あなたが8歳のとき、1人で歩いてどこまで行っていましたか。
近所の公園まで。駄菓子屋まで。あるいは、ちょっと遠い友達の家まで。
そんな記憶を持つ大人たちは今、自分のこどもたちを、どのくらい自由に過ごさせているでしょうか。
こどもに体験を「与える」のが、親の役割?
「我が子にできる限りのことをしてあげたい」
こどもたちに体験を「与える」ことへの熱心さは、こどもを思うからこそ生まれるものです。
学校への送迎、習い事のスケジュール管理、放課後の過ごし方を整えること。
危険から守ること。時間を有意義に使うこと。できるだけ“良い経験”を用意すること。
整った環境を用意することが、こどもへの誠実さのように感じられる風潮もあります。
8歳のこどもが1人で歩ける距離が、100年で変わった
あるイギリスの男の子、エドくんの事例を紹介します。
学校への自家用車での送迎、放課後はピアノとスキーのレッスン、自宅の庭にはトランポリンやジャングルジム。彼の生活は、とても楽しそうです。
そのエドくんが1人で自由に行動できる範囲は、自宅のある通りの突き当たり、約270m先まで。
エドくんのひいおじいさんのジョージさんが8歳の頃は、どうだったでしょうか。
バスに乗るためにはお小遣いが足りなかったので、大好きな釣りのために、釣り道具を手に9.6km先の湖まで1人で歩いていました。
イギリスで行われたこの研究では、4世代・約100年の間に、こどもが1人で歩ける距離が劇的に縮まったことを示しています。
もちろん、時代が変われば環境も変わります。ジョージさんのこども時代の1920年代は今とは異なり、制約も多かったでしょう。時代が進み、街の安全やインフラも整い、こどもたちの過ごし方の選択肢が増えたことは、社会の前進です。
ただ、その変化の中で、こどもが一人で判断し、一人で行動する機会は、確実に減ったと言えそうです。

大人は増えた。でも、こどもを見守る大人は減っている
実は今の日本では、こどもを取り巻く大人の数は、歴史的に見てかつてないほど増えています。
少子高齢化が進む中、2010年時点でこども1人に対する大人の数は5.26人。1920年の1.33人と比べると、約4倍です。
フローレンスが注目するのは、大人の数は増えているのに、こどもに直接関わる大人は減っているということ。
3世代同居は減り、地域に顔見知りの大人もいなくなった。放課後のこどもたちが過ごす場所は、大人が管理する、安全で整った空間の中へと移っていきました。
そしてその背景には、親たちの「できるだけ良い環境を用意してあげたい」という思いも、少なからず影響しているかもしれません。送迎や習い事の管理を親が担うほど、地域の大人がこどもとふとした瞬間に関わる機会は、自然と減っていきます。
この変化の中で、こどもたちの「余白」は、ゆっくりと姿を消しています。

「与えること」より、「安心して撤退できること」
ここで、フローレンスは逆説的な問いを立てます。
こどもたちの未来を豊かなものにするために、大人がもっと「与える」ことが、答えなのか。
エドくんは、たくさんの体験を与えられています。
でもその体験は、彼が自分で選んだものなのでしょうか。
大人がきっかけを渡したあと、こどもたちを信じて、少し「撤退する」こと。
その「余白」の中で、こどもたちは自分で考え、失敗し、立ち直って、成長していく。
フローレンスは、その時間にこそ、大切な意味があるのではないかと考えています。
ただし、それは「放任すればいい」という話ではありません。
親だけが抱え込まなくてもいいように、地域や社会の側に、「見守れる環境」があること。
安心して、少し手を引けること。
先ほど紹介したように、大人の数は減っていません。
少子高齢化が進んだ今、社会にはむしろ多くの大人がいます。
必要なのは、失われた昔の地域社会をそのまま取り戻すことではなく、こどもたちと大人が、もう一度ゆるやかにつながり直せる仕組みなのかもしれません。
いろんな大人が、いろんな形でこどもに関わる。
誰かが体験のきっかけを渡し、誰かが見守る。
そして、こどもたちが「ちょっと行ってくる」と、自分たちの世界へ出かけていける。
親の目が届かない時間が、ただ「危険な時間」なのではなく、誰かに見守られた「余白」になっていく。
それは理想論に見えるかもしれません。
それでも、そうした環境を少しずつ社会の中につくっていくことが、これからの時代の「体験格差」を考えるうえで、重要なのではないでしょうか。
わたしたちが、「体験格差」に向き合う理由
フローレンスでは現在、こどもたちがさまざまな大人や体験と出会うきっかけをつくる取り組みを進めています。
ただ、それは単に「体験を増やす」ことが目的ではありません。
どんな家庭環境に生まれても、こどもたちが「やってみたい」と思えること。
そして、その先を自分で選び、自分で歩いていけること。
そのために、こどもたちに社会はどんな「余白」をつくれるのか。
どんなふうに、こどもたちを見守れるのか。
フローレンスは、これからも事業を磨きながら、「体験格差」という新しい社会課題を深め続けていきます。
続きは音声で
エピソードでは、「こどもと関わる大人を増やす」という視点から、フローレンスが考える次の一手についてお話しています。保護者の皆さんはもちろん、子育て中ではない大人たちにもぜひ聞いてほしいお話です。ぜひ音声で続きをどうぞ。


