6月9日に「こどもまんなか実行計画2026」が公表されました。
この計画は、政府が今後1年間に重点的に取り組むこども政策をまとめたもので、「こども版骨太方針」とも呼ばれています。
今回の実行計画を読んで強く感じたのは、日本のこども政策が大きな転換点を迎えているということです。
これまでの政策は、虐待や貧困、孤立といった「問題が起きた後にどう支援するか」という仕組みが中心でした。しかし今回の計画では、以下の3つの姿勢が繰り返し打ち出されています。
- 「困難が深刻化する前に支援につながること」
- 「孤立そのものを防ぐこと」
- 「すべてのこどもに育ちの機会を保障すること」
まさに「後追い」の支援から「予防」の支援へ。この方向性は、フローレンスが長年現場で向き合い、国へ提言し続けてきたテーマそのものです。
今回の記事では、実行計画が掲げる5つの具体的施策のポイントを、フローレンスの取り組みとあわせてご紹介します。
「こどもまんなか実行計画2026」が掲げる5つの具体的施策
1.健やかで質の高い成育環境の提供
この項目では、妊娠・出産期から乳幼児期、学童期まで、すべてのこどもが安心して育つことのできる環境づくりが掲げられています。母子保健や保育・教育の充実に加え、こどもの体験機会の確保、妊産婦支援、共働き・共育て支援など、こどもの育ちを社会全体で支える施策が幅広く盛り込まれました。
近年、児童虐待相談件数の増加や子育て家庭の孤立が大きな課題となる中、問題が起きてから動くのではなく、「妊娠期から切れ目なく親子を支えること」が重視されるようになっています。この分野には、フローレンスが提言してきた施策も数多く盛り込まれました。
◎日本版DBS制度(こども性暴力防止法)の円滑な施行
フローレンスは長年にわたり、こどもに関わる仕事に就く人の性犯罪歴を確認する仕組みの必要性を訴え、日本版DBS制度の創設を後押ししてきました。そして、この制度がいよいよ今年12月にスタートします。
現在、こども家庭庁ではガイドラインの策定や研修の実施、専用システムの整備など、制度スタートに向けた準備が進められています。保育・教育関連事業者などの現場でも、新たな制度を適切に運用するための準備が始まっています。
今回の実行計画では、こうした制度運用の準備だけでなく、「こどもに対する性暴力を決して許さないという社会全体の機運醸成」が明記されました。
こどもを性暴力から守るためには、法律をつくるだけでは十分ではありません。制度が現場で適切に機能すること、そして性暴力を許さないという社会全体の意識を育てていくことが不可欠です。
制度創設はゴールではなくスタートです。すべてのこどもが安心して学び、遊び、成長できる環境を実現するために、行政、事業者、市民社会が力を合わせながら、この制度を着実に育てていくことが求められています。
◎妊産婦へのSNS相談支援の充実
国は妊産婦への伴走型支援として、妊娠期から出産・子育て期にかけて3回の面談と継続的な情報発信、希望に応じた相談対応を行う仕組みを整えています。しかし、子育ての不安や孤立は一人一人異なり、3回の面談だけでは十分に把握できないことも少なくありません。また、「相談したい人が相談する」仕組みだけでは、本当に支援を必要としている人に支援が届かないという課題があります。
実際に、困難を抱えている妊産婦ほど、自ら行政窓口や支援機関に相談することへのハードルが高いことが指摘されています。そのため、行政や支援機関が窓口で待つだけではなく、より身近な手段を通じて支援につながる機会を増やしていくことが重要です。
今回の実行計画では、SNSを活用した情報発信に加え、相談支援そのものを推進することが明記されました。スマートフォン一つで気軽に相談できる環境を整えることは、支援への第一歩を踏み出しやすくすることにつながります。
支援を必要とする人ほど支援につながりにくい――。そうした現実を変えていくためにも、SNS相談が単なる情報提供にとどまらず、必要な支援や地域の相談機関につながる入口として機能していくことを期待しています。
