Florence News

こども宅食で親子に食品を手渡しする様子

親子の自立を支える、その裏側で――こども宅食の最前線と「中間支援」が担う役割

「わあ、これすごい好きなやつ!」食品を受け取ったお子さんがぱっと笑顔になり、その後ろで親御さんの表情がふっと和らぐ――

経済的困窮や子育ての不安を抱え、でも「助けて」とは言えないまま、毎日息を潜めるように過ごしている親子がいます。そんな閉ざされがちなご家庭の扉をたたき、食品と一緒に「一人じゃない」という安心を届けるのが、アウトリーチ(※1)型の支援「こども宅食」です。

※1:支援が必要な人の元に出向き、見守りや声掛けを行うプッシュ型の支援

しかし、こうした支援は現場の善意だけでは続きません。食品があっても各家庭に届けるための費用や人手が足りない。そんな中でも「何とか目の前の親子のために」と奮闘するけれど、少しずつ疲弊していく――
支援の現場には、目には見えにくいボトルネックが数多く存在しています。そうした課題を、現場の外側から支える役割を担うのが「中間支援」です。

フローレンスは一般社団法人こども宅食応援団と協力し、こども宅食の活動を全国に広めながら、こども宅食に取り組む全国の現場団体を支援する「中間支援」を行っています。

今回はその支援先の一つである神奈川県横須賀市の団体、「特定非営利活動法人ひまわり」の視察に伺いました。ひまわりさんはこども宅食をはじめとして、ひとり親家庭やそのこどもたちを支援するために多岐に渡る事業を行っている団体です。代表の佐藤さんに、支援の内容やご家庭への思い、現場の課題について聞きました。

話を聞いた人 佐藤 智子さん

特定非営利活動法人ひまわり代表 佐藤智子さん

正看護師・特定非営利活動法人ひまわりの代表。

自身もひとり親だった経験から、ひとり親当事者団体としてひまわりを立ち上げる。「家庭を丸ごと」支えるため、現在は神奈川県を中心にひとり親家庭とこども・若者たちをサポートしている。

「ひとり親の孤独」に寄り添い、関係性を深めるこども宅食

―本日はよろしくお願いします。まず、佐藤さんがこの団体を立ち上げたきっかけを教えてもらえますか?

佐藤さん

わたし自身が、こどもが幼い時にひとり親になったことがきっかけです。当時わたしは准看護学校に通う勤労学生だったのですが、ひとり親として生活する中で、数々の「制度の壁」にぶつかりました。

最初は行政の交流会などで「ここが変わればもっと育てやすくなる」と提案もしてみたのですが、個人の声で制度がすぐに変わるわけではありません。ただ同じ境遇の親同士で集まり、悩みを分かち合える場があるだけで、心持ちは変わります。それなら自分たちで、ひとり親同士が自由に不安や疑問、思いを話せる場を作ろうと、数人の仲間と交流会を始めたのがスタートでした。

―現在は、食の支援から学習支援まで幅広く活動されていますね。

佐藤さん

はい。交流会から始まり、現在はお米の配布や、給食のない長期休暇の「お渡し会」といった食支援を行っています。他には、さまざまな理由から学習塾に通っていないお子さんや不登校のお子さんに向けた無料学習塾、親御さんが人生設計やITスキルなど生活に必要なスキルを学べる、生活支援講座も実施しています。その中でも、特に困りごとを抱えているご家庭に対しては、定期的に訪問し、食品を届ける「こども宅食」を行っています。

―ひまわりさんが支援されているご家庭は、どういった課題を抱えていることが多いですか?

佐藤さん

やはり皆さん物価高で苦しんでいて、食事を親子ともに我慢しているか、親御さんが「こどもの栄養のため」と自分の食事を減らしているケースが非常に多いです。

またひとり親であると同時に、お子さんに発達障害があるご家庭が最近増えています。お子さんのことで学校から呼び出しが多く、働くにも正規雇用は難しいという方も。もちろん制度による支援もありますが、それだけではどうにもならない孤独感やもやもやを皆さん吐露されます。

児童扶養手当を利用されている方も多いですが、皆さん自立に向けた意思は持っておられて、それをどう支えていけるか、日々考えながら向き合っています。

―そんなご家庭を支えるためにさまざまな支援をされていますが、その中でこども宅食はどのような役割を担っていますか?

