News

アクション最前線

2022/04/22

“障害児訪問保育アニーを利用できて本当に良かった”ある卒園児の日々を振り返って

     


卒園証書を受け取る医療的ケア児のお子さん

今年は新型コロナウイルスが感染拡大する中で、各地の卒園式も工夫しながらの開催となりました。

医療的ケア児や障害児をお預かりする、フローレンスの障害児保育園ヘレン障害児訪問保育アニーでも卒園式が行われ、子どもたちが新たな門出を迎えました

今年の卒園児は、ヘレンから15名、アニーから2名です。暖かい春の陽気に包まれて、和やかな子どもたちの笑顔があふれる卒園式となりました。

image2-min

障害児保育園ヘレン初台の卒園式の様子

医療的ケア児の預かり先は不足している

「医療的ケア児」とは、胃ろうやたんの吸引、人工呼吸器といった医療的ケアの必要な子どものことです。

現在、医療的ケア児は全国で約2万人いると言われており、その数はこの15年間で約2倍に増加しています

一方で、医療的ケアや重度障害のあるお子さんを長時間お預かりすることのできる施設は極度に不足しています。その結果、多くのお子さんが保育を受けることが叶わず、親御さんがお子さんのケアを一手に担うため仕事を諦めなければいけない現状があります。

フローレンスはそのような社会課題に対して、2014年に日本ではじめて障害児を専門に長時間お預かりする障害児保育園ヘレン、2015年にお子さんをご自宅でお預かりする障害児訪問保育アニーを立ち上げ、医療的ケア児家庭をサポートしてきました。

Mくんとアニーで過ごしたかけがえのない日々

今年、障害児訪問保育アニーを卒園したMくんのアニーでの日々をご紹介します。

担任の先生と遊ぶ医療的ケア児のお子さん
Mくんは2020年7月にアニーを利用し始めました。

医療的ケアがあるため地域の保育園に入園できず、親御さんが「なんとか預け先を見つけたい」と関係各所に働きかける中でアニーを利用することになりました

親御さんが入園当時を振り返って、アニーに出会った時の気持ちについてコメントをくださいました。

「育児休業が終わるころ、医療的ケアを理由に保育園の入園を断られ、ひとり親である私はどうしたらいいのかと途方に暮れていました。働き続けるため、児童発達支援※1と訪問看護※2を利用したり、医療的ケアに不慣れな祖父母にも多大な負担をかけたりすることで、なんとか生活をしていました。それでも、働く時間は長くは確保できませんでした」

「何度も役所や居住している自治体の議員さんに働きかけ、アニーが利用できることになった時の安堵感といったらありません。私が働き続けることはもちろん、息子にとってもマンツーマンで丁寧に接してもらえることはとても貴重なものでした

※1児童発達支援:障害児通所支援の一つ。小学校就学前の6歳までの障害のある子どもが対象で、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的・心理的・教育的及び医療的な支援を受けるための施設
※2訪問看護:看護師が利用者のお宅に訪問して、病気や障害に応じた看護を行うサービス

障害児訪問保育アニーはお子さんのご自宅に担任の保育スタッフ1名が訪問し、親御さんが仕事をされている間にお子さんを1対1でお預かりします

お子さんを担当する保育スタッフは複数人いて、日ごとに交代で訪問しており、Mくんの担任はかよっち先生とりっちゃん先生です。

バギーに乗りながら担任の先生と公園をお散歩する医療的ケア児のお子さん。

担任の保育スタッフ かよっち先生は初めてMくんと出会った時、「自分の意思をしっかり持っていて、相手の顔をまっすぐ見ながら考えを伝えてくれるお子さんだな」とすぐに感じたそう。

アニーが目指す子どもの姿のひとつが『人と関わるのを楽しむ子ども』です。Mくんにとって安心できる存在になり、保育時間の中で楽しみながら本人なりの成長を見守り元気に卒園の日を迎えたい、という気持ちでスタートしました

