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【フローレンスと障害児保育】医療的ケア児支援法施行から5年を経てーー「ごちゃまぜの選択肢」も増やす、フローレンスの挑戦

【フローレンスと障害児保育】医療的ケア児支援法施行から5年を経てーー「ごちゃまぜの選択肢」も増やす、フローレンスの挑戦

#みらいの保育園 #障害児・医療的ケア児家庭支援

医療的ケア児支援法から5年という節目を迎えて

2026年9月18日。「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下、「医療的ケア児支援法」)の施行から、ちょうど5年という大きな節目を迎えました。

医療的ケア児とは、日常的に人工呼吸器や胃ろうなどの医療的ケアを必要とするこどもたちのこと。この法律では、日本の歴史上初めて、国や地方自治体が医療的ケア児とその家族への支援を行うことが、「努力義務」から強制力のある「責務」として明文化されました。

わたしたちフローレンスは、2014年に「障害児保育園ヘレン」を開園。現在はヘレンの運営とともに「障害児訪問保育アニー」、「医療的ケアシッター ナンシー」を展開し、障害児・医ケア児家庭の支援を続けています。

2014年当時は、医療的ケアがあるというだけで「保育園に入れない」「親のどちらかが離職して24時間のケアにつきっきりになる」ことがあたりまえの社会でした。そこから保育や支援の選択肢をつくり、多くの仲間とともに政策提言で法律の制定を後押ししてきた立場として、この5年間に起きた社会の変化、そしてこれからの挑戦についてお届けします。

フローレンスで障害児家庭支援を行う「障害児かぞく伴走局」の責任者・黒木健太が語ります。

黒木 健太(くろき けんた)

黒木 健太(くろき けんた)

認定NPO法人フローレンス・副代表理事。2018年にフローレンスに入職後、全国医療的ケア児者支援協議会の事務局として政策提言活動を行い、2021年の「医療的ケア児支援法」成立を後押し。一般社団法人全国医療的ケア児者支援協議会 理事。愛称は「くろけん」。

5年間で広がった「選択肢」は、保育の先にも……

――この5年間で、医療的ケア児を取り巻く地域や現場の環境にはどのような変化がありましたか? 

保育を受ける選択肢は確実に増えています。全国の保育施設における医療的ケア児の受け入れ数について、こども家庭庁の資料を見ても、2020年度には645人だったものが2023年度は1,253人と、着々と増加しています。

法律により支援が国や自治体の「責務」として明確になったことで、これまで前例がないと断られがちだった地域の保育園でも扉が開き始めています。

現場の事業者としても、その手触りを強く実感しています。
フローレンスが運営する「ヘレン」や「アニー」(障害児専門の保育サービス)を利用していたお子さんが、地域の集団園へと転園していくケースが増えています。昨年度にも、ご自宅に保育スタッフが訪問する「アニー」を利用していた胃ろうのあるお子さんが、同世代のお子さんともっとたくさん関われるように、と転園していきました。

専門の集団園や1対1の保育からスタートし、成長に合わせて地域の保育園へ通うという選択肢が現実のものになってきたのです。

――保育園以外の場所でも変化が見られるのでしょうか? 

はい。フローレンスが実施している事業の範囲では、「保育」の先にある「学校」や「学童保育」での変化も感じています。

例えば、数時間に一度の導尿の度に保護者が学校へ出向いて医療的ケアに対応していたのが、フローレンスや他の訪問看護事業所から学校へ看護スタッフを派遣することで、保護者の対応の必要がなくなりました。

学童保育でも同様に、フローレンスが地域の事業所と協働しながら日常のケアを連携して担う事例が増えています。

長年、「保育」をメインの事業としてきたフローレンスに対して、ある自治体の学童保育の担当者の方がかけてくださった言葉が印象的でした。

「保育園でのお預かりが進んでいるということは、その子たちが成長したとき、学校や学童でも医療的ケアを担う体制が必要だということです。だから一緒にやっていきましょう」

