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Policy Fundの「山本正喜ポリシー基金」に採択――「虐待の世代間連鎖をゼロ」に!ACEサバイバーに関する政策提言を本格化

Policy Fundの「山本正喜ポリシー基金」に採択――「虐待の世代間連鎖をゼロ」に!ACEサバイバーに関する政策提言を本格化

フローレンスは、このたび、Policy Fundの「山本正喜ポリシー基金」に採択されました。同基金は、株式会社kubell代表取締役CEOの山本正喜氏が、政策共創プラットフォームを運営するPoliPoli株式会社と共同で、公益性の高い活動をしながら政策提言を行い国策にも貢献していくリーダーたちを応援するために立ち上げた寄付基金です。

同基金の支援により、フローレンスは、「虐待の世代間連鎖」を止めるため、ACEサバイバーに関する政策提言活動を本格化します。

株式会社PoliPoliプレスリリース:こどもたちのために、日本を変える。「山本正喜ポリシー基金」、認定NPO法人フローレンスに寄付決定

フローレンスがこの政策提言活動に取り組む背景

わたしたちはこれまで、こども宅食事業、特別養子縁組事業等の現場で出会う親子の声に寄り添い、支援する活動をしてきました。その中で、少なくない数の親がこども時代に虐待や不適切養育を経験していること、虐待や不適切養育が次の世代にも連鎖する「虐待の世代間連鎖」が起きていることに気づきました。

実際、幼少期に虐待、ネグレクト等の逆境的体験(ACE:Adverse Childhood Experiences)をした人(ACEサバイバー)※¹は、虐待等を受けていない人と比較して、我が子への虐待・ネグレクトが1.8-2.0倍、育児ストレスが1.8倍、育児の援助・助言者なしが2.6倍という研究データがあります※²。人に頼れず、ストレスを抱え、孤独な育児の中、虐待をしてしまう苦しい姿が浮かび上がります。

※¹ ACEサバイバーについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
https://florence.or.jp/news/73142/

幼少期の逆境的体験(ACE)には、虐待以外にも親の死亡や離婚なども含まれますが、本記事では、幼少期に主に「虐待」を受けた人を「ACEサバイバー」と称しています。

※² 三谷はるよ『ACEサバイバー』より

  

そして、虐待の世代間連鎖について調べていく中で、ACEサバイバーは、その後の人生で心身の健康問題、貧困、孤立問題、我が子への虐待など、さまざまな社会課題を抱えることを知りました。

虐待は決して許されない行為であると同時に、虐待をしてしまう親側の背景にも目を向ける必要があります。

虐待の世代間連鎖の問題は、親子をめぐる社会課題に取り組み、虐待のない日本を目指してきたフローレンスとして、看過できないものです。

発見される虐待は、氷山の一角

児童虐待相談対応件数は年間約22万件ですが、これは氷山の一角に過ぎず、実際には年間数百万件の虐待が存在する可能性があります※³。誰にも発見されず、支援を受けられないまま虐待環境に留まるこどもたちが多いということです。

そのこどもたちの多くが、将来大人になった時に、心身の健康問題や、社会生活における困難、孤立感に苦しみます。そして、自分のこどもに虐待をしてしまう人も多いでしょう。

今起きている虐待を放置しないこと、そして、虐待を予防することが、虐待の世代間連鎖を止めるために重要です。

※³ Divya Mehta ”Child Maltreatment and Long-Term Physical and Mental Health Outcomes: An Exploration of Biopsychosocial Determinants and Implications for Prevention” (2021 Sep 29;54(2):421–435)  こどもの身体的虐待のうち報告されるのは約5%、性的虐待では約8%とされている。

現時点での政策提言パッケージ

虐待の世代間連鎖を防ぐためには、第1に、全ての親が「虐待」とは何なのか、虐待の将来へのネガティブな影響とは何かを「知る」こと、第2に、ACEサバイバーである親を「支援につなげる」こと、そして、第3に、今は不十分な「支援を充実」させることが必要と考えています。

以下の政策提言パッケージは完成形ではなく、今後、有識者、関係団体、こども家庭庁、議員等の意見を伺いながらブラッシュアップしていきます。

1. 知る

■ 提言1:すべての親への「子育て講座」
  • 自治体等が実施している「父親・母親学級」は、沐浴やおむつ替えなどのスキルを教えるのがメインです。それだけでなく、こどもとの接し方、虐待としつけの違い、虐待の将来へのネガティブな影響、利用可能な子育て支援サービスなど、子育てに必要な知識を体系的に学べる講座を行っていただきたいです。
  • そして、ACEサバイバーである親が、「虐待してしまいそうなのは、自分の過去の辛い経験が影響していて、自分が駄目な親だからではない。自分は子育て支援サービスを積極的に使ってみよう。」と思えるようになってもらいたいです。