「Mくんは『こうしたい!』という意思がとても強いお子さんです。保育をする際には保育者の思いを一方的に押し付けないように日頃から気をつけていますが、Mくんの場合には何かを始める前の意思確認がとても大事で、選択肢を用意して選んでもらったり、必ず『〇〇するよ』とMくんに声かけをします。イエスの時はMくんが手をパチンと叩いたり、私とハイタッチして、にっこりしてくれます。事前に意思を確認すると、その後の取り組みに対する反応が全然違ってきます」

Mくんのもうひとりの担任スタッフがりっちゃん先生です。

「Mくんの個性をさらに伸ばしていけるようにするには、まずは心を通わせることが大切なので仲良しになろうと心に決めました

「その時々のMくんの気持ちを理解できる担任になるために、たくさん話しかけてきました。また、次の動作や行動に移る前に声をかけて知らせていくという点を忘れずに意識しました」

アニーは保育スタッフが担任としてお子さんをご自宅でお預かりしますが、お子さんの健康管理のサポートや、保育スタッフが行う医療的ケアのフォローのために小児看護の経験を積んだ看護師も各家庭を巡回します

Mくんを担当している看護スタッフのりんりんは、Mくんをお預かりする際に安全性の観点から気をつけていた点として、次のようにコメントしています。

「てんかん発作があるお子さんなので、日頃からご家族と家庭での発作の様子や抗痙攣薬の使用の有無など共有を行って、体調の変化をすぐにキャッチ出来るように連携していました。発作時は呼吸状態が悪化するため、呼吸の観察方法や酸素をすぐに使用できるように日頃から保育スタッフとシュミレーションしていました

このように保育と看護の観点から丁寧に見守りながら、Mくんとの楽しい日々を積み重ねていきました

最初は関心を示さなかった絵本 今では自分で棚から出して読んでとアピール

日々の保育の中で、Mくんの好きな遊びは絵本やお歌、体を使って遊ぶ時間でした。

image7

それぞれのスタッフにMくんとの思い出がたくさんあります。

保育スタッフのかよっち先生:
「イタズラが好きで茶目っ気たっぷりなMくんと一緒に大きな声で笑ったり、ものを渡す際に行う『ください』『ありがとう』のやりとりに、ほっこりしたり。こちらから提案した遊びがスルーされたり(笑)、逆に気に入ってくれて何度もリクエストされたり‥。
毎日の小さな出来事の積み重ねが楽しい思い出です」

保育スタッフのりっちゃん先生:
「Mくんは、お互いの足を合わせて手を繋いで『ギッタンバッコン』と声をかけながら体を倒したり起こしたりする遊びが好きなんです。小柄な私とは息が合うんだと思います。毎回大笑いしながら楽しみました。
また、パンダの絵柄が入った絵本が大好きなMくん。数字の歌に合わせて、一緒にパンダの数を数えました」

看護スタッフのりんりん:
「絵本が大好きなお子さんなので、訪問時にはMくんに読みたい本を選んでもらって、よく読み聞かせをしました。大好きな本はお話を覚えていて、私が読むのに合わせて一緒に絵本の文章を読みながら聞いてくれるので、とても楽しかったです。
また、少しずつ眼鏡をかける練習をして絵本を読める時間が増えたこともよく覚えています。担任の先生たちと成長を感じて喜んでいました」

お気に入りの本を読む医療ケア児のお子さん

実は、Mくんは最初から絵本が好きだったわけではなく、アニーを利用する中で身の回りのものに対して関心を示すことが多くなり、その一つが絵本だったそうです

親御さんからはMくんの興味の広がりについて、

アニーを利用し始めてから、息子の興味が広がったと強く感じました。私の息子は、集団の中にいることが苦手で、ひとりどこかへ行こうとしてしまいます。でも、目の前にアニーの先生がいると、先生の表情をよく見ています。

先生が根気強く息子と付き合ってくれるおかげで、いろいろな事に少しずつ興味をもてるようになっているようでした。はじめは全く興味を示さなかった絵本も、今では大好きで、最近は息子が本棚から引っ張り出した絵本がいつも部屋に散らばっています

とコメントを寄せてくれました。

Mくんの”好き”が広がって、私たちもとても嬉しく思います。

Mくん卒園おめでとう!

