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アクション最前線

2024/04/05

「こども誰でも通園制度」で日本の保育の歴史が変わる! ~モデル事業の現場で聞こえた声~

    


保育園誕生以来130年、日本の保育の歴史がまもなく変わることになります。

2023年に国が、親が働いていなくても未就学の子どもを保育所等に預けられるようにする新たな制度、「こども誰でも通園制度」の創設を表明。「保育園をすべての親子にとっての新しいセーフティーネットに」と考えてきたフローレンスにとって大きな一歩となりました。今後はすべての親子がニーズに合わせて保育園を利用できる仕組みが作られることになります。

制度化に先駆けて、2023年7月からは国のモデル事業がスタートし、フローレンスは東京都中野区、東京都渋谷区、宮城県仙台市で実施事業者に採択され、実際に、未就園児の定期的なお預かりを実施してきました。

また、国の「こども誰でも通園制度」に先行して、東京都でも「多様な他者との関わりの機会の創出事業」という同様の事業がスタート。東京都品川区、東京都豊島区で運営する保育園でも、園の定員の空き枠を活用し、保護者の就労の有無に関わらない定期的なお預かりを実施しました。

法案成立まであと一歩!今回は、これから本格化する「こども誰でも通園制度」についての解説と、フローレンスのモデル事業を振り返ります。

親が働いているかどうかにかかわらず、保育園などの利用が可能に!

2023年6月1日、国の「こども未来戦略会議」の方針案において、「こども誰でも通園制度」の創設を岸田首相が表明しました。2026年度の全国での本格実施を見据え、今後は親の就労の有無など保育の必要性認定にかかわらず、時間単位などで誰もが保育園を利用できるようになります。

フローレンスは以前から、保育園にも幼稚園にも通っていない、いわゆる“無園児”のこどもたちが保育園を利用できるようにしてほしいという「みんなの保育園構想」を政府へ提言してきました。「こども誰でも通園制度」の創設に向けた動きは、そんなフローレンスの提言が後押しとなったものだと受け止めています。

では、「こども誰でも通園制度」とはいったいどのような内容なのでしょうか?

“無園児”家庭は孤独な子育てに陥りやすい

「こども誰でも通園制度」とは、保育園などの従来の利用要件を緩和し、親が就労していない場合でも保育園や認定こども園、幼稚園などで時間単位でこどもを預けられるようにする制度です。これまで保育園は基本的に共働き家庭のための施設として運営されてきましたが、「こども誰でも通園制度」の創設によって、専業主婦・主夫の家庭や育休中の家庭でも、こどもを定期的に預けられるようになります。

しかし、「共働き家庭ではないのに、なぜ保育の提供が必要なの?」と思われるかもしれません。フローレンスの調査によると、こどもが保育園や幼稚園に通っていない未就園児(無園児)のいる家庭では、親が「孤独な子育て」に陥りやすいということが分かっています。(※)

また、「孤独な子育て」に追い込まれて誰にも相談できない状況下での育児は、こどもへの虐待リスクが高まるおそれもあります。一方で、こどもが幼少期からたくさんのこどもや大人と関わることは、心身の発達に大きなプラス効果をもたらします。

つまり、週に1〜2回でも保育園を利用できるようになるだけで、親子ともに安心と安全が増すということです。しかし、一方で、これまでもリフレッシュ目的や冠婚葬祭などの際に「一時預かり」としてこどもを預けることができる制度がありました。なぜ、一時預かりでは十分ではないのでしょうか?

