目的達成のためにいまだ残る課題
こども誰でも通園制度の目的は、全ての子育て家庭に対して、保護者の多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化することです。これが「できなかった」「十分にできたとはいえない」と回答した施設が54%にのぼり、目的の達成には課題が残る結果となりました。

原因として、「利用時間が短かったため」と「補助金等の支援が不足していた」が同率で59.1%に上りました。

事業の安定的な運営が喫緊の課題
「どのような点において、『全てのこどもの育ちを応援し、全ての⼦育て家庭に対し支援を強化』するためという目的を達成するのが難しかったと感じますか」の問いに対し一番多かった回答は「事業の安定的な運営(収入、人事等、運営面等)」で72.7%でした。具体的には「書類提出や予約の管理など事務負担の多さ」「人員配置の難しさ」「採算の悪さ」などが挙げられました。

2.試行的事業を実施していない施設 6割が来年度の実施に消極的
理由トップは「保育者の負担」
令和6年度試行的事業を実施していない施設からは、来年度以降の実施に対して消極的な姿勢が強く、6割を超える(61.3%)施設が「実施したくない」(32.6%)または「わからない」(28.7%)と、消極的な回答をしています。

実施に踏み切らない理由は「保育者への負担が大きい」が7割強
特に保育者への負担を懸念する声が多く寄せられました。それ以外にも、「利用時間が短く(月10時間上限)、制度の意義が発揮できると思えないため」も5割近くが回答しています。

また、「補助金が低額のため」「保育者の不足」という回答がいずれも4割と同率で挙げられており、事業の実施は「人材不足のなか、保育者負担が増え、補助金も少ない」、と制度の意義以上に負担感を強く持たれていることが窺えます。
特筆すべき点として、「地域にニーズがない」と回答した人は0人でした。
3.保育現場からの声

肢体不自由のため、これまで保育園入所が叶わなかったお子さん。短時間受け入れることができ、親子から大変感謝されました。障害を理由に保育園への入所が叶っていないこどもたちにとっても、大きな支援になっていると感じます。わたしたち園にとっても、新たな気づきでした。

発達に不安を感じるこどもを療育センターに繋げたり、育児不安を抱える保護者を家庭支援センターに繋げたり、多くの学びを得ました。

地域の多様なこどもを受け入れることで、園の経験として蓄積されていくということがわかりました。

実施時間が短いために、連続性を持って保育にあたる保育の専門性が十分に発揮できなかった。/(保育の)回数が少なすぎた。
アンケート回答をもとに、制度がよりよくなるよう提言
今回のアンケート結果からは、事業を実施した施設は制度の意義を強く感じているものの、「事業の安定的な運営」と「施設・保育者への負担」が主要な懸念点であることがわかりました。非実施施設においても、「保育者の負担の大きさのイメージ」に加え、「補助金の低さ」「利用時間の短さ」が、制度開始前から実施を阻む大きな要因となっていることが明らかになりました。
こうした現場からの声をデータとして携え、この制度について議論する国の検討会(こども誰でも通園制度の本格実施に向けた検討会(第二回))において、全国小規模保育協議会として、3つの提言をしました。
▼こども誰でも通園制度の本格実施に向けた検討会(第二回)の様子
【提言1. 業者への補助にベース運営費をつけてください】
国からの補助金は、お子さんをお預かりした保育時間だけが対象となり、その前後のプロセス、例えば利用前の見学対応や保護者との面談時間、事務作業コストは対象になりません。また、日常的に通園していないこどもに対する安全な人員配置をおこなうためにも、事業実施においては追加の費用発生は避けられず、利用者の安全と安定的な事業運営のためにも、保育時間に応じた補助以外にもベース運営費を補助するよう提言しました。

【提言2. 利用可能時間の拡充をはかってください】
現在は、こどもひとりあたりの利用可能時間が月10時間で、それ以上を利用したければ一時預かり事業など他の制度と組み合わせなければならず、手続きも煩雑になります。月10時間(週1回2~2.5時間等)では、保育者が、どんなお子さんなのかを知るプロセス、保護者との関係性構築の機会が限定され、「どんなお子さんなのか」「どんなご家庭なのか」といったことが見えづらく、こどもに合った保育の提供が難しくなりがちです。「制度の意義が発揮できると思えない」という声も多くあり(約5割)、せっかくの制度の目的が失われてしまいかねません。そこで、こどもひとりあたり、毎週数回・毎回3時間以上の利用を可能とする、利用時間の拡充を提言しました。2023年に保育事業者対象に実施した調査においても、「こどもの育ちを第一に考えた際に、1人につき望ましい利用頻度・利用時間」を尋ねたところ、「週3日以上」6割、「1日3時間以上」9割という結果がでています。


【提言 3. 実施施設が拡充されるよう体制整備を推進してください】
令和6年度の試行的事業を実施していない施設のアンケート結果で、特に注目すべき点は、「地域にニーズがない」と回答した施設が一つもなかったことです。これは、保護者の就労状況にかかわらず保育を必要とするこどもが地域に存在し、保育所もその実態を認識していることを示しています。
本制度は、多様な施設(認定こども園、小規模保育事業所、地域子育て支援拠点、児童発達支援施設など)において実施できることになっています。来年度からの全国実施に向けては、すべての家庭がより保育にアクセスしやすくなるために、実施施設数が増えるよう、実施事業者に対する補助や研修等の支援、多様な事業者の参画をスムーズにするような制度の整備を提言しました。

本意見書はこども家庭庁のサイトにて公開されています。
ソーシャルアクション・政策提言は皆さんのご支援で運営しています
フローレンスは、支援の現場で親子と向き合いながら、そこから生まれる声や実践の知恵を社会に広げています。
その積み重ねを力に、国や地域へ具体的な施策を提言し、日本のこどもを取り巻く環境―綱渡りを強いられるような子育ての現実を、変えていこうとしています。
今回実施した全国アンケートや提言活動も、皆さんからのご寄付によって実現しました。いつも応援してくださる寄付者の皆さん、そしてともに歩んでくださる多くの方々に、心から感謝申し上げます。
日本中の親子が、笑顔でいられるように。
フローレンスは、これからも皆さんとともに「新しいあたりまえ」を形にしていきます。




