2020/07/14
【 #保育教育現場の性犯罪をゼロに 】保育教育現場に性犯罪者を立ち入らせない仕組み「日本版DBS」の創設を求める記者会見を実施
2020年7月14日、フローレンスは、保育教育従事者が「無犯罪証明書」を取得できる仕組み 「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の創設を求める記者会見を、厚生労働省にて開催しました。
記者会見では、フローレンス代表 駒崎のほか、ベビーシッター事業者でもあり無犯罪証明書を求める現場ベビーシッターの会代表 参納初夏氏、ベビーシッターによる小児性被害当事者のお母様、小学校教員による小児性被害当事者のお母様が登壇しました。
性犯罪の被害者は心身に深い傷を負い、その後の人生に大きな影響を受けるといわれています。特に子どもの場合、加害者は物理的な力や社会的な立場を利用して口封じをします。それにより事件の発見が遅れ、取り返しのつかない被害が拡大します。
しかし、現状ではこういった被害を未然に防ぐ仕組みがありません。子ども達のための保育・教育現場があろうことか性犯罪の温床になっています。
こうした事態を受けて、2004年に日本初の訪問型病児保育事業をスタートして以来、国内の親子領域の社会課題解決に向けた政策提言やソーシャルアクションに取り組むフローレンスは、性犯罪歴のある人を保育教育現場に立ち入らせない仕組みを整えたいと考えます。保育教育従事者が無犯罪証明書を取得できる仕組み「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の創設を求めました。
近年、ベビーシッターが犯した子どもに対する強制わいせつ事件が相次ぎ、社会全体がこの問題に対する関心が高まっていたこともあり、記者会見には30名を超える記者の皆さんにお集まりいただきました。
NHKや新聞各紙、ハフポストジャパンなど26媒体ものマスメディアの皆さんが、子どもを性犯罪から守る仕組みを日本で実装するにはどうしたらよいか?本質的な質疑を投げかけ、この問題に向き合ってくださった様子が印象的でした。
<現状>
【複数の逮捕歴があってもベビーシッターとして働ける】
ベビーシッターマッチングサービス大手企業の登録シッターが、派遣先の子どもに対する強制わいせつ罪で立て続けに逮捕される事件が起こりました。一人目のシッターは、逮捕されるまでに80回以上の稼働があったことが確認されています。そして、過去に複数の逮捕歴があったことが明らかになりました。
【逮捕されても3年経過すると復職できる教師】
東京都のある小学校では、複数の児童が担任の教諭による性被害にあっていたことが、事件から約1年半が経過したのちに明らかになりました。当教諭は現在懲戒免職になっていますが、現在の制度では当教諭は3年後には教師として復職が可能です。
政府や行政に求める仕組み
【英国のDBSの仕組み】
DBS(Disclosure and Barring Service)は、イギリス内務省が管轄する、犯罪歴チェックを行う公的機関です。個人の犯罪履歴がデータベース化されており、一定年齢以下の子どもと関わる仕事をするすべての人は、ボランティアも含めてDBSに照会して、犯罪履歴がないという証明書(=無犯罪証明書)を発行してもらう必要があります。
無犯罪証明書なしに働くこと、そして、証明書のない個人を働かせることは違法であり、働き手だけでなく雇用者も罪に問われます。
【「日本版DBS」が必要です】
保育教育現場での性犯罪を減らすためにまずできることとして、イギリス同様に、子どもと関わる仕事に就業する際には、無犯罪証明書を提出することとする必要があると考えています。これを実現するには、保育教育現場への就労前に犯罪歴をチェックし、保育教育従事希望者に無犯罪証明書を発行する機能を新たに実装することが必要です。これを「日本版DBS」と呼び、この仕組みの導入と国による日本版DBSの運営を求めます。
現状では、罪を犯して免許が失効したとしても、教員免許なら3年(※1)、保育士資格なら2年(※2)経てば再取得できる法律になっている上に、ベビーシッターに至ってはほとんど規制がありません。行政の仕組み無しには、事業者は性犯罪者を判別することができないのです。
日本版DBSを導入することによって、少なくとも再犯を防ぐことが可能になります。そして、この再犯を防ぐことは非常に重要です。
※1 文部科学省 教育職員免許法
※2 児童福祉法
小児性わいせつの再犯防止が非常に重要な理由
【小児性わいせつの非常に高い再犯率と常習性】
法務省の調査(※3)によれば、性犯罪前科2回以上の者について、調査対象事件中の性犯罪と同一の類型の性犯罪前科の有無別構成比を類型別に見ると、小児わいせつは84.6%と再犯率が非常に高くなっています。
なお、イギリスのDBSでは、2017年3月31日時点で、子ども及び高齢者や障害者などに接する業務への就業不適切者は64,000人(※4)にのぼります。DBSはイングランドとウェールズが対象であり、人口は合わせて約6千万人です。同じ割合だけ日本に就業不適切者が仮にいるとすると約128,000人となります。これがほぼ野放しになっているのがこの国の現実です。
