弾ける歓声と、真剣な眼差し
人気のオンラインパルズゲーム「スイカゲーム®」のくだものが弾けて大きくなるたびに、「おー!」という歓声が沸き起こり、拍手が会場に鳴り響きます。プレイヤーの目は真剣そのもの。操作しているのは、わずかに動かすことのできる足の指先。特殊なスイッチを操作して、次々と得点を上げていきます。

ここは、インクルーシブ・テックフェスタ2026の会場。夏の暑さが厳しい8月6日、東京・大崎の「大崎ブライトコアホール」にて、フローレンスとテクノツール株式会社の共同で開催されました。
| テクノロジーの発展により、わずかな力で動かせる入力デバイスや視線入力などのテクノロジーを活用することで、体を自由に動かすことが難しくても、絵を描いたり、ゲームを楽しむことが可能になっています。フローレンスではこのようなテクノロジーを「インクルーシブ・テック」と呼んでいます。
インクルーシブ・テックを通じて、障害の有無を越えて人と人が出会い、つながり、ともに楽しむ。そんな「ごちゃまぜ」があたりまえになる社会を目指して、テクノロジーを活用した場づくりや、「ごちゃまぜ」が生まれる機会を増やす活動をしています。 ▼フローレンスのインクルーシブ・テックについて詳しくは こちら |
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今年度は昨年までの「パラ・eスポーツフェスタ」から「インクルーシブ・テックフェスタ」に名称を変更し、創作・表現活動や日常生活で取り入れられる動きなど、ゲームだけに留まらない体験ができる場を目指しました。主に肢体不自由のお子さんときょうだいを対象に募集したところ、首都圏だけでなく、関西や名古屋など遠方からの参加者も含め、54家族が集結。昨年からのリピーターも多く、皆さん楽しみにして来てくれました。
フローレンスとテクノツール株式会社のスタッフ、作業療法士や学生、企業のボランティアの皆さんとともに、ごちゃまぜに楽しんだ一日をレポートします!

「20秒会話を待ってみる」ボランティアへのレクチャーから始まったワクワク
イベント冒頭、集まったボランティアに伝えられたのは、マニュアル的な注意事項ではありませんでした。二人一組になって、さまざまなお題で会話をしていきます。
「遊びが目的の楽しい会なので、ボランティアの皆さんには楽しい気持ちのまま、参加者を迎えてほしいと考えました。例えば、問いかけたら、会話を20秒間待ってくださいと言うのではなく、実際にやってみる。5秒待つのも長いですし、最初は『20秒ってこんなに気まずいのか』と笑いながら体感する。
そうすると、参加者を迎えたときに、お子さんの反応をじっと待てるようになります。 目の動きや指先の動き、その子がどんな意思を持って今日遊びに来たのかが見えてきます。知識や勉強はいりません。一緒にバーッと盛り上がって、みんなで笑顔で過ごすこと。それが一番大事です。」(ボランティア参画アドバイザー川向緑さん)

ボランティアとして参加したのは、作業療法士、学生、企業の皆さん。ときおり大きな笑い声があがる楽しいレクチャーを終えて、すっかり打ち解けた様子です。それぞれがスタンバイを終え、いよいよインクルーシブ・テックフェスタの始まりです。

豊富なデバイスと絶妙なフィッティングが参加者の可能性を引き出す

会場にずらりと並ぶのは、色も形もさまざまな機器やスイッチ。さらに、作業療法士が家族ごとについて、参加者一人一人の身体状況に合わせて微調整を行う「フィッティング」をしていく。これこそが、インクルーシブ・テックフェスタの大きな特徴です。
「やりたい」を叶えるテクノロジーとの出会い
神戸から参加されていた親御さんは、お子さんの状況に合った機器を見つけ出すことの大変さを話してくれました。
「この子の障害特性に合ったICT(コミュニケーションの向上や自立、社会参加を支える情報通信技術)を探すのに、自分自身がすごくしんどい時期があったんです。視線入力が悪いわけではないんですが、本人にはちょっと合わなくて。マウスを操作するスキルを持っていたので、それでどうにかならないかと探っているうちに、自分の力だけではパワーが尽きてしまいました。
そんなときに、作業療法士の小林さんに出会って、本人に合わせて機器をマッチングさせるという方法を教えてもらいました。進行性の難病だから、できることが変わっていくんですけど、ずっとつながらせてもらって、今は自宅でカーテンを開け閉めしたり、部屋の電気をつけたり、自分でやりたいというのを全部叶えてもらってるんです。名刺交換も自分でするにはどうしたらいいかも考えてくれたんですよ。」
テクノロジーで、社会とつながる
じゃんけんができる機器を持参していた参加者の親御さんは、イベントがもたらす「変化」について次のように語ってくれました。
「普段、駄菓子屋といったこどもの集まる場所に行って、じゃんけんをして他のこどもたちと交流してるんですが、さすがにやりすぎて飽きてきてしまって。新しい刺激を求めてきました。普段、これくらい豊富な機器や大掛かりなイベントで遊べる機会はないので、すごい覚醒してますし、刺激もいっぱい受けてます。このイベントの規模がどんどん大きくなって、もっと他のこどもや大人と関わって、分け隔てなく交流できるようになると、本人が『自分がやったことが社会とつながったんだ』っていう実感をもっと持てるようになる、というのは強く思いますね。」

