2013年12月、性同一性障害を理由に女性から男性へと性別を変更した人が、最高裁によって子どもの「法律上の父」であると認められたというニュースが国内で大きく報じられました。この夫婦は、妻が第三者から精子の提供を受けて子どもを持つことになりましたが、家族の多様なあり方について改めて多くの人が考えさせられたのではないでしょうか。
また、男性から女性へと性別を変更した人が、「特別養子縁組」制度によって母親として認められたという報道もありました。いわゆるLGBTなどのセクシュアル・マイノリティの人たちが子どもを持ち、家族を作ることについて、少しずつ制度や社会の価値観もゆるやかに変化しているとも捉えられます。
実は、これまでにも様々な事情から子育てをし、家庭を築いているLGBTは存在してきましたが、あまり丁寧な議論がなされてこなかった経緯があります。フローレンスでは、LGBTも含むダイバーシティを推進しており、当事者も在籍しています。今回はLGBT当事者としてフローレンスで働く明智カイトがなぜ親子の社会課題に立ち向かうフローレンスに入社したのかを振り返りつつ、LGBTと子育てについて検証します。
*LGBT…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーを表す略語
■「ゲイは少子化の原因」と言われて…
以前、私が寄稿したウェブ・ジャーナルのコメント欄が大炎上するというちょっとした事件が起きました。その記事は「性的マイノリティへのいじめをなくすために――同性愛者の目線から見える日本社会の課題」というテーマで、そもそもがいじめをなくすための趣旨だったにも関わらず、当時コメント欄に寄せられたのは「きもちわるい」など、いじめそのものを再現している内容でした。
そのコメントの中には「ゲイが今以上に増えたら、さらに日本は少子化の原因になるだろう」と書いている人がけっこういました。差別やいじめは、それをする側はなんとでも理由をこじつけようとするものですが、「LGBT=少子化=だから良くない」と思っている人が少なくないことはおそらく事実でしょう(一方で、いざゲイが親として子育てに関わろうとしたときには「ゲイがうつるから子どもに関わるな」という偏見もあるのです……)。
LGBTは「いつの時代も、どの地域にもだいたい同じくらいの割合で存在する」ことが知られていますので、同性愛者がいきなり急増することはありません。望まない結婚や出産を強いられるLGBTの数が減ることはありえますが、それをネガティブに捉える考え方は恐ろしいですし、少子化の問題を考えるのであれば他に取り組むべき課題があるはずです。
■フローレンスで感じた「子育てのしづらさ」
私はフローレンスで働く中で病児保育や小規模保育、障害児保育など、さまざまな「子育て支援」に関わるようになりましたが、日本は子育てしにくい社会だということをつくづく感じています。
1点目は、社会の価値観です。子育てしながら働きたくても女性の社会進出は阻まれており、女性たちは葛藤を強いられています。「普通の家族」「伝統的な子育て」「ストイックなまでの母親像」などの価値観を前にして、子どもを持つことがとても大変なことになってしまっている現状がある中で、実は「男らしく、女らしく」という押し付け自体が子どもを持ちにくくさせている可能性もあります。
2点目は、子ども・子育てに関する税金の使われ方です。2015年度から始まった子ども・子育て支援新制度では保育サービスの量的拡大や保育士の処遇改善などがうたわれていますが、実は必要予算が4000億円も足りません。残念ながら政治や行政の世界では「年金・医療・介護が優先」「高齢者は票になるけど、子どもは票にならないから」という声もあります。
少子化対策は出生・育児を奨励する政策にお金を出せば成果が得られるという単純な話ではないと思いますが、まずは日本人のライフスタイルや考え方を変えていき、徐々に日本の社会が子育てしやすい環境へと変えていくという長期的な視点が必要だと思います。そのためにもこれからの日本はマジョリティもマイノリティも、お互いが知恵を出し合って共存・共生していくために協働していくべきではないでしょうか。
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