アメリカの研究等では、1人の性犯罪者から生み出される被害者数は平均380人(※5)と推定されています。
※4 保育士の採用システムの現状と課題─保育の質向上に向けた効果的・効率的な採用の在り方─(調査部 主任研究員 池本 美香)
※5 米国エイブル研究
日本版DBSの実現を妨げるもの
政治行政に日本版DBSの創設を要望すると、加害者の個人情報保護、そして更生の機会損失といった観点から反対されている実情があります。
「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」は第四章(第12条)で個人が行政機関の保有する自分自身の情報にアクセスできる、とされますが、第45条において例外として、自身の個人情報であっても、刑罰などに関するものについてはアクセスできない、と定めています。
就職等の場面で、事業者が本人に刑罰に関する開示請求をさせる可能性が考えられるため、個人情報保護の観点でこのような条文が存在します。
【縦割り行政の弊害】
子どもの保育・教育に関わる分野は複数の省庁にまたがっています。ベビーシッターの規制を例に取ると、内閣府の助成が入っていたら内閣府、企業に関しては経済産業省、保育は厚生労働省のように担当省庁が異なります。なお、幼稚園・小学校は文部科学省の管轄です。このため、率先して制度設計を担ってくれるはずの官僚各位も取り組むことが困難になっています。
【日本で行われている犯歴照会の事例:里親登録】
一方で、養育里親及び養子縁組里親の登録では、都道府県が本人の意思を宣誓書により確認した上で、当該里親希望者の本籍地の市町村に対して、犯歴情報の照会を行っています。
里親は児童福祉法(第34条の20)でその欠格事由が明記されています。禁錮以上の刑に処せられた者や、児童買春・児童虐待を行った者等です。
法律によって欠格事由が明文化されていることで、犯歴照会が可能になっていると考えられます。子どもに関わる職種の欠格事由を同じように明文化すれば犯歴照会は可能になるのではないでしょうか。
【日本で行われている犯罪経歴証明書発行の事例:海外就労する保育者】
イギリスやニュージーランドなど、子どもと関わる現場で働くのに無犯罪証明書が必要な国で日本の保育者が働こうとする場合、犯罪経歴証明書が警察庁から発行(※6)されます。
犯罪歴を確認できるようにする法整備について、加藤厚生労働大臣が7月2日参議院厚生労働委員会で「犯罪歴を確認できるようにする法整備についてベビーシッターを届出制から免許や認可制にする必要性も含めて検討する」との言及がありました。
署名活動やSNSを中心に広がっている賛同の声
「無犯罪証明書を求める現場ベビーシッターの会」がベビーシッターに無犯罪証明書の発行を求めて今年6月に開始した署名には、現在1,500筆を超える賛同の声が集まっています。
また、#保育教育現場の性犯罪をゼロに というハッシュタグのもと、多くの方に賛同の声をいただいています。その切実な声の多くは子育て中の親御さんや保育教育現場からです。
ご賛同くださった著名人(五十音順)
青野慶久さま(経営者・サイボウズ株式会社)
犬山紙子さま(タレント、イラストエッセイスト)
小島慶子さま(タレント、エッセイスト)
末次由紀さま(漫画家・ちはやふる)
Testosteroneさま(経営者・著作家)
5歳の娘さんが被害を受けた親御さん(母親)のコメント
「性犯罪は人権侵害です。今回、被害の様子は5歳の娘の言葉でしか知ることが出来ず、また、心の傷はいかばかりか、という不安な気持ちが正直、かなりあります。特に子供の場合、性に関する知識がないのでむしろ加害者に寄り添ってしまう心理が働くとも言われています。しかし、大人になるにつれ、自分がされた行為の意味がわかってきます。娘が思春期になった時に精神的な問題を抱えたらと思うと恐ろしい気持ちで一杯です。一人の犯罪者のために多くの子どもたちの未来が潰されることがないよう、日本版 DBS の創設を強く求めます。」
小学生の娘さんが被害を受けた親御さん(母親)のコメント
「他の子もみんなされている、嫌だなと思っても、恥ずかしい、言ったら怒られるかなと思って親や周りの大人に言えなかったとのこと。子どもたちの幼さや純真さにつけ込み、多数の子どもに繰り返しわいせつ行為を行う、あまりにも悪質で卑劣な行為。娘を担当したこの元教諭が他県で再び教壇に立つようなことがあってほしくないですし、小学校だけでなく、教育保育の現場すべてに携わってもらいたくありません。過去の性犯罪歴を期間の定めなく開示し、1度の小児わいせつ行為で二度と教壇に立てないようにしたいです。」
このような事例は、氷山の一角です。
性犯罪歴のある人を保育教育現場に立ち入らせない仕組みを整えるはじめの一歩として保育教育従事者が「無犯罪証明書」を取得できる仕組み「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の創設を求めます。
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