「教科書じゃ学べない、熟練の技」——ボランティア参加者の気づき
現場で働く作業療法士や、作業療法士を目指す学生たちにとっても、このイベントは貴重な経験となったそうです。
「病院勤務2年目の作業療法士です。ボランティアに来たことで他の作業療法士の熟練の技を間近で見られるなんて、めちゃくちゃいい機会でした。 病院だと文章の事前情報だけで判断しがちですが、その場でタオルを挟んだり腕の角度を調整したりして『どう押せば一番楽か』を考える。自分の臨床の引き出しがすごく増えました。」(作業療法士として参加していたボランティア)

大事なのは、「配慮」ではなく「環境を調整する」こと
「今回のイベントは、裏側の設計がすごいんですよ」そう話すのは、企画アドバイザーとして参画した株式会社アシテック・オコ代表であり、豊富な経験をもつ作業療法士の小林大作さんです。
「フローレンスのスタッフ、テクノツールの社員、当事者も混ざって、打合せを何度も重ねて、さらに、災害時の避難経路やAEDの設置場所、休憩スペースの使いやすさ、駐車場の車の高さ制限まで事前に徹底的に調べました。その上で、スリングシート(介護用の吊り具)も用意している。単に『配慮する』という気持ちの問題じゃなくて、車椅子が通れるか、ドアが閉まるかといった『物理的な環境調整』を本気でやっているんです。
例えば、トイレがストレッチャーの入れない大きさだったとしても、入れないことが事前に分かっていれば、そのつもりで準備して来られる。この環境調整があるからこそ、こどもたちもご家族も安心して、楽しく遊べる空間ができてるんです。」

この体験を、もっと多くのこどもたちや家族のもとへ
「このイベントは、こどもたちの可能性に焦点を当てて設計してるんです」そう話すのは、前出の小林さんです。
「例えば、『音が大きすぎる』と静かなイベントにしたら、面白くなくなりますよね。こどもたちは、普通のイベントに参加する機会がほとんどないんです。盛り上がっているこの場で、こどもたちが何を感じるのかが大事。『やりたい』を諦めない工夫(フィッティング)と、それを『すごい!』と一緒に面白がってくれるボランティアたちの熱気。その熱が、こどもたちの『もっとやってみたい!』という意欲を広げていくんです。」

「今日は、親やいつも支援してくれる大人たちではなくて、他の人たちとたくさん喋りたい」そう話してくれたお子さんがいました。
「知らないお友達と一緒にゲームを楽しめた、という初めての経験に感動しました!」というご家族の声も届いています。
これらの言葉からも、医療的ケアや重度の障害のあるお子さんにとって、ごちゃまぜの交流の機会がいかに限られているかがわかります。
しかしながら、このイベントを実施するには、会場の選定などの準備から当日の運営にいたるまで、多くの時間と経費が必要となります。今回も、ボランティアの皆さん、企業の皆さん、そして寄付者の皆さんに支えられて開催することができました。
医療的ケアや重度の障害のあるお子さんも、誰もがごちゃまぜに遊ぶ・活動することが当たり前の社会にしたい。そのために、これからもテクノロジーを活用した場づくりや、さまざまな人・団体との連携を通じて、「ごちゃまぜ」が生まれる機会を増やしていきます。 実現に向けて、ご支援をよろしくお願いします。
インクルーシブ・テックフェスタ2026にご協力くださった企業・団体の皆さん