(※)定期的な保育サービスを利用していない家庭における保育所等の定期利用ニーズに関する調査(2002年)

定期的な保育園利用がこどもの育ちや保護者の安心につながる

まず、定期的な預かりによる保育者や他のこどもたちとの交流は、一時預かりに比べてこどもの育ちに大きな影響を与え、コミュニケーション能力や知的好奇心の向上にも貢献すると考えられます。

実際に、フローレンスが「こども誰でも通園制度」に先駆けて2022年から仙台市の「おうち保育園かしわぎ」で一時預かりの仕組みを利用しながら定期的な預かりを実施したところ、こどもの成長を感じるようになったという声を多くいただきました。

また、定期預かりでは、一時預かりよりも保育園側の負担も軽減できます。一時預かりの場合はこどもの様子や事情が分からないため、事前に面談などでの聞き取りが実施されるものの、短時間で状況を把握することは容易ではありません。

また、親御さん側も、都度一時預かりの空き状況を確認する必要がなくなり、希望する日に予約できないという事態を避けられます。

したがって、定期的な利用を前提とした「こども誰でも通園制度」であれば、こどもも親御さんも、保育園もみんなが安心して制度を利用できるようになるのです。

また、未就園児のいる家庭が週に数回でも保育園を利用することで、保育士が子育ての悩みに寄り添い、継続してこどもの発達や成長を見守ることもできます。場合によっては家庭内の困りごとや異変にいち早く気づき、早期のサポートへつなぐことも。フローレンスが働く親のための保育園から、すべてのこどものための保育園にしたいと考える理由はここにあります。

「未就園児の定期預かり」実践 1年の振り返り

2023年度の「未就園児の定期預かり」の実践を通して、さまざまな気付きがありました。今回、フローレンスの保育園で定期預かりを利用した保護者や園のスタッフを対象にアンケートを実施しました。まずは、保護者からのコメントを抜粋してご紹介します。

心に余裕が生まれてよりこどもへの愛情が増えた気がします。こどもも、お友達の声や楽しそうな様子に興味を持ったり人への関心が生まれて楽しそうにすることが増えました。
思っていた以上に保育園での給食や友達や先生との関わりが楽しい、嬉しいようで、こどもにとって私以外に自分を出せる場所ができたのが嬉しいです。
明らかに発語の数が増えました。今まで発語が遅いほうで心配していましたが、定期預かりを利用し始めてお喋り等のコミュニケーションの取り方が上手になったと思います。

つづいて、園のスタッフからのコメントを抜粋してご紹介します。

「働いていない」から、支援や保育は不要、というわけではないことを強く感じた。 特に都心部では核家族が多く、近所に頼れない、ワンオペで育児をする保護者が多く、寝不足による精神不安、兄弟が多く一人ひとりに関わりきれていないと自身を追い詰める保護者がいるように感じた。
少しでも育児疲れ、いずれ虐待やネグレクトに繋がるケースを未然に防ぐためには、未就園児の定期預かりはとても有効だと思う。 また、要支援児、多胎児については、優先的に預かりができると良いと思う。

前向きな声がある一方、改善が必要な点についても声が上がりました。

保育士の事務作業は必ず増えてしまい、今までの時間の設け方ではキャパオーバーになってしまう。システムの改善ではなく、保育士が保育に入らずに集中して事務作業を出来る時間を作れるようにしてほしい
保育士がたりず、こどもたちを戸外活動へ連れて行けず室内で無難な遊びですませなければいけない。保育園に慣れたこどもではないのでその分保育するスタッフも配慮しなければ、定期預かりのお子さん含め、常時登園するこどもたちの成長の機会を失っていた。(中略)保育士の人数を増やさない限り、今後定期預かりを継続しながらこどもたちの成長を考えることは難しいと感じた。

保護者・保育者いずれからも、定期的な預かりの有効性を感じられるコメントがありました。保育者からは人手不足の解決や働き方の改善などを求める声もあがっているものの、モデル事業そのものには大きな手応えがある声が多く、「こども誰でも通園制度」の今後の広がりに期待を寄せているところです。

2024年4月から国の試行的事業がスタート!しかし課題点も……

2024年4月から、今後の本格実施を見据えた試行的事業がスタートします。対象となるのは0歳6ヶ月から3歳未満のこどもで、保育園や認定こども園、幼稚園などで行うとしています。ただ、現状ではいくつかの課題点もあるとフローレンスでは考えています。

