今、全国で広がりを見せている「保育園こども食堂」。保育園が地域の孤立する子育て家庭と出会い、見守り、必要な支援につなげる、保育園の新たな形として注目されています。
今回のフローレンスニュースでは、富山県富山市にあるHUG保育園の「ふじのきこども食堂」の事例をレポートします!
地域とのつながりを広げる中で取り組んだのは、「食」を通じた温かな拠り所を作ること。
生きるために欠かすことができない「食」には、大きなパワーがあると「ふじのきこども食堂」を開く黒田さんは語ります。
子育て家庭が抱える困難な課題に直面したことをきっかけにこども食堂を開設し、地域にさまざまな支援を広げている「ふじのきこども食堂」のこれまでの歩みと食堂の様子をご紹介します!
「いつでもこどもを預かる」認可外保育施設としての取り組み
「ふじのきこども食堂」を運営するHUG保育園は「こどもをいつでも預けることができる」認可外保育園です。
訪問看護師として地域のご家庭を回る黒田さんは、精神疾患や産後うつを患う保護者が、精神的にも物理的にも孤立しがちだという課題に気づきました。このような保護者は、体調や気分が変動しやすく、体調が優れない時は、家事に手が回らなかったり、外に買い物に行くことも難しくなります。こどもたちも、家でご飯を食べない、お風呂に入らないなど、必要なケアを受けられていない現状がありました。
「訪問看護だけではなく、苦しい状況に陥るもっと手前の段階で支援を届けたい」と感じた黒田さんは、「いつでも」こどもをお預かりすることができるHUG保育園を一念発起して立ち上げます。
お母さんにはしっかりと休息を取ってもらい、保育士などへの相談も気軽にしてもらえるように声をかけつつ、こどもたちが安心して成長できる環境を提供してきました。
黒田美幸さん

精神科の訪問看護師でHUG保育園の園長。
訪問看護師の経験から、いつでもこどもを預けることができる「HUG保育園」を開設し、昨年より保育園を起点とした「ふじのきこども食堂」を始めた。地域に幅広い支援を届けている。
保育園の外にも支援を広げるために始まった「ふじのきこども食堂」
黒田さんは保育園を運営する中で、新たな課題に直面します。うつ症状の影響で家事や育児に手が回らないご家庭でも、こどもたちには園でお昼に給食を提供することができますが、保護者やこどもたちの朝ごはんや夕ごはんまでお届けすることはできません。
そんなご家庭にお弁当をお渡ししたいと2年前から始めたのが、「ふじのきこども食堂」です。
在園児のご家庭向けに小さく始めた活動でしたが、園の外にも食支援を必要としているご家庭はあるのではないかと提供数を増やしていきました。現在は、食堂にみんなで集まり食事をするイートインや、ご家庭へ弁当や食材などを直接届ける宅食なども行っており、地域のご家庭へ「食」を通じた温かな支援の場が広がっています。
食支援を通じて広がる温かい交流の場
「ふじのきこども食堂」は、HUG保育園から歩いてすぐの1戸建ての建物内で開催されています。
入口には大きな窓があり、食堂のスタッフは利用者がやってくる様子が見えると、この大きな窓から「おいでおいで〜」と声をかけていました。

建物に入ってまず目に入るのが、さまざまな子育て支援サービスや子育て家庭向けイベントのお知らせチラシ。訪れる利用者が、自然に情報を得ることができる環境となっています。
受付カウンターの奥には、キッチンやダイニングテーブルがあり、利用者がゆっくりとお話しできるスペースもありました。


わたしたちが訪問した際に開催されていたのは、テイクアウトのこども食堂。キッチンで手作りした温かなお弁当を、訪れた利用者へ低額で提供しています。お昼から夜7時頃まで開いており、利用者は好きな時間に受け取りに来ます。