◎こどもの体験機会の確保
今回の実行計画では、すべてのこどもが多様な体験活動に参加できる機会を確保することの重要性が改めて示されました。自然体験や文化芸術活動、スポーツなどの体験は、こどもの好奇心や自己肯定感を育み、将来の可能性を広げる大切な機会です。
一方で近年は、家庭の経済状況や地域環境によって、こどもが経験できる体験に格差が生じていることが課題となっています。
こうした課題に対して、フローレンスは「こども冒険バンク」に取り組んでいます。こども冒険バンクは、企業や団体が提供するさまざまな体験機会とこどもたちをつなぐプラットフォームです。スポーツ観戦や文化芸術体験、職業体験、自然体験など、家庭の事情だけでは得ることが難しい機会を届けることで、こどもたちの「やってみたい」を応援しています。
体験は単なる思い出づくりではありません。新しい世界や人との出会いは、こどもの成長やウェルビーイングを支える大切な土台になります。今回、こどもの体験機会の確保が国の重要施策として位置付けられたことは、すべてのこどもが豊かに育つための環境づくりが前進していることを示していると言えるでしょう。
◎医療的ケア児への支援と災害時の体制整備
今回の実行計画では、たんの吸引や人工呼吸器の管理など、日常的に医療的ケアが必要なこども(医療的ケア児)とその家族への支援の充実が盛り込まれました。あわせて、看護師などの専門人材の確保・育成や、地域における支援体制の強化も進めることとされています。
医療的ケア児の家族は、保育や教育、外出、就労などさまざまな場面で多くの困難に直面しています。必要な支援を受けられるかどうかが地域によって大きく異なることも課題となっています。
また、今回の計画では、災害時に医療的ケア児も含めて安心して避難生活を送れる体制整備の推進が明記されました。医療機器の電源確保や医薬品の管理、避難先での医療的支援など、医療的ケア児には災害時特有の課題があります。
フローレンスは、障害児保育や医療的ケア児支援に取り組む中で、すべてのこどもが地域の中で安心して暮らし、学び、育つことのできる社会の実現を目指してきました。今回の実行計画にこうした内容が盛り込まれたことを歓迎するとともに、地域による格差が解消され、必要な支援がすべての家庭に届く仕組みづくりが進むことを期待しています。
2.困難な状況にあるこどもたちのニーズ発見と、地域一体の支援
虐待や貧困、不登校、ヤングケアラーなど、困難を抱えるこどもや家庭を地域全体で支えるための施策です。支援が必要なこどもや家庭を早期に発見し、必要な支援につなげることや、安心して過ごせる居場所づくりなどが盛り込まれています。
◎ACEs(逆境的小児期体験)とPCEs(肯定的体験)
ここで特に注目したいのが、国が「ACEs(逆境的小児期体験)」への対応に言及した点です。
ACEs(エース)とは、虐待やネグレクト、保護者の精神疾患など、こども時代に経験する強いストレス体験のことです(過去記事はこちら)。近年の研究では、こうした体験がこども時代だけでなく、大人になった後の心身の健康や就労、子育てなどにも長期的な影響を及ぼすことが明らかになっています。
このネガティブな影響を和らげる鍵として、実行計画では「PCEs(ピーシーズ/肯定的体験=こども時代の温かい体験やつながり)」を増やす重要性が明記されました。信頼できる大人や安心できる居場所といった「温かい記憶」は、こどもの人生を支えるものになります。 フローレンスの活動の中では、上述の「こども冒険バンク」はまさにこのPCEsを届ける活動です。皆さんの中にも、地域活動や居場所支援などをしている方もいらっしゃると思いますが、そういった活動も、ACEsの影響を軽減することに役立っているということです。