佐藤さん

まずは純粋に食品を届けられること、そして他の食に関する支援より数段階深いコミュニケーションが取れることです。同じ食品支援でも取りに来てもらう「お渡し会」では、対象の世帯がそれなりに多いので、来てもらっても一言二言しか話せません。また周りの目が気になって本音を話せないことも。

こども宅食はご自宅まで行くので、ゆっくり話もできますし、小さな変化にも気づきやすくなります。定期的に行くので気になるご家庭の様子を継続的に見ることもできますし、「そういえば」と小さな気がかりでも話してくださることも大きいです。宅食を開始して、ご家庭との関係性はすごく深まったと感じています。食品を持っていくことで親子の気持ちもほぐれるし、わたしも親子の状況をより深く知ることができ、次の支援に繋げやすいです。

佐藤さん

またひまわりを利用するひとり親家庭のうち、約2割は父子家庭です。ひまわりではひとり親家庭の交流会も定期的に行っていますが、お父さんたちは「シングルマザーの輪にはなかなか入りづらい」という心理的ハードルを抱えることが多く、そういった場にはなかなか来づらいこともあります。その点「こども宅食」は男性でもつながりやすく、支援のハードルを下げることができます。

こども宅食でお子さんにお菓子を手渡す佐藤さん

今だけでなく「将来の人生」を大切にしてもらうために

―視察中、フローレンスメンバーもこども宅食に同行しましたが、佐藤さんが親子の「今」だけでなく、十数年先の将来を常に見据えておられる姿が印象的でした。最終的に親御さんにどうなってほしいという願いがありますか?

佐藤さん

最終的には、親御さんが自分の足で自立して歩めるようになってほしいと思っています。今は手当や民間の支援があるから生活が成り立っているかもしれません。ただお子さんが成長し中学・高校と進学していくにつれ、支援の数は減っていく一方、制服代や塾代、部活動費と支出は一気に増えていきます。

さらに、お子さんが成人して「ひとり親家庭」の枠組みから外れ、いわゆる制度上の「寡婦(かふ)」になった瞬間、現金給付は打ち切られます。その時に一人で食べていけるスキルや基盤がないと困窮してしまうんです。残酷なようですが、いざその時が来ても、社会はすぐには助けてくれません。知った上で選んだなら良いですが、知らずにその日を迎えて困ってほしくないからこそ、早い段階からの人生設計が必要なんです。

―だからこそ、あえて厳しい現実をお伝えすることもあると伺いました。

佐藤さん

はい。例えば、手当を満額もらうために年収を低く抑える「働き控え」をする方もいますが、それを長く続けてしまうと、将来の可能性を自ら捨ててしまうことになりかねません。「目先の手当を守るために、自分の人生を犠牲にしないでほしい」。もちろん、お一人お一人の事情があるので無理強いはしません。けれど、現場で支えるわたしたちだからこそ、伝えなければならないメッセージだと思っています。

手をつなぐ親子のイメージ

―こどもたちに向けてはどんな願いを持っておられますか?

佐藤さん

さまざまなご家庭を見てきましたが、自分の意見が無い、あったとしても言わない子が多いと感じています。学習支援の場で「みんな好きなお菓子を選んでいいよ」と言っても、誰も手を出さなかったこともありました。

これは、親御さんの愛情不足ではありません。ひとり親家庭の日常は、とにかく時間も心の余裕もない。親子の対話や、こどもが自分で考えて動く機会を、環境が奪ってしまっているように思います。わたしはこどもたちに「アサーティブ(自分も相手も大切にしながら意見を伝えること)」であってほしい。まずは自分の心に耳を傾け、それを外に出せるようになってほしいと願っています。

親子と行政の狭間で、現場が背負うコスト

―こういった活動を継続するなかで、資金面や人手の課題はありますか?

佐藤さん

大きな課題は、食品は寄付などで頂いても「配送費」は自費になるケースが多いことです。保管場所への移動や各家庭への配送にかかるガソリン代などは持ち出しになることが多く、とても有難い反面、運営を圧迫します。

また、スタッフは元々当事者だったメンバーが多く、他に仕事を持っています。実際自由に動けるのは自分を含め、本当に数人です。宅食以外の世帯も含め数百世帯にその人数で対応しています。それぞれが生活の合間を縫って動いており、体力的にも限界に近いのが正直なところです。

例えば、急な相談が入り、ファミレスなどでお話を聞くこともありますが、人手も交通費も全て持ち出しになります。目の前で困っている人を放っておけず、必死で繋ぎ先を探しますが、そのリサーチや調整の負担は精神的にも時間的にも重くのしかかっています。

―こうした課題は、もはや「現場の努力」だけで解決できるフェーズを越えているように感じます。

佐藤さん

はい。目の前の親子のためにやれることはやりたい。ただその一方で、土日祝日に会いたい、夜にLINEや電話で話したい、今すぐ来て欲しいという方も多く、人手や費用にはどうしても物理的な限界があります。行政だけでは拾いきれないニーズを埋める役割として、このような相談支援事業は絶対に必要だと確信していますが、その一方で現場の頑張りだけではどうしようもできない、「仕組みの壁」も感じています。

―「仕組みの壁」とはどのようなものですか?

佐藤さん

こども家庭庁からは「行政だけで手が回らない部分を担うNPOが疲弊しないよう、支援のパッケージや予算を用意している」という心強いお話をいただいています。しかし、最終的にその予算事業を行う/行わないを決めるのは自治体です。この地域でも、自治体の予算事業化が難しいケースがあります。

行政には行政の判断や優先順位があることは重々承知していますが、実際に支援を必要とする親子が目の前にいて、わたしたちは現に動いている。けれど、それが公的な予算事業からは補助いただけない。その狭間で、現場がすべてのコストを背負い続けなければならない点は、やはり大きな負担であり、しんどさを感じる部分ですね。

―フローレンスは中間支援として、全国の支援団体に企業から寄付された食品を分配する「こどもフードアライアンス」の取り組みや明治ホールディングスとのプロジェクト(※2)、助成事業(※3)を行っています。中間支援が入ることで、何か変化は感じられますか?

佐藤さん

正直に申し上げて、これほど十分な量の食品を頂けるとは思っていませんでした。誰もが知っている有名メーカーの食品やお菓子、しかも賞味期限が十分にあるものをまとまった量でいただけることは、本当に有難いです。内容もお菓子と食品のバランスが絶妙で、お子さんも親御さんも両方が喜ぶものが入っているなと感じます。親御さんにはレトルト食品など手軽なものも喜ばれますが、手作り感も出せるパウチ野菜が特に人気です。お子さんたちにはお菓子がとても人気で、渡した瞬間にぱあっと笑顔になってくれるのが活動の励みですね。

※2:明治ホールディングスの有志の皆さんからのご寄付を原資に明治グループの商品を提供いただき、フローレンスを通じて全国の支援団体に寄付するプロジェクト

※3:フローレンスが中間支援としてこども家庭庁補助事業「ひとり親家庭等のこどもの食事等支援事業」を受託し行った、要支援家庭へ食支援事業を行う団体へのサポート事業

こども宅食でお菓子をもらって喜ぶお子さん

佐藤さん

また企業からの寄付をつないでもらえることで、毎回十分な量の食品を団体にもらえるからこそ、ご家庭の状況に合わせた柔軟な配分もできるようになりましたし、突発的な食支援のニーズにも困ることなく対応できています。特に現場での負担になっていた「団体までの配送費」を負担してもらえることは、持ち出しの多い現場にとって、運営継続の大きな支えになっています。

