厚生労働省の「令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」によると、日本の障害者の総数(推計値)は1164.6万人。人口の約9.3%、つまり11人に1人は何らかの障害がある計算になります。ちなみに、左利きは人口の約10%と言われています。
皆さんの職場には、障害のある人がどのくらい働いているでしょうか。

自己紹介
わたしはフローレンスの管理部門で、法務総務担当マネージャーをしています。
チームメンバーはわたしを含めて16名、そのうち10名が特別支援学校から新卒で入社したメンバーで、知的障害などの障害者手帳を所持しています。
総務に異動してきたのは4年前、その前は障害児専門の保育園である障害児保育園ヘレンの開設担当をしていました。
障害児保育園ヘレンで働いていた時から、総務チームの障害者雇用スタッフは園の清掃に毎日来てくれており、わたしにとって障害のある人たちと働くことは日常であり、いまも、彼ら彼女らの丁寧な清掃、ミスの少ない事務、に助けてもらっています。
ヘレンでの学び
ヘレンの開設担当時代、今でも鮮明に覚えている言葉があります。
新しく開設した園で、新入園児についてのミーティングをしていた時のこと。ある保育スタッフがこう言ったのです。
まずこどもの発達の可能性を一番に考えて、その後に障害や医療的ケアのことを考えましょう
その一言は、当時のわたしにとって衝撃でした。
それまでわたしは「障害児の保育=安全第一」という考えを強く持っていました。命を守ることが最優先であり、その安全が保証された範囲でできる支援を提供するものだと。
もちろん安全への配慮は欠かせません。看護師が常駐し、医療的ケアも万全に整える体制があります。けれどヘレンでの日常は、それだけではありませんでした。
こどもたちはリラックスした時間を過ごすだけでなく、時にはこんにゃくを触って気持ち悪がったり、洋服のボタンを時間をかけながらも自分で留めてみたり、小さな「びっくり!」や「できた!」を積み重ねていきます。障害を理由に諦めることはせずに、「こどもの可能性を信じて伸ばす」という視点が息づいていました。
わたしはその姿を見て、考え方が大きく変わりました。安全を守ることはスタートラインであってゴールではない。こどもたちの可能性を信じて環境を整えることで、思ってもみなかった力が引き出される。そんな経験が、わたし自身の価値観を変えていったのです。
この学びは、のちに障害者雇用を考える時にもつながりました。
「障害があるから、この仕事は無理だろう」と可能性を狭めるのではなく、「どうすればできる環境をつくれるか」「本人のやりたい気持ちをどう支えられるか」を一番に考える。
単純作業を延々と任せるだけの雇用イメージとは違い、フローレンスの障害者雇用が「一味違う」と胸を張って言えるのは、このヘレンでの原体験があったからだと思います。

フローレンスの障害者雇用
フローレンスの障害者雇用は団体規模の拡大とともに8年前から特別支援学校からの新卒採用が始まり、毎年1-2名を採用してきて現在では10名、その全員が総務チームに所属しています。
最初は掃除やゴミ捨てが中心でしたが、全社から事務業務を請け負い仕事の領域を広げてきました。現在は清掃と事務が半々。2025年度には年間12,000時間の業務受託を計画しています。
「できない」と決めつけることはせずに、本人の「やりたい」を尊重しながら仕組みを整えた結果、特別支援学校時代の先生が見学に来て涙を流すほどの成長を遂げたスタッフもいます。
しかも8年間で離職者ゼロ。最近ではPC業務や在宅勤務にも挑戦しています。
昨年には8年間の実践ノウハウを書籍にまとめた 『障害者雇用の「困った」を解決! 発達障害・知的障害のある社員を活かすサポートブック』を出版する事ができました。
これまでとこれから
もちろん、ここまでの道のりが順調だったわけではありません。
自分の作業を黙々とこなすことは得意な一方、内向的で他者とコミュニケーションがとれないスタッフがいたり、志は高いけれど現実の自分に自信がなく仕事が手につかなくなってしまうスタッフがいたり、そのたびに本人たちの可能性を信じながら、サポートチームで試行錯誤してきました。
今では、内向的だったスタッフも自分から他部門の人と納期調整の相談をしたり、自分に自信がなかったスタッフも堂々と後輩指導をしています。
こうした変化が口コミのように社内に広がり、残業対策や急な欠員対応の相談を受けることも増え、いまでは全12部門から業務を依頼される存在に成長しています。
そして次の挑戦は、社外へ。
保育・福祉施設に清掃や事務業務を提供する新プロジェクトを立ち上げ、地域に貢献できる可能性を探っていきます。


あなたとつくる「新しいあたりまえ」
フローレンスが「障害児は増えているが預け先がない」という社会課題に応え、2014年に障害児保育園ヘレンを開園してから11年。
かつて園で過ごしていた障害のあるこどもたちも、やがて大人になり、地域や社会のなかで暮らし、働きはじめます。
障害のある人と働くことが「特別」ではなく「あたりまえ」になる社会をめざして、フローレンスはこれからも実践と発信を続けます。
もし「実際に働く姿を見てみたい」と思われた方は、ぜひいつでもオフィス見学にいらしてください。一緒に新しいあたりまえをつくっていきましょう。

障害者雇用の講演・見学受付中
わたしたちと同じように障害者雇用に取り組み始めた人、今の障害者雇用の可能性をより広げたい人、へ向けての講演や見学受入も積極的に行っています。
障害のある人と一緒に働くときに知っておきたいこと、障害者雇用社員のための仕事の切り出し方法・工夫など、ニーズにあった内容でお話いたします。
視察や見学のほか、書籍で紹介しているフローレンスの障害者雇用チームの業務内容を体験する、サポート担当者向け1日実習の受け入れも行っています。
ぜひお気軽にご連絡ください。
書いた人 天野祐作

化学メーカーの法人営業を経て2016年フローレンス入職。息子が待機児童になった経験から「こどもたちの世代に社会課題を残したくない」と思い、障害児保育園ヘレンの開設に尽力。2023年より法務総務チームマネージャー。
社内ウクレレサークル部長。定期的に園で演奏会を開催しこどもたちと歌うことが楽しみ。次回の演奏会セットリストは「おはようのうた」「どんぐりころころ」「さんぽ」。