まず、現状では1人あたりの保育提供時間について上限を「月10時間」としています。しかし、モデル事業を利用したご家庭へのアンケートでは、回答者全員から継続の利用意向があった上で、「月10時間」を望む方はいらっしゃいませんでした。希望する保育提供時間を尋ねたところ、「20時間以上」「30時間以上」という答えがいずれも25%、「60時間以上」が50%という結果となっています。

モデル事業利用者がひと月あたりに希望する利用時間

さらに、保育者側からも10時間では足りないという声があがっています。

一家庭あたりの利用時間については、1日7時間×4回の28時間は最低でも確保してほしい可能であれば1日7時間×8回(週2日が上限)=56時間を確保し、空き1枠に対し、2名までの利用が望ましいそれ以上になると利用するこどもの状況把握が難しくなる可能性がある。保護者の負担と保育園側の負担をバランスよく考えた制度になるように望みます。

親御さんの負担軽減やこどもの育ちへの伴走という視点から考えると、月10時間という保育提供時間は短いと言わざるをえません。ある程度の時間制限は必要ですが、極端に短い時間では「こども誰でも通園制度」の本質的な意味が失われてしまいます。

また、懸念となっている点がもう一つ。こどもが保育園にいる間、親も園内で付き添いを行う「親子通園」を取り入れるという案があることです。モデル事業利用者対象のアンケートでは、親子通園を望む方は12.5%で、7割以上の方が親子通園を望まないという結果になっています。

(モデル事業利用者対象)親子通園を希望するかという質問に対する回答割合

もちろん、慣らし保育として親子通園を望む人にとって、それを妨げるものとなるべきではありません。一方で、フローレンスがモデル事業でお預かりしたご家庭の中には、夜泣きで睡眠時間がしっかりと確保できていなかったり、育児に疲弊したりしている親御さんが少なからずいらっしゃいました。そういった方々から、定期的な預かりを利用するようになったことで「こどもと離れる時間ができて、よりかわいく感じられるようになった」という声も上がっています。余裕のない子育て家庭に対しても親子通園を強いて、制度利用を諦めるようなことにはならないでほしいと強く願っています。

もう1点、懸念しているのが、たんの吸引や経管栄養などの医療的なケアを必要とする「医療的ケア児」が取りこぼされそうになっているということです。

医療的ケア児には、保育者が自宅を訪問して終日保育を行う「居宅訪問型保育」という仕組みがあります。保育を希望しても保育園側の受け入れ体制が整っていなかったり、感染症のリスクがあったりするため、「居宅訪問型保育」しか選ぶことができないこどももいるのです。しかし、国はこの「居宅訪問型保育」を、「通園」ではないという理由で「こども誰でも通園制度」の対象外にしようとしています。

フローレンスが実施した「全国の障害児・医療的ケア児の家族を対象としたこども誰でも通園制度に関するアンケート調査」では障害児・医療的ケア児家族の約9割が就労の有無を問わない定期的な保育を「利用したい」と回答しています。現場や当事者家庭からの声を聞かず、このまま制度設計を推進していくことに大きな危機感を抱いています。

すべてのこどもが対象であるはずの「こども誰でも通園制度」から医療的ケア児が排除されないよう、提言を続ける必要があると考えています。

地域により開かれた保育園を実現し、親子の笑顔を増やしたい

「こども誰でも通園制度」は、今年度の国会での成立に向けて議論が進んでおり、制度化実現まであと一歩のところまできています。フローレンスではモデル事業の実践を通して見えてきた重要性や課題点を元に、「こども誰でも通園制度」がより良い制度となるように、今後も提言を続けてまいります。

こうした提言活動は皆さんからのご寄付に支えられています。フローレンスは、こどもを預かるという役割にとどまらず、保育園が持つ機能を生かし、地域の子育て支援拠点となれるよう、できることを模索していきます。皆さんからのあたたかいご支援をお待ちしています。




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