2. つなぐ

■ 提言2:ACEサバイバーである親へのオンライン相談支援
  • ACEサバイバーの多くが、自分の生きづらさが過去の虐待が影響しているという認識がなく、支援を受けられる対象であることを知りません。また、辛くても支援を受けようとしない人が多いです。
  • よって、妊婦健診のタイミングでスクリーニングを実施し、支援が必要な人を早期に特定し、希望者には、24時間対応のオンライン相談支援を提供することを求めます。
  • スクリーニングにあたっては、スティグマ(駄目な親という烙印)にならないように、「子育てで人一倍孤独感や辛さを感じるのはあなたのせいではない。支援に頼りましょう。」というメッセージを伝えることが大事です。

3. つなぎ先の充実

■ 提言3:トラウマケアの普及と利用者の費用負担軽減
  • ACEサバイバーである親が、辛さから解放されるためには、トラウマケアを受けることが重要です。

※トラウマケア:トラウマ(心の傷)を受けた人が安全・安心を感じながら、心の回復をしていけるようにするための心理療法・支援。TF-CBT(トラウマに焦点をあてた認知行動療法)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などがある。

  • しかし、トラウマケアの診療報酬は低く、医療機関の経営が成り立たないため、実施している医療機関や専門人材は非常に少ないです。自由診療でのトラウマケアはありますが、1回 5,000円~10,000円程度かかり、利用者の費用負担が重く、ACEサバイバーも利用ハードルが高いです。
  • 診療報酬の引き上げや補助制度の導入により、トラウマケアの普及と利用者の費用負担軽減を図っていただきたいです。特に「複雑性PTSD」(長期にわたる虐待の影響による精神疾患)と診断されたACEサバイバーに対するトラウマケアの診療報酬を引き上げるか、補助事業を創設することを求めます。
  • また、全てのACEサバイバーをトラウマケアにつなぐことは国家財政的にも困難なので、簡易なトラウマケアをできるAIを開発し、提供することも検討いただきたいです。
■ 提言4:「社会的養護自立支援拠点事業」の運用改善
  • 「社会的養護自立支援拠点事業」(こども家庭庁)は、社会的養護を経験したACEサバイバーに対する相談支援、居住支援、情報提供を行うことで孤立防止・自立促進を目指す事業でした。2024年4月、社会的養護につながったことがないACEサバイバー(社会的養護未経験ACEサバイバー)も対象になりました。
  • しかし、予算不足、委託団体側における社会的養護未経験ACEサバイバーとの接点の乏しさに加え、人員不足や支援ノウハウの未整備により、社会的養護未経験ACEサバイバーがこの事業による支援につながりにくい状況があります。
  • 社会的養護自立支援拠点事業」が、社会的養護未経験ACEサバイバーの支援にあまり使われていない現状に対し、事業の実態調査、有識者ヒアリング等を通して活用度を上げる方策を検討していただきたいです
  • また、委託団体が社会的養護未経験ACEサバイバーを支援できるように、「支援ガイドライン」を作成し、啓蒙普及活動に予算を付けることを求めます。

今後の展望

虐待の世代間連鎖の問題を解決するのは、これまで数多くの政策提言をしてきたフローレンスにとっても非常に難しいと思っています。しかし、難しいからと言って、一人で苦しみ泣いている人たちを放っておいてはいけないという強い使命感で、この問題に取り組んでいきます。

まずは、虐待の世代間連鎖の問題の存在を多くの皆さんに知っていただき、大きな社会課題として認知されるように取り組みます。そして、関係団体、有識者、議員、官僚の方々と意見交換し、国内外の状況を研究し、政策提言パッケージをブラッシュアップしていきます。

政策提言は、非営利組織にとってコスト領域であり、そうした所へ資金を拠出いただくPolicy Fundの「山本正喜ポリシー基金」のご支援がなければ、この活動はできません。改めまして、山本社長、ありがとうございました。

あなたの支援で「虐待の世代間連鎖をゼロに」

虐待の連鎖に苦しむ親子を、もうこれ以上生み出さないために、フローレンスは、現場の声に基づいた政策提言を通じて、社会全体の仕組みを変える挑戦をしていきます。

この挑戦を、あなたの寄付で応援してください。
一人一人の支援が、親子の未来を変える力になります。


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