地域の中で、保護者が付き添わなくてもよい場所、医療的ケア児家庭の選択肢は増えてきています。

しかし、同時にまだまだ十分ではない。地域差もあるし、医療的ケア児の保育を実践しようとする現場では戸惑いもあります。

「社会への還元」を始めて見えてきた、それでも残る課題

――フローレンスでは、積み重ねてきた医療的ケア児保育の知見を生かして、研修などで自治体や園をサポートする取り組みもしていますよね。2023年の記事でも、試行錯誤を社会に「還元」する時を迎えているというお話をしていました。

はい。2020年頃から、自治体や保育園からいただいた問い合わせに対して、ヘレンの園長やリーダーの看護師を中心に、講義形式の研修や、直接園に訪問して相談にのるなど個別のサポートを実施してきました。

問い合わせをくださる皆さんからは強い熱意を感じています。自治体担当者と膝を突き合わせているフローレンスのスタッフも「皆さん、『やらなきゃいけないし、“やりたい”。どんな子にも平等に保育を届けたい』という切実な気持ちを感じます」と話していました。

――熱い想いを感じますね。この取り組みを続ける中で、具体的に見えてきた課題はありますか?

最初のハードルとなるのが、医療的ケア児の入園の際に窓口や担当になることが多い、保育現場の看護師の「孤独」と「育成・サポート体制の不足」だと考えています。

認可保育園などで医療的ケア児を受け入れる際、現場でそのケアを一手に引き受ける看護師は、大きな重圧を抱えています。たとえ病院などで豊富な経験を積んできた看護師であっても、大人と比較して細やかな配慮が必要なこどもの医療的ケアに、最初から自信を持って対応できるとは限りません。

さらに、保育現場には病院と違って医師がいません。何か判断に迷うような場面でも、たった一人で医療的な意見や判断を求められ、「自分の判断が本当に合っているのだろうか」と答えの出ないプレッシャーと闘うことになります。

また、園内で「医療的ケア児の担当は看護師さん」という役割が固定化されてしまうと、周囲の保育士や職員からの関わりも薄くなり、専門職として孤立していってしまう——。「こどもにとって本当に良い環境を作れているのか」と悩む現場の看護師の声をたくさん聞いています。

こうした複合的な要因によって、現場の看護師の負担が大きくなっているように感じています。

異なる観点として、フローレンスがサポートを届けられる「範囲」の課題もありました。直接関わりのある自治体や園・東京近郊のエリア以外へ、どうノウハウを届けていくか。社会全体を変えていくためには、全国で一人悩む看護師や一歩を踏み出せない園にもサポートを届けていく必要がありました。

「もっとこの人たち同士をつなげたい」——学びの機会を提供し、孤独を解消する「まなびば」の挑戦

――そうした課題に対し、フローレンスでは現在どのような取り組みを進めているのでしょうか?

法律ができて5年、地域に生まれている変化の芽をさらに加速させていきたい。そんな思いから、さまざまなアプローチに取り組んでいます。

自治体や園へのサポートでは、問い合わせを待つだけではなく、わたしたちからも積極的に働きかけていくために専門のチームを立ち上げました。現場が抱える不安や「どんなサポートがあれば一歩を踏み出せるか」を考え、講義形式の座学研修や各種書類の作成支援、医療的ケアの実技講習、現場体験、巡回訪問などさまざまな支援のメニューを整えていっています。そのうえで、受け入れを模索されている自治体や園へ「一緒に準備しませんか?」とお声がけを進めています。

自治体全体の知識の底上げのために、医療的ケア児のお預かりが現状ない園の職員も対象とした座学研修を導入いただいているところもあり、それぞれのニーズに合わせたサポートを積み重ねていっています。