美味しい料理の匂いや、包丁で野菜を切る音。調理中やみんなで食事をする中で自然に生まれる会話など、食には人の心を癒やす力があります。食を通じて生まれるふじのきこども食堂の温かな雰囲気は、ご家庭だけではなくスタッフも、訪れた人みんなを包み込む安心感や包容力があります。
こども食堂が開くお昼ごろ、利用者が食堂に訪れると黒田さんや食堂スタッフが温かな声掛けで出迎えます。
「〇〇ちゃん、大きくなったね!お母さん、最近調子はどう?お仕事は大変?」と和やかに会話を交わし、お弁当を手渡します。近況を話したり、悩みを吐露したりする保護者も。食のサポートを介して自然体のコミュニケーションが芽生えていました。
親子が帰る際には、「来週はおでんだよ!鍋を持ってきてね。また来てね」と声をかけます。
夕方には、仕事や学校を終えた利用者が多く訪れていました。
お弁当を受け取りに来た、不登校児童の親同士が食堂のスタッフと長く話し込む場面も。同じ悩みを共有して気持ちを吐き出したり、励まし合ったりする様子がありました。食事を取りに来るだけではなく、こうした交流が生まれるのも、このこども食堂の大切な機能です。
「ここに来たら、話を聞いてくれる、相談に乗ってくれる。こどもの成長を一緒に見守ってくれる人がいる」富山市の子育て家庭にとって、「ふじのきこども食堂」はそんな心強い存在です。
多様なアプローチで、それぞれの家庭に寄り添う
「ふじのきこども食堂」は、ご家庭それぞれの事情に合わせ、さまざまなスタイルで事業を運営しています。
黒田さん
イートインのこども食堂も開いていますが、利用者の中には、多くの人が集まる場や集団で話すことが苦手な方もいます。テイクアウトでお弁当を渡すときに、一言でも二言でも会話し、継続的に見守ったり、いつでもここに相談に来て良いと保護者の方に感じてもらえるような関係を築き上げています。
また「ふじのきこども食堂」では、お弁当や支援物品をご家庭へ直接届ける「宅食」も実施しています。
「宅食」を行う家庭は、グループ法人が運営する訪問看護事業でつながったご家庭。保護者が精神疾患や産後うつなどで外出することが難しいご家庭です。
そうした家庭に「宅食」を実施することで、食をきっかけとした継続的な見守りができ、今困っていることはないか把握し、必要な支援へつなげることができます。同時に、こどもたちのケアにも力を入れています。
黒田さん
保護者に精神疾患のあるご家庭のお子さんは、発達に課題を抱えるケースも少なくありません。「宅食」を実施するときは必ずスタッフ2人で訪問して、1人は保護者と、1人はこどもと、それぞれにゆっくり話す時間を作っています。
単なる食事支援にとどまらず、地域の子育て家庭の子育てパートナーとして、それぞれの家庭に寄り添った声掛けや開催形式に取り組まれている「ふじのきこども食堂」は「地域でこどもを育てる」を体現した素晴らしい事例です。
地域にこどもたちの新たな居場所を
「ふじのきこども食堂」は、食支援を通じてさまざまなご家庭の悩み相談に乗る中で、「不登校児」のいるご家庭に出会います。不登校児が地域の中で育つ、温かな居場所を提供したいという想いから、こどもたち向けにイートインの活動も始め、こどもたちが終日過ごせるようにフリースクールを開設しました。
こどもたちにとってここは、家庭や学校以外の居場所で安心して過ごせる空間です。元教師の地域ボランティアが勉強を教えてくれたり、こども食堂の温かい食事を食べることもできます。また、こどもたちはこども食堂の料理やお菓子の調理、配膳や盛り付け、利用者のお迎え対応などもお手伝いしています。
ここに通うAちゃんは、お菓子作りが大好きです。
お弁当の付け合わせに、かわいくデコレーションされた手作りお菓子を提供しています。Aちゃんの手作りお菓子は利用者にも大人気です。

Bちゃんは、小さなこどもと関わることが大好きで、食堂に訪れたこどもに「かわいいね〜」と優しく声をかけ、一緒に遊んだり、持ち帰るお菓子選びを手伝ったりしていました。HUG保育園で保育ボランティアにも挑戦しているそうです。
こどもたちは、フリースクールでの活動をきっかけに少しずつ家庭や学校以外にも世界を広げ、社会との新たなつながりが生まれています。
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ふじのきこども食堂は、利用者一人一人の事情に寄り添いながら、こども食堂や宅食を開催し、さらに食を通じた温かな居場所「フリースクール」などにも支援を広げています。
こどもたちや保護者、さらには地域全体に温かい居場所を提供し続ける黒田さんに、今後挑戦したいことを聞きました。
黒田さん
今後は、精神疾患・産後うつを抱えるお母さんと一緒に、こども食堂の運営を行いたいです。ご自身の病気の影響で自宅に閉じこもりがちなお母さんに、少しでも外に出てもらうきっかけを作れたら良いなと思います。
食事を作る時は、「こうしたら美味しいよ」など自然なコミュニケーションが生まれます。こども食堂でスタッフや利用者などさまざまな人と交流し、社会とのつながり作りをお手伝いし、孤立を防ぎたいです。
地域には、精神疾患や産後うつだけではなく、引っ越したばかりで周囲に知り合いがいない、保育園に通っておらずいつも家にこどもと2人きり、不登校で日中は家に1人、などさまざまな事情で孤立しがちな子育て家庭があります。
そんな家庭に多様なアプローチで支援を届け、丁寧な声かけ、手作りのお弁当、こどもたちの笑顔が織りなす温かいコミュニティを提供するふじのきこども食堂は、保育園が地域に支援の輪を広げる、素晴らしい事例です。
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