フローレンスが以前から提言してきた「日本版DBS(子どもたちを性犯罪から守るため、保育教育現場に性犯罪者を立ち入らせないようにする仕組み)」。
今年ついに菅総理大臣が「『日本版DBS』をこども庁の政策の柱に」と言及したことにより、メディアなどでも「日本版DBS」が取り上げられることが増えてきました。
今一度、「日本版DBS」とは何か、そしてこれまでのフローレンスが「日本版DBS」創設を訴えてきた歩みをご紹介します。
そもそも「日本版DBS」って?
「日本版DBS」は、イギリスのDBS(Disclosure and Barring Service/[Disclosure=開示]、[Barring=障壁・バリア])を参考にしています。
イギリスには、DBS( Disclosure and Barring Service )という政府部局があり、ここが各事業者が行う犯罪記録チェックのリクエスト処理を行っています。
DBSは警察記録を検索して、申請者に、過去に性犯罪を行っていないことを証明する「無犯罪証明書」を発行するのです。これで、保育事業者や学校は、保育士や教師が少なくとも子どもへの性犯罪の前科がないか、チェックした上で雇用することができます。
また、ボランティアにもDBSチェックは行えるということなので、例えば部活動のコーチやキャンプの指導員、PTAのような組織に対しても活用でき、リスクを低減できるのです。
こうした仕組みは、イギリスの他にアメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国にも存在します。
(出典:https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/8162.pdf )
しかし、日本にはこうした仕組みはありません。犯罪経歴証明書は、海外渡航や国際結婚の際に取得できますが、雇用時においては取得できません。保育所や学校や子どもに関わる団体が、小児性愛者を雇用することを防ぐ仕組みは、皆無なのです。
そのせいで、子どもと関わる保育・教育の現場が性犯罪の温床になっているという現状があります。
これまでの経緯
実は我々フローレンスは、もう何年も前から「日本版DBS」の必要性を訴えていました。
2017年には駒崎もブログで発信し、話をする機会のある政治家や保育教育業界の方々にも常々それを伝えてきました。
フローレンスは、自らも事業者として訪問保育事業を運営しています。
でも、フローレンスだけが性犯罪者をキックアウトしても、別の保育・教育現場で性犯罪者がのさばっていたら、どこかで犠牲になる子どもが出てしまいます。これは保育・教育業界全体の構造的な問題なのです。そしてそれを解決する仕組みとして「日本版DBS」の必要性を訴えてきました。
こうした課題意識を長年持ち、提言もしてきましたが、数年間はなかなか政治も社会も大きく動きませんでした。
そんなさなか、また事件が起こってしまいました。
昨年6月、マッチングサービスに登録していたシッターが小児わいせつの疑いで逮捕された事件です。
この事件を受け「まだこれ以上の性犯罪の犠牲になる子どもが必要なのか!日本にもDBSのような仕組みを!」とを発信したのがフローレンススタッフの前田でした。
この「日本版DBS」の必要性を訴える前田の記事は大きな反響を呼び、「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」をつけたツイートは破竹の勢いで伸びていきました。「日本版DBS」について、社会が大きく反応した瞬間でした。
反響の大きさを受け、フローレンスとしてもこの声をしっかりと国にも届けようと、2020年7月14日、厚労省にて「日本版DBS」の創設を求める記者会見を実施しました。
この記者会見には、フローレンス代表 駒崎のほか、ベビーシッター事業者でもあり無犯罪証明書を求める現場ベビーシッターの会代表 参納初夏氏、小児性被害当事者の保護者が登壇しました。この「日本版DBS」の創設を求める記者会見は各メディアでも大きく取り上げられました。
そして、この会見の3日後には森法務大臣(当時)に、そして2020年7月末には橋本内閣府特命担当大臣(当時)に「日本版DBS」創設を求める要望書と21,000筆以上集まった署名をお渡しすることができました。
ついに総理大臣に届いた!
2人の大臣に「日本版DBS」の創設を要望して数ヶ月、様々なハードルがありました。
社会を大きく動かすきっかけとなったnote記事を書いた前田は、何度も何度も永田町へ通い、「日本版DBS」の必要性を政治家に訴えてきました。
そしてついに、2021年4月22日、「日本版DBS」が盛り込まれた提言が菅総理大臣のもとに届きます。
性犯罪歴の一元管理を自民提言、首相「子ども庁の柱に」(日経記事)
記事にある通り、総理は次のように語ったそうです。
『子育て政策の司令塔として検討する子ども庁の「政策の柱になる」』
「速やかに検討して各省に指示したい」
とはいえ、これで「日本版DBS」が実現すると決まったわけではありません。
フローレンスが提言している「日本版DBS」は、保育士や教員だけでなく、塾講師、学童指導員、部活動のコーチ、習い事の先生など、対象が広範囲に及びます。
そうしないと、わいせつ行為で懲戒免職処分となった教員でも放課後デイサービスで働ける、といったわいせつ教員の横滑りが発生してしまうためです。しかしそれを実現するには複数の省庁を横断した仕組みにする必要があります。
この横断的な仕組みをどの官庁が中心になって取り仕切っていくのか、決まっていません。その難しさもあり、「日本版DBS」は長らく実現されてきませんでした。
さらに、今年2021年には衆議院選挙がありますが、その選挙公約に「日本版DBS」が入るとは限りません。
ですから、メディア各位にはぜひ引き続き本件を注視していただきたいですし、何より、この問題を理解している皆さんが、政府に対して声をあげ続ける必要があります。
大人として、子どもたちの尊厳は何があっても守り切らなくてはなりません。あともう一息、みんなで、頑張りましょう! 子どもたちのために。
フローレンスのソーシャルアクションは皆さんのご寄付によって支えられています
フローレンスのソーシャルアクションや政策提言活動は、フローレンスの事業としては1円も収益を生みません。
それでも私たちがソーシャルアクションに取り組むのは、小さな「助けて」の声に耳を傾け、制度を変え、仕組みを作り、親子を取り巻く社会課題を解決していくことが私たちのミッションだからです。
これからも、全ての親子が笑顔で暮らせる社会を目指して、アクションを続けていきます。
こうしたソーシャルアクションや政策提言活動は皆さんからのご寄付によって支えられています。あなたの賛同が大きな力になります。