先生や保護者と嬉しそうに集合写真を撮影する医療的ケア児のお子さん

3月26日はアニーの卒園式でした。

Mくんは先生からしっかりと卒園証書とアルバムを受け取りました。Mくんのチャームポイントは笑顔。まわりの人にニコニコしながら動き回る様子に、たくさんの笑顔があふれる卒園式となりました。

Mくんの卒園を記念して担任の保育スタッフからメッセージです。

かよっち先生:Mくんの笑顔は、周囲をパァッと明るくさせる宝物です。Mくんとの時間はわたしにとっても大切な宝物です。本当にありがとう。これからもMくんの大好きな「扉」を選んでどんどん開けて、いろいろな楽しみを見つけ、その笑顔がもっと輝くことでしょう。応援しています♡

りっちゃん先生:Mくん、卒園おめでとうございます。先生は、Mくんからたくさんの楽しい時間をいただきました。公園遊びやおもちゃの車の運転、そして、絵本もたくさん一緒に読みましたね。そのままの笑顔のMくんでいてくださいね。

お母さんからもアニーにメッセージをいただきました。

息子に対し、まるで家族のように接してもらったこと、息子の成長を一緒に喜んでくれたこと、本当に、心から感謝しています。私がこうしてほしいと要望を出した時も、真摯に対応していただきました。

先生たちは、最長で8時間、ずっと子どもと一緒にいてくれます。マイペースな息子に手を焼くことも多かったはずです。

でも、仕事帰りに見る息子の笑顔が、アニーの先生達と遊ぶことがどれだけ楽しかったかを、毎日これでもかと私に教えてくれていました。
お風呂で毎日、「今日も楽しかったんだね。よかったね。」と話すのが日課でした。

障害児育児という特殊な状況の中、思ったようにいかずふさぎこむ私に対しても、いつでも優しく温かかった先生やスタッフの皆さま。
感謝を伝えても伝えきれません。

アニーを利用できて、本当によかったです。ありがとうございました。

Mくん、アニー・ヘレンを卒園した皆さん、卒園おめでとうございます。温かい笑顔と拍手に包まれたステキな卒園式でした。


フローレンスは、障害の有無に関わらず、すべての子どもが保育を受けられ、保護者が子育てと仕事を両立できる社会の実現を目指しています。

アニーやヘレンなどの医療的ケア児親子を支える事業を運営するとともに、そこで得た知見をもとに政策提言することで、制度や法律を変え社会課題の解決にも取り組んでいます。

例えば、2021年6月に成立した、医療的ケア児家庭への支援を国や自治体の「責務」と定めた「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)。

その検討のきっかけは、医療的ケア児への支援に関心の高い超党派の議員が、「障害児保育園ヘレン荻窪」を視察したことでした。
フローレンスが事務局を務める「全国医療的ケア児者支援協議会」も他の関連団体とともに医療的ケア児家庭への支援拡充に関する提言活動を重ね、法律の成立に寄与しました。

※詳しくはこちら

ヘレンの開園、障害児用の設備・遊び道具の用意やスタッフ育成など、障害児保育を提供する活動、また制度を変え政策を実現するための活動は、皆さんからの寄付によって支えられています。

フローレンスのチャレンジを支えてくださっているのは、支援企業、団体、多くの個人寄付者の皆さんからのご支援です。

フローレンスは、これからも親子の「あたらしいあたりまえ」をつくるために、様々な困難を抱える親子のための新規事業への挑戦や政策提言活動に注力してまいります。

ぜひ、引き続きご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。




フローレンスでは、社会問題や働き方など、これからもさまざまなコンテンツを発信していきます。
ぜひ、SNSもフォローしてください!
もしかしたら、SNSでしか見れない情報もあるかも!?気になるアイコンをタップ!


  • twitter
  • instagram
  • LINE@
  • facebook
  • youtube