―最後に、社会に向けてどんなことを伝えたいですか。

佐藤さん

世間では、ひとり親など大変なご家庭に対して自己責任論を語る人も少なくありません。当事者自身もどこか後ろめたさを感じていて、「助けを求めてはいけない」と息を潜めるように生きている人も多いんです。でも、表面上は余裕そうに見えても、水面下では死に物狂いで頑張っている親子をわたしはたくさん見てきました。だから、たとえ笑顔で「大丈夫です」と言われても、どうか温かく見守って、大変そうな時には少しだけ寄り添ってほしい。それだけで、明日への力が湧いてくる人たちがたくさんいるんです。

佐藤さん

また全国の現場で親子に関わっている団体は、そんなご家庭を放っておけない、何とかしたいと身を削りながら動いている人たちです。わたしの肌感では、派手に宣伝していない団体こそ現場で奔走しています。ですが、そうした現場のスタッフが「目の前の親子」だけに100%の力を注げる環境は、まだ十分に整っていません

日々の重い事務負担や、自腹で賄っているようなコストなど、現場の努力だけで背負い続けている課題があることを、まずは知っていただけたら嬉しいです。そうした負担を社会全体で分かち合える仕組みが整えば、支援はもっと広く、深く届くようになります。もし皆さんの近くに懸命に活動している団体があったら、どうかその背景にある想いを知り、応援していただけると嬉しく思います。それが、巡り巡ってこどもたちの未来を守ることにつながると信じています。

(インタビューはここまで)


現場の情熱を、仕組みで守る。「中間支援」にできること

今回の視察で、代表の佐藤さんが一人の人間として親子の将来を本気で案じる姿に、胸が熱くなりました。また同時に小さな団体で目の前の親子に最善を尽くすことに、さまざまな壁があることも改めて感じました。

こうした支援の最前線で親子のために奔走する現場を支えるため、わたしたちは“支援する人を支える”中間支援に取り組んでいます。

支援の現場(例:ひまわりさん)中間支援団体(フローレンス・こども宅食応援団)
「親子」を直接支援する

・食品を渡し、親子の変化に気づく「親子」を直接支援する
親子を支援する「全国の団体」を支援する

・企業から大量の食品を集め、全国に分配する(中間支援①)
・現場の声を吸い上げ、国や制度を動かす(中間支援②)
中間支援① 食品を全国の団体に分配する「こどもフードアライアンス」

佐藤さんが「大きな負担になっている」と話していた配送費や食品確保の課題。それを支えているのが、「こどもフードアライアンス」の取り組みです。そもそもこども宅食を実施する全国の団体は少人数で運営していることも多く、食品を安定して確保することは、人的にも資金的にも容易ではありません。

そこでわたしたちは、企業から寄付された食品を集約し、全国の支援団体へ分配しています。特に団体にとって大きな負担となっていた配送費については、フローレンスが負担しており、できる限り現場の負担を減らすようにしています。

中間支援② 団体を支える制度に関する提言

支援団体を支える、制度面の改善にも取り組んでいます。代表的なのが「政策セカンドトラック」という仕組みです。佐藤さんのお話にもあったように、いざ支援事業に国の予算が用意されていても、自治体が事業化を決定しなければ、現場の団体にお金は届きません。

この課題を解消するため、自治体を介さず民間の中間支援団体が国から補助を預かり、直接現場の支援団体へ分配するルート「政策セカンドトラック」を提言しました。この仕組みは国の「ひとり親家庭等のこどもの食事等支援事業」で採用され、こども宅食事業にかかる食品の購入費や家庭への配送費もカバーできるようになりました(ひまわりさんも令和7年度に活用)。


現在「ひとり親家庭等のこどもの食事等支援事業」はあくまで「食支援」が対象であり、佐藤さんが行っている「相談支援」のコストまですべてカバーできているわけではありません。しかし予算の確保や複雑な申請、物流の管理といった重荷を、わたしたちが仕組みによって少しずつ取り除くことは、現場の団体が目の前の親子のために奔走する時間を1分でも多く生み出すことにつながると信じています。

現場団体がその情熱を失わず、無理なく活動を続けられるよう、仕組みやインフラを整える。最前線で踏ん張る支援現場の声を拾い、社会を動かす力へとつないでいく。それこそが中間支援の役割です。わたしたちはこれからも中間支援団体として、最前線で親子のために奔走する現場を支えていきます。


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