計画の中では、こどものACEsにしか触れられていませんが、大人になってからも続く深い生きづらさにも目を向ける必要があります。ACEsを抱えて大人になった人は、親になったときに周囲にSOSを出せず、孤立した育児に陥りがちです。結果として、それが次の世代への「虐待の世代間連鎖」という形で現れてしまうリスクがあります。そのため、大人への継続的なケアも不可欠です。
◎こども宅食
また、フローレンスが立ち上げ、全国に広がってきた「こども宅食」も明記されました。
こども宅食は、食品を届けることをきっかけに家庭とのつながりをつくり、必要な支援へとつなげる取り組みです。経済的な困窮だけでなく、孤立や育児不安、制度につながれていない状況など、家庭が抱えるさまざまな困りごとを早期に発見する役割も担っています。
支援を必要としている家庭ほど、自ら相談窓口に足を運ぶことが難しい場合があります。だからこそ、支援を待つのではなく、こども宅食のように、こちらから家庭へ届ける「アウトリーチ型支援」が重要です。
今回の実行計画では、アウトリーチ型支援を通じた見守りや早期発見の重要性が明記されました。支援を必要とする家庭を取り残さないための考え方が、国の方針としてより明確に示されたことを、大変心強く感じています。
3.若者が希望を持ち選択できる環境の整備
若者を単に「支援される側」として捉えるのではなく、「社会をつくる主体(プレイヤー)」として位置付ける施策です。
居場所づくりやライフデザイン支援、進路選択支援などを通じて、若者が希望を持って未来を描ける環境づくりが進められます。
フローレンスでは、「ルールメイキング体験!ワークショップ」などを通じて、若者が政策や社会課題に触れ、誰でも社会を変えられることを体感してもらう取り組みを行っています(詳細はこちら)。
社会は誰かが変えてくれるものではなく、自分たちで変えられるもの。
そう実感できる若者を増やしていくことも、「こどもまんなか社会」の重要な土台だと考えています。
4.産・官・学の総力を挙げた「こどもまんなか社会」の実現
国や自治体だけでなく、企業、NPO、研究者など、多様な主体が力を合わせてこども政策を進めていくための施策です。
フローレンスはこれまで、小規模保育事業、日本版DBS、こども誰でも通園制度、男性育休の推進など、現場で見えてきた課題を政策提言につなげ、形にしてきました。
「社会課題を発見する人」「研究する人」「制度をつくる人」「現場で支援する人」――それぞれが手を取り合い、分野を越えて連携してこそ、初めて社会は変わります。今回の実行計画には、その重要性が改めて示されています。
5.「こどもまんなか」を支える基盤の確保
こども政策を持続的かつ効果的に進めるための「土台づくり」に関する施策です。保育や児童福祉を担う人材の確保・育成、データの活用やDXの推進、政策の効果検証(EBPM=データなどの根拠に基づいた政策立案)の強化などが盛り込まれています。
どれだけ良い制度を作っても、現場を支える「人」が不足していれば機能しません。また、例えば、今年から本格実施される「こども誰でも通園制度」についても、実行計画では「利用状況や職員体制等を含む実施状況の把握を行い、効果検証を踏まえた制度改善を進める」と明記されました。制度を作って終わりにせず、現場の声を反映しながら、みんなでより良い制度へ育てていく視点が不可欠です。
おわりに
今回の「こどもまんなか実行計画2026」には、日本版DBS、妊産婦へのSNS相談支援、ACEsへの対応、こども宅食、こども誰でも通園制度など、フローレンスが提言してきたテーマが数多く盛り込まれました。
しかし、本当に大切なのは「計画に載ったこと」ではなく、それらの施策が、いま困っているこどもや家庭に「実際に届くこと」です。
制度をつくることはゴールではなく、スタート。 フローレンスはこれからも、現場で出会う親子の声を社会に届けながら、「困ってから助ける社会」ではなく、「孤立を生まない社会」を目指して、皆さんとともに挑戦を続けていきます。