医療的ケアの実技講習の様子

自治体や園に限らない・全国へのサポートとして、場所や時間を問わず学ぶことができる動画研修(eラーニング)の作成も行いました。医療的ケア児の保育に必要な基礎知識から集団保育のための工夫まで、フローレンスが培ったノウハウを体系的に学べる内容です。

そして、知識の提供にとどまらず、現場の孤独感を解消するために立ち上げたのがオンラインコミュニティ「医療的ケア児保育『まなびば』」です。プラットフォーム上で先程の動画研修を自由に視聴できるのに加えて、全国の医療的ケア児保育に携わる人たちがつながれる場を目指しています。

なぜ「つながり」が必要だと思ったのか。
研修現場や巡回訪問に足を運び、看護師さんや保育士さんと直接対話を重ねてきたコミュニティの立ち上げに関わったスタッフは、こう話していました。

「研修などで現場の方々とお会いすると、皆さん本当に切実な想いを持ってこどもたちと向き合っています。そうした想いを聞かせていただくうちに『もっとこの人たち同士をつなげた方が良い』と強く実感したんです」

同じ立場の人が、お互いの保育の実践で上手くいったこと・いかなかったこと、日々の悩みや困りごとを共有できる場になることで、学びの機会を提供するとともに、心の拠り所になれたらと考えています。地方で保育園看護師をしている方からは「『まなびば』は、自分のモチベーションを維持するための『お守り』」と嬉しい言葉をいただきました。今(2026年9月末時点)は、34名の方が参加していますが、もっと多くの方にこのつながりの輪に入ってもらえるように頑張っていきます。

また、フローレンスが運営する地域の保育園でも医療的ケア児の保育を始めています。園で初めてお預かりする際には、やはり、「目指すところはわかるけれど、不安もある」という声が現場から上がりました。そこからどう準備を進めていったか。そんな過程を公開することが誰かの背中を押すことになると信じて、発信にも取り組んでいます。

これから:インクルーシブな選択肢も社会に増やしていく

――医療的ケア児の保育を広げたその先に、フローレンスが目指している社会の姿について教えてください。

誰もが多様な選択肢を持てる社会をつくることが本質だと考えています。

今は、障害や医療的ケアがある人にとって選択肢はまだまだ限られています。保育園や学童保育をはじめ、社会の中で自由に選べる選択肢をもっと増やしたい。そしてその中には、みんながごちゃまぜで過ごす「インクルーシブな選択肢」も含まれるべきです。

ただし、準備なしにただ一緒にすれば良い、とは考えていません。
「安全性の確保と集団での遊びをどう両立させるか」など、インクルーシブな保育の実現にはさまざまな知見と配慮が不可欠であり、そこにフローレンスが10年以上培ってきた経験が貢献できるはずです。

フローレンスはこれからも、障害児専門保育園の「ヘレン」やご自宅に訪問し保育・看護を行う「アニー」「ナンシー」のような支援の選択肢を大切に守っていきます。
それと同時に、幼少期から障害の有無に関わらず自然に出会い、ともに過ごせる環境も広げていく。この両輪で進み、誰もが自分に合った選択肢を持てる、壁のない社会をつくっていきます。


🎙️フローレンスが考える「インクルーシブ」について、生の声を聴いてみませんか?

最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました。

今回は、医療的ケア児支援法の施行から5年が経過した今、フローレンスの視点から見える社会の変化、そしてわたしたちの取り組みの現在地をお届けしました。

記事でも登場した「インクルーシブ」という概念について、フローレンスはどう考えているのか。ここでは語り切れなかったことを、音声コンテンツ「フローレンズラジオ」で丁寧にひも解いています。

  • 45分間座っていられないこどもにとっての「インクルーシブ」って?
  • ヘレンをつくったことは「分離」なのか
  • 分離がダメなら、みんな一緒にすればいいのでは?
  • 何かができなければ、価値がないのか

こんな問いに、黒木が向き合いました。ぜひお聴きください!

【フローレンズラジオを「読む」】

医療的ケア児保育に携わる皆さんへ

 


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