きっかけは、フローレンス仙台支社へ寄せられた複数のご家庭の切実な声でした。
その中の一人、仙台市在住のAさんのお子さんは、一卵性双生児の弟として732gで生まれ、小腸の8割を失う難病を乗り越えた男の子です。栄養を食事のみで取り入れるのが難しく、現在は体に直接チューブをつなぎ、栄養を補いながら暮らしています。
3歳を迎え体調が安定したころ、彼は、双子の兄と同じように「保育園に行きたい!」という気持ちを見せるように。親御さんもまた、大切な仕事を続けながら、我が子に同年代のこどもたちの中で育つ機会を手渡したいと思っていました。
こどもはこどもの中でともに遊び育ち、親は安心して働く。そんなあたりまえの日常を求めて動き出した親子の前に「ルールの壁」が立ちはだかりました。
2026年5月8日、フローレンスが所属する障害児の保護者や地域の支援事業所でつくる団体「せんだい子ども未来会議」は、仙台市に対して要望書を提出しました。
わたしたちが要望したのは、「医療的ケア児の入園可否を一律で判断するのではなく、こどもの個別の状況に応じて柔軟に検討する体制をつくってほしい」ということでした。
医療的ケア児とその家族を社会全体で支えるための法律、「医療的ケア児及びその家族への支援に関する法律(医療的ケア児支援法)」ができてからまもなく5年。
しかし、いまなお、医師からの「集団保育が可能」という意見書を持って保育園への入園を希望しても、市のガイドラインが理由で一律で入園が叶わないケースがあります。
医療的ケア児支援法から5年――仙台市の医療的ケア児が直面する“一律判断”の壁
「医療的ケア児」とは、人工呼吸器や胃ろう、たんの吸引、気管切開など、日常生活をするうえで医療的なケアが必要なこどもたちのことです(以下、医ケア児)。新生児医療の発展に伴って多くの尊い命が救われるようになり、こうした医ケア児は年々増加しています。一方で、退院後に地域生活を送るなかで、「保育園に通いたい」と思った時、まだまだ障壁に直面することが多いのです。

医療的ケアが必要といっても、ケアの程度や発達の段階、安全確保のために必要な配慮は、こども一人一人によって全く異なります。元気に走り回れる子もいれば、ゆっくりと成長する子もいます。主治医が「集団生活を送ることができる」と判断するケースも少なくありません。
2021年9月には「医療的ケア児支援法」が施行されました。日本で初めて「医療的ケア児」を法律上で定義し、国や自治体の支援の責務を定めたものです。自治体には、教育の場で医ケア児が他のこどもたちとともに過ごせるよう最大限の配慮をしつつ、適切な支援を行う責務が課せられています。
しかし、制度はできましたが、まだ自治体の体制が追いついていない部分もあります。
記事冒頭でご紹介したAさんを含め、仙台市の医ケア児の保護者からフローレンス仙台支社に切実なコメントが寄せられています。

保護者Aさん
わたしがお願いしたいのは、無理にこどもを受け入れてほしいということではありません。医療的ケアの内容だけで一律に難しいとするのではなく、こどもの状態、主治医の意見、訪問看護との連携、保育所の体制などをふまえて、個別に検討できる仕組みをつくっていただきたいです。

保護者Bさん
息子は現在2歳で気管切開をしています。
主治医の先生からは保育園に通って問題ないという意見をいただいていました。
しかし、仙台市の特別支援保育の規定では、気管切開に関する年齢制限と、こども自身が苦痛を訴えられることが条件に含まれているため、対象から外れてしまいました。
気管切開をしていますが、走り回ったりご飯を食べたり日常生活は問題なく過ごしていたので、保育園に入れないと知った時はショックが大きかったです。

息子と同じように医療的ケアが必要という理由で保育園への入園が難しくなるこどもが、少しでも減って欲しいと願っています。
年齢や厳しい条件で判断するのではなく、主治医の意見やこどもの状態、受け入れ体制などを踏まえて、柔軟に判断できる制度になっていくことを希望します。

仙台市で医療的ケア児を受け入れる「おうち保育園かしわぎ」に届いた声
フローレンスが仙台市内で運営する企業主導型保育所※の「おうち保育園かしわぎ」では、認可保育園を希望したものの、こうした制度の狭間でこぼれ落ちてしまった医療的ケアのあるお子さんを3名お預かりしています(2026年5月現在)。
これまでにコメントをご紹介した保護者のAさん、Bさんも現在「おうち保育園かしわぎ」を利用されているご家庭です。
※企業が従業員の働き方に応じた柔軟な保育サービスを提供するために設置する保育所。法律上、認可外に分類されますが、国の制度に基づき認可園並みの基準を満たしています。園独自の判断で柔軟な対応が可能です。
▼こちらの記事では、大人の線引きにとらわれず、ともに育つこどもたちの様子を紹介しています。

同年代のこどもたちと過ごすことで感じた我が子の成長への喜びと、入園にたどり着くまでに抱えてきたやるせない気持ち。そんな胸のうちを伝えてくださった保護者のコメントもご紹介します。

保護者Cさん
市との入園相談は、医ケア児の状況を聞き取りして、条件に適合しない事を確認し、保育園の利用を諦めさせるような相談であったと感じました。実際のこどもの様子を確認し、保育園で預かるためにはどうすればいいのかという積極的な態度で判断してほしいです。

おうち保育園かしわぎで同世代の子と過ごすことにより、他の子を見ていろいろな事を真似る面が出てきて、本人の成長につながっていると感じます。
保育園で過ごせる体力もつき、親がいなくても過ごすことができる自立心もついたと思います。きょうだいも、弟が他の子と同じように保育園に行けることを喜んでいます。
家で過ごすだけでは得ることのできない経験を、我が子が得ることができて嬉しいです。

医ケア児が産まれる、こどもが医ケア児になる可能性は一定数あり、そういうこどもの親が働けなくなるような消極的な態度では、安心して出産子育てができる市とは言えないと思います。
現状を変えるために――仙台市へ提出した「3つの要望」
認可保育園への医ケア児の受け入れ数は年々増加しており、自治体は受け皿を拡充しています。受け入れ要件を設定しているのには、行政としての責務のなかで慎重にならざるを得ない背景があると考えています。
しかし、慎重さのあまり、こどもたちの成長のチャンスが刻一刻と奪われている現状にも目を向けてほしい。
「どうすればできるか」をともに考えられる仙台市になってほしい。
そんな思いから、フローレンスが所属するせんだい子ども未来会議は、仙台市へ要望書を提出しました。
わたしたちが提出した要望の柱は3つです。
①受け入れ要件の緩和・柔軟な審議体制の整備
現在の仙台市には、酸素や喀痰吸引のケアを必要とする場合「3歳以上」や「本人の意思表明能力」といった独自の要件があります。しかし、この基準で一律に判断された場合、主治医から「集団生活が可能」と判断されているお子さんまで成長の機会が失われてしまいます。これらの要件を緩和し、主治医が「集団生活可能」と判断した場合には個別に審議する体制をつくってほしいと要望しました。
②持続可能な受け入れ体制の整備
保育園で医ケア児を受け入れるには看護師の雇用が必要です。そのための補助金を引き上げることで、現場の経済的負担を軽減し、持続的な受け入れができる体制を整えてもらいたいと要望しました。
③各機関との連携
現状、現場で直面している課題があっても、行政に声を届けるための機会がありません。今回のような市民の、小さなしかし切実な声を届けるためにも、定期的な意見交換の場を設置してもらうことを要望しました。

要望書を手渡した際、仙台市のこども若者局長からは、「課題を真摯に受け止め改善策を関係部局で検討したい」という心強い言葉をいただきました。
せんだい子ども未来会議は、地域での子育て支援体制がより良いものとなるよう粘り強く活動していきます。
▼過去にもせんだい子ども未来会議は、仙台市の障害児支援体制の改善を訴え要望書を提出

すべての地域に、その子にあった保育の選択肢がある景色を
フローレンスが目指すのは、日本全国どの地域に生まれ、どのような障害や医療的ケアがあっても、こども一人ひとりの育ちにあった保育の選択肢があり、親御さんが安心して働き、子育てを楽しめる社会です。
わたしたちはこれからも、当事者の声に耳を傾け、時には自ら「事業」をすることで課題を直接解決し、時には制度を変えるための「政策提言」や、文化を変えるための「ソーシャルアクション」を行っていきます。
こうした政策提言活動は、皆さんからのご寄付に支えられています。ぜひ、フローレンスの活動を応援してください。
一緒に「新しいあたりまえ」をつくりませんか?
仙台市で保育園をお考えの保護者の方へ
仙台市青葉区のおうち保育園かしわぎ・木町どおりは入園についてのお問い合わせや、見学を受け付けています!
仙台市の医療的ケアが必要なお子さんのご相談について
医療的ケアの必要なお子さんの保育希望も、ぜひご相談ください。
《保育園への通園》
認可保育園への入園が難しいとされた方も、一度ご相談ください。
《居宅での支援》
そのほかフローレンスでは、居宅での保育、もしくは障害福祉サービスの枠組みでの支援がありますので、そちらのご相談にも